採用KPIとは?具体的な手順と注意点を解説
d’s JOURNAL編集部
「KPI」(重要業績評価指標)は、マーケティングや営業、IT、製造といった幅広い分野で広く用いられているビジネス用語です。近年では、人材採用の領域においても用いられるケースが増えており、採用活動の質を高める効果をもたらしています。
今回は採用KPIについて、設定する重要性や具体的な手順、活用するうえでの注意点などを詳しく見ていきましょう。
採用KPIとは
「KPI(Key Performance Indicator)」とは重要業績評価指標のことであり、企業や組織における重要度の高い達成目標を定量化したものです。もともとは主にマーケティングや営業の分野で用いられる用語ですが、人材採用においても同じような意味で広く使われています。
ここではまず、採用KPIの基本的な意味について見ていきましょう。
採用KPIの概要
「採用KPI」とは、人材採用におけるさまざまな採用プロセスについて設定される重要な評価指標のことです。一口に人材採用といっても、具体的な活動にはさまざまなプロセスがあります。
求人募集から選考、内定、入社と数多くの工程を管理するうえでは、各工程における具体的な数値目標を設定し、進捗を測定できるようにしておくことが大切です。そこで、採用プロセスを細かく分解し、適切に管理するために重要となるのが採用KPIです。
各プロセスにおけるパフォーマンスを数値化することで、いつでも進捗状況が把握できるようになり、戦略の続行・改善の必要性を判断しやすくなります。また、具体的な数値として目標を共有し合うことで、チーム全体の意思疎通も図りやすくなるでしょう。
KGIとの違い
KPIをセットで用いられる用語に「KGI(Key Goal Indicator)」があります。こちらは最終的なゴールを表す指標のことであり、採用活動においては、例えば「今期に予定していた採用人数を達成できたか」などの具体的なゴールを指します。
KGIが最終目標であるのに対して、KPIはそこへ到達するまでのプロセスを細かく分けて、達成状況を定点観測するためのものといえるでしょう。KPIがあることで、どのような道筋でKGIを達成すべきかが明らかになり、取り組みの方向性が定まりやすくなります。
また、KGIと比べて短いスパンで効果測定が行えるため、戦略に不十分な点があればすぐに改めることも可能です。
採用KPIが注目される理由
採用活動において採用KPIが重視される理由としては、まず「KGIを達成するまでの最短ルートを見つけられる」という点にあります。KGIという大きな目標をできるだけ分解し、KPIという形で具体化することによって、チームや担当者は「何に向かって力を注げばよいか」をハッキリとつかめるようになるのです。
そして、「採用活動のPDCAを回しやすくなる」という点も、現代の採用環境における重要な利点といえます。KPIでは採用プロセスごとに目標を数値化するため、「どのプロセスに問題点が隠されているのか」「うまくいっている施策は何か」を客観的に把握するのに役立ちます。
人材確保が難しい昨今においては、戦略的かつスピーディに採用活動を進めていくことが重要です。採用KPIを設定することで、短いスパンでPDCAを回せるようになるため、戦略の切り替えもより大胆に行えるようになるでしょう。
採用KPIの具体例
採用KPIはどのプロセスに着目するかによって、設定の仕方に違いがあります。一般的には、採用活動における次のような項目を対象とする場合が多いです。
採用KPIの具体例
各採用プロセスにおけるKPI
・応募者数
・説明会参加人数/率
・選考通過人数/率
・内定数/率
・内定辞退数/率
費用に関するKPI
・採用チャネルごとの費用対効果(応募者数/率、内定数/率)
・採用活動にかかる全体の費用
・一人あたりの採用にかかる費用
採用後におけるKPI
・入社配属後の評価(本人・同僚・上司)
・採用後の離職率/定着率
採用プロセスごとにKPIを設けることで、各段階における進捗をリアルタイムで把握できるようになります。例えば、応募者数のKPIに達していなければ、不足している割合に応じてその後のKPIも柔軟に調整することが可能です。
また、KPIは費用に着目して設定することもできます。採用チャネルごとにどのくらいの費用対効果を狙うのか、採用活動にかかる全体の費用や一人あたりの採用にかかる費用はどのくらいと見積もっておくのかなどは、いずれも採用戦略を立てるうえで欠かせないポイントです。
採用後についても、入社後の定着率や離職率、新入社員の活躍度合いなどをKPIとして設定すれば、その期の採用活動の成果を広い視野で振り返ることができます。単に採用人数をクリアするのではなく、人材の質を追求するうえでは、採用後のKPIも重要なテーマといえるでしょう。
採用KPIを設定する手順
採用KPIを設定するには、ゴールから逆算して一つずつ丁寧に目標を洗い出す必要があります。ここでは、次の4つのステップに分けて、具体的な設定方法について解説します。
採用KPIの設定方法
1.KGIを設定する
2.採用チャネルごとに選考フローを明確にする
3.歩留まり率を設定する
4.KPIを設定する
KGIを設定する
採用KPIは最終目標であるKGIに即したものでなければなりません。そのため、まずはKGIを明確化する必要があります。
採用活動におけるKGIは、「採用予定人数」と「採用する人材の質」の両面から考える必要があります。採用予定人数とは、「どの部署に」「いつまでに」「何人の」人員が必要なのかを明確化した数のことです。
また、採用する人材の質は、保有するスキルや経験、ポジション、人柄などを具体化したものを指します。どちらを重視するのかによって、ピックアップするKPIも変わってくるので、採用戦略と照らし合わせて勘案することが大切です。
KGIをもとにすべてのKPIが決められていくので、KPI設定ではスタートの段階が特に重要となります。退職する人数や新規事業の具合など、さまざまな条件を踏まえて丁寧に精査しましょう。
採用チャネルごとに採用フローを明確にする
続いて、自社の採用戦略に合わせて採用フローを明確化します。KPIを効果的に設定するためには、採用プロセスを一つずつ丁寧に洗い出していくことが重要です。
複数の採用チャネルを用いる場合は、採用チャネルごとにフローを設定しましょう。例えば、求人メディアを通じた応募とダイレクト・ソーシングでは、設定すべきKPIも大きく異なります。
ダイレクト・ソーシングの場合は、応募までに企業側からスカウトを行い、一対一で丁寧にコミュニケーションを図るのが特徴です。一般的な求人メディアと比べると、当然ながら応募段階における志望度は高いと考えられるので、KPIには大きな開きが生まれるでしょう。
このように、複数の採用チャネルをまとめて考えようとしても、かえって混乱を招いてしまうので注意が必要です。スムーズにKPI設定を行うためにも、採用チャネルごとの流れを紐解き、エントリーから内定までの過程を明確にして図表などで管理しておくとよいでしょう。
採用チャネルについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『採用チャネルとは?主な種類と選び方・注意点を紹介 』)
歩留まり率を設定する
目標に対する考え方には主観や認識の偏りが入り込みやすいため、KPIをいきなり設定しようとしても、必ずしも現実に合ったものになるとは限りません。有効なKPIを設定するには、「歩留まり率」に関するデータを参考にしてみるのがコツです。
歩留まり率とは、各選考段階における通過者の割合のことです。例えば、説明会参加者が100名おり、そのうち50名が次の段階にあたる選考応募に進んだ場合、説明会の歩留まり率は50%となります。
同じように、選考応募者が50名おり、そのうち書類選考に30名が通過した場合は歩留まり率60%と計算できます。歩留まり率が低ければ一概に悪いというわけではありませんが、「導入している採用チャネルの効果が薄い」「応募者のミスマッチが起こっている」「面接時に与える印象がよくない」といった課題が隠されている可能性もあります。
まずは、前年の採用実績と競合他社の歩留まり率などを比較して、どの段階にボトルネックがあるのかを検証しましょう。そのうえで、採用チャネルごとに今期の目標歩留まり率を設定すると、KPIを検討しやすくなります。
KPIを設定する
KGI、採用チャネルごとのフロー、目標歩留まり率を明らかにしたら、KGIから逆算して、KPIを設定していきましょう。まずは、採用チャネルごとに採用人数の比率を割り当てていきます。例えば、求人メディアをメインにダイレクト・ソーシングを活用しつつ、新たにSNSを使ったソーシャルリクルーティングに挑戦したい場合を考えてみましょう。
この場合、仮にKGIを50名の新規採用とし、求人メディアのウエイトを全体の80%と重みづけすると、求人メディア単体でのKPIは「内定承諾者数40名」と算出できます。そして、ダイレクト・ソーシングとソーシャルリクルーティングを各10%とすると、それぞれのKPIは「内定承諾者数5名」となります。
複数の求人メディアを併用する場合は、KPIをさらに細分化して設定するとよいでしょう。このように、KPIは採用チャネルごとに個別で設定することが大切です。
そのうえで、各採用チャネルのフローに歩留まり率を埋め込んでいくと、ステップごとの具体的な人数が明らかになります。例えば、内定承諾者数5名が目標で、内定承諾率が50%である場合は、内定者数のKPIは10名と設定できます。
このように目標歩留まり率に当てはめて工程の上流までさかのぼっていけば、すべての採用フローにおいてKPIを設定することが可能です。
採用KPIを設定するメリット
採用KPIを設定することには、大きく分けて3つのメリットがあります。
進捗状況を可視化できる
採用KPIを設定することで、各プロセスの進捗状況が把握しやすくなります。数値目標が事前に明確化されるため、KPIと照らし合わせて現状を分析すれば、目標に対する現在地をいつでも数字で把握することが可能です。
採用活動には数多くのプロセスが存在しており、新卒採用では年単位の長期的なスケジュールを組むこととなります。そのため、実際に選考が始まると、リアルタイムでは各工程で何が起こっているのかを見失ってしまう場面も多いです。
KPIというマイルストーンがあれば、現段階でのパフォーマンスを定量的に評価できるので、その場で改善点も見つけやすくなります。
採用活動の改善が図れる
採用KPIを細かく設定すれば、自社の採用活動における課題を発見しやすくなり、早期に改善策を図れます。KGIという大きな目標を振り返るだけでは、具体的にどのような工程に課題が隠されているのかを知ることはできません。
一口に「目標採用人数に到達しなかった」という結果を見ても、「採用チャネルに問題があったのか」「選考基準を変えるべきだったのか」などさまざまな要因が考えられます。KPIと照らし合わせれば、ボトルネックを素早く見極められるため、効率的にPDCAサイクルを回すことが可能です。
担当者同士の認識を共有しやすくなる
KPIを設定する目的の一つは、チーム内での認識を共有するという点にあります。KPIという具体的かつ細分化な数値目標があれば、担当者同士は「今何を優先的にすべきなのか」を的確に把握できるようになります。
目標と現状を照らし合わせて、不足している部分があれば主体的に補おうとするため、重複業務を避けて各自の役割をしっかりと判断できるのが利点です。また、KPIは個々の成果や貢献度を公正に評価するのにも役立ちます。
どの働きが数字につながっているのかが明確になりやすいため、「普段は目立ちにくいながらも重要な業務を担っているメンバー」にもしっかりと光が当たり、公正な人事評価を行いやすくなるのです。その結果、担当者同士の信頼関係が深まったり、モチベーション向上につながったりするのも大きなメリットといえます。
採用KPIを設定するときのポイント
採用KPIを設定する際には、KGIとの関連性を十分に踏まえるとともに、目標が独り歩きしないように実際の運用を想定しておくことも大切です。ここでは、採用KPI設定時のポイントについて見ていきましょう。
実現可能な範囲で設定する
KPIを設定する際には、実現可能性を十分に検討する必要があります。努力しても達成できないような目標を設定すると、チーム内の士気が下がる原因にもなるので注意しましょう。
KPIの設定に関して、有効に活用したいのが「SMARTの法則」と呼ばれるフレームワークです。これは、以下の5つの頭文字をとった略語であり、効果的な目標設定を行うためのメジャーな手法です。
SMARTの法則の要素
・S(Specific):具体的であるか
・M(Measurable):測定可能であるか
・A(Achievable):達成可能であるか
・R(Relevant):関連性があるか
・T(Time-bound):期限は明確か
SMARTの法則に沿って目標のチェックを行うことで、具体性やKGIとの関連性を漏れなく確認できます。また、実行可能なものであるかどうかも、SMARTの法則による確認を怠らなければ客観的に判定できます。
リアルタイムで状況を把握する
採用活動の状況は日々変化していくものなので、事前に定めたKPIと現状には乖離が生じるのが自然です。進捗が思わしくない場合には、KPIの達成に向けてすぐに改善する必要があるため、リアルタイムでの状況把握を怠らないようにしましょう。
例えば、予定していた応募者数に至らないことを予測できる場合は、採用チャネルの運用方法を切り替えるなど、速やかに軌道修正する必要があります。そのため、常に最新のデータをチェックし、必要に応じて担当者間でも情報共有が行えるようにしましょう。
改善策をすぐに実行する
KPIの達成が難しそうな状況でも、採用プロセスによっては、すぐに改善策を講じることで目標に近づける可能性が高まります。例えば、応募者獲得の段階でKPIとのズレが見られる場合は、まずどの採用チャネルが機能していないのかを確認しなければなりません。
問題点を把握したら、「うまくいっている採用チャネルにさらなるリソースを注ぐ」あるいは「機能していないチャネルについて原因を特定し、改善策を検討する」といった次の手を考えられるようになります。また、選考段階において目標のKPIに達しないようであれば、選考基準が厳しすぎる可能性も考えられるでしょう。
この場合は、すぐに面接官や採用担当者で情報共有の機会を設け、採用基準の見直しを図る必要があります。このように、不具合が見つかったときには決して放置せず、すぐに原因を特定して手を打つことが重要です。
必要に応じてKPIの見直しを図る
人材採用の結果は、求人市場や社会情勢の変化に大きな影響を受けます。例えば、業界全体のイメージが低下してしまうような出来事が起これば、そこに属する企業も採用の難易度が高まると想定できるでしょう。
こうした事情も踏まえて、設定したKPIと実際の数値に大きな乖離がある場合は、KPIそのものの見直しを図ることも大切です。採用活動中もPDCAサイクルを回しながら、現状に合わせて設定変更を続けていけば、採用環境の悪化による影響を軽減させやすくなります。
ただし、KPIの変更を行う際には、現場への影響も十分に考慮する必要があります。上意下達型で変更を行ってしまうと、モチベーションの低下や信頼関係の悪化を招くおそれもあるので、現場の意見にも丁寧に耳を傾けることが大切です。
KPIの数値にこだわりすぎない
採用KPIの本来の目的を踏まえれば、数値にこだわりすぎないことも重要なコツです。KPIはあくまでもKGIを達成するためにあるものであり、個別のKPIに固執しすぎれば、最終的なゴールを見失ってしまう可能性もあります。
例えば、応募者数のKPIにこだわるあまり、採用チャネルに費用をかけすぎれば、採用費用に関するKPIを達成できなくなります。また、内定者のKPIを達成するために採用基準を不用意に緩めれば、内定者の質が下がってしまい、結局のところは組織に損失をもたらす結果にもなりかねません。
そのため、採用活動では常にKGIや先のKPIを見つめ、「目の前のKPIが何のために設定されているのか」を明確に意識しておくことが大切です。また、数字にこだわりすぎれば、うまくいっているときにも守りに入ってしまい、新しいアイデアを試す機会が奪われるリスクもあります。
そうなれば、新しい価値観や採用チャネルの変化に追いつけなくなり、長い目で見れば組織としての競争力を失ってしまうでしょう。KPIは数字的な具体性がある分、関係者を強力に縛ってしまうリスクもあるため、運用時にはデメリットもきちんと把握しておく必要があります。
まとめ
採用KPIを設定することで、各採用プロセスの目標は数値で具体化され、採用チームには強い推進力が生まれていきます。細分化された目標があれば、結果の振り返りもこまめに行えるため、PDCAサイクルを回すことで採用活動の質も効率的に高められるでしょう。
採用KPIを設定する際には、まずしっかりと現状分析を行い、明確なKGIを固めることが大切です。KPIはあくまでもKGIを達成するための通過点にすぎないため、優先順位を誤らないように注意する必要があります。
自社の経営戦略や事業戦略、今後の市場の動きなども踏まえながら、まずはじっくりとKGIを固めましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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