【事例あり】ジョブローテーションとは?目的や導入のメリットとデメリット


d's JOURNAL
編集部
従業員に長く働き続けてもらうためには、企業としてキャリア開発の取り組みを行っていくことが重要です。従業員に多くの業務経験を積ませて、スキルアップや能力の向上につなげていくための取り組みを「ジョブローテーション」といいます。
この記事では、ジョブローテーションの基本的な捉え方や目的、制度を導入するメリット・デメリットなどを詳しく解説します。
従業員の人材育成に役立つフィードバックのポイントを1枚の資料にまとめましたので、気になる方は下記から無料ダウンロードできる資料をぜひご活用ください。
ジョブローテーションとは

ジョブローテーションとは、従業員にさまざまな業務経験を積ませることでスキルアップや能力開発を促し、定期的に配置転換を行う制度のことをいいます。配置転換を実施することによって、従業員の視野を広げ、今まで認識していなかった適性を見つけることにつながるといった効果が期待できます。
ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションを導入する目的として、次の3つの点が挙げられます。
ジョブローテーションを導入する3つの目的
・従業員に自社の業務に対する理解を深めてもらう
・中長期的な視点に立って、人材育成を行っていく
・業務の標準化を促すことにつなげる
まず、ジョブローテーションを実施することで、従業員は部署内・他部署のさまざまな業務を経験することになるので、仕事の流れや業務そのものへの理解を深める機会を得られます。個々の業務がどのような役割を担い、全体の業務に影響しているかを知ることで、仕事に対するモチベーションを高められるはずです。
また、多くの部署での業務を経験することで、新たな業務への適応力を身につけたり、他の従業員との人間関係を構築したりできます。中長期的な人材育成という観点から、従業員の成長につながっていくでしょう。
そして、ジョブローテーションを導入することで、特定の従業員だけに業務が偏ってしまうことを防げます。多くの従業員がさまざまな業務を経験していることで、担当者が不在のときでも対応しやすくなります。
業務の標準化を促すことにつながるため、業務効率を高められるはずです。
ジョブローテーションを導入している企業の割合
独立行政法人である労働政策研究・研修機構が公表している「企業の転勤の実態に関する調査」の資料によれば、53.1%の企業がジョブローテーションの制度を導入していると回答しています。

(引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構『企業の転勤の実態に関する調査 』P.8)
従業員規模によって導入の割合に違いがあり、従業員数が多い企業ほどジョブローテーションの仕組みを取り入れていることがわかります。
ジョブローテーションと人事異動との違い
ジョブローテーションと人事異動との違いは、配置転換を行う目的です。人事異動は、昇格・降格・解雇など組織の活性化を図るために、配置転換を実施することを指します。
一方、ジョブローテーションは従業員の教育のために、異動や配置転換を行うことをいいます。人事異動が4月や10月といった決められた時期に行われることが多いのに対し、ジョブローテーションは必要に応じて不定期に実施されるのも特徴だといえるでしょう。
ジョブローテーションを導入する5つのメリット

ジョブローテーションの仕組みを取り入れることで、企業は以下のようにさまざまなメリットを得られます。
ジョブローテーションを導入する5つのメリット
・ゼネラリストの育成につながる
・従業員の適性を見極められる
・スキルアップや能力開発が期待できる
・柔軟な経営体制を構築できる
・社内リレーションの構築を促せる
各メリットについて、ポイントを解説します。
ゼネラリストの育成につながる
ジョブローテーションを導入することで、ゼネラリストの育成につなげていけます。従業員に多くの業務を経験させることで、幅広い業務経験と視野を備えた人材の育成が期待でき、将来の経営幹部候補を育てられます。
自社が掲げる事業計画や人材戦略に沿って、現在だけでなく将来必要とされる人材像を明確にしておきましょう。どのような部門・部署に、ゼネラリストの人材が必要であるかを明らかにすることで、ジョブローテーションの制度を適切に運用していくことができるはずです。
従業員の適性を見極められる
ジョブローテーションは多くの業務を経験させることによって、個々の従業員の適性を見極められるメリットもあります。本人の得意・不得意がわかることで、どのような方向で人材育成を行っていけばよいかがわかるでしょう。
また、従業員自身が自らの適性に気づく機会を得るだけでなく、企業が適材適所の人員配置を行うことにも役立てられます。
スキルアップや能力開発が期待できる
配置転換を通じて、さまざまな部署での業務を経験させることで、従業員のスキルアップや能力開発が期待できます。何年間も同じ業務を続けさせるだけでは、業務がマンネリ化してしまい、仕事へのモチベーションを下げる恐れがありますが、ジョブローテーションを導入すれば、新たなチャレンジを促すきっかけになるはずです。
新たな業務を任せることで、仕事に対する創意工夫なども生まれやすくなります。一人ひとりの従業員のスキルや能力が上がることで、業務効率や組織全体の生産性も高まるでしょう。
柔軟な経営体制を構築できる
ジョブローテーションによって従業員を任意の部署に配置できれば、柔軟な経営体制を構築できます。特に新しく立ち上げる事業に人員を配置したり、人員が不足している部署に割り当てたりすることで、組織運営を円滑に行えるでしょう。
結果として事業環境の変化に応じて、柔軟な経営体制を構築していくことにつながります。あらゆる事業環境においても対応できる従業員を育てていけば、競合他社に対して優位性を保ちながら、事業を拡大していけるはずです。
社内リレーション(コミュニケーション)の構築を促せる
ジョブローテーションによって、配置転換を経験する従業員は必然的に多くの部署と関わっていくことになり、社内リレーションの構築を促せるでしょう。異動が定期的に行われることで、従業員は社内に多くの知り合いを得られるからです。
そのため、他部署と協力しながら仕事の成果をあげていくといった姿勢が身につくことになり、業務効率を高めることにもつながっていきます。社内リレーションの構築は、ジョブローテーションならではのメリットであるといえるでしょう。
ジョブローテーションを導入する3つのデメリット

ジョブローテーションの仕組みを導入することで、多くのメリットが得られる一方で、気をつけておきたいデメリットも存在します。
ジョブローテーションを導入する3つのデメリット
・スペシャリストの育成には向かない
・受け入れる部署の負担が増加する
・従業員のモチベーションを下げる場合がある
それぞれのデメリットについて解説します。
スペシャリストの育成には向かない
ジョブローテーションはゼネラリストの育成に向いている仕組みであり、スペシャリストの育成にはあまり向かないといえます。短期間でさまざまな業務を経験することは視野を広げることにつながりますが、反面で1つの技術や分野を極めるといったことには結びつきにくいからです。
そのため、すべての人材をジョブローテーションの対象とするより、社内の人材構成を考えたうえで、ゼネラリストとスペシャリストのどちらを増やしていくのかを決める必要があります。
受け入れる部署の負担が増加する
ジョブローテンションのデメリットとして、対象となる従業員を受け入れる部署の負担が挙げられます。新たに配属される従業員に対して、一から業務を教える必要があるため、業務負担が増加しがちになります。
したがって、配属先が繁忙期となるような時期に配置転換を行うことは避け、人材教育に十分なリソースを割ける時期であるかをよく見極めてみましょう。
従業員のモチベーションを下げる場合がある
ジョブローテーションは、従業員に新たなチャレンジを促す一方で、仮に本人が望まない業務を与えてしまうと仕事へのモチベーションを低下させる恐れがあります。従業員との面談などを通じて、本人の意向や考えをきちんと把握してから配置転換を検討してみましょう。
ジョブローテーション制度の導入に向いている・向かない企業

ジョブローテーションの仕組みは、あらゆる企業に向いているわけではなく、個々の企業の状況にもよります。ここでは、ジョブローテーション制度の導入が向いている企業と向かない企業の特徴を紹介します。
ジョブローテーションの導入が向いている企業の特徴
ジョブローテーションの導入が向いている企業の特徴として、以下の点が挙げられます。
ジョブローテーションが向いている企業の特徴
・新卒一括採用を実施している
・幹部候補生の育成を目指している
・サービス提供に多様な職種や部署が関連している
・従業員の育成費用に余裕がある
・業務内容をマニュアルすることが可能である
・退職率が低い(1年間で10%以下) など
組織の規模が比較的大きく、多くの人材を採用しているような企業がジョブローテーションの導入に向いているといえます。自社の事業規模などを踏まえたうえで、導入を検討してみましょう。
ジョブローテーションの導入が向いていない企業の特徴
ジョブローテーションの導入が向いていない企業の特徴としては、以下の点が挙げられます。
ジョブローテーションが向いていない企業の特徴
・新卒採用が少なく中途採用がメイン
・熟練した専門的スキルが求められる
・5年以上のプロジェクト単位での業務
・部署ごとで待遇や手当に差がある
・退職率が高い(1年間で20%以上) など
ジョブローテーションの導入に向いていない企業は、ゼネラリストよりもスペシャリストの育成に力を入れなければならなかったり、退職率が高かったりする企業です。人材育成より、経営基盤の整備のほうが課題となっている場合は、ジョブローテーションの仕組みを導入しても、思うように成果をあげられないケースがあります。
ジョブローテーションを導入するときの3つのポイント

ジョブローテーションの制度を導入する際は、次の3つのポイントを押さえておくことが大切です。
ジョブローテーションを導入する3つのポイント
・ジョブローテーションを導入する目的を明確にする
・対象となる従業員や配属先を調整する
・定期的な面談を実施する
それぞれのポイントを見ていきましょう。
ジョブローテーションを導入する目的を明確にする
ジョブローテーションは前述のとおり、導入が向いている・向いていない企業があるため、導入目的を明確にする必要があります。従業員に導入目的がきちんと伝わっていなければ、思うように人材育成につながっていかないので注意が必要です。
そのため、制度の導入にあたっては働く側の従業員にどのようなメリットがあるのかを丁寧に説明していきましょう。多くの業務を経験することで、将来のキャリアパスにつながっていくなど、具体的なメリットを伝えていくことが大切です。
対象となる従業員や配属先を調整する
ジョブローテーションの制度を円滑に運用するには、異動の対象となる従業員や配属先をきちんと調整することが重要です。すべての従業員が配置転換の対象となるわけではないため、個々の従業員の勤続年数や適性などを考慮しながら検討してみましょう。
また、配属先とも事前に調整を行って、従業員をスムーズに受け入れてもらえる体制を整えるのが大切だといえます。
定期的な面談を実施する
ジョブローテーションによる成果をきちんと確認するためには、従業員への定期的な面談を実施する必要があります。配置転換を行ったばかりだと、慣れない業務にストレスを抱えてしまうこともあるため、面談を通じてしっかりとサポートしてあげることが重要だといえるでしょう。
また、配属先の管理職などにもヒアリングを行って、必要に応じて仕組みを改善していくことも大事だといえるでしょう。
ジョブローテーションの成功事例を紹介

ジョブローテーションの導入を成功させるには、すでに制度を導入し、運用している企業の事例を参考にすることが大切です。ここでは、3社の取り組みを紹介します。
ヤマトホールディングス|2年間で現場と後方支援の両方を経験
宅配会社大手のヤマトホールディングス株式会社のジョブローテーションは、入社後2年間で現場と後方支援の両方を経験する仕組みとなっています。新入社員を育成するためのプログラムの一環として導入されているものであり、会社全体の業務の流れを把握してもらうことが主な目的です。
新入社員は入社してから2年間は、配送物の集配や配送のサポート業務などを担います。また、営業などの実務を経験した後に、本来の配属先である部署で業務を行うことになります。
入社後に設けられたプログラムを通じて、従業員と企業が共にキャリアプランを考える機会が設けられているのが特徴です。ジョブローテーションの仕組みによって、仕事に対するモチベーションを引き出しながら、将来のキャリアの土台を築いていく流れが形づくられています。
現場での体験を通して、組織全体の業務効率化とイノベーションの促進にジョブローテーションが寄与している事例だといえるでしょう。
(参考:ヤマトホールディングス株式会社『人材育成 』)
ソニー|入社10年前後の若手人材の育成につなげる
総合電機メーカーのソニー株式会社では、入社10年前後の若手人材をジョブローテーションの対象としており、人材育成につなげています。ジョブローテーションの制度を導入している目的は、若手人材に自分の専門性を確立してもらうことを狙いとしています。
ソニーでは、世界7カ所の拠点に「タレントダイレクター」と呼ばれる人事の担当者を置き、受け入れるポジションの発掘を行っているのが特徴的です。タレントダイレクターは日々変わっていくビジネスの現場において、人材育成につながる機会を見つける役割を担っています。
幅広い視点で、自身の専門性を磨いていってもらいたいという観点から、国際感覚を持った若手人材の育成に成功しています。
(参考:ソニー株式会社『人材育成 』)
双日|ほぼ全従業員に異動のチャンスが生まれた
総合商社である双日株式会社では、ほぼ全従業員に異動の機会を与えるために、ジョブローテーションの制度を導入しています。総合商社という性質上、海外赴任や国内事業会社に出向する機会が多い職場環境であるため、以前から実質的なジョブローテーションを経験している従業員は全体の70~80%ほどいました。
しかし、部署や業務内容によっては異動のチャンスになかなか恵まれない従業員もいたため、2009年10月から人材育成や組織力の向上、従業員の活性化などを目的としてジョブローテーションの制度を導入しました。制度を取り入れたことによって、異動の機会や海外拠点・事業会社などで経験を積む機会が少なかった20~30%の従業員も多様な業務経験を積めるようになり、組織の活性化につながっています。
同社では、管理職に登用されるまでに出向や海外駐在などを含めて異なる2つ以上の業務を経験してもらうことになっています。多様な専門知識とスキル習得による人材育成につなげるため、ジョブローテーションを社内制度として定着させているといえるでしょう。
(参考:双日株式会社『人的資本経営 』)
ジョブローテーションで従業員が退職につながる失敗例

ジョブローテーションの仕組みは、上手に運用すれば従業員のキャリア開発などに役立てられます。しかし、制度の運用を誤ってしまうと従業員の退職につながる失敗を招く恐れもあるでしょう。
どのような点に気をつければよいか、ポイントを解説します。
従業員に意味のない異動だと思われた場合
ジョブローテーションを行った結果、対象となる従業員に「意味のない異動」だと思われてしまうと効果が薄れてしまいます。特に配置転換の目的などを知らされないまま異動が行われた場合、従業員はただ目の前の業務を処理するだけになってしまい、自分自身が成長しているという実感を得にくくなるでしょう。
また、企業に対する不信感や業務への不満が募ってしまい、最悪の場合は従業員が退職してしまう恐れがあります。多くの企業では一定期間が経過したら異動させるという形式を採用していますが、単に時期が訪れたからといって別の部署に異動させるだけではあまり効果が期待できないでしょう。
ジョブローテーションはあくまで、人材育成につなげていくためのものであることを踏まえて、配置転換を実施するときは個別面談を行うなどして、しっかりとコミュニケーションを図っていくことが重要です。
従業員の意向を無視した異動をした場合
従業員の意見や考えを無視して、自社の都合だけを優先して配置転換を行う場合も、従業員の退職を招く恐れがあります。やりたくない仕事や興味の薄い業務を任されてしまうと、従業員のモチベーションが低下してしまうからです。
仕事に対する意欲が低下してしまえば、結果として企業にとってプラスにはなりません。そのため、配属先を決めるときは従業員のキャリアプランを考慮したうえで、異動によってどのようなメリットにつながるのかをきちんと伝えていく必要があります。
ジョブローテーションに関するよくある質問

最後に、ジョブローテーションについてよくある質問を見ていきましょう。
ジョブローテーションは日本だけの制度ですか?
ジョブローテーションは海外にもありますが、日本ほど浸透していません。なぜなら、ジョブローテーションの制度そのものが、日本の終身雇用制度のように「生涯、企業が雇用する」という前提で機能するものだからです。
一方、海外の場合は応募者のスキルや実績などを重視して採用を行う傾向にあります。スペシャリストの人材になるか、ゼネラリストとして活躍するかの決定権は個人にある場合が多いため、日本ほどジョブローテーションが浸透していないといえるでしょう。
ジョブローテーションはどのくらいの頻度や期間で行えばいいですか?
ジョブローテーションの実施期間や頻度は、どのような人材に育成していきたいかによって違ってくるため、企業ごとの方針によって異なります。独立行政法人である労働政策研究・研修機構が公表している「企業の転勤の実態に関する調査」によれば、転勤の目的として「従業員の育成」が66.4%と最も高くなっています。

(引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構『企業の転勤の実態に関する調査 』P.7)
次いで、以下のものが転職の目的として挙げられている点も押さえておきましょう。
・従業員の処遇・適材適所
・組織運営上の人事ローテーションの結果
・組織の活性化・従業員への刺激
・事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充
・幹部の選抜・育成
・組織としての一体化・連携の強化 など
転勤が行われる頻度についてまとめると、次の結果となっています。
男性従業員の場合
・1割程度:21.7%
・2割程度:17.2%
・3~4割程度:17.1%
女性従業員の場合
・転勤経験者がほとんどいない:51.7%
・1割程度:19.2%
・2割程度:6.4%
また、転勤命令の決定方法については、79.7%の企業において会社主導で決定されていることがわかります。ただし、ジョブローテーションの効果を高めるためには、対象となる従業員の意見や考えも踏まえたうえで、配置転換を検討することが大切です。
(参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構『企業の転勤の実態に関する調査 』)
まとめ
ジョブローテーションの制度を導入することで、従業員は幅広い業務経験を積むことができ、スキルアップやキャリア開発に取り組んでいけます。一方、個々の従業員の状況をよく見極めて制度を運用しなければ、離職を招く恐れもあるので注意が必要です。
実際に制度を導入している企業の事例なども参考にしながら、自社に適した制度であるかを判断してみましょう。従業員の能力開発につなげていくことで、自社の成長のきっかけとなるはずです。
従業員の人材育成に役立つフィードバックのポイントを1枚の資料にまとめましたので、気になる方は下記から無料ダウンロードできる資料をぜひご活用ください。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
人材育成や評価で役立つ! フィードバックのコツ・ヒントまとめ
資料をダウンロード