企業は成長機会を提供し、働く人は企業の価値を高める。企業と人は互いに選び合う関係へ

株式会社カオナビ

代表取締役社長 CEO 柳橋仁機(やなぎはし・ひろき)

東京理科大学大学院を卒業後、アクセンチュア株式会社に入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。その後、株式会社アイスタイルで人事部門責任者として人事関連業務に従事した後、2008年に株式会社カオナビを設立。2012年よりクラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」の事業を本格的に開始し、現在は業界シェアトップクラスのサービスに成長させている。

株式会社カオナビ

取締役副社長 COO 佐藤寛之(さとう・ひろゆき)

上智大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションにて組織変革コンサルティングに従事。その後、シンプレクス株式会社にて、人材開発業務の責任者を務める。2011年より株式会社カオナビにて創業者の柳橋とともに、クラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」の事業を開始。

働く人と企業の関係を良くするためにはIT活用が不可欠
徹底した仮説思考と仕組み化によって、属人性を排除
会社は社員に成長機会を提供、社員は会社の価値を向上させる関係へ
人材データの活用推進で、より一層の働き方改革を

2008年に設立された株式会社カオナビは、企業の人材を顔写真とともにデータベース化できるクラウド人材マネジメントツール『カオナビ』をSaaSにて提供しています。日本の労働生産性の向上には人材マネジメントの改革が不可欠という想いから、サービスの提供に至ったとのこと。「人材マネジメント×IT」で業界の最先端を行くカオナビでは、どのように人材マネジメントを実施しているのか。代表取締役社長 CEOの柳橋仁機氏(以下、柳橋氏)と取締役副社長 COOの佐藤寛之氏(以下、佐藤氏)に、ビデオ会議システムを通じてお話を伺いました。

働く人と企業の関係を良くするためにはIT活用が不可欠

カオナビのミッションおよびサービスについて教えてください。

柳橋氏:株式会社カオナビは企業の人材マネジメントに焦点を当て、その改革に注力している会社です。日本の労働生産性の低さに問題意識を持ち、それを改善するためには人材マネジメントの改革が必要と感じて創業しました。

サービスとしての「カオナビ」は、クラウドサービスとして提供するSaaS型の人材マネジメントシステムです。人材管理にITを組み合わせることで、人材の基本的な情報に加え、社員のスキルや評価履歴、さらには性格やモチベーションなどの情報も一元管理できるようにしています。これら一元管理された人材情報を共有したり有効活用することで、社員それぞれの個性や能力を把握し、生産性を向上させ、組織の活性化を実現するサービスです。

カオナビ柳橋氏:働く人と企業の関係を良くするためにはIT活用が不可欠

『カオナビ』の利用状況はいかがでしょうか。

佐藤氏:現在、約1800社(2020年3月末現在)にご利用いただいています。サービス開始当初はIT系のお客さまが多かったのですが、その後サービス業での導入が進み、現在はメーカーや金融など幅広い業種で使っていただいています。最近ではおかげさまで、トヨタ自動車様などのエンタープライズ企業や、魚沼市役所様などの官公庁・自治体にもご導入いただきました。お客さまの傾向としては、業種や業態、企業規模に関わらず、幅広くご利用いただいております。

その裏には、人材不足や生産性の低さなどの問題を深刻に捉える企業様が増えたことが、影響していると思います。おそらく、働く人と企業の関係性が変化してきた昨今、人事とITを組み合わせたソリューションの重要性に皆さんが気づき始めたのではないでしょうか。人事もITを活用することで、今いる社員の情報が簡単に把握でき、適材適所への抜擢や、優秀な人材の突然の離職への対処などにもスピード感を持って対応できるなど、さまざまな問題解決につながります。

徹底した仮説思考と仕組み化によって、属人性を排除

カオナビの人事制度に、「フレックス±20時間制度」「兼業OK」「1on1ミーティング」などがあります。これらの狙いは何でしょう。

柳橋氏:ベンチャー企業の中には、寝袋を持ち込んで、徹夜して猛烈に仕事をして…というケースもあるかと思います。しかしカオナビを、そのようなスタイルにはしたくありませんでした。もちろん起業したばかりのことは深夜まで働くこともありましたが、私たち2人はちょうど起業する頃に結婚したり、子供が産まれたので、ベンチャー企業であってもサステナブルな働き方の仕組みを作りたいという想いがありました。

「フレックス±20時間制度」というのは、通常のフレックス制度に加えて、月の所定労働時間に±20時間の幅を設け、各自で労働時間をコントロールできる制度です。社員一人ひとりが自己の裁量と責任で生産性を向上させながら、働きやすさの向上を図っています。

カオナビの行動指針のひとつに「ぎゅっと働いて、ぱっと帰る。」がありますが、この制度を使ってぎゅっと働いて、空いた時間を兼業やプライベートの充実、自己研鑽に活かしてもらえればと思っています。たとえばこれから夏であれば明るいうちに帰れるので、飲みに行ってもいいし遊びに行ってもいいですし。プライベートの充実や兼業で、仕事への活力を養ったり、いろいろな業界の違う考え方や知見を得て、カオナビの中でも成長して欲しいと考えています。

また、「1on1ミーティング」も自己管理の一環ですが、私は前職で人事部長を務めていたころから、人事制度は必要最低限にしたいと考えていました。ルールをたくさんつくるのが嫌いなんです。ルールがたくさんあると、それを運用することが目的になってしまうので、必要最低限にしています。

また、カオナビでは会社が目標を示すことはありません。「1on1ミーティング」で上司と話し合いながら、どういう仕事をすればいいのか、自分で目標を見つけて自分の働き方で進めてくださいと言っています。これも自己管理の一環で、自立を促しています。ミーティングを行うことで、メンタルチェックやモチベーションの把握、評価の要素の1つとしても役立っていますが、それらはあくまで副次的なものです。「1on1ミーティング」は頻度も会社として決めているわけではなく、上司と社員が必要と考えたときに実施するようにしています。

その他に、ユニークな制度があれば教えてください。

柳橋氏:制度ではないのですが、企業風土として「仕組み化」や「仮説思考」が浸透しています。「仕組み化」とは、自分ができることを、自分じゃなくてもできるようにすること。たとえば当社では一人でたくさん売れるセールスよりも、だれでもたくさん売れる仕組みを作ったセールスが評価されます。他の人でも再現性のある「仕組み化」をできる人が優秀だということです。

このように業務の属人化を防ぐことで、何か問題が発生したときに誰でもバックアップできますし、労働時間もコンパクトにできます。そのために属人化を徹底的に嫌い、「仕組み化」を徹底的に浸透させているのです。その「仕組み化」の過程で、これをこうすればこうなるはずだという「仮説思考」が必然的に重要になってきます。労働集約や属人化を徹底的に避けたからこそ生まれた風土とも言えますね。

佐藤氏:基本的には、いま柳橋がお伝えしたことが私たちの考えなので、そこに共感してもらえる人を採用することと、入社後も一貫してこの風土に合う人が評価されていることが大事だと思っています。労働集約型の働き方からの脱却を目指しつつ生産性を追求していくためには、「仕組み化」思考を持たない人間はカオナビの風土に合わない。そのことを入口から出口まで徹底することが非常に大事だと、経営層が思っているだけでなく、現場にも常々言っています。

カオナビ 佐藤氏:徹底した仮説思考と仕組み化によって、属人性を排除

そうした行動指針には、従業員の皆さんも共感していますか?

柳橋氏:面接の時点から徹底して伝えているので、逆にそういうことが好きな人たちが集まってきています。がむしゃらに働く“モーレツ社員”はおらず、いかに効率よく働き、ワークライフバランスを保つかを念頭に置いて働いている社員が非常に多いです。そのため、とくに対策をしなくても勝手に浸透していく状態になっています。

佐藤氏:1つ間違いなく言えることは、SaaS企業の社員として、先ほどの思考や行動パターンができれば、おそらく新しい製品開発も新しい営業手法も新しいマーケティング手法も、レベルが高い位置にいられると思います。たとえば、ある会社のためだけのカスタマイズはしない。営業の手法も、売れたセールスひとりを褒めるのではなく、その手法を考えて広めたセールスの方をほめる。そうすると全てのお客さまに同じクオリティでサービスを提供することができる。それがお客さまのためにもなっている気がします。

会社は社員に成長機会を提供、社員は会社の価値を向上させる関係へ

カオナビの人事評価の仕組みについて教えてください。

柳橋氏:人事評価の仕組みも必要最低限で、「ミッション」「バリュー」「スキル」の3項目で目標を設定して、半期に一回評価しています。目標の具体的な内容は、「1on1ミーティング」で決めています。去年までは「ミッション」のみで評価していた時期もありましたが、行動指針を見る「バリュー」を加え、エンジニアからの要望も多かった「スキル」も加えました。ただ、人事制度でも具体的な指針を細かく取り決めはしていません。それは上司と部下で話し合うようにしています。

昔の日本は、社員は終身雇用を保証されて、その代わりに会社に忠誠を尽くすという関係でした。これを私たちは「相互拘束関係」と言っています。

滅私奉公の忠誠心で会社と相互拘束関係を築く
(カオナビ提供)

しかし、これからは「相互選択関係」が標準になると考えています。会社は社員に成長機会を提供し、社員は会社の市場価値を向上させる。お互いに選択する関係にあり、それ以上の拘束関係は不要という考え方です。そう考えると、必要以上の制度や関係性はお互いに求めない方がいいというわけですね。

自身の市場価値を高め、会社と相互選択関係を築く
(カオナビ提供)

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、リモートワークをされる企業も増えました。御社ではリモートワークでの勤怠管理はどのようにしているのでしょうか?

柳橋氏:行動指針である「ぎゅっと働いて、ぱっと帰る。」というのは、もともとオフィスに来てぎゅっと働いて帰るということを前提としていました。ですから、リモートワークは手段として有効でないと考えていたのです。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のために完全リモートワークにしてみたところ、2週間ほどで問題なく機能することがわかりました。

佐藤氏:柳橋も言った通りで、実は弊社はどちらかというと、「会社に来て働く」といった考えが強かったです。しかし今回リモートワークへの移行が比較的スムーズにできたのは、やはり企業文化、企業風土だと思います。仕組み化し自律して働く取り組みを続けてきたので、通勤からリモートワークへの大きな変化にも柔軟に対応できました。社員にしてみれば、働く場所もが変わっても結果を出すという目的は変わらないためリモートワークも特に問題にはならなかったようです。

柳橋氏:勤怠管理には基本的に2つの考え方があります。従業員の行動や安全を管理する「会社の義務としての勤怠管理」と、従業員がちゃんと働いているかを監視する「従業員の実務としての勤怠管理」です。私たちは、後者の勤怠管理には全く興味がありません。性善説で社員の申告した勤怠データを信じるだけです。ただ、成果には表れるのでそれは評価に反映されます

プロセスを追いかけても、管理コストが増えるだけだという考えもあります。勤怠を管理するよりも、成果をしっかり捕捉できる仕組みの方が圧倒的に大事です。

佐藤氏:「社員は家族」と表現される方もいらっしゃいます。ただ私は、家族だからコミュニケーションがなくてもいい、家族だから家長すなわち社長が言ったことに従えばいい、という考えは相互選択の時代においては違うように思います。家族じゃないからこそ、きちんとトレードオフのものを経営者として提供するべきだという意味です。お互いにフラットであるべきと考えています。もちろん家族もそうあるべきだと思いますが。

カオナビ 佐藤氏:家族じゃないからこそ、きちんとトレードオフのものを経営者として提供するべき

人材データの活用推進で、より一層の働き方改革を

新型コロナウイルスの影響について、お客様からの相談や感じていることなどはありますか?

佐藤氏:そもそもIT化が進んでいないことで、リモートワークをしていない会社も多くありました。そのため、業務のIT化を急速に進めたいというニーズは高まっていますので、そういうお問い合わせは一定レベルで増えていると思います。

最近では「パルスサーベイ」のように従業員のコンディションを定期的にツールで把握するニーズも高まっています。たとえば、在宅勤務の期間が長くなると、孤独を感じてモチベーションが下がってしまうこともあります。そこで会社側が状況を把握してケアできるような仕組みを用意します。社員と会社の関係が変わりつつある中でコミュニケーションの方法を変化させないといけないときに、ITツールを使いどう対応していくかが人事に求められているということですね。

人事の間では昨今、雇用がメンバーシップ型からジョブ型へ移行するという話が広まってきていますが、全員がいきなりジョブ型になるわけではありません。まずは今いる社員の特性やスキルなどを把握して適材適所に配置したい、というところから入る企業も多いようで、以前からよくご相談をいただいていました。

今回、新型コロナウイルスの影響でリモートワークになったことで、人材情報をもっと活用しなくてはと考える企業が増えてくると思います。昨今の状況だからこそ、優秀な人材には会社に残って欲しいと思いますし、抜擢して活躍して欲しいという思いは、経営者ならみんな持っていると思いますからね。

柳橋氏:カオナビも完全リモートワークを実施していましたが、各部署にヒアリングしても「特に問題はないです。大丈夫です」という答えが返ってきます。また、リモートワークのままでいいという社員と、リアルに集まりたいという社員が半々といったところです。出社したり、家で仕事をしたりを自由にやりたいという声も多いのです。そこで、完全な制度としてはまだ整えてはいませんが、出社するか在宅勤務するかを自分で選べる「自己選択型ハイブリッド勤務」を検討しています。

変革のときを迎えた社会において、企業と働く人のあるべき未来像についてお聞かせください。

柳橋氏:今まで遅々として進まなかった「働き方改革」が、今回の新型コロナウイルスの脅威によって急激に進まざるを得なくなったのではないかと思います。これからの働き方を考えたときに、企業と働く人の相互選択関係は間違っていないと感じています。

カオナビ 柳橋氏:これからの働き方を考えたときに、企業と働く人の相互選択関係は間違っていないと感じています

佐藤氏:これからは、会社に行き労働時間だけで管理できていると思っていた経営陣も、会社に行きさえすれば仕事をしたことになると思っていた従業員も要らなくなる。会社あるいは経営陣と従業員は、お互いに選び選ばれる相互選択関係になっていきます。そうした時代は必ず来るでしょうから、私たちは経営者として選ばれる会社を作らなければなりませんし、一個人としては選ばれるビジネスパーソンでありたいですね。

柳橋氏:そもそも日本は働き方がすごく遅れています。ひとり当たりの労働生産性も、アジアの中で韓国に抜かれてしまったという、OECDのデータをもとにしたニュース記事もありました。これはかなりの驚きでした。これを機に、日本ももう少し合理的な働き方ができるようにならなければいけないと改めて思っています。

海外の機関投資家にも、特に人材マネジメントの面で日本は遅れていると言われます。欧米では人材データがすでにデータベースに格納されていて、その活用法を議論している段階です。日本はまだ、データベース化にしましょう!という段階なので、まずはそこを推進していきたい。そして日本の生産性を高めていきたいと思っています。

ありがとうございました。

取材後記

「ぎゅっと働いて、ぱっと帰る。」といった行動指針や、「ミッション」「バリュー」「スキル」という3軸での人事評価は、ともすると“仕事は仕事”と割り切るドライな印象をもたれがちです。しかし、今回お話を伺って、行動指針や人事制度の裏にはひとりひとりの従業員を大切に思い、個の特性を把握して伸ばしていくというカオナビの姿勢を感じました。

これからの企業と人のあり方は、従来の「相互拘束関係」から「相互選択関係」に変化していくと柳橋氏と佐藤氏は言います。そして、そうした変化は新型コロナウイルスのパンデミックによって急速に進んでいます。今後、企業は従業員をより細かく把握し、ともに成長していくという考え方が重要になる。それを可能にするための手段として、クラウドサービスの「カオナビ」は非常に有効であると感じました。

取材・文/吉澤 亨史、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOUNAL編集部