ケアハラスメントとは?企業に及ぼすリスク・原因・対策方法

d’s JOURNAL編集部

従業員のなかには、働きながら家族の介護を行っている方もいるでしょう。しかし、認識不足や制度への無理解から、働きながら介護を行う方に対して、嫌がらせや心ない発言が起こってしまうケースがあります。

この記事では、ケアハラスメントの概要を紹介するとともに、起こってしまう原因や対策について解説します。

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ケアハラスメントとは


「ケアハラスメント」とは、働きながら家族の介護を行う人に対する嫌がらせ行為や発言、介護をサポートする制度の利用を阻害することを指します。本来であれば、介護休業制度などの必要なサポートが受けられるはずなのに、それらが阻害されることによって、従業員の心身の健康や仕事に対するモチベーションが低下し、組織への帰属意識が低下するといった悪影響が生じる恐れがあります。

介護をサポートする制度の利用を妨げる行為は、制度に対する無理解や対象者の状況への認識不足などが原因として挙げられるでしょう。ケアハラスメントが起こってしまうと、対象者本人に不利益が生じるだけでなく、コンプライアンス違反や組織全体が不健全化する恐れがあるため、原因を把握したうえで必要な対策を講じていかなければなりません。

ケアハラスメントの発生を防ぐために、社内ルールの整備や管理職も含めた従業員への教育を行っていく必要があるでしょう。

ケアハラスメントを放置した場合の3つのリスク


ケアハラスメントが起こっている状態を放置することで、次の3つのリスクが生じる可能性があります。

ケアハラスメントを放置したときの3つのリスク
・従業員(介護者)が離職する可能性がある
・生産性が低下する可能性がある
・会社の信用が失われる

それぞれどのようなリスクが生じるのかを解説します。

従業員が離職する可能性がある

ケアハラスメントが発生している状態をそのままにしてしまえば、従業員の離職を招く恐れがあります。本人に非がない状態で、不当な嫌がらせを受けたり、介護制度の利用を妨げられたりすれば、仕事へのモチベーションが低下してしまい、離職に至る可能性があるからです。

企業にとっても、貴重な人材を失うことは大きなマイナスとなるため、ケアハラスメントの防止や従業員のサポートといった必要な対策を速やかに講じることが大切です。従業員が離職に至ってからでは対応が難しくなる部分もあるため、離職の兆候を早期に発見できる体制を整えてみましょう。

生産性が低下する可能性がある

ケアハラスメントが発生している状態が長く続いてしまうと、従業員の仕事に対するモチベーションを低下させ、生産性の低下を招く恐れがあります。「必要なときに、必要なサポートが受けられない」といった感覚を従業員が抱けば、組織への帰属意識が失われてしまい、仕事への意欲が下がってしまうでしょう。

また、従業員一人だけの問題というよりは、組織全体としても不健全な状態が続いてしまうため、組織の生産性にも悪影響が出る可能性があります。

会社の信用が失われる

ケアハラスメントが起こっていることが表面化すれば、社内だけでなく社外への信用も低下する恐れがあります。「働く人を大事にしない」といったイメージがついてしまえば、人材採用や取引先との関係などに支障が出てしまうケースもあるでしょう。

会社の信用を低下させないためには、社内ルールをきちんと整備して、コンプライアンスを遵守していくことが重要です。

ケアハラスメントの事例

ケアハラスメントに該当する行為や発言として、以下のものが挙げられます。

ケアハラスメントの具体例
・不快に感じる言動や嫌がらせを受ける
・介護休業や短時間勤務などの取得を妨げられる
・不当な人事評価が行われる

それぞれの点について、どのような問題があるのかを見ていきましょう。

不快に感じる言動や嫌がらせを受ける

下記のように介護をしている従業員が不快に感じてしまう言動や嫌がらせは、ケアハラスメントに該当します。

ケアハラスメントに該当する言動や嫌がらせ
・「(介護を)奥さんにやってもらえばいい」
・「親御さんを介護している人に、重要な仕事は任せられない」
・「残業をしなくていいから、うらやましい」
・「業務を増やされて、周りはいい迷惑」
・「自分なら、そんな休暇は取らない」 など

発言や行為をした人にたとえ悪意がなかったとしても、従業員が不快に感じればケアハラスメントに当てはまることがあるので注意が必要です。

従業員の年齢構成によっては、介護制度への理解不足や働き方に対する認識の違いなどがあるため、ケアハラスメントが起こりやすい状況が生じやすい場合があります。従業員の年齢構成にバラつきがある場合は、できるだけ同じ認識を共有してもらうために一緒に研修を受けてもらったり、日ごろから多くの世代の従業員と関われる交流の場を設けたりしてみましょう。

介護休業や短時間勤務などの取得を妨げられる

家族の介護のために、介護休業や短時間勤務などの取得を妨げられてしまうのは、ケアハラスメントに該当します。なぜなら、従業員に対して仕事と家庭の両立支援を行うことは、育児・介護休業法などの法律によって定められているからです。

介護制度の利用を認めないことによって、企業は行政による勧告などを受けるケースもあります。主な介護制度として、次のものが挙げられます。

主な介護制度

介護制度の種類 内容
介護休業 要介護者一人に対し、通算で93日の休業を3回まで利用できる仕組み
介護休業給付金 雇用保険から休業開始前の賃金の67%を支給してもらえる制度
介護休暇 いち年度あたり5労働日、要介護者が二人以上の場合は10労働日まで休暇を取得できる制度
介護のための所定労働時間短縮等の措置義務 所定労働時間の短縮やフレックスタイム制、始業時間・終業時間の繰り上げ・繰り下げなど。介護サービスの利用にかかる費用を助成してもらえる制度
所定労働時間の制限 介護者の求めに応じて、所定労働時間を超えて労働させてはいけない仕組み
深夜業の制限 介護者の求めに応じて、深夜(午後10時から午前5時まで)に労働をさせてはいけないルール

(参考:厚生労働省『介護休業制度 』)

上記のように、法律によって定められた介護制度をきちんと利用できる環境を企業は整える必要があります。

不当な人事評価が行われる

介護制度の利用によって、不当な人事評価が行われることも、ケアハラスメントに該当します。介護制度の利用と人事評価をどうするかは、本来関係がないものであるため、介護制度の利用を理由として人事評価に手を加えてはいけません。

ケアハラスメントに該当する恐れがある不当な人事評価や配置転換として、以下のものが挙げられます。

不当な人事評価の例
・通常業務で雑務のみをアサインされる
・本人の承諾や希望なしに異動をさせる
・人事評価を不当に低くつける
・正社員から契約社員やパートタイムに雇用形態を変更する
・契約社員の雇い止め(雇用契約更新拒絶)をする
・機密情報などへのアクセス権の剥奪
・復帰後の過度な業務負担 など

上記のような行為は、ケアハラスメントと見なされる場合があるので注意が必要です。

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ケアハラスメントが起こってしまう6つの原因


ケアハラスメントが起こる原因として、次の6つの点が挙げられます。

ケアハラスメントが起こる6つの原因
・ケアハラスメントへの認識不足
・業務負担の増加
・介護に対する固定概念
・組織文化による影響
・制度を運用することへの準備不足
・従業員同士のコミュニケーション不足

原因について理解を深めることで、必要な対策の方向性が見えてくるので、しっかりと押さえておきましょう。

ケアハラスメントへの認識不足

介護をしている従業員への嫌がらせや不当な人事評価などが起こる理由として、ケアハラスメントそのものに対する認識不足が挙げられます。例えば、「介護休暇が使えるのがうらやましい」といった 言動は、発言している本人は単に感想を述べているだけでも、介護をしている従業員からすれば、ハラスメントとして受け止められる場合があります。

介護制度への理解不足やコンプライアンスに対する意識の薄さが、結果としてケアハラスメントを招いてしまうケースがあるでしょう。

また、企業内にはケアハラスメント以外にも、パワハラやセクハラなどさまざまなハラスメントが存在します。すべてのハラスメントの種類を把握するのは難しい部分もあり、認識不足から結果として、ケアハラスメントが起こるといったことが考えられます。

そのため、特に介護制度の利用や介護の経験がない従業員を対象として、ケアハラスメントに関する研修の場を設けていくことが重要です。他業界や他社で実際に起こった事例などをケーススタディとして学んでもらう機会をつくることで、ケアハラスメントに関する知識を身につけてもらい、認識不足を解消していくことが大切だといえます。

業務負担の増加

繁忙期などで業務負担が普段よりも増加している状況においては、業務量に対する不満からケアハラスメントが起こる場合があります。特に、人手不足が慢性的に生じている職場環境では、介護を理由に休む人が出てしまうと業務のしわ寄せが、他の従業員に生じることがあるからです。

業務負担の軽減を図り、誰にとっても働きやすい職場環境を整えていくことが、ケアハラスメントの防止につながるといえるでしょう。

介護に対する固定概念

組織によっては、「介護は女性が行うもの」といった誤った固定概念が残っている場合があり、認識不足からケアハラスメントが起こるケースがあります。そうした職場では、男性従業員が介護休暇を取得することに違和感を抱かれる場合があり、ケアハラスメントにつながってしまうことがあるでしょう。

組織の風土や従業員の意識を変えていくには時間がかかる部分もありますが、介護制度の仕組みの説明やコンプライアンスの遵守などを粘り強く周知させていく必要があります。

組織文化による影響

ケアハラスメントが起こる原因の一つとして、組織文化による影響も挙げられます。長時間労働や休日出勤などが当たり前となっている職場においては、家族の介護のために仕事を休むという発想自体を根づかせるのが難しいこともあるでしょう。

組織風土や働き方を改善していくことで、従業員にとってどのようなメリットが得られるのかという点を強調し、コミュニケーションを丁寧に図って意識を変えていってもらうことが重要です。

制度を運用することへの準備不足

介護制度を設けていても、実際に運用するときのルールや社内体制が整っていない場合には、ケアハラスメントが起こる可能性があります。部下が介護制度を利用しようとしても、上司が制度の仕組みやルールを理解していなければ、「本来、制度上は休めるはずなのに、管理職の誤った判断によって休むことができない」といった事態を招いてしまい、結果としてケアハラスメントが起こることもあるでしょう。

無用なトラブルが発生するのを防ぐには、管理職向けにケアハラスメントに関する研修を行うなどして、理解を深めてもらう機会をつくることが重要です。管理職が制度の仕組みを正しく理解しておくことで、部下も介護休暇などを取得しやすくなるはずです。

従業員同士のコミュニケーション不足

従業員同士のコミュニケーションが不足している職場環境では、ケアハラスメントが起こりやすくなります。日ごろから適度なコミュニケーションがなされていないせいで、従業員の状況がわからず、誤解や不信感を生み出すケースがあるからです。

誤った認識が生まれている状況では、従業員は必要な介護制度を利用しづらくなります。部署内や組織内でのコミュニケーションを活性化させることが、ケアハラスメントの防止につながります。

ケアハラスメントを予防するための対策


ケアハラスメントを防ぐための対策として、以下の5つの点が挙げられます。

ケアハラスメントを予防する5つの対策
・自社の方針を明文化し、周知する
・介護制度に関する研修を行う
・社内外に相談窓口を設置する
・労働環境の改善を図る
・定期的に面談やヒアリングを実施する

それぞれの対策について、ポイントを解説します。

自社の方針を明文化し、周知する

ケアハラスメントの発生を防ぐためには、自社の方針を明らかにして、管理職を含めた従業員に方針を周知徹底していくことが大切です。組織としてのルールが明確に定まっていなければ、部署ごとに個別で判断をしていくことになり、上司の認識不足などからケアハラスメントが起こってしまう可能性があります。

そのため、他社や業界内での取り組みなどを参考にして、自社がケアハラスメントの防止にどのように取り組んでいくかの方針を定めましょう。そして、介護制度の利用を積極的に促すために、従業員に周知していくことが重要です。

介護制度に関する研修を行う

ケアハラスメントは介護制度への理解不足や認識のズレなどによって起こるものであるため、介護制度に関する研修を定期的に行っていくことが欠かせません。他社や業界内で起こった事例なども交えて研修を実施すれば、従業員の理解を得やすくなるでしょう。

研修で行う内容としては、介護制度に対する理解や知識の習得、どのような行為・発言がケアハラスメントに該当するかといったことが挙げられます。自社に研修を行うノウハウがない場合は、必要に応じて弁護士や社会保険労務士など外部の専門家 の協力を得るなどして、定期的に研修を行える体制を整えてみましょう。

また、全体向けに行う研修だけでなく、管理職向け・新入社員向けなどテーマに沿って実施し、従業員に当事者意識を持ってもらうことも大切です。

社内外に相談窓口を設置する

ケアハラスメントの防止に努めることは重要ですが、万が一ケアハラスメントが起こってしまった場合に備えて、社内・社外に相談窓口を設けておくことも必要です。なぜなら、ハラスメントを行っている人物が上司などである場合、介護をしている従業員は誰に相談をすればよいかわからなくなってしまうからです。

社内であれば人事部などに相談窓口を設けたり、外部であれば弁護士などの専門家に相談できる体制を整えたりしてみましょう。いずれにしても、相談者のプライバシーを守る仕組みを整えることが重要であり、相談窓口を利用する側の視点に立って、必要な仕組みを構築することが大切です。

労働環境の改善を図る

労働環境の改善を図ることも、ケアハラスメントの防止につながります。慢性的に人手不足が生じていたり、長時間労働が当たり前になっていたりする職場では、業務負担の増加による不満から、ケアハラスメントが起こりやすくなるからです。

家族の介護が必要で、介護休暇などの取得を検討している従業員の人数を把握し、早い段階で不足する人員の確保を図ってみましょう。業務過多によるストレスが発生しづらい労働環境を整備していくことが重要です。

定期的に面談やヒアリングを実施する

ケアハラスメントの防止に関するさまざまな取り組みは、定期的な面談や社内のヒアリング調査などを通じて、より効果的なものになっていきます。せっかく制度やルールを整えても、適切に運用されていなければ防止策の効果を発揮するのが難しいからです。

そのため、実際にどのように運用されているかを従業員の意見などを交えて、定期的にチェックしていく必要があります。個々の従業員への面談や管理職へのヒアリング、社内アンケート調査などを通じて問題がないかをチェックしてみましょう。

まとめ

ケアハラスメントが起こってしまえば、介護をしている従業員の離職を招いたり、自社の信用が悪化したりするなどさまざまなリスクが発生する恐れがあります。従業員をサポートしていく体制を整えることはもちろん、組織全体としてケアハラスメントに対する認識を深め、問題が生じることを未然に防いでいくのが大切です。

従業員への嫌がらせなどが生じてしまう原因や対策を把握したうえで、風通しのよい組織となるよう、企業風土の改善にも努めてみましょう。中長期的に取り組まなければならない部分も出てくるため、組織全体でコミュニケーションを取りながら進めていくことが大切です。

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(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)