手本にするべき悪役は?バトル漫画の「強い敵組織」3選

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前回では、大ヒット漫画『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)のラスボス、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の組織づくりや戦略の改善点をまとめました。しかし、バトル漫画に登場する敵組織が全て無惨のように行き当たりばったりであるとは限りません。むしろ、作中で強敵とされる相手は、洗練された戦略や組織を持っています。今回は、『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』(監修:堀井雄二、原作:三条陸、漫画:稲田浩司/集英社)、『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博/集英社)、『ワールドトリガー』(葦原大介/集英社)の敵組織を題材として、現実の組織や戦略の参考になる点を考察します。

『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』から学ぶ、生まれ変わったハドラーのリーダー性

『ダイの大冒険』に登場するハドラーは、初期とラストで印象が変わる敵キャラクターの一人です。魔軍司令として大魔王バーンの下にいたときは、その地位を維持することを優先し、各軍団長が自分の地位を脅かさないことに固執します。しかし、「超魔生物ハドラー」となった後は、相手に油断をせず正々堂々ぶつかるキャラクターに生まれ変わります。

物語のはじめに、ハドラーは勇者アバンに倒された後にバーンの力で復活し、バーンの下で魔軍司令に任命されます。それは6つの軍団の軍団長をまとめる、言わば中間管理職のような位置づけです。それぞれの軍団長に指示を下し、勇者ダイの一行や各王国を攻撃させます。

この時点のハドラーの命令は、バーンの権威を後ろ盾に得た地位によるもの。軍団長らは、それぞれの得意分野ではハドラーを上回ることもあり、必ずしも素直に命令を聞くわけではありません。地位から来る命令には従うものの、ハドラーというリーダー個人に従っているとは言えません。作中で明確に描かれているわけではありませんが、魔軍司令時代のハドラーのために死ぬ軍団長はいないようです。このリーダーシップを取れない状態が魔王軍側の戦略を不十分なものにし、ダイら勇者側が勝てる余地を生み出していたとも言えます。

このリーダーシップの欠落を乗り越えたのが、超魔生物となったハドラーです。バーンによって不死身の肉体を与えられていたハドラーですが、ダイら勇者側に対する敗北が続いたことで、超魔生物に生まれ変わることを決断します。魔族として不死身の肉体を捨てるというリスクを取ったことで、超魔生物でありながら魔法も使えるようになります。バーンからも「殻を破った」と評され、バーンの力に限りなく近いレベルまで達しました。

地位や名誉だけでなく生命を懸けてダイらとの戦いに挑むという覚悟は、「部下」にも伝わります。「アバンの使徒を倒す」という統一した意志の下、命を懸けてダイらに挑む「ハドラー親衛騎団」は、それぞれ強力な敵となってダイらの前に立ちはだかります。「仲間と」「力を合わせて」「正々堂々敵に挑む」姿は、勇者側と比べても引けを取りません。

超魔生物になったハドラーの特徴は、目的の明確化とそのための覚悟にあります。魔軍司令時代には、アバンを倒しにいくとき以外は自分が前線に出ることはありません。軍団長らが倒され、6軍団体制が崩壊しそうになって初めて、自らの手で倒しにいきます。

それに対し、超魔生物となったハドラーは、自ら「アバンの使徒を倒す」という目的を明確にし、覚悟を決めて不死身の肉体を捨てるというリスクを自ら取ります。その覚悟を知り、ハドラー親衛騎団も彼についていこうと思えたのではないでしょうか。

現実の組織でも、部下の動きは上司のリーダーシップに左右されることが少なくありません。目的を崩さず、覚悟を決めて自分もリスクを取りながら立ち向うリーダーの姿勢が部下を動かすからこそ、一丸となって同じ方向を進んでいけるのです。超魔生物となったハドラーの態度には、リーダーシップの基本が描かれていると言えます。

『HUNTER×HUNTER』から学ぶ、幻影旅団の柔軟な組織設計

柔軟かつ風通しの良い組織を作っているのが、『HUNTER×HUNTER』に登場する幻影旅団です。クロロを団長とし、作中でスラム街とされる流星街の出身者が中心となって結成された盗賊集団です。作中では、ゲームソフトを落札するためのオークションに参加するヨークシンシティ編で、主人公のゴンらとぶつかります。

窃盗と殺人を手掛ける組織にもかかわらず、描かれる内部の雰囲気は穏やかです。団長と団員は、作戦中でなければ気軽に話ができ、クロロの作戦に対して団員から反論や意見も出てきます。全員の仲が良いわけではありませんが、作中では複数のメンバーがトランプをして遊ぶシーンも出てきます。

団員の間の信頼は、採用方法にも表れています。旅団の構成員の採用方法の一つは、構成員からの推薦。もちろん、最終的に採用するかどうかは団長の判断となりますが、団員の推薦をきっかけとするのは、その判断を信頼しているからだと言えるでしょう。

風通しが良い一方で、各人の持つ能力に応じ、旅団での役割や立場、優先度が決められており、団員はそれぞれの役割を果たすことが求められます。その役割は、団長のクロロも同様です。団長という役割を果たすために指示をするのであって、「旅団=クロロ」では決してありません。団員に最終的に求められるのは、団長であるクロロを守ることではなく、旅団という組織そのものを維持すること。作中でも、クロロが旅団への復讐を誓うクラピカらに捕らえられたとき、クロロは旅団を維持するために自分を切り捨てることを団員に求めます。

もし、現実で目的を達成するための組織をつくろうとするのであれば、この旅団の一例は参考になります。旅団は窃盗と殺人という目的を達成するために、情報収集担当、荒事担当、特殊技能担当などのメンバーを集めています。リーダーも含めて、メンバーの間で率直に意見交換ができる雰囲気をつくる一方で、それぞれが任せられた役割をしっかり果たすように意識づけます。

作中でクロロと団員が、役割のある個人を守るか、それとも組織を守るかという問題に直面します。現実でも答えを出すことが難しい問いですが、リーダーを含むメンバーが目標達成の阻害要因になった場合、どう動くべきかを考えるきっかけになります。

クロロは自分を切り捨てることを団員に求めましたが、現実ではメンバーを切り捨てるのはなかなか厳しいもの。メンバーが目標達成を妨げるようになってしまったときに、どう動くべきかをあらかじめ考えておくこと、また厳しい問いについてもメンバーの間で自由闊達に意見交換ができる雰囲気をつくっておくことが、柔軟な組織をつくる上で大切なことだと言えそうです。

『ワールドトリガー』から学ぶ、アフトクラトルによる幾重にも予防線を張った作戦立案

組織の目標設定という点では、『ワールドトリガー』に登場する近界(ネイバーフッド)の大国、アフトクラトルの戦略が参考になります。注目すべきなのは、最低限達成することと、可能なら達成したい目標という複数のラインを設定しておき、状況に応じて見直すという柔軟さです。

近界からの侵略に対抗し、地球を守るために設立された民間組織である「ボーダー」を舞台であるワールドトリガーにおいて、アフトクラトルは大規模な侵略者として描かれます。アフトクラトルの四大領主の一人・ハイレインを中心に、6人の人型近界民(ネイバー)が地球に侵攻してきます。侵略の狙いは、人間が持つ未知の動力を生み出す生体エネルギー「トリオン」を生み出す器官を奪うことです。

アフトクラトルの作戦の巧みさは、侵攻後にボーダーの戦力を把握した上で、柔軟に作戦を見直すところにあります。アフトクラトルは作中で「神の国」と呼ばれ、膨大な量のトリオンを持つ人間を「神」とし、国土を維持しています。この神の寿命が尽きそうになっている状況で次の世代での権力を握るため、神の代わりになる多くのトリオンを持つ人間を、可能な限り労力をかけずにさらう必要がありました。

そのため、当初は一定のトリオンを持つボーダー隊員のうち、攻撃を受けたときの緊急脱出装置を持たない隊員を狙います。しかし、雨取千佳という極端にトリオン量が多く、神になれる可能性のある隊員を見つけると、彼女の捕獲を最優先とします。彼女を連れ帰れば、次に神になる候補の人間を用意でき、確実に権力を握れるからです。手元の戦力と相手の出方を見ながら、6人の人型近界人、ロボット型近界人を投入していきます。

一方で、侵攻時に神の代わりが見つからないという事態に備え、すでに領内から神になり得る候補者をあらかじめ選抜もしています。そして、この作戦に反対しそうな配下の人間・ヒュースを、侵攻に乗じて地球に置いてくるという手際の良さ。さらに能力がなくなり、指示を無視するようになっていた配下の一人・エネドラも同時に地球に置き捨てていきます。ハイレインは一つの軍事侵攻で最終的な目的(=次の世代での権力の維持)を設定しつつも、その達成のために複数のルートを用意していたわけです。

ボーダーの活躍で最終的に雨取千佳は捕獲できず、アフトクラトルの侵攻は一定のトリオン量を持ったボーダーの隊員を数十人捕獲して終わります。しかしヒュースを置いてきたことで、ハイレインは本国に戻れば、候補者を神にすることで次世代の権力は握れる。ボーダーに撃退されながらも、「アフトクラトルで次の世代の権力を握る」という侵攻の究極の目的を、きちんと達成できているわけです。

現実社会でも、厳しい競争の中では組織が目指すべきものとして設定した目標を思い描いた通りに進められるとは限りません。競争相手や敵対相手からの妨害を受けて、必要不可欠な要素が達成できないこともあり得ます。ハイレインのように複数のルートを用意し、あるルートが失敗に終わっても、他のルートできちんとたどり着けるように準備しておくことが、目標達成には必要となります。

【まとめ】
バトル漫画は良質であればあるほど、物語の中で「複数の集団の価値観のぶつかり合い」が起こります。主人公らが「正義側」に属するため、どうしても悪役は“倒される側”と見られがちですが、悪役側に一定の目的や目標がある以上、その組織は適切に構成・運営されていることも少なくありません。ある組織が冷静に物事を達成しようとするなら、その行動から学ぶところも多くなるでしょう。
文/bookish、企画・監修/山内康裕