強いチーム作りは、サッカー漫画『アオアシ』指導陣に学べ!

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)」を共著した、代表の山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

スカウト、セレクション、内部昇格…複数ルートでメンバーを選びチームを強くする
強いチームの最大の条件は「サブ」も強いこと
自ら考え行動する人を「コーチング」で育てる

ユースチームを舞台にしたサッカー漫画、小林有吾先生の『アオアシ』(小学館)。プロサッカー選手を目指す少年を各地から集め、鍛え上げていく物語の中には、変化の大きな社会の中でも通用するチームの作り方が描かれています。

【作品紹介】『アオアシ』(小林有吾/小学館)

Jリーグの下部組織であるユースチームを舞台にしたサッカー漫画。地方でスカウトされた青井葦人を中心に、癖のあるユースのチームメイトらがプロのサッカー選手を目指す物語。選手の成長だけでなく、高校のサッカー部や欧州のクラブユースチームと対比させながら、日本におけるプロサッカー選手の育成を描き出す。

スカウト、セレクション、内部昇格…複数ルートでメンバーを選びチームを強くする

『アオアシ』の舞台は、将来のプロサッカー選手の育成を目指す高校生のJリーグ下部組織、ユースチームです。彼らは高校に通いながらJリーグの方針に基づいた指導を受け、プロ選手を目指します。このユースに入るには、中学生が所属するジュニアユースチームから昇格する、中学の部活などほかのチームからユースチームの監督がスカウトする、もしくはユースチームが主催するセレクション(公開テスト)に合格するという3つのルートがあります。ユースチームは、チームを強くするために複数の人材登用のルートを用意しているのです。

『アオアシ』の主人公・青井葦人(あおい・あしと)は東京にある強豪Jクラブ「東京シティ・エスペリオン」ユースチームの監督・福田達也に声を掛けられ、セレクションに参加。辛くも合格し、ユースチームへの所属が決まりました。

選手の強みや指導側が期待することは、それぞれのルートによって異なります。一貫した効率的なトレーニングを通じて育てられたジュニアユース出身の選手は、すでにジュニアユースチームに入る段階でセレクションという厳しい競争を突破している上、プロになるという強い意識と卓越したサッカー技術を持っています。コーチや監督が直接出向いて選手を探すスカウト組は、ジュニアユース出身者にはいないポジションやポテンシャルを持つ選手を採用することが目的だと思われます。

この中で特にセレクション合格組に求められるのは何か。ジュニアユースから昇格せず、監督によるスカウトからも外れても、なおそのユースチームに入りたいと考える選手に求めるのは、福田監督いわく「そんな中から這い上がってこられるやつ」とのこと。圧倒的に不利な逆境をはね返す力とも言えます。ジュニアユースに入れなかった選手もいることを考えると、プロへの最短ルートに入ることができなかったという挫折を経験し、それでもサッカーを続けたいという強い意志を持つ人とも言えそうです。

なお、スカウト組やセレクション合格組には、ユースとは違う方針で育てられた学校の部活出身者もいます。必ずしも全員がプロを目指すわけではない部活動の出身者は、仲間との目の前の勝利を目指す貪欲さや、がむしゃらさを持つ人物として描かれています。

スカウト、セレクション、内部昇格…複数ルートでメンバーを選びチームを強くする

©小林有吾/小学館(『アオアシ』1巻P117)

プロのサッカー選手が戦うのは、国内のチームはもちろん世界のチーム。育成や戦略、戦術で上を行く世界の選手を相手にするために、ポテンシャルやタイプの違う選手を集め、戦えるチームを作ることが不可欠です。これは企業組織でも同じこと。サッカーであろうとビジネスであろうと、優れた才能を集めて鍛え、チームとして機能させていくという過程に違いはありません。厳しい事業環境の変化や、あらゆる事態に柔軟に対応できる人材を育てるチーム作りが求められます。

子どものころから上位組織のJリーグの方針に沿った指導を受けているジュニアユースの所属選手は、企業組織の人材獲得で言えば新卒採用からの内部昇格。スカウトはヘッドハンティング、セレクションは中途採用の募集と言えそうです。

複数のルートからの採用を組み合わせてチーム内のバランスをどう取るのか。これに完全な正解はありませんし、事業領域や事業規模、企業の規模や設立年数、社内の育成体制の有無によって変わってくるものです。日本の大企業の場合、これまで新卒を一括で採用し、自社で幹部候補生を育成する戦略が中心となっていましたが、最近は中途採用を増やす傾向にあります。『アオアシ』に登場する東京シティ・エスペリオンのユースチームが選手を選ぶルートを複数用意しているように、変化の厳しい社会に対応するためにも、企業組織もさまざまな能力や特性を持つ人材を集めるルートを整えておくことが必須です。

ただし、どのようなルートで採用しようとも、作中でユースの福田監督が「日本サッカーの未来は育成にある」というように、採用したあとにどう育成していくかが全て。それはどのルートであっても、受け入れたあとは仕事に集中できる環境作りや、適性の見極めなど、採用した人材一人一人がその能力を発揮できるようにすることが組織の役割です。

強いチームの最大の条件は「サブ」も強いこと

チームを含め組織作りには、全体をより強くするために健全な内部の競争も不可欠です。相手を蹴落としていくのではなく、チームの個々人ができることを増やすための競争相手です。『アオアシ』の中では、常に試合に出るAチームとサブのBチームの関係として描かれます。

高校サッカー部が選手権大会などで競い合うように、ユースチームも日本クラブユースサッカー選手権があり、ユースチーム同士でトップ争いをします(作中でも描かれているように、高校サッカー部とユースチームが入り交じって戦うプレミアリーグもあります)。Aチームはユースの中でも選ばれ常に試合に出る一軍、Bチームはユースの中でもまだ育成中の二軍です。もちろん練習やけがによって常に入れ替えがあり、選手はみなAチーム入りを目指します。主人公の葦人はもちろんBチームから始めることになります。

通常のユース内の練習で、練習試合をするAチームとBチーム。もちろん選抜されたAチームが強いことは当然なのですが、福田監督はBチームにも積極的に指導していきます。それは彼が「強いチームはサブ(=二軍、作中ではBチームのこと)も強い」という考えを持っているから。試合を通じてユース外の強い相手と試合をすることがあるといえども、日々の練習の中で一番相手をするのはBチームの選手。そのBチームが弱くては、Aチーム、ひいてはユース全体の力の底上げにならないという主張です。もちろんAチームからは毎年上部組織のJリーグに昇格する選手が出るため、Aチームの控えの選手およびBチームの選手は常にAチームでのレギュラー入りを目指し競い合います。ユースチームという同じ組織内での健全な競争が、チーム全体の力を高めることになるのです

強いチームの最大の条件は「サブ」も強いこと

©小林有吾/小学館(『アオアシ』14巻P58)

これは、サッカーなどスポーツに限らず企業組織でも同じと言えます。他人を蹴落とすことを目的とするような競争はチームの機能を阻害するだけですが、チーム内で競争がまったくないのも停滞を生むだけ。チームのメンバーそれぞれが自分の力を伸ばし続け、さらに上を目指す原動力になるのは、身近にいる相手との競い合いなのです。

そしてその競い合う相手は、可能な限りその分野でレベルの高い相手がいい。例えば『アオアシ』の中で葦人は前述のプレミアリーグのAチームに交ざって出場する機会を手に入れます。それまでも、自分が中学時代に経験したサッカーよりもはるかにハイレベルの練習をユース内でしてきた葦人ですが、Aチームに交ざって実際の試合に出ることで、それまでよりもはるかに学ぶことが多く、成長のためのきっかけをつかめることを実感します。

自ら考え行動する人を「コーチング」で育てる

育成を重視する『アオアシ』では、監督やコーチといった指導側が選手らにどう教えるかも描かれます。選手が毎年入れ替わる中で、指導側もどう選手らを導くか。必ずしも完ぺきではない「大人」側も、選手がきちんとプロに向かうことを後押しできているか日々悩んでいることがわかります。その指導側が育成で駆使するのは「コーチング」と「ティーチング」。指導する選手のレベルや状況に合わせて、この2つの手法をうまく使い分けています。

自ら考え行動する人を「コーチング」で育てる

©小林有吾/小学館(『アオアシ』11巻P34)

ティーチングは、指導する相手に対してどう動くべきか具体的に指示すること。これに対しコーチングは、問いかけを通じて指導相手にどう動くべきか考えさせることです。フィールドで選手は、自ら対戦相手やチームメイトを見ながらどう動くべきか考え続けることが求められます。当然ティーチングだけではフィールド上で勝ち抜くことはできず、思考力を付けるためにも指導側にはコーチングが求められます。

このコーチングは最近、ビジネスの現場でも注目され、人材育成に採り入れる企業が増えています。どんなビジネスの現場でも、変化が急速な環境では、特に現場で動く人が日々最善の手を考え実践することが必要です。そのときにマネジメント層が常にティーチングで正解を教えられるわけではない。サッカー選手のように、どう動くべきかを考える癖をつけられるコーチングが注目されているのです。

作中でも指摘されているように、自分に過度に自信があったり、一つのことに集中したりしている人は、周りからティーチングを受けてもすんなり受け入れられないこともあります。それに対して、コーチングは自分で考えて回答を導き出し納得するからこそ、受け入れられる。福田監督も指摘するように、自分でつかんだ答えは一生忘れないからです。

【まとめ】

世界を目指すチームを作るため、日本サッカーの未来は育成にあると断言する福田監督。活躍する舞台がビジネスであっても、育成の重要性は変わりません。可能性を持つ人材をどのように集め、彼らをどう育てていくのか。組織が日々、頭を悩ませているであろう問題に取り組むにあたり、『アオアシ』はサッカー界から答えを提示してくれます。

【連載一覧】
第2回「貢献できるのは「好き」より「得意」?『アオアシ』に学ぶチーム作り」はこちら

文/bookish、企画・監修/山内康裕