クオータ制とは?ビジネス領域におけるメリット・デメリット

d’s JOURNAL編集部

クオータ制とは、組織内での構造的な差別が起こることを防ぎ、特定の属性を持った人に対して活躍の機会をつくるための積極的な取り組みです。さまざまな分野で取り入れられている仕組みであり、ビジネス領域においても注目されている部分があります。

しかし、クオータ制を導入して適切に運用するには、メリットだけでなくデメリットも踏まえたうえで対応していく必要があります。

この記事では、クオータ制の基本的な捉え方や導入状況、活用できる助成金や各国の事例などを解説します。

クオータ制とは

クオータ制を適切に導入するには、基本的な考え方を理解しておくことが大切です。ビジネス領域における動きなども含めて解説します。

クオータ制の定義

クオータ制とは、組織における構造的な差別を抑制することで、特定の属性を持った人に活躍の機会を割り当てるためのポジティブ・アクションを指します。元々は政治の分野で採用されたものであり、議員や閣僚のポストに女性を起用することから始まりました。

そして、女性の社会進出やコーポレートガバナンス・コード(上場企業が行う企業統治におけるガイドライン)の改訂などの影響を受けて、企業においても役員や管理職にクオータ制を取り入れるケースが増えています。こうした動きを受けて、組織における重要ポストについて、女性の割合を一定まで増やすことがクオータ制だという認知が広がりました。

積極的な取り組みを行う企業に対して、社会的な評価が与えられる機会も増えている傾向が見られます。

ビジネスにおけるクオータ制の動き

ビジネス領域においては、女性の就業率が拡大傾向にあります。内閣府の男女共同参画局が公表している「男女共同参画白書 令和3年版」によると、2020年の就業者における女性比率は44.3%にまで達しており、欧米諸国と同レベルの水準となっています。

しかし、管理職についていえば女性の比率は13.3%に留まっており、まだ浸透しているとはいえない状況です。出産・育児などのライフチェンジだけが理由ではなく、正規雇用への移行を希望しない女性が一定割合いることも課題点として指摘されています。

管理職への起用は正規雇用が前提となっている部分があり、女性が管理職に就く機会そのものが失われている面があるのです。こうした背景を踏まえたうえで、どのような形でクオータ制を捉えていくかを考える必要があります。

クオータ制の導入状況

一口にクオータ制といっても、日本と海外では導入状況に違いがあります。国によってどのような違いがあるのかを解説します。

日本の状況

日本においてクオータ制は法制化されておらず、それぞれの組織の判断に委ねられているため、海外と比較して女性活躍に課題があるといえます。2021年時点における日本企業の女性役員の割合は12.6%となっており、30~40%台の欧米諸国と比べると低い水準にあります。

OECD(経済協力開発機構)に加盟している30ヶ国のうち、クオータ制を導入していない国は日本を含めて4ヶ国しかありません。ビジネス領域にかぎらず、他の分野でも女性の社会進出において課題があります。

海外の状況

海外の状況としては、欧米諸国を中心としてクオータ制の導入に積極的な国が多いといえます。特に世界に先駆けてクオータ制を導入したノルウェーは、2003年にクオータ制を法制化しており、国営企業における女性役員の割合を40%台で維持しています。

こうした動きが周辺国であるデンマークやスウェーデンなどにも広がり、北欧諸国がリードする形でクオータ制の導入が各国で進んでいきました。日本においては人手不足が深刻化するなかで、海外の人材を呼び込むためにはクオータ制を含めた組織改革が必要な部分があるでしょう。

クオータ制を導入する2つのメリット

クオータ制を導入するメリットとして、「女性の社会進出を促す」「人材の多様化につながる」といった点が挙げられます。各メリットについて詳しく解説します。

女性の社会進出を促す

クオータ制を導入することで、女性の社会進出を促すといったメリットが期待できます。日本においては政治分野だけでなく、ビジネス分野においても欧米諸国と比べると女性比率が低い状態にあるといえます。

正規雇用を希望しない女性が一定数いたとしても、クオータ制を導入することで女性比率が決められるため、女性を積極的に登用するための環境整備が推進されるでしょう。女性が重要なポストに就くという機運を高める意味で、クオータ制を導入することは一定の効果が見込める部分があります。

人材の多様化につながる

クオータ制を導入することによって、女性の管理職登用に一定比率が割り当てられれば、女性の社会進出を促すための環境整備に取り組まなければなりません。女性が社会的に活躍できる機会を増やすことは、単に女性の社会進出を促すだけでなく、多様な人材の採用にもつながっていくでしょう。

さまざまな属性を持った人材が積極的に採用される機会が多くなることで、人手不足の解消につながるといった効果も期待できます。また、女性が責任のあるポジションに就く機会が増えることによって、家庭における男性の役割にもよい変化が生まれることが考えられます。

クオータ制の2つのデメリット

クオータ制を導入した場合のデメリットとしては、逆差別が起こったり、運用にコストがかかったりする点が挙げられます。それぞれのデメリットを解説します。

逆差別が起こることもある

クオータ制のメリットを踏まえたうえで取り組みを推進していくことに一定の効果はありますが、急激な変化は男性に対する逆差別につながる可能性もあります。男性従業員と女性従業員の能力が同じレベルだったとしても、クオータ制によって女性従業員のほうが優先的に管理職に登用されるケースが想定されます。

もしくは、女性従業員のほうが能力的に低い場合であったとしても、女性比率の条件をクリアするために、管理職に登用するといったケースも見られるでしょう。組織によってどのようなペースで女性を重要ポストに登用するかは異なりますが、中長期の計画を踏まえたうえで、段階的に導入していくことで影響を緩和するといった配慮も必要です。

運用に負担がかかることもある

女性にかぎった話ではありませんが、就業時間や就業環境に一定の制限がある人材を管理職として登用した場合には、その人材が不在時のリスクが発生します。たとえば、女性管理職が出産のため仕事を休まざるを得ないときは、代替人員を確保する必要があります。

しかし、管理職に適した人材をすぐに確保するのは難しいところがあり、あらかじめ人材育成に取り組んでおかなければなりません。また、必要な人材を育成するには相応のコストがかかり、多様な人材を受け入れるための環境整備にも投資を行う必要性が出てきます。

組織の方針として、中長期的に女性管理職を登用していくならば、綿密な計画と予算の裏打ちが重要です。場合によっては、組織全体を変えていく取り組みとなるため、経営層が積極的に推進していく姿勢をとることも必要でしょう。

クオータ制で活用できる両立支援等助成金

両立支援等助成金とは、仕事と家庭の両立を目的に、企業の職場環境づくりを支援するための制度です。クオータ制を導入するにあたって活用できる仕組みであり、主に次の5つのコースが設けられています。

両立支援等助成金の5つのコース

・出生時両立支援コース
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・再雇用者評価処遇コース
・事業所内保育施設コース

各コースの特徴を詳しく解説します。

①出生時両立支援コース

出生時両立支援コースとは、男性従業員の育児休業取得を促進するための制度であり、子育てパパ支援助成金とも呼ばれています。男性従業員が育児休業を取得できる「第1種」と、男性の育休取得率が向上した際に支給される「第2種」に分けられています。

第1種においては、1回のみの支給となっており、支給額は一律20万円です。代替要員を2名まで新規雇用した場合は20万円が加算され、3名以上を新規雇用した場合は45万円が加算されます。

また、第1種を受給したうえで男性従業員の育休取得率が向上した場合に第2種を受給できます。受給額は男性従業員の育休取得率に応じて異なり、20~75万円までです。

②介護離職防止支援コース

介護離職防止支援コースとは、介護休業取得と職場復帰の円滑化を支援するための制度です。家族の介護などを理由した離職者を減らすための制度であり、従業員が安心して介護休業をできたり、スムーズに職場へ復帰したりできるように事業主を支援するための仕組みです。

「介護休業」または「介護両立支援制度」を利用する場合は、あらかじめ介護支援プランを策定し、その計画に沿ったサポートを従業員に対して行う必要があります。介護支援プランの作成は厚生労働省のサイトに説明がありますが、初めて申請するときは社会保険労務士などの専門家に相談をするほうがよいでしょう。

③育児休業等支援コース

育児休業等支援コースとは、働きながら育児に取り組む労働者を支援するための制度です。育児休業の取得や代替要員の確保、復職などの支援をスムーズに行うことを目的としており、育休取得時・職場復帰時・職場復帰後支援・業務代替支援といった区分で、それぞれ支給されます。

受給要件を満たすためには、育休復帰支援プランの策定と従業員への通知、就業規則の整備などが必要です。また、出生時両立支援コースの第1種支給対象となっている育児休業者に対しては、同一の育児休業を理由として育児休業等支援コースの対象にすることはできないため注意が必要です。

④再雇用者評価処遇コース

再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)とは、出産・育児といったライフイベントなどで生じた退職について、再雇用を促進するための制度です。妊娠や出産、育児、介護などを理由としてやむを得ず退職をした人を再雇用することは、退職者のキャリア継続だけでなく、企業側にとっても採用や教育訓練にかかるコストを減らせるといったメリットがあります。

助成額は再雇用者一人あたり、最大で48万円までとなっており、5名までの受給が可能です。なお、48万円を受給できるのは1人目のみであり、2人目以降は最大38万円まで受け取れます。

⑤事業所内保育施設コース

事業所内保育施設コースとは、子どもを持つ従業員が安心して働ける職場環境を整備するための制度です。従業員のために保育施設を事業所内に設置する事業主に対して、設置・運営・増築にかかる費用の一部が助成してもらえる仕組みとなっています。

設置費用の助成率については、大企業の場合は3分の1、中小企業の場合は3分の2です。増築費の助成率は大企業で3分の1、中小企業で2分の1となっています。仕事と家庭生活の両立を図ってもらうため、事業所内に保育施設を設置することを検討している場合に活用してみましょう。

クオータ制の導入事例

クオータ制を効果的に実施するには、各国のビジネス領域における導入事例から学んでみるのも一つの方法です。ここでは、3ヶ国の事例を紹介します。

フランス

フランスでは一部の企業を対象とした義務力のあるクオータ制が導入されています。2006年時点ではジェンダーギャップ指数が115ヶ国中70位でしたが、2011年には取締役クオータ法が整備され、積極的に役員への女性登用が進んでいます。

法律によって定められた比率を満たしていない企業に対しては、一定のペナルティが与えられると定められたこともあり、女性役員の比率は45%を超える水準になりました。また、女性管理職についても2027年に30%、2030年までに40%を達成することが法制化されており、国が主体となって女性が重要ポストに就ける環境整備が進んでいるといえます。

(参考:内閣府男女共同参画局『共同参画 2022年6月号』

ドイツ

ドイツでは2001年に政府と使用者団体が協定を結び、企業に対して自主的な取り組みを促してきました。しかし、2011年の段階でも取締役の女性比率が低い水準に留まっていた状況を受けて、2015年に「女性の指導的地位法」が制定されることになり、監査役会にクオータ制が導入されることになりました。

ドイツ企業の監査役会は取締役の選任や解任の権限があるため、監査役会の女性比率を向上させることによって、取締役などへの女性の登用割合を増加させる狙いがあったといえます。この制度の実施によって、2020年4月には監査役会の女性比率は35.2%に達することになりました。

2022年1月には「第2次女性の指導的地位法」が施行され、さらに積極的な取り組みが推進されています。

(参考:内閣府男女共同参画局『共同参画 2022年6月号』

ノルウェー

ノルウェーは世界に先駆けて、企業役員のクオータ制が導入された経緯もあり、女性を重要ポストに就けることに高い関心のある国だといえます。2002年時点では上場企業における女性比率は6%でしたが、2003年に法律を制定して国営企業で2005年7月までに40%の割合とすることが定められました。

2006年からは上場企業も対象となり、2007年末までに40%を達成することが義務付けられ、比率が満たない場合は会社名の公表や最終的には企業の解散といった厳しいペナルティが科せられました。

罰則が施行された2008年にはすべての上場企業において、女性役員比率が40%を上回るという結果になっています。国を挙げて積極的に取り組みを進めたことで、周辺国にも取り組みが広がり、モデルケースとして各国の参考にされることが多いのが特徴です。

(参考:内閣府男女共同参画局『共同参画 2022年6月号』

まとめ

クオータ制は組織内における女性比率を一定割合まで引き上げるための仕組みであり、さまざまな国で導入されています。日本においては女性の社会進出そのものは進んでいますが、役員や管理職といった重要なポストに就いている女性の割合は、欧米諸国などと比較して低い水準に留まっているのが現状です。

クオータ制の導入はメリットがある一方で、少なからずデメリットもあるため、企業ごとの状況に応じてしっかりと検討していく必要があります。出産や育児、介護などを支援するための助成金制度も豊富に用意されているため、従業員と積極的にコミュニケーションを交わし、上手に制度を活用していくことが大事です。

また、各国の事例などを踏まえたうえで、自社の従業員が働きやすくなる施策を実行してみましょう。前向きに検討していくことで、多様な人材を採用することにつながり、企業の成長を助けるきっかけとなります。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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