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仕事において、複雑で高度な目標に立ち向かうときもあるでしょう。そのような課題に対し、チームメンバー一人ひとりが個々のスキルや能力を最大限に発揮して挑むことが求められます。そこで重要になるのが「チームビルディング」です。
ゲームや研修、ワークショップなどを通じ、関係性を築くことを目的とされています。これは、企業を取り巻く環境が大きく変化している中、組織の成果を最大化するための方法として注目を集めています。そこで今回は、チームビルディングの概要やメリットやデメリット、具体的な手法を紹介していきます。
チームビルディングとは、チームにおける個々人のスキルや能力・経験を最大限に発揮し、目標達成を目指すための取り組みのことです。ただ単に優秀な人材を集めれば優秀なチームが生まれるというわけではありません。「チームビルディング(team building)」は日本語に直訳すると、「チームを作る(構築する)」という意味になり、ゴールに向かって異なるスキルを尊重し、融合させていくことが重要になります。
チームとは、共通の目的や目標の達成のために、一人ひとりが自らの役割を認識した上で、メンバー同士が協力している組織のことです。チームと似た意味の言葉に「グループ」がありますが、グループは言葉の定義上、メンバーが集まっている状態を指し、必ずしも共通の目標を持っているわけではないとされています。そのため、チームとグループでは、グループの方が広義であると言えるでしょう。
チームワークとは、1人だけでは達成できない目標をチームのメンバーと協力し合いながら成し遂げようとすることです。目標に向かってチーム一丸となるという点はチームビルディングと類似しますが、目指すチームの姿と、メンバーの成長を加味しているかどうかという点で、違いが見られます。チームビルディングは大きな変化を求められる業種や組織でよく使われる言葉で、目指しているのはリスクを伴いながらもイノベーションを起こすことのできるチームを目指すという点が、チームワークのニュアンスとは少し異なります。
また、チームワークはメンバー同士で協力して目標達成をするという考え方のため、メンバー一人ひとりの成長にそこまでフォーカスされないケースもあるようです。一方、チームビルディングは個々の力を最大限に発揮しながら目標達成を目指すという考え方のため、メンバー一人ひとりの成長も加味しているとも言えます。
モチベーションコントロールとは、成果を出すために、自分自身や同僚・部下の仕事への「やる気」や「動機」といったモチベーションを高めていくこと。チームビルディングを行う上で、メンバーの士気を高めることは非常に重要です。また、メンバー同士の信頼関係が深まり互いに切磋琢磨することで、更なるモチベーション向上につながることも見込めるため、モチベーションコントロールとチームビルディングは相互に連携したものと言えます。
チームマネジメントとは、チームの生産性を高める目的で、管理職やリーダーがチーム内のメンバーをマネジメントすることです。チームマネジメントのためには、メンバー一人ひとりの強みを見つけて能力を伸ばす「コーチング能力」や予定通り業務を遂行できるように指示やアドバイスを行う「業務遂行能力」などさまざまな能力が必要ですが、中でも近年注目を浴びているのが「チームビルディング能力」です。チームビルディングは、チームマネジメントのために必要な要素の一つと理解しておきましょう。
チームビルディングは、企業や組織に属する人すべてを対象とした取り組みです。上下関係なくそれぞれの強みを認め合い、目的を確認・共有しあうことによって、パフォーマンスを上げることを大目的としています。それに加え、立場や役職ごとに異なる目的があります。具体的に見ていきましょう。
これから初めて社会人になる内定者や新入社員、第二新卒層の場合、周囲とのコミュニケーションの取り方や仕事へ取り組む姿勢など、「社会人としての基本」を体感させる目的でチームビルディングを実施します。“仕事は責任をもって最後までやり遂げる必要がある”、“主体的に仕事に取り組む姿勢が重要である”など、基本的なスタンスについてチームビルディングを通して教えていきましょう。
中堅社員(3年目以降)は係長やチームリーダーなどの役割でマネジメント層と現場の間に立ち、両者の間でうまくチームを機能させていく重要な役割を担うポジションです。マネジメント層の目指す方向性を正確に捉えると同時に、現場の状態を把握しながら目標を達成するためには何が必要かを考え、実行していく必要があります。将来的には次世代リーダーとしての活躍を期待されていることもあり、この層へのチームビルディングでは、リーダーの素養やイノベーションを想像させる力を育む目的で行いましょう。
管理者は、ミドル・マネジメント層としての役割があります。つまり、組織のトップの意思を中堅社員に伝達し、目標達成に向けた戦略を実行する立場です。将来的には経営陣に加わることが期待されていることから、この層へのチームビルディングでは、「部門の壁を取り払い、ベクトルを合わせて目標達成しようとする体制作り」を目的としています。また、部下を指導する立場として、「部下を育成するスキルを磨くこと」も目的として挙げられます。
経営者・役員は、組織のトップに位置し、経営方針の策定や組織の統制などを担うトップ・マネジメントの立場になります。そのため、この層へのチームビルディングでは、経営陣が「ビジョンを共有する」「そのためにメンバーの力を引き出すこと」「その個々のメンバーの意識をあわせ、牽引していくこと」を目的としています。
チームビルディングを効果的に行うためには、いくつかの段階を経ることが重要です。心理学者のタックマンが提唱した「タックマンモデル」と呼ばれるチームビルディングの5段階をご紹介します。
形成期とは、メンバーが決まり、チームが形成されたばかりの段階のことです。この段階では、メンバー同士の理解が不十分で、チームの目標も不確かなため、チーム内には緊張感があります。次の段階に進むためには、メンバー同士が互いのことを知り、目標達成を妨げる要因・課題をリーダー主導で見つけることが重要です。
混乱期とは、チームの目標が決まって、プロジェクトが進み始めた段階のことです。この段階では、メンバーそれぞれの価値観や考え方が違うことが原因で意見の対立が起こりやすく、メンバーの意識や関心も、チームの目標ではなく互いの行動や発言に向きがちです。次の段階に進むためには、意見の対立を恐れずに議論を通じて相互理解を深め、チームの抱える課題の解決方法を見つける必要があります。
統一期とは、意見を出し合ったことで互いの価値観や考え方への理解が深まり、安定したチームへと統一されていく段階のことです。この段階になると、チームの目標やその達成に向けた一人ひとりの役割がメンバー同士で共有できているため、まとまりがあります。メンバーの個性を活かした役割分担や全員が納得できるチーム目標の設定など、全員が主体的に動くことで、次の段階につながります。
機能期とは、チームとして機能している段階のことです。この段階になると、一人ひとりの自立的な行動やメンバー同士のサポートにより、チームとしての成果が現れます。機能期を持続するためには、リーダーによるメンバーへのサポートやチームワークを高めるアクティビティの実施といった対応をする必要があります。
散会期とは、プロジェクトの終了やメンバーの異動などにより、チームとしての活動が終わる段階のことです。チームビルディングが成功したかどうかは、この時期のメンバーの反応で判断できます。解散を惜しむ声やメンバー同士で称えあう姿が見られるようであれば、良いチームが作れたと言えるでしょう。メンバーとしては一区切りつくことで、気分を新たに次の仕事に臨むことができます。
チームビルディングの実施によりチーム目標という共通項ができることで、チーム内は活気付きます。それにより会話が増え、チーム内のコミュニケーションが活発化するというメリットがあります。上司と部下の「報・連・相」が増える、ノウハウやナレッジを共有する、悩みを相談しやすくなるといった効果も期待できます。
チームの成果を最大化するためには、メンバー一人ひとりのモチベーションが高い状態であることが必要です。チームで行動を共にすることにより、一体感が生まれ、「何か自分もチームに貢献したい」「他のメンバーから認められたい」といった承認欲求が発生します。そして何かしら成果を出し、満たされることでモチベーションが上がるのです。その結果、生産性や品質の向上も期待できるでしょう。
チームには、多様な価値観を持った社員が集まります。チームビルディングを通じて、各自の意見を発表しチームとしての意見に融合していく中で、想像力やアイデアを生み出す力を養うことができます。一人では考えられなかったようなアイデアが浮かぶことで、チームや組織のイノベーションにつながります。
チームビルディングを行う際に意識したい注意点と、実施する上でのポイントを紹介します。
仕事をやらされているとメンバーが感じてしまっては、チームとして十分な成果は生み出せません。そのため、強制的な目標にはせず、メンバー一人ひとりが自立的に行動できる目標にすることが重要です。チームビルディングを実施する際は、「どういったことに取り組みたいか」などメンバーに意見を聞いてみるのもよいでしょう。
メンバー一人ひとりが自由に行動してしまうと、チームがバラバラになってしまう可能性があります。そのため、全てをメンバー任せにせず、リーダー(PM)が一定のリーダーシップを発揮することが重要です。リーダーは個人目標とチーム目標の統合といったチームの結束に向けた取り組みを行いましょう。
ただ単にチームに必要な人数を確保するだけでは、十分な成果は生まれません。チームとして有効に機能するために重要なのは、一人ひとりの能力やメンバー同士の人間関係を考えた上でのチーム編成を行うこと。一定期間チームとして活動することでチーム力が養われていきますが、頻繁に対立が見られる場合はチーム編成に問題がある可能性があります。メンバーの入れ替えを検討するようにしましょう。
モチベーションを維持しながら仕事を進めるためには、目標が定まっていることが重要です。そのためには、リーダーが主導となり、明確なチーム目標を設定しましょう。チーム目標があることで、メンバー一人ひとりが目標達成に向けた行動を取ることができるようになります。
仕事をする際は、具体的な役割が決まっていた方が行動しやすく、成果が出しやすいでしょう。経験や能力の異なるメンバーが集まってくるチームでは、一人ひとりの役割を明確化することが大事になります。その結果、メンバーは「自分の役割を果たし、チームのために貢献しよう」と考えられるようになります。
チームには多様な価値観を持つメンバーが集まります。それぞれの考え方を互いに尊重することで、チームとしての結束力を高めることができるため、互いの価値観を認める必要があります。そのために、リーダーは、チームでの活動がスムーズに進み、成果が上がるように「ファシリテーションスキル」を発揮し、舵取りを行いましょう。
チームビルディングの5つの手法を、目的とあわせて紹介します。
チームが結成されたばかりの頃は緊張しているメンバーも多いため、成果を上げるために早く緊張を解くことが重要です。そうした場面では、お楽しみ要素があり、全員が気軽に取り組める「ゲーム」を実施しましょう。ゲームに勝つためには、メンバーの役割分担や時間配分を意識する必要があるため、戦略的な思考を養うことにもつながります。
成果を上げるためには、メンバーが一致団結することが不可欠です。一丸になって行動してもらいたいときには、スポーツやダンスといったチーム全員で体を動かす「アクティビティ」が有効です。アクティビティに一緒に取り組むことで、チームワークが生まれやコミュニケーションの活性化が期待できます。
メンバーのプライベートの一面も知っていると、コミュニケーションを取る上で役立つ場面があります。メンバーのありのままの姿を知りたいときには、バーベキューや社員旅行といった「イベント」を開催しましょう。仕事以外の場面でも親睦を深め、相互理解や関係性の強化を促すことが、よりよいチーム作りにつながります。
メンバーに主体的に行動してもらいたいときには、自主的な共同作業である「ワークショップ」を実施することがおすすめです。議論や試行錯誤を繰り返しながら最終的に成果を出すという経験を共有することが、チームビルディングにも役立ちます。
業務量によっては、チームビルディングのために特別な時間を割くのが難しいというケースもあります。その場合、特別な機会を設けるのではなく日常業務の中でも十分に効果が期待できます。「メンバーの人格を尊重する」「互いにサポートし合う」「チームにとって有益な情報を共有する」などを日々意識することが、チームビルディングの成功につながります。
チームビルディングを簡単に行うためにおすすめのゲームを3つ紹介します。
脱出ゲームとは、チーム全員で謎解きをしながら制限時間内に会場から脱出するゲームのことです。謎を書いた紙や部屋から脱出するための鍵などを用意すれば、簡単に始められます。謎を解くためには、メンバー同士の情報共有や密なコミュニケーションが求められるため、チームビルディングに効果的です。
マシュマロチャレンジとは、マシュマロや他のアイテムを使って、制限時間内に自立可能なタワーを作り、一番高いタワーを作れたチームが勝ちというゲームのことです。ゲームに必要なアイテムは、マシュマロと乾燥パスタ、マスキングテープと紐だけなので簡単に用意することができます。簡単なゲームですが、高いタワーを作るには、役割分担をする、試行錯誤しながら方向性を定めていく必要があり、チーム運営で求められることの醸成に役立ちます。
十人十色ゲームとは、食の好みなど身近なお題に対する回答者の答えを三択から予想し、正解ならポイントを獲得できるというゲーム。何回か繰り返して最終得点をチーム間で競います。用意するものは、お題と三択の選択肢のみのため、簡単に実施できます。相手がどのような立場や視点から物事を認識しているのかを意識することができ、チームビルディングに必要なメンバー間の相互理解が促されます。
チームビルディングを導入する際にかかる費用をご紹介します。
ゲームやアクティビティ、ワークショップを行う場合は、備品代がかかってきます。用意する備品によって金額の変動が大きいため、実施内容を決める際はどういった備品を準備する必要があるかも検討しましょう。
ワークショップやアクティビティを行う際は、会議室代やグラウンド代などがかかってくるケースがあります。会場の広さや使う時間によって金額の変動が大きいため、外部の施設を使う場合は事前に確認しましょう。
その他にも、費用がかかってくるケースもあります。例として、研修会社にチームビルディングの実施を依頼した場合のプログラム代や外部講師費用、泊まりがけでのチームビルディングを行う場合の宿泊代や飲食代などが挙げられます。こうした費用は金額が高くなりやすいため、実施内容を決める際は費用対効果も検討しましょう。
チームビルディングの効果を上げるためには、自社に合った方法で実施することが重要です。3つの判断基準から、自社に合った方法を選びましょう。
チームと言っても、数名~10名程度の少人数のチームから、数十人以上の大人数のチームまでさまざまです。そのため、実施人数に合わせたチームビルディングの方法を選ぶ必要があります。少人数のチームであれば、人数が少ないことを活かして、「自己紹介・他己紹介」を応用したゲーム、「フットサル」や「3on3」といったスポーツなどをするとよいでしょう。大人数のチームの場合、「脱出ゲーム」といった規模の大きなゲームや「運動会」や「バーベキュー」といったイベントなど、大勢が一度に参加できるものを選ぶことが重要です。
チームビルディングにどの程度の時間をかけることができるのかは、そのときの状況次第です。そのため、時間に応じたチームビルディングの方法を選ぶ必要があります。あまり時間をかけることができない場合は、日常業務の中でチームビルディングを意識したり、短時間でできるゲームを行ったりするとよいでしょう。ある程度まとまった時間を確保できるのであれば、ワークショップやスポーツなどを実施することができます。数日間をかけてチームビルディングを行える場合は、「バーベキュー」や「社員旅行」といったイベントも効果的です。
チームを構成する社員の職種は、企業によってさまざまです。職種によって求められている能力が異なるため、職種別にチームビルディングの方法を決めることをおすすめします。顧客対応する機会の多い営業職は対話力や交渉力を磨けるものを。他部署をサポートする機会が多いバックオフィス系の職種はチームワークを体験できるものを。納期管理が重要なエンジニア系の職種は限られた時間内で成果を出す練習ができるものを選びましょう。
チームビルディングについて記述された本を3冊ご紹介します。取り組む際の参考にしてください。
●チームビルディングの技術: みんなを本気にさせるマネジメントの基本18(経団連出版) 【著】関島 康雄
筆者の経験とマネジメント理論をもとに、どのようにチームビルディングを行えばよいかを記した1冊。チームビルディングの際に必要な技術が具体的に書かれています。内容がわかりやすいため、初心者の方にもおすすめの本です。
●チーム・ビルディング―人と人を『つなぐ』技法(日本経済新聞出版社) 【著】堀 公俊・加藤 彰・加留部 貴行
グループをチームに変えるには、人と人を「つなぐ」働きかけが重要だと説いた1冊。メンバーの協働意欲を高めるアクティビティやシチュエーション別の対応法といったチームビルディングの具体的なノウハウを多数紹介しています。リーダーを任された社員にとっての実践的テキストでしょう。
●「2人から100人でもできる!15分でチームワークを高めるゲーム39(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 【著】ブライアン・コール・ミラー
チームビルディングに役立つ39のゲームを紹介した1冊。特別な道具が必要ないゲームが多数掲載されているため、すぐに実施することができます。結束力の強いチームを構築したいけれどあまり時間を割けないというリーダーに向けた本です。
チームビルディングには、コミュニケーションの活性化やモチベーションの向上など、仕事をする上で大事となる要素を育成できるメリットがあります。さまざまな手法を導入しながら、組織や会社にあったものを選び、成果を最大化できるチームを構築しましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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d's JOURNAL編集部
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】