コロナ禍の転職市場データから読み解く、2021年の生き残る企業と脱落する企業の違いとは

d’s JOURNAL編集部

取材・データ提供 協力:
株式会社パーソルキャリア 執行役員 転職メディア事業部 事業部長 喜多 恭子

転職希望者数は減少したが、求人数・求人倍率は増加傾向
DX、RPA導入と「リモートワーク可」「副業可」求人がトレンドに
2021年の転職マーケットは「リセットからのビルド」

激動の2020年、そして2021年。HR業界、とりわけ転職市場においても先行きの見えない不安な状態が続いている。株式会社パーソルキャリア(東京都千代田区/代表取締役社長:峯尾太郎)が発表した2021年転職市場データとその見解によると、企業は長期戦に向けた準備を迫られている一方で、人材の流動性は徐々に好転していくと見込まれている。引き続きニューノーマルな時代を過ごすことになる私たちにとって、この状況のどう見極め、どう行動していくべきか――。コロナ禍における転職市場の動向を見ながら、少し未来の市場を探っていこう。

転職希望者数は減少したが、求人数・求人倍率は増加傾向

パーソルキャリアが発表したデータによると、2020年の転職求人倍率は、新型コロナウイルスの影響で大きく下降し、同年10月時点で 1.65 倍という結果に。2014年以降、右肩上がりで増加し続けていた求人数は、2020年4月から一気に減少することとなった。一方、転職希望者数においては4月と5月で下落に転じるものの、その後落ち着きを取り戻し、6月からは前年を上回る増加傾向へと転じた。転職市場は現在、売り手市場から買い手市場に移行したといえる。
 


 
しかしながら職種別に見ていくと「事務・アシスタント系」職種については、2020年10月時点では0.16倍となっており、リモートワークやそれに関連付けられるRPA(Robotic Process Automation)などDX(Digital Transformation)の流れにより、求人では需要減が顕著に現れていた。これらの職種に従事している人材は、新たなスキル獲得や異業種転向などを迫られる形となるなど厳しい局面となった。

また、求人数の変動が最も大きかったのは「販売・サービス」職種。これらの職種に従事する人材の転職登録者数が、6月以降大きく伸びたため、業界の求人倍率は全体的に下降した。一方、「技術系(IT ・通信)」、「専門職」、「技術系(建築・土木)」は転職市場への影響は小さく、求人倍率は4倍以上と、例年より高水準を維持しているという結果となった。

業種別で見ていこう。2020年3月以降は、「IT ・通信」職種の求人数が減少したものの、DXなどのニーズが日本社会全体で喫緊の需要となり減少幅自体は小さく、求人倍率は依然として5倍近くと高水準という結果となっている。そして、最も影響を受けたのは、周知の通り「小売・外食」業種である。求人数の減少幅が大きい一方、将来不安から転職希望者が増加したことで、求人倍率も全体的に下降した。一方で「メディア」業界も大きな影響を受けた業種のひとつ。広告出稿を控える企業が相次ぎ、業界全体で成長率が鈍化。8月時点での求人数は大幅減少となった。しかし同月以降の回復は早く、現在では例年並みの推移状況に落ち着いているとのことだ。

コロナ禍における経済状況を、2008年のリーマンショック時の状況と比べられることは往々にしてある。しかし今回のコロナショックにおいては、副業や兼業も含めて転職という活動が日常化してきたことが、12年前の転職市場とは大きく違う点だ。働くことへの意識および多様性が、その流動性も含め転職市場の活発化につながっている状態だ。そのためコロナ禍で求人活動を行う企業は、恒常的な転職需要や人材に対して、いかに自社を(スペック以外の点で)アプローチできるかがポイントの1つとなるだろう。いわゆる採用ブランディングの実践だ。

しかしながら、コロナ禍における経済そのものへの影響は依然として大きく、完全失業率は3.1%(2020年同社10月調べ)。余談は許さない状況だ。過去の不況期の事例を見ても、不況前と同じ求人数の水準に回復するまでに約3~4年程度かかっている。しかも対ウイルスとの戦いは、WHOも警鐘を鳴らすように「長期化」「共存」を前提とすべきである。回復まで10年掛かるとの見解を示す有識者もいるため、早期体制の見直しなどが求められるようになるだろう。

それでは転職市場を受け入れる雇用側企業は、事業の継続・存続に向けてどのような戦略立案と実践するべきか。これらのヒントを、パーソルキャリア転職メディア事業部の事業部長である喜多恭子(以下、喜多氏)氏のコメントより探っていこう。
 


DX、RPA導入と「リモートワーク可」「副業可」求人がトレンドに

「転職市場における転職求人倍率は、現在、全体的に緩やかに回復傾向にあります。2008年のリーマンブラザーズに端を発するリーマンショック時の求人数は、11カ月(2008年9月~2009年8月)で約 50% 減少しました。ですが今回のコロナショックでの求人数は、5カ月(2020年3月~2020年8月)で約35%減少。算定期間と経済状況の違いにより一概に単純比較とまではいきませんが、リーマンショック時より影響は小さいと当社は見ています。
 


 
 
また、2021年上半期の転職市場は、特にIT・情報カテゴリーに関連する求人ニーズが顕著に伸びていくことは確実です。また、2020年より続く新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業や組織体は長期戦に向けた準備を迫られており、IT業界やエンジニアに限らずあらゆる業界・職種でDX、RPAなどの需要が拡大していくでしょう。同時にDXを推進した企業内では新たなタレントマネジメントをどうするかという課題も浮き彫りになりました」(喜多氏)。

今回の転職市場において注目すべきは「リモートワーク可」「副業可」求人の存在である。「リモートワーク可」の求人数は、前年同月比で356.7%(2020年10月)と大幅に伸長しているほか、全求人に占める「リモートワーク可」求人の割合も、前年から+14.4ポイントと企業側の対応が進んでいる。また応募数についても、これらの求人に対して前年の5倍超の応募があるなど、個人の関心の高さも伺える。

一方、「副業可」の求人数は、2020年10月の時点で前年同月比144.2 %と伸びているものの、全求人に占める「副業可」求人の割合は+0.6 ポイントにとどまり、企業の対応としてリモートワークよりも優先度は低いと言える傾向が現れた。

雇用側では、先述の喜多氏のコメントにもあるように、DXによるリモートワークの定着によって新たなマネジメント課題の顕在化が浮かび上がってきた。例えば、リモートワークにより従業員個人の孤独感が高まり、それが転職の意向につながってしまうという問題だ。これについてはd’s journalではさまざまな角度から見解を述べてきたので、各個別にコラムを参照してほしい。これは日本固有の総合職雇用(メンバーシップ型雇用)におけるひずみの課題とも言われ、雇用形態の在り方そのものをジョブ型雇用などへ見直す企業も増えているのだという。
 


 
一方で、企業が新たな雇用形態の転換を図っていく中で、DXやAI活用によって隆盛する仕事、廃れる仕事が二極化していくことが顕著になっており、雇用される側、既存の従業員には新たなスキルや熟練した経験を積んでもらうための「学びなおし」などを迫る企業も現れるといった具合だ。今後もさらなる雇用の流動化が見込まれるため、自社でしっかり採用したい人材を確保するためには、例えばテクノロジーを駆使した新たな採用手法(オンライン面接など)も検討する必要があるだろう。

さて、2021年の転職希望者の動きで言えばどうだろうか。先行き不透明感があるからこそ、企業は即戦力として活躍できる人材への市場ニーズは強い傾向にあるといえるだろう。さらに「同じ業界・同じ職種」の経験者が有利になる傾向が大きく、業界や職種の知見に加えて、社内・社外と折衝・交渉しながら仕事をしてきた経験や、自分で課題を見つけて解決してきた仕事ぶりが、大きく評価されたり求められるような転職市場になると示されている。

「転職希望者の中には『コロナが落ち着いてから転職活動したほうが安全に行えるのでは…』と考える方も多分にいらっしゃると思います。連日流されるニュースなどを見ていてそう考えるお気持ちもよく分かりますが、『自分に何ができるか分からないけどチャレンジしてみよう』と段階で転職活動をスタートさせた方も多く内定をもらっている状況です。雇用側も多くの人材を求めている中、双方のニーズがマッチングする求人は必ずありますので、企業も転職希望者の方も諦めずにこのコロナ禍を乗り切ってほしいと思います」(喜多氏)。

2021年の転職マーケットは「リセットからのビルド」

最後に2021年の転職市場動向と企業が取るべき対策について、喜多氏は以下のようにコメントする。

「振り返れば2020年の転職市場は『リセット』でした。売り手市場から買い手市場に。オフィス勤務からリモートワークへ。あらゆる”はたらく”価値観がリセットされる年となりました。2021年は従来の価値観が崩れた平地に、新しい価値観をビルドしていく年です。といっても、企業も個人も基本的に従来と行動するべきことは変わりません。企業ではご自身が身を置く業界に対してどのような価値発揮ができるか。どのような展望や方針を抱いているかをはっきりさせることです。

コロナ禍においてもその成長性を継続させる企業にはひとつの傾向が見て取れます。それは早期から会社の置かれている立場や状況を冷静に分析し、それぞれの立場やポリシー、事業の方向性をはっきりと示している企業はコロナ禍でもその勢いを落とさず成長しています。

例えば、市場分析で自社が狙うべきターゲットや商圏をより先鋭化させる。はたまたエッセンシャルワーカーを抱える介護系企業は業界に先駆けてサービスポリシーを確定し発信していました。あるいは、営業スタイルをリモートワークとせず全社出社として感染対策を徹底させる、ほかには1カ月に1度のPCR検査のうえ、産業医相談と検査を実践して従業員へのエンゲージメントを向上させるなどさまざまです。いずれにしても早くから自身の立場や方向性を示し、業界内で強いリーダーシップを執って従業員を引っ張る企業は、引き続きその成長性を維持しています
 


 
――企業が今後も存続していくためには、早期の方向性の策定や課題解決力が問われるとのこと。ニューノーマル時代には、長期で戦略を考え、有事の際でもブレない姿勢、課題解決力などを確立させることが求められるだろう。

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