採用基準とは?具体的な設定手順や自社にマッチした人材の見極め方
d's JOURNAL
編集部
「採用基準」は人材採用を進めるにあたって、具体的な判断を行うための重要な土台です。採用基準が明確であれば、選考プロセスに一貫性が生まれるため、より効率的な採用活動が可能となります。
しかし、採用基準のクオリティが不十分であれば、現場のニーズと採用した人材との間でミスマッチが起こり、生産性の低下や早期離職を招く原因にもなるでしょう。今回は採用基準の重要性と設定する際のポイント、見落としがちな注意点についてご紹介します。
採用基準とは
採用基準とは、「自社にとって最適な人材を採用するために採用選考において必要となる判断指標」のことを指します。一般的に、採用選考には面接官を含めてさまざまな担当者が関わるため、明確な判断指標がなければ評価にばらつきが生まれることもあるでしょう。
的確な採用基準を設けておくことで、各担当者、特に面接官の主観による影響を軽減し、より公正な評価が行えるようになります。そのため、採用選考のクオリティを左右する重要な要素の一つといえるでしょう。
採用基準を設定する目的
採用基準を設ける主要な目的は、「公平性の担保」にあります。採用基準が適切に設定されていなければ、どのようなポイントを重視すべきかがあいまいになり、面接官の主観によって評価がブレてしまう可能性もあります。
面接だけで相手を見極めるのは決して簡単なことではなく、どれだけ注意していても判断に偏りが生まれてしまうものです。具体的には、突出した一つの特徴によってそれ以外の要素の評価まで影響されてしまう「ハロー効果」や、自分と似ている相手を高く評価してしまう「類似性バイアス」などにより、訓練された面接官であっても公正な評価を下せない場合があります。
採用基準が明確化、明文化されていれば、主観と客観をバランスよく評価に活かすことができるでしょう。そして、もう一つの目的は、「採用後のミスマッチを防ぐ」ことにあります。
人材に関する要件定義が不透明な状態で採用を行えば、「任せたいスキルや経験が不足している」「用意したポジションに対して、実力が足りない」といったミスマッチが起こる可能性が高まります。その状態で入社後のフォローなどをうまく行えなければ、せっかく採用した人材が早期離職するといった事態に発展することもあるでしょう。
採用基準が明確であれば、企業側から候補者に発信する情報や採用条件の精度が高まるので、ミスマッチの予防につながるのです。
採用基準の重要性
採用基準を定め、内容を明確にしておくことで、採用選考をスムーズに行えるようになります。採用基準があることで、どのような選考を実施すれば適切な評価が行えるかが判断しやすくなり、選考のスピードを速められるでしょう。
また、採用担当者ごとの判断のばらつきを防げるため、公正な選考に結びつきやすくなるはずです。選考過程における無駄を減らせるだけでなく、どの部分が重要なフェーズであるかもわかりやすくなるので、選考プロセスそのものの効率化につながるでしょう。
採用基準が適切ではない場合に発生する問題
採用基準が明確でなければ、採用する人材の質にばらつきが出てしまう恐れがあります。不足する人員を補充するという短期的な目的を優先してしまえば、今後の自社の成長を支える人材の確保という中長期的な視点が欠ける部分も生じる場合があるでしょう。
採用基準の見直しを行ったほうがよい主なケースとして、以下の場合が挙げられます。
採用基準を見直したほうがよい主なケース
・採用した人材がなかなか定着しない(離職率が高い)。
・入社する人材の質にばらつきが生じている。
・スキルや能力に差があり、人材育成がうまくいかない。
・思うように応募が集まらない。
・特定の職種で人材を求めている。
自社の採用活動の現状をよく分析したうえで、採用基準のあり方を見直してみましょう。
新卒採用と中途採用での採用基準の違い
一口に採用基準といっても、新卒採用と中途採用では重視すべきポイントが異なります。採用基準を設定する際には、それぞれで重視する要素を洗い出しておき、用途に応じた使い分けを行うことが大切です。
新卒採用では、応募者の人柄やコミュニケーション能力など、ポテンシャルに関するポイントが重視される傾向にあります。
新卒採用で重視されやすい採用基準
・コミュニケーション能力
・探求心
・好奇心
・適応能力
・主体性
・チャレンジ精神
・基礎能力
・企業への理解度
・経営理念やビジョンへの共感度
一方、即戦力としての働きが期待される中途採用では、具体的なスキルや求める人材像との適合性などが重視される傾向にあります。
中途採用で重視されやすい採用基準
・業務をこなせるスキル
・実務経験
・求めているポジションでの経験、実績
・年数に応じたスキル
・社会人としてのマナー
・企業カルチャーとのマッチ度
・勤務条件のマッチ度
このように、求められる判断基準は大きく異なるので、状況に応じて使い分ける必要があります。
採用基準を設けることで得られるメリット
企業にとって、質の高い採用基準を設けることにはどのような意味があるのでしょうか。ここでは、メリットを3つに分けてご紹介します。
採用のミスマッチを防ぐことにつながる
1つめのメリットは、先にも述べたように、「採用のミスマッチの防止」にあります。採用基準が明確化されていれば、自社が求める人材像に近い人物を見極めやすくなり、着実にミスマッチを減らすことが可能です。
採用基準が不明瞭であれば、面接官の主観が入り込む余地が大きくなり、その分だけ選考の精度にブレが生じるリスクも高まります。そうなれば、現場が求める人材との乖離が生じやすくなり、ミスマッチが起こりやすくなるでしょう。
また、採用基準を採用条件に落とし込み、明確に提示しておけば、求職者側も企業にどのようなスキル・経験を求められているのかが判断しやすくなります。応募の段階で、相性などをある程度見極められるため、スタートからマッチ度の高い人材の割合が高まると考えられるのです。
公平・公正な選考を実現できる
採用基準が明確化されていれば、公平・公正な選考を実現しやすくなります。例えば、選考フローに複数の面接が組み込まれているケースなどで、異なる担当者が面接を担当する場合、採用基準がなければ各自の立場で主観による評価が行われます。
選考の基準がバラバラになれば、選考を受ける側に不公平感を覚えさせてしまう可能性もあるでしょう。しかし、経営層、人事、現場のそれぞれの考えを反映させ、質の高い採用基準を設けることができれば、選考プロセスに一貫性が生まれます。
その結果、選考の公平性・公正性が保たれ、候補者にも納得した状態で臨んでもらえるようになります。
採用活動を効率化することになる
採用基準の明確化は、採用活動全体の効率化にもつながります。適切な採用基準が設けられていれば、それに基づいて統一した評価が行えるため、選考業務の属人化を避けることが可能です。
属人化の回避は、例えば面接官の変更による引き継ぎや、複数人によるチーム制での業務を行う際に重要となります。採用基準を確認すれば、重要なポイントを的確につかめるため、体制の変更時にもスムーズに作業を継続できるのです。
また、そもそも採用基準が適切でなければ、役員と人事担当者、現場のそれぞれで求める人物像にギャップが生まれる可能性があります。人事の判断で選考を通過しても、役員面接で落ちてしまうといったケースが増えれば、歩留まりが低下して採用活動全体の効率悪化につながるでしょう。
こうした悪循環を避けられるようになるのも、質の高い採用基準を設ける重要なメリットです。
採用基準を構成する3つの要素
採用基準を検討する際には、ある程度の枠済みに沿って必要な項目を洗い出していくのが近道となります。ここでは、採用基準を構成する3つの軸について詳しく見ていきましょう。
人格的な要素(動機・価値観・思想)
1つめの軸は、動機や価値観、人格的な要素です。より具体的にいえば、「仕事を通じてどのような成長を遂げたいのか」「仕事のどのような部分にやりがいを感じられるのか」「社会や他者とのつながりをどのように捉えているのか」といった観点に分解することもできます。
仕事における意思決定や行動を左右する要素であり、モチベーションの源泉となるものであることから、採用選考においては重要なポイントとなります。また、実際に会社という組織で働いてもらううえでは、「企業文化との相性」も重要な基準です。
自社の業務や社風との親和性が低ければ、十分なスキル・経験を持っていても、入社後に思ったような活躍を果たしてもらえない可能性があります。企業文化との相性が悪ければ、組織での居心地も悪くなり、早期離職を招いてしまうこともあるでしょう。
そのため、採用基準には一般論をそのまま適用するのではなく、自社のカルチャーをきちんと反映させることが大切です。
人格的な要素における質問例
・将来的に、どのような仕事に携わりたいと考えていますか?
・これまでに一番力を入れて取り組んだことは何ですか?
・チームで仕事に取り組む場合、あなたはどのような点で貢献できると考えますか?
コンピテンシー(行動特性)
行動特性とは、その人の行動パターンを示すものです。表面化された行動そのものではなく、行動につながる性格や動機などに着目するため、可視化しにくいという側面もあります。
しかし、適性検査などによって、ある程度は測定することが可能です。採用基準においては、特にハイパフォーマーに共通する行動特性である「コンピテンシー」をもとに、人材に求める条件を洗い出していくことが多いです。
すでに自社で活躍している従業員のコンピテンシーを洗い出すことで、採用基準の精度が高まり、入社後の活躍を期待できる人材を見極めやすくなります。
コンピテンシーにおける質問例
・あなたは周りから、どのような性格だと言われることが多いですか?
・どういった人物に憧れを抱いていますか?
・困難な課題に取り組むためには、どういった対応が必要だと考えますか?
また、コンピテンシーについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参照:『コンピテンシー評価とは|項目例とシートの書き方やメリット・デメリットを解説 』)
スキル・経験
スキルや経験は、第三者から見てもある程度判断しやすいため、「顕在能力」とも呼ばれています。具体的には、学力や知識、スキル、資格、経験、コミュニケーション能力などが該当し、トレーニングを積むことによって習得できるのが特徴です。
スキルや経験については、特に中途採用で重視されることが多く、即戦力としての働きを期待するうえでは重要なポイントとなります。例えば、「これまでの職歴でどのようなことを成し遂げたのか」「業務遂行に必要なスキルや資格は保有しているか」「マネジメントの経験はあるか」などがスキル・経験に関する採用基準となります。
スキル・経験における質問例
・将来のキャリアパスを考えて、何か資格や技能の勉強に取り組んでいますか?
・希望する職種で、あなたがこれまで得た経験をどのように活かしますか?
・管理職やチームリーダーはどのようにあるべきだと考えますか?
採用基準の決め方
採用基準を検討するうえでは、実際に選考フローで運用することを意識しながら設定することが大切です。ここでは、採用基準を考える際に重視すべきポイントを3つに分けて見ていきましょう。
求める人材像を明らかにする
採用のミスマッチを防ぐためには、採用ペルソナを明確化し、自社が求める人材像を明文化しておくことが大切となります。採用ペルソナがしっかりと固まっていれば、チーム内での共有がしやすくなり、採用基準にもブレが生じにくくなります。
また、採用ペルソナに合わせて、訴求すべきポイントも最適化できるので、求職者に対して効果的なアピールが行えるようになるのもメリットです。採用ペルソナを設定する際には、できるだけ細かな人物像を描き出し、担当者によって認識のズレが起こらないように具体化するのがコツです。
採用ペルソナの設定例
・年齢や性別、学歴、年収
・経験や保有する資格
・価値観や人柄
・家族構成
・趣味
・志望する業界や職種
・企業に対して求めていること(待遇面・社風)
・将来のキャリアプラン など
一方で、市場の状況に応じて、柔軟に変更できる余地も残しておくとよいでしょう。求人市場の動きによっては、採用ペルソナのハードルが高すぎると、十分な母集団が集まらないケースもあります。
こうした場合にすぐ対応するためにも、ペルソナの条件には優先順位を設けておき、マッチする人材の幅を広げられるように準備するのがポイントです。
評価項目を精査する
採用基準においては、評価項目が単に多ければ多いほどよいというわけではありません。実際に運用することを考えると、ある程度は絞り込んでおく必要があるので、項目ごとに優先順位をつけておくことが大切です。
例えば、即戦力としての活躍を期待するのであれば、前述のようにスキル・経験を重視した採用基準にするのが基本といえます。一方で、採用基準が厳しすぎれば、十分な採用人数が得られないというリスクも発生します。
そこで、採用基準を考えるうえでは、「育成の可能性」という視点を意識しながら調整してみるのがおすすめです。具体的には、各評価項目を「そもそも育成できないもの」「育成する機会がないもの」「育成の時間がとれないもの」の3つに分けて精査するといった方法が挙げられます。
そもそも自社で育成できないスキルや資質については、採用時にしっかりと見極める必要があります。しかし、機会を設ければ育成可能なものや、今後育成の時間を確保できそうなものについては、優先順位を低く設定することも大切です。
定性的な評価基準もなるべく明文化する
評価項目はできるだけ数値で評価できる形にしておくと、面接官の主観が入りにくく、客観的な判断が行われやすくなります。しかし、柔軟な評価を行うには、数値では計測できない定性的な評価項目も盛り込まなければなりません。
そこで、定性的な評価を行ううえで活用したいのが「ルーブリック評価」という手法です。ルーブリック評価は、与えられた「課題」と達成度を数値で示す「評価尺度」、課題が求めている具体的なスキル・知識を示す「評価観点」、評価尺度に対するパフォーマンスの特徴を表す「評価基準」の4つの要素で構成されます。
主に学習の達成度を測るために用いられる評価手法ですが、企業の人材育成にも活用することが可能です。例えば、「主体性」という定性的な評価項目を設定した場合、そのままではどのような点を見極めるべきかが不明瞭になりがちです。
そこで、「自身が取り組んできたことを自分の言葉で語れる」「自身の業務や役割について独自の解釈や判断を持っている」「困難や課題について自ら解決の糸口を探れる」といった要素に分解すると、主体性の評価がより具体的に行えるようになるでしょう。
採用基準を作成する具体的な手順
採用基準を設定するには、丁寧な下準備を行うとともに、社内のメンバーに協力してもらえる体制を構築することが大切です。ここでは、採用基準を設定するための手順を4つのステップに分けて見ていきましょう。
1.就活・転職市場のトレンド・競合を調査
採用基準を設定するにあたって、まずは全体の有効求人倍率や職種ごとの有効求人倍率を確認しましょう。採用における市場動向をつかんでおけば、自社の採用基準をどの程度の水準に合わせるべきかが判断しやすくなります。
例えば、明らかな売り手市場であるにもかかわらず、採用基準を必要以上に高く設定すれば、予定した人数の確保が難しくなってしまうでしょう。反対に、必要以上に低い採用基準を設ければ、採用後のミスマッチが起こる原因となります。
そのため、厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 」などをチェックして、市場の動きを把握しておくとよいでしょう。また、中途採用においては、競合企業がどのような要件で求人を出しているのかを確認するのも一つの方法です。
なお、職種・業界別の最新のマーケットレポートは、こちらからダウンロードできます。
(参考:『【業界別マーケットレポート】まとめページ』)
2.各部署・部門にヒアリングを行う
市場の調査・分析を行ったら、自社の調査を進めましょう。より適切な採用基準を設定するために、各部署・部門にヒアリングを行います。
経営層のニーズと現場のニーズが異なるケースも多く、現場の声を無視した採用は、ミスマッチにつながる可能性もあります。また、求める人物像は募集をかける背景によって異なるので注意が必要です。
新卒採用と中途採用で異なるのはもちろん、例えば新規プロジェクトの立ち上げと既存のシステムの刷新とでも、必要となる人材の要件は変わってきます。業務上必要なスキルや資格などは、現場担当者や部署の管理職にヒアリングし、明確にしましょう。
特に専門的なスキルの判断は、人事・採用担当者より現場担当者のほうが正確に判断できます。現場担当者を採用の計画や選考に巻き込めば、当事者意識が醸成されるといったメリットも期待できるので、丁寧に協力関係を築くことが大切です。
3.合否判定に必要な評価項目を決める
市場と自社の両方について分析が行えたら、選考にあたって具体的な判断基準となる評価項目を設定しましょう。現場へのヒアリングを踏まえ、採用したい人材のペルソナを設計して、その人材を採用するための評価項目を決定します。
採用ペルソナを設定する際は、定量的な側面・定性的な側面の両方を考慮し、できるだけ具体的な評価項目を設定することが大切です。「スキル」「経験」といった定量的な項目だけでなく、「論理的思考力」「人間性」などを評価項目に含めることで、より多面的に判断できるようになります。
また、評価項目の決定には、前述したコンピテンシーが役に立ちます。自社の人材の行動特性もしっかりと分析し、評価項目に落とし込むことで、より精度の高い採用基準を設定しやすくなるでしょう。
4.社内で合意形成を行う
採用基準を作成したら、改めて関係者に共有し、合意形成を行います。人事部内での合意形成を行うのはもちろん、経営層や現場の担当者とも綿密にコミュニケーションを図り、共通認識を深めておくことが大切です。
一般的に、新卒採用は採用人数が多く、中長期的な育成を見据えて行うものであるため、経営層や幹部クラスとのコンセンサス(意見の一致)が必要となるケースが多いです。企業の長期的なビジョンと擦り合わせを行う必要があるので、トップマネジメント層との意思疎通がカギを握ります。
一方で、中途採用では欠員補充などを目的に行われるため、新卒と比べて採用人数が多くなく、採用の狙いも明確に定めやすいといえます。そのため、基本的には配属先の管理者など現場責任者との擦り合わせを重視するのが特徴です。
新卒・中途どちらの採用においても、適切な形でコンセンサスを得ることが不可欠なプロセスとなります。入社後のミスマッチを防ぐためにも、丁寧に合意形成を図りましょう。
採用基準を決めるときの注意点
採用基準はきちんと設定できれば、選考の質を向上させるとともに、プロセスの効率化にもつながります。一方で、クオリティが不十分であれば、かえって効率を低下させてしまう可能性もあるので注意が必要です。
ここでは、採用基準を定めるうえで気をつけておきたいポイントを5つに分けてご紹介します。
各部署の意見をきちんと取り入れる
これまで見てきたように、部署や職種によって、どのような人材を求めているのかは大きく異なります。特に中途採用の場合、どのようなスキルや経験が必要であるのかは、現場の担当者のほうが正確に把握できていると考えるのが自然です。
現場の声を軽視して採用を進めれば、業務遂行においてミスマッチが起こるリスクが高まるので、各部署の意見を丁寧にヒアリングしましょう。
経営方針との擦り合わせを行う
採用基準の設定においては、経営方針との擦り合わせも重要なプロセスとなります。自社の現状だけでなく、将来の経営や人材戦略も踏まえることで、長期的な活躍が見込める人材の条件が明らかになるのです。
近年の人材採用では、特に「カルチャーフィット」が重視される傾向にあります。カルチャーフィットとは、企業の風土や文化に人材が適合している状態を表し、社内で長く活躍してもらううえで欠かせない要素です。
例えば、企業が一人ひとりの独立した成果を重視するのか、チームでの協調性や規律を大事にするのかでは、おのずと働き方や評価基準も異なってきます。こうした企業カルチャーとの相性が合わなければ、どれだけ高度なスキル・経験を持った人材であっても、思う存分に活躍してもらうのは難しいといえるでしょう。
カルチャーフィットを見極めるうえでは、企業全体を見渡す広い視点が必要となるため、経営陣との連携が欠かせません。
コンプライアンスを重視する
採用基準では、意図せずコンプライアンス違反を犯してしまわないように十分注意する必要もあります。基本的に、採用基準は社外に公表するものではないため、自由に設定することが可能です。
しかし、面接時などに、「本人に責任のない事項」や「本来自由であるべき事項」などを細かく追及すれば、就職差別につながる恐れもあるので注意しましょう。厚生労働省では、「公正な採用選考の基本」として、次のような点に配慮すべきであると示しています。
採用選考時に配慮すべき事項
本人に責任のない事項の把握
・本籍・出生地に関すること (「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることなど)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
本来自由であるべき事項(思想・信条に関わること)の把握
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条などに関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
上記の項目は、いずれも本人の能力や適性とは関係がなく、採否を左右される項目として設定すべきではないとされています。不用意に質問したり、応募用紙に記入させたりすれば、就職差別とみなされる可能性もあるので注意しましょう。
なお、採用選考の方法についても、「身元調査などの実施」や「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」は避けるべきとされています。個人の健康状態などはセンシティブな情報であることから、健康診断の必要性があったとしても慎重に取り扱うことが大切です。
(参照:厚生労働省『公正な採用選考の基本 』)
評価項目をあいまいにしない
繰り返しになりますが、評価項目を不明瞭なままにしておくと、せっかく採用基準を設定しても選考に活かすことはできません。的確な判断を行うためには、具体的な基準を設け、担当者によって大きな齟齬が生じないように準備することが大切です。
例えば、「コミュニケーション能力」を採用基準の一つに設定するのであれば、「傾聴力」「論理的思考力」「洞察力」「声のトーンや表情の使い分け」「共感力」など細かく分解するのがポイントです。 自社が求める人材像と照らし合わせたうえで、必要とされるスキルを基に分解していくとスムーズに進められます。
評価基準の具体化・明文化を行えば、選考担当者の心理的な負担を軽減することにもつながるでしょう。
採用担当者向けの研修を実施する
採用活動を成功させるためには、採用基準の品質を向上させるだけでなく、研修などによって担当者の力量も高めることが大切です。担当者によって選考の基準や方法にばらつきが生まれないよう、丁寧に研修を重ねながらスキルを磨いてもらう必要があります。
また、面接官は求職者にとってはじめてその企業で深く接する存在であることから、「企業の顔」といえる重要なポジションです。面接官の振る舞いによって、内定承諾率などが左右される可能性もあるので、採用活動を成功に導くうえでは面接官の育成も欠かせない取り組みといえるでしょう。
面接官のトレーニング方法は、「座学による集合型研修」と「実践を通じたロールプレイング」の2通りに大別できます。まずは座学でしっかりと知識を身につけてもらい、そのうえで実践を通したスキルの向上につなげていくのが理想です。
研修は企業側で講師や資料を用意する方法だけでなく、採用コンサルタントなどの専門家にセミナーを依頼する方法もあるため、自社のリソースに応じて適したものを選びましょう。また、オンライン面接を取り入れる場合は、オンラインならではのコツや注意点もあるので、忘れずにトレーニングの機会を設けるのがポイントです。
オンラインで面接を行うコツと注意点
・オンライン面接が可能であることをPRする
・他の担当者の声が入らない場所(会議室など)で実施する
・初めてオンライン面接を行うときは、事前にロールプレイング(模擬練習)を行っておく
・接続時は相手の緊張をほぐすために、雑談を取り入れる
・通常の会話よりも、ゆっくりと話して相手が聞き取りやすいように配慮する など
(参考:『面接官のやり方と心得|事前準備や質問例など基礎ノウハウを解説【マニュアル付】』)
採用基準に基づいて人材を判断する方法
採用基準を作成したら、具体的な選考プロセスに落とし込む必要があります。最後に、採用基準を実践的な採用判断につなげる方法について、「書類選考」「適性検査」「面接」の3つの選考プロセスごとに見ていきましょう。
書類選考
採用基準を選考に活かすためには、書類選考の段階でしっかりと候補者の絞り込みを行うことが大切です。書類選考での絞り込みが不十分であれば、その後のプロセスに負担が偏ってしまうので、採用基準に基づいた判断が行える仕組みを整えましょう。
例えば、採用基準を踏まえたフォーマットを作成し、それに合わせて必要項目を記入してもらう形式を導入すれば、効率的な判断が行いやすくなります。特に中途採用の場合は、応募者ごとの経歴やスキルがより多様化するので、職務経歴書などのフォーマットを指定しておくと選考がしやすくなるでしょう。
一方で、企画職の募集などで個人のプレゼンテーション能力を見極めたい場合は、あえてフォーマットを指定せず、自由な形式でアピールしてもらうというのも一つの方法です。適したスタイルは募集する職種やポジションによっても異なるので、状況に合わせて柔軟に判断することが重要です。
なお、書類選考の歩留まりが悪い場合は、設定した採用基準が高すぎる可能性も考えられます。新たな人材に期待するばかりに、過度に厳格な基準を設けてしまうというケースもめずらしくはないので、市場の動きや自社の待遇も踏まえて客観的な水準を見極めましょう。
適性検査
基本的なスキルや資質を見極めるうえでは、「適性検査」を実施するのも有効な方法といえます。適性検査とは、学力や知識、性格的な傾向、価値観、行動特性などを多角的に見つめ、職務に対して十分な資質を備えているかを見極めるための試験です。
適性検査を実施することで、客観的な視点で人物評価が行えるとともに、選考における担当者の負荷も軽減することができます。また、結果のデータを収集・分析すれば、次回以降の採用選考に活用することも可能です。
適性検査には、活躍している人材のコンピテンシーをもとに基準を設定できるものや、あまり費用をかけずに実施できるものまで幅広い種類があります。自社が設定した採用基準と相性が合うものを導入すれば、選考の質と効率を同時に高めることができるでしょう。
面接
面接では、あらかじめ設定した採用基準に沿って質問していくことで、公正な判断が行いやすくなります。そのうえで、面接ではスキルフィットとカルチャーフィットの両方に目を向けて、人材と自社が求める条件との適合性を見極めることが重要です。
そのためには、「STAR面接」という方法を活用して、候補者のコンピテンシーを見極めるのも有効な方法です。STAR面接とは、質問を「S:Situation(当時の状況)」「T:Task(そのときに抱えていた課題)」、「A:Action(そのときに起こした行動)」、「R:Result(得られた結果)」の4つの角度で行う方法です。
自然な形で具体性のある質問を行うことで、候補者の本音を引き出しやすくなるのがメリットとされています。例えば、中途採用の候補者に対して、マネジメントに関するコンピテンシーを確認する際には、次のようなSTARの項目に沿った質問が効果的です。
STAR面接の質問例
・Situation(状況)
「チームやプロジェクトに関わっていた人数はどのくらいでしたか」
「あなたはどのような立場でチームに関わっていましたか」
「あなたをサポートするような人物や仕組みは存在していましたか」
・Task(課題)
「当時どのような課題を抱えていましたか」
「どのようなKPIに向き合っていましたか」
「抱えていた問題点が発生した経緯について教えてください」
・Action(行動)
「その課題をどのように解決しようとしましたか」
「課題解決のためどのような行動を起こしましたか」
「解決のヒントをつかんだきっかけについても教えてください」
・Result(結果)
「課題はどの程度まで解決できましたか」
「当時の目標達成度はご自身でどのように評価していますか」
「当時を振り返ってみて、今ならより改善できそうな要素はありましたか」
このように、4つの段階に分けて質問を構築していけば、具体的なエピソードをもとに候補者の行動特性や人となりを見極めやすくなります。ただし、STAR面接を行うには、相手に合わせた状況把握能力や、柔軟なコミュニケーション能力が必要となります。
導入するにあたっては、しっかりと面接官のロールプレイングを行い、十分なスキルと経験を身につけてもらいましょう。
まとめ
採用基準は選考に関わる業務の属人化を防ぎ、公平かつ安定した評価を行うことを目的に設定します。採用基準のクオリティが高ければ、それだけ自社にフィットした人材を確保しやすくなり、採用活動全体の効率も向上します。
採用基準にはさまざまな評価項目がありますが、基本的には「人格的な要素」「行動特性(コンピテンシー)」「スキル・経験」の3種類に大別することが可能です。評価項目が多すぎても選考の効率を低下させてしまうので、それぞれの要素について十分に精査し、自社に合った基準を整備してみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
採用決定力が向上 ターゲット・ペルソナ設定実践シート
資料をダウンロード