玉突き人事とは?メリット・デメリットと防止策を解説

d’s JOURNAL編集部

欠員の生じたポジションや部署に従業員を異動させた場合、連動して他の従業員のポジションも異動させることを「玉突き人事」といいます。人手不足の解消に役立つ反面で、急な異動は従業員に不満を抱かせるケースもあるでしょう。

玉突き人事を行うと同時に、業務フローの見直しや組織計画の策定といった取り組みも必要になります。この記事では、玉突き人事を行うメリットとデメリット、従業員の不満を解消させるためのポイントなどを詳しく解説します。

玉突き人事とは


玉突き人事について正しく理解するためには、基本的な意味をしっかりと押さえておく必要があります。人事異動やジョブローテーションとの違いも含めて解説します。

玉突き人事の基本的な意味

「玉突き人事」とは、人員配置においてポジションが空いた部分を埋めるために、従業員を連鎖的に異動させることを指します。例えば、本社の営業課長のポジションが空いたため、支社の営業課長であるAさんを異動させ、さらにAさんがいたポジションに支社の営業課長代理であるBさんを異動させるといった人事が挙げられます。

玉突き人事が行われるのは、急な退職などによって欠員が生じた場合であり、突発的に行われることが多いでしょう。計画性の低い人事異動であるため、従業員の不満が溜まる原因となる恐れがあります。

あくまで欠員を補充するための応急処置であるため、頻繁に玉突き人事を行うのは経営の安定にとってあまり好ましくない部分があるといえます。

人事異動との違い

通常の人事異動は、生産性の向上やキャリア開発を目的として行われる場合が多く見られます。いわゆる配置転換と呼ばれるものですが、玉突き人事との大きな違いは企業側が事業戦略などをもとにして行われる点が挙げられます。

人事異動は組織の活性化につながったり、従業員自身の将来にもプラスになったりするなど、さまざまな点から慎重に検討されるのが基本です。一方で、玉突き人事は欠員を補充するのが最優先の課題となるため、組織や従業員自身にとって必ずしもプラスになるとは限らない部分があります。

ジョブローテーションとの違い

ジョブローテーションとは、定期的に職場を異動したり、担当する職務を変更したりする制度のことを指します。さまざまな部署や職務を経験させることで従業員のキャリア開発を行っていく手法であり、日本企業においては広く浸透している仕組みだといえます。

多くの経験を積んでもらうことで能力を高めてもらい、本人の適性を見定めることで適材適所の人材配置につなげていけるでしょう。また、定期的な異動が行われることで組織内のコミュニケーションが活性化し、業務のマンネリ化を防げるといった効果も期待できます。

ジョブローテーションについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『ジョブローテーションの目的とは。メリット・デメリット、効果的な期間や導入方法 』)

玉突き人事で得られるメリット


玉突き人事を実施する際は、メリットとデメリットをよく踏まえたうえで取り組んでいくことが大事です。まずは以下のメリットについて、ポイントを解説します。

玉突き人事の4つのメリット
・欠員の解消につながる
・従業員の成長に結びつく
・人員のバランスを調整できる
・業務フローを見直す機会になる

欠員の解消につながる

玉突き人事の大きなメリットとして、欠員の補充が必要な部署への応急処置につながる点が挙げられます。業務に支障が出ているような場合、玉突き人事を行うことで業務を正常化できるでしょう。

欠員が生じているからといって、新たに人材を募集しようとしてもタイミングによっては、思うように人材が集まらないときがあります。また、仮に人材を採用できたとしても、即戦力となる人材でなければ教育を行う必要があり、業務を立て直すまでに時間がかかってしまうものです。

新たな人材採用を考える場合であっても、ひとまず社内の人材を異動させることで対応すれば、人員不足の影響を最小限にとどめられるでしょう。

従業員の成長に結びつく

異動を命じられた従業員にとっては、新たな部署やポジションでの役割を果たすことが求められます。以前とは全く異なる部署での仕事を任されたり、リーダーとしてチームを引っ張っていったりすることがあるでしょう。

与えられた役割に対応していくためには、従業員自身が成長していく必要があります。ポジションの変更や昇格などは、本来であれば時間をかけて行うものです。

しかし、玉突き人事による異動の場合は短期間で業務に必要とされる能力を身につけなければならない立場となるため、強制的に成長を促すような流れとなります。そのため、結果として早期に従業員が成長するきっかけを得られるでしょう。

人員のバランスを調整できる

通常の人事異動においては、異動の時期は春や秋などと決まっていますが、必ずしも毎年最適な人員配置が行えるとは限りません。年次によって異動が行われる従業員の人数に限りがあり、思うように組織のバランスを整えられないケースがあります。

通常の人事異動ではうまく調整が行えないタイミングで玉突き人事を実施すれば、次の異動の時期を待たずに、人員配置を調整することが可能です。適切なタイミングで玉突き人事を行うのであれば、組織にとっては大きなプラスの効果をもたらすでしょう。

人事異動があまり行われない部署においては、人間関係が固定化されやすいため、風通しがよくないこともあります。玉突き人事をうまく活用すれば、人間関係やコミュニケーションに変化を促すことができるはずです。

適切な形で人員配置を行うためにも、日ごろから従業員の能力などをきちんと把握しておくことが大切だといえます。

業務フローを見直す機会になる

人事異動があまり行われずに組織が硬直化してしまえば、悪い慣習が原因となって不正が起こってしまう恐れがあります。同じ顔ぶれの従業員が長く仕事を続けていると、取引業者との癒着などの問題が発生するケースがあるでしょう。

また、業務の進め方に変化が起こらずに、効率の悪いやり方を長年続けてしまっている場合もあります。玉突き人事によって人材の入れ替えを行っていけば、これまで黙認されていたものが明らかになりやすく、業務全体を見直すきっかけになるでしょう。

結果として、業務の効率化を促し、生産性の向上などにつなげていけるはずです。

玉突き人事によるデメリット


玉突き人事はメリットにつながる部分が多くある一方で、少なからずデメリットとなる点もあるので注意が必要です。特に以下の部分については気を付けておきましょう。

玉突き人事の4つのデメリット
・業務に対応できない場合がある
・本人の適性と合っていない
・適材適所の人員配置が難しい
・離職につながる恐れがある

業務に対応できない場合がある

玉突き人事は急な異動となるため、従業員自身の能力やスキルが十分に考慮されていない場合があります。そのため、異動後に能力不足に陥ってしまう可能性があり、かえって業務の停滞を招いてしまうこともあるでしょう。

特に昇格を伴った異動が行われるケースにおいては、リーダーとして必要な管理能力を身につけるための研修などをきちんと行えず、チームをうまくまとめ上げられないといった事態を招く恐れがあります。異動後の影響などを加味したうえで、玉突き人事を行うべきかを検討してみましょう。

本人の適性と合っていない

たとえ能力の高い従業員であっても、本人の適性と合っていないポジションを与えられたり、職種が変更となったりした場合にはミスマッチが起こります。例えば、開発部門で業績を上げていた従業員をいきなり未経験の職種に異動させたとしても、必ずしも期待するような成果を出してもらえるとは限りません。

玉突き人事のデメリットとして、欠員の補充などの目的からスピード優先で決めてしまう傾向があるため、本人の適性を十分に考慮できていないことが挙げられるでしょう。ポジションや職種のミスマッチをできるだけ防ぐためには、個々の従業員の能力や適性をあらかじめ把握しておくことが大切です。

適材適所の人員配置が難しい

玉突き人事は欠員の補充を優先させるという性質上、適材適所の人員配置を行うのが難しいといわれています。業務の継続を目的として実施される場合が多いので、異動させる従業員の能力やチーム全体のバランスを考慮するのが難しいといえるでしょう。

また、能力の高い従業員を異動させると、もとの部署の業務が停滞してしまうような事態も考えられます。新たな部署に異動しても、前任者との引き継ぎを十分に行えないまま業務を担うことになり、状況によっては過度な負担が生じる恐れもあります。

そして、異動をすることになった従業員は、新たな部署やポジションで人間関係を再構築しなければならない点もデメリットとして挙げられるでしょう。転勤を伴う異動の場合は、従業員の家族にも影響が及ぶことになるため、従業員自身にとってストレスを感じてしまう場面も出てくるといえます。

離職につながる恐れがある

人事異動が適切に行われずに、状況の改善が見られないような場合には、離職につながる恐れがあります。玉突き人事においては異動者だけでなく、受け入れ部署の従業員が負担する業務も増加するといえるでしょう。

それぞれの従業員の負担が大きくなれば、組織全体のパフォーマンスが低下する原因にもなり、結果として離職につながる可能性が出てきます。玉突き人事をきっかけとして離職者が増加してしまえば、さらなる人員不足を招くことになるので、事前にどのような影響が生じるのかを把握してから取り組むことが大切です。

玉突き人事を防ぐためのポイント


玉突き人事ができるだけ起こらないようにしたり、デメリットの影響を最小限に抑えたりするには、次のようなポイントを押さえておく必要があります。

玉突き人事を防ぐ4つのポイント
・中長期的な組織計画を策定する
・従業員の育成計画を事前に立てておく
・定期的な面談を実施する
・業務の見直しを行う

それぞれのポイントについて、さらに詳しく解説します。

中長期的な組織計画を策定する

玉突き人事はあくまで応急的な処置であるため、できれば日ごろから人手不足に陥らない状況をつくることが重要です。自社の将来や今後の事業展開などを踏まえながら、どのような組織を構築していくのかを検討してみましょう。

組織計画は場当たり的に行うものではなく、自社の経営と照らし合わせたうえで中長期的なものを策定する必要があります。経営目標の達成や事業計画の実現のために、どれくらいの人材が必要であるかを見定め、人事管理をどのように行っていくのかの方針を決めていくことも重要です。

人事の視点だけでは解決が難しい課題は、経営全体の視点から捉えていくことも必要だといえるでしょう。経営層や部署の責任者の考えや意見などもヒアリングしたうえで、組織計画をまとめていくことが必要です。

従業員の育成計画を事前に立てておく

事前に従業員の育成計画を立てておけば、玉突き人事を行う頻度を減らすことが可能です。従業員のキャリア開発をあらかじめ考えておけば、たとえ玉突き人事を行わなければならない場面であっても、従業員の理解を得られやすくなるでしょう。

中長期的な組織計画や経営戦略などをもとに、将来的に求められるスキルや能力が何かを整理し、人材育成の方針を示しておくことが肝心です。欠員が想定される部署においては、人員の補充に早めに取り組むとともに、ジョブローテーションなどを取り入れて必要なスキルを身につけてもらうようにしましょう。

育成計画を策定して従業員に示しておくことで、離職の防止やモチベーションの低下を防ぐことにつなげていけます。

定期的な面談を実施する

人事異動は従業員に直接関係しているものであるため、定期的な面談の場を設けて、日ごろからコミュニケーションを図っておくことが大切です。面談といっても業務内容や人事評価に関することだけではなく、従業員が抱えている悩みや相談に対応していくことも必要だといえます。

例えば、上司と部下が1対1で行う1on1ミーティングを毎月実施するなどすれば、何でも相談しやすい雰囲気が自ずと形成されやすいでしょう。上司と部下の間に信頼関係が構築されることによって、本人の考えや希望、適性などを把握しやすくなります。

また、現在の仕事ぶりだけでなく、将来のためのキャリア開発を含めた話を行っていけるはずです。直属の上司には話しづらい内容であれば、人事担当者が面談の機会を設けるなどして対応すれば、離職防止につなげられるでしょう。

業務の見直しを行う

人員不足の解消のために玉突き人事を行ったとしても、根本的な部分で問題が解決しなければ、また同じような事態に直面する可能性があるでしょう。欠員の補充を考える前にまずは業務フローを見直して、本来必要とする人員数をきちんと割り出すことも大切です。

どうにかして人員を確保したとしても、効率の悪い業務の流れがある状態では、異動者は働きづらさを感じてしまいます。一つひとつの業務工程を改めて見直すことで、場合によっては少ない人員でも業務を回せるかもしれません。

補充すべき人員が少なければ、それだけ玉突き人事における影響を少なくできるので、自社と従業員の双方にとってプラスとなるでしょう。人事や組織について考えるときは、業務全体の流れもあわせて考えることが大事です。

まとめ

突然の退職などによって、急いで欠員を補充しなければ、業務に支障が出てしまう場合があります。玉突き人事は通常の人事異動とは違い、必要に応じて行われるのが特徴です。

従業員によっては昇格の機会を得られたり、新たな職種にチャレンジするチャンスに恵まれたりするでしょう。一方で、玉突き人事は準備期間をそれほど設けられないため、業務遂行に必要な能力を身につけさせる前に、人事異動が行われる部分があります。

従業員自身の適性と合わない役割を与えられてしまうことで、仕事に対するモチベーションが低下したり、最悪の場合は離職を考えたりするケースもあるでしょう。玉突き人事がきっかけとなり、さらなる人員不足に陥ってしまわないためには、組織計画や人材の育成計画などをあらかじめ立てておくことが重要です。

また、定期的に従業員との面談の機会を設けるなどして、日ごろから信頼関係を構築しておくことも大切だといえます。人事に関する計画性を持ち、きちんとコミュニケーションが取れている状態であれば、玉突き人事のメリットを活かすことにもつながるはずです。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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