リンゲルマン効果とは?具体例や影響・原因・予防策を紹介

d’s JOURNAL編集部

集団で業務を進めるにあたり、「人数が増えるほど1人あたりのパフォーマンスが落ちてしまう」といった経験がある方は少なくないのではないでしょうか。こうした現象は「リンゲルマン効果」と呼ばれており、組織の生産性を低下させる要因の一つとして考えられています。

この記事では、リンゲルマン効果の内容や影響、発生しやすい原因について解説します。また、予防するために重要な施策やポイントもあわせて見ていきましょう。

リンゲルマン効果とは

「リンゲルマン効果」とは、フランスの農学者 マクシミリアン・リンゲルマンによって提唱された理論であり、集団で共同作業を行う際に起きる「社会的手抜き」のことを指します。具体的には、1人で作業をする場合と比べて、共同で作業を行う人数が増えると、1人あたりの生産性が低下してしまうという内容です。

リンゲルマン効果は、肉体的なパフォーマンスだけでなく、認知的パフォーマンスにおいても起こるものとされています。たとえば、大人数が出席する会議などで、ほかのメンバーが意見を出すことを期待して思考を止めてしまうような現象もリンゲルマン効果の一例といえます。

リンゲルマン効果

 

傍観者効果との違い

「傍観者効果」もリンゲルマン効果と同じように、個人が本来のパフォーマンスを発揮しない現象の一つです。しかし、両者には「無意識に起こるものか意識的に起こるものか」という違いがあります。

傍観者効果とは、誰かが担当しなければならない作業があったときに、多くのメンバーが意識的にその負担から目をそらしてしまうという現象です。それに対して、リンゲルマン効果は人数が増えることで自然と力を出し切れない状態に陥ってしまう現象であり、無意識的に起こるものとされています。

そのため、対策を考える以前に、問題自体を誰も認識していないといったケースも少なくはなく、リンゲルマン効果の重要な注意点といえます。

リンゲルマン効果の具体例


前述のように、リンゲルマン効果は知らず知らずのうちに起こるものであるため、まずは問題が発生していることを認識することが重要となります。ここでは、学術的な実証実験と、ビジネスの現場で起こった具体的な現象を通して、リンゲルマン効果が発生する例を見ていきましょう。

綱引きによる集団作業の実験

提唱者のリンゲルマンは、綱引きを用いた実証実験により、チームの人数が増えるほど1人あたりの出力が減少していくことを明らかにしています。実験結果によれば、1人あたりの出力は「2人になると93%」「3人になると85%」「4人になると77%」「5人になると70%」にまで低下してしまうことがわかりました。

さらに、人数が増えるほど1人が発揮する力は落ちていき、8人を超えると「持っている力の半分以下」にまで低下するという結果になりました。この実証実験は、リンゲルマン効果による肉体的パフォーマンスの低下を示したもっとも有名な事例といえます。

チアリーダーを対象にした実験

心理学者のラタネとダーリーは、2人のチアリーダーの協力を得て、リンゲルマン効果が無意識で起こる様子を明らかにしました。このときに行われた実験は、ヘッドフォンで互いの状態がわからないまま大声を出してもらい、単独のときと比較するというものです。

その結果、2人はヘッドフォンで外部からの音を遮断されていたにもかかわらず、わずかながら音量が小さくなっていたのです。このとき、どちらの対象者も全力で声を出したという認識を持っていたことから、集団作業による手抜きが無意識に起きるという事実が確認されました。

業務中のネットサーフィン

企業におけるリンゲルマン効果の代表例としてあげられるのが、業務中のネットサーフィンです。国際ニュース誌のNewsweekの調査によれば、アメリカ全土の就業者のうち、「90%が業務中にネットサーフィンをしている」「84%が業務中に何らかの私的なメールを送信している」と回答しました。

これらは、個人ではなく集団で成果を出す会社員だから起こる現象であるとされています。最低限の責任は果たされているものの、個人として最大限のパフォーマンスが発揮されない状況であることから、リンゲルマン効果の代表的な例といえるでしょう。

リンゲルマン効果の弊害

リンゲルマン効果は、従業員自身にはそれほど強い「手抜き」の意識はなく、無意識のうちに組織内にはびこってしまう点が問題となります。ここでは、リンゲルマン効果によって起こる主な弊害について見ていきましょう。

モチベーションの低下

リンゲルマン効果は、従業員のモチベーションを低下させてしまうため、組織全体に悪影響を及ぼします。リンゲルマン効果は知らず知らずのうちに発生することから、気づいたときには組織内に影響が広がってしまうというケースも少なくありません。

その結果、特に若手社員や新入社員においては、離職率の増加につながってしまうリスクも高くなるので注意が必要です。

生産性の低下

モチベーションの低下は、組織としての生産性が損なわれる要因にもなります。一つずつの手抜きは些細なものであっても、従業員全体にリンゲルマン効果が起きれば、結果として大きな損失を生み出してしまいます。

また、リンゲルマン効果が続いている組織では、優秀な人材であればあるほど離職に至る可能性も高くなるでしょう。その結果、人材確保の面からも企業の生産性が大きく低下してしまうのです。

フリーライダーの増加

リンゲルマン効果は、組織内に「フリーライダー(ただ乗り)」を生み出す原因となります。フリーライダーとは経済学の用語であり、料金を払わずに公共の乗り物を利用する様子になぞらえて、「対価を支払わずに公共の財産を利用する人」のことを表現している言葉です。

企業においては、「組織に十分な貢献をせずに給料を得ていく人」や「ほかの人があげた成果に便乗する人」を指しています。古くは「給料泥棒」と表現されていた経緯もありますが、こちらはどちらかといえば企業や事業主側からの視点に立った言葉とされています。

それに対し、フリーライダーは同じ立場の従業員から見た表現であるのが特徴です。それだけに、フリーライダーが増加すれば、ほかの従業員には「自分の負担が増えてしまう」「評価制度に不満を持ってしまう」「貢献をしても給与に反映されない」といったマイナスの感情を抱かせる要因となります。

リンゲルマン効果を引き起こす原因


リンゲルマン効果を予防するためには、その原因についても把握しておく必要があります。ここでは、リンゲルマン効果を引き起こしてしまう主な原因について解説します。

責任の所在が不明瞭な業務の振り分け

リンゲルマン効果は、組織内の基本的な仕組みが原因で起こることが多いです。代表的なケースとしてあげられるのが、業務の振り分け方法の失敗です。

たとえば、業務の範囲や担当者があいまいである場合、どうしても責任の所在が不明瞭になり、リンゲルマン効果を引き起こすリスクが高まってしまいます。誰がどの作業を担当しているかが明らかでなければ、当事者意識が低下し、無意識のうちに「誰かがやってくれるだろう」と考えてしまうのです。

集団で成果が判定される業務の場合は、特に個人の働きに注目して、担当者や責任者を明確にしておくことが大切です。また、業務連絡の仕組みを整え、情報の透明性を確保するのも一つの方法といえるでしょう。

貢献度が反映されない評価システム

個人の目標が明確化されていても、貢献度に対する評価が不透明であれば、モチベーションの低下によってリンゲルマン効果を後押ししてしまう可能性があります。この場合、自分に課せられたノルマを達成していれば、それ以上の成果は求めようとしないという状況が起こりやすくなるのです。

貢献度を適切に評価するという姿勢は、優れた成果を残した当事者だけでなく、周囲のメンバーにもよい影響を与えます。努力をすれば正当に報われるという意識が芽生えるため、組織内に前向きな意欲が広がっていくでしょう。

反対に、貢献度の高いメンバーへの評価をないがしろにしてしまうと、優秀な人材であればあるほど不満を感じやすくなります。また、周囲にも「無理に目立っても仕方がない」という感覚が蔓延し、リンゲルマン効果が発生しやすくなっていきます。

集団における同調行動

リンゲルマン効果は、集団による「同調行動」とも密接な関係を持っています。同調行動とは、周囲の意見や行動に合わせて自らの動向を決める状態を指し、意識的にも無意識的にも行われます。

集団としてのモチベーションが低下していくと、高い意欲を持っていたメンバーにも同調行動が起こり、リンゲルマン効果が発生してしまう可能性があるのです。これは、前述のように未熟な評価システムが原因で加速するケースが多いといえます。

コミュニケーション不足

コミュニケーション不足による帰属意識の薄れや仲間意識の薄れも、リンゲルマン効果を引き起こす原因になり得ます。企業や組織への愛着が薄れていれば、集団に貢献したいというモチベーションが上がらないため、無意識のうちに手抜きが起こってしまうのです。

そのため、リモートワークの普及は、リンゲルマン効果が起こりやすい要因の一つとして考えられます。責任の所在や業務の進捗状況が不透明になりやすく、対面でのコミュニケーションも少なくなっていくことから、リンゲルマン効果が起こらない仕組みを整える重要性が高まっています。

リンゲルマン効果を予防するためのポイント


リンゲルマン効果は無意識のうちに発生するため、起こってから対処するだけでなく、起こらないように予防するという考え方も重要となります。ここでは、リンゲルマン効果を回避するための取り組みや、おさえておきたいポイントを4つに分けて見ていきましょう。

役割分担の明確化

リンゲルマン効果を防ぐためには、各メンバーの役割分担を明確にして、責任の所在を明らかにするのが効果的です。「自分以外の誰かがやってくれる」といった無意識の感覚がなくなり、それぞれに当事者意識が芽生えていくため、本来のパフォーマンスが発揮されやすくなるのです。

そのうえで、各業務を完全に独立させるのではなく、それぞれの役割に相関性を持たせるような仕組みをつくるのもポイントといえます。自身の業務がほかのメンバーに与える影響を理解しやすくなるため、お互いに責任感を持ちやすくなる効果があります。

少数精鋭主義の導入

リンゲルマンが行った綱引きの実証実験では、集団の母数が大きくなればなるほど社会的手抜きの度合いが大きくなっていく様子が示されていました。このように、リンゲルマン効果は集団の人数が増えるほど、発生リスクや影響も大きくなっていくと考えられています。

そこで、少数精鋭主義を導入して、集団の大きさを制限するのも有効な施策の一つです。組織の母数が小さくなることで、それぞれの働きが可視化されるため、自然とリンゲルマン効果も抑制されていくことが期待できるのです。

1on1ミーティングの実施

モチベーションの低下を防ぐためには、リーダーによる定期的な1on1ミーティングを実施し、目標の設定を見直したり進捗を確認したりするのも効果的です。適切なタイミングでミーティングを行えば、日ごろの姿勢や業務を見直すきっかけになるだけでなく、上司に自分の働きを見てもらえているという安心感が生まれます。

適切な評価を受けられているという信頼関係が築かれれば、リンゲルマン効果の抑制につながるのです。また、1on1ミーティングは各メンバーの本心や困っていることなどを聞く機会でもあります。

相互に協力が必要な事柄があれば、ほかのメンバーともコミュニケーションを取り合い、横のつながりを強化させることも大切です。メンバー同士のつながりを深め、お互いの業務に関心を持ってもらうことも、リンゲルマン効果を抑えるポイントの一つになります。

評価システムの改善

リンゲルマン効果を防ぐうえでは、適切な評価システムを整備することも重要です。まずは、個人の評価基準を明確化し、貢献度が正しく評価へ反映される仕組みを整えましょう。

そのうえで、人数の多い組織や集団であれば、「相互評価制度」を導入するのも一つの方法です。相互評価制度とは、一定の評価基準に沿って、従業員同士で評価する仕組みのことです。

具体的な方法としては、上司や部下、同僚といったさまざまな立場の相手から評価を受ける「360度評価」があげられます。周囲に自分の働きや振る舞いが見られているという意識は、個人の責任感を強めるだけでなく、努力が報われるという前向きな感覚も生み出します。

また、多面的な角度から判断されることで、自身の評価に対して納得もしやすいため、モチベーションの低下を防ぐ効果もあるでしょう。

まとめ

リンゲルマン効果は無意識のうちに起こる「社会的手抜き」のことであり、組織の生産性を低下させる主要な原因の一つとされています。知らず知らずのうちにメンバーのモチベーションを低下させたり、優秀な人材を流出させたりするリスクがあるため、発生しないように予防することが大切です。

リンゲルマン効果の予防方法には、「評価システムを整える」「役割分担を明確にする」「定期的な1on1ミーティングを実施する」といったさまざまなものがあります。まずは組織の現状を振り返り、不十分であると思われるものから改善に着手しましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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