ジョブ型雇用が生産性を上げる理由。取り組むべきは「目標・評価・報酬」の連動

株式会社あしたのチーム

ファウンダー 
高橋 恭介(たかはし・きょうすけ)

1974年生まれ。東洋大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。2002年プリモ・ジャパン株式会社に入社し、副社長として人事業務に携わる。2008年に株式会社あしたのチームを創業、代表取締役に就任。延べ3,500社を超える企業に対して人事評価制度の構築・運用支援サービスを提供。人事給与制度設計などのコンサルティングも行い、TOKYO MXの情報番組「モーニングCROSS」コメンテーターとしても活動。『「社員を大切にする会社」の人事評価』(PHP研究所)、など著書多数。Twitter:https://twitter.com/salaryDr_tk

ジョブ型雇用のメリットは、多様性と生産性の向上
日本の雇用制度のメリットを残し、そこにジョブ型を加える
メンバーシップ型雇用で育った世代を、ポジティブに動機付ける

これまで日本企業の雇用形態は、社員が異動やジョブローテーションを経ながら長期的に組織を支える「メンバーシップ型雇用」が主流でした。しかし最近では諸外国で一般的な、職務内容に基づいて適した人材を採用する「ジョブ型雇用」が注目されるようになり、国内でも採用活動を巡ってさまざまな議論が生まれています。

この変化を受け、「これからは大手企業のメリットが薄れていく」と指摘する、高橋 恭介氏。高橋氏は株式会社あしたのチームの創業者であり、自らも「給与ドクター」として、TwitterやYouTubeなどでビジネスパーソンに向けた情報発信をしています。今回は、従来の雇用形態の課題と、ジョブ型雇用のメリットや導入ノウハウについてお聞きしました。

ジョブ型雇用のメリットは、多様性と生産性の向上

──最近では、ジョブ型雇用が注目されるようになっています。この背景についてどのようにお考えでしょうか。

高橋氏:日本型の雇用形態であるメンバーシップ型雇用は、1950年代後半から始まり、高度経済成長期を支えてきました。これは、諸外国に比べて働く人の立場が強いという特徴を持っています。職務経験がなくても学卒一括採用により正社員として就職し、年功序列の給与や手当、手厚い福利厚生や、解雇規制などのメリットを享受できます。一つの企業で、人生設計を描きやすい形態と言えますね。

 

高橋氏:一方で、労働者には義務も生じます。最近はずいぶん自由度が高まっていますが、働く場所・職種・時間の3つに関しては決定に従うことが義務とされます。住宅購入や子どもの通学などの事情にかかわらず人事通達一つで転勤を余儀なくされ、ジョブローテーションによって職種を指定され、残業なども義務として行われてきました。これは世界的に見ると特異な形なのです。

近年、日本企業がジョブ型雇用に移行している背景には、従来の雇用や労働の仕組みが抱えてきた構造的な問題に直面しているという事情があります。年功序列の場合、能力で評価されることが難しいですよね。グローバル化が進むにつれてこの点がハードルとなり、優秀人材の採用難化や離職増加といった問題が生じました。そして権利・義務の関係でなく、ペイ・フォー・パフォーマンス、すなわち能力に起因した雇用関係が求められるようになったのです。

──滅私奉公の代償に将来を見通せるメンバーシップ型と違い、能力をベースとした報酬・契約となるジョブ型には、どんなメリットがあるのでしょうか?

高橋氏:メリットは2つあります。一つはダイバーシティ。日本では、生産年齢人口が劇的に減少している中で、女性のキャリア中断や働く人の介護負担、定年制度によるアクティブシニアの雇用解除といった問題を抱えています。仕事に人が割り当てられるジョブ型なら、専門性を磨きながら成果によって報酬が決まるので、さまざまな人に活躍の機会が与えられ、企業は労働力を確保できるようになるでしょう。

もう一つは生産性の向上です。年功序列というシステムは、雇用と収入が安定していることから、社会基盤の整備や格差是正ができるなどの、良い面もありました。しかしその反面、どんなに能力があっても、若いという理由だけで活躍の幅が制限される状態は、大きく国益を損ねているとも言われています。私は、ペイ・フォー・パフォーマンスに移行することで健全な競争が行われ、日本全体の生産性を向上できると考えています。

日本の雇用制度のメリットを残し、そこにジョブ型を加える

──成果報酬の制度によって格差が広がり、人生設計がしにくくなるという不安を抱く人もいると思います。ジョブ型雇用を導入するために、克服しなければならない課題をお教えください。

高橋氏:確かに、ジョブ型や成果報酬制度はドライで冷たい印象があり、日本社会に向かないと思っていらっしゃる経営者の方は多いです。経営者のほかにも、企業が人件費を削減する目的でこの制度を使っている、というイメージを抱いている人もいます。ただ私は、日本で広がりつつあるジョブ型雇用は、メンバーシップ型雇用の代わりではなく、むしろそれを支えていくものと考えているんです

その象徴がトヨタ自動車で、この4月から人事制度を改革し、年齢給の全廃を決めました。評価によって賃金が変わる制度になったのですが、昇給額がゼロになる人はほとんど現れないのでは、と聞いています。つまり、年齢型賃金が緩やかに維持される。これは、すぐに減額や解雇ができる諸外国の厳しい事情とは異なります。他の企業もこの制度をお手本とするのではないでしょうか。

日本のメンバーシップ型の雇用制度は、長く勤め上げることができる素晴らしい仕組みです。これをあえて手放す必要はありません。企業は、ボーナスゼロ、昇給ゼロの可能性がある制度を加える。そこで働く人は、自身の目標に対して成果を上げ、評価をもらって昇給していく…これが、私の考える日本のジョブ型雇用です。

──現在の仕組みを少しずつ変えながら、ソフトランディングしていくわけですね。このようなジョブ型雇用は日本企業に浸透していくと思いますか?

高橋氏:急速に浸透していくでしょう。制度改革の規模に大小あるものの、この4月から大企業の多くがジョブ型評価、ジョブ型雇用制度を採用します。ここから3~5年ほどかけてダイナミックに変わっていくはずです。なお、中小企業に浸透するまでは10年ほどかかると考えています。

もちろん例外もあるでしょう。私は人事評価を12年、延べ3,500社の企業に導入してきましたが、この経験からジョブ型雇用の採用が難しい職種もわかっています。たとえばエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる、社会で必要不可欠なお仕事に従事されている方々は働く場所に制約があるため、ジョブ型雇用には向かいにくい。特に主な収益が介護保険制度、医療保険制度といった公的なものに基づいている組織で働く方々は「売上のために生産性を上げよう」ということが通用しません。

そこで、ジョブ型の採用と同時にポイントとなるのが、副業の解禁です。コロナ禍によりテレワークも浸透しましたので、デジタル化もポイントですね。この2つがジョブ型雇用を促進する要素となります。

 

──エッセンシャル・ワーカーの方たちも、テレワーク勤務などを行うことで生産性を高められれば、空いた時間に副業の報酬を得られるようになるのでしょうか。

高橋氏:デジタル庁の発足に象徴されるように、国全体もデジタル改革に向かっています。医療や公的機関もオンライン業務を促進していますので、エッセンシャル・ワーカーの方々のジョブ型雇用への移行は進んでいくでしょう。

副業とは、一人一人がプロフェッショナルになって役務を果たしていくということでもあります。たとえば、ある企業で月160時間勤務する社員のAさん。50万円の月収で、外注すると100万円分の価値のある仕事をしてくれるとしましょう。Aさんが生産性を高めて仕事を120時間でできたとします。企業にとっては50万円給与を支払って100万円の価値を得ているので、160時間が120時間になってもあまり関係ありません。

ここで副業が解禁されたジョブ型雇用だとどうなるか。A さんは、責務を果たしながら、削った40時間を使って副業し、別の報酬を得られるようになります。もし副業が禁止されていたら、Aさんは生産性を高める意欲を持つでしょうか?成果を重視するジョブ型を進めていくなら、企業側も「どうぞ副業してください。副業でもっとスキルを磨いて、わが社では120万円分の成果を出してください」と考えるはずです。今は、このような発想の転換が国や企業経営者の中で芽生え始めたところだと思います。

メンバーシップ型雇用で育った世代を、ポジティブに動機付ける

──ジョブ型に移行するにあたって、経営層や組織づくりの担当者はどのような準備をしたらいいのでしょうか。

高橋氏: 一つはKPIマネジメントの導入です。たいていの日本企業は、最終ゴールの売上に対して評価するKGIのマネジメントにとどまっているでしょう。KPIマネジメントでは、目標達成のための各プロセスにおいて、計測、評価、管理をしていきます。こうしてビジネスの因数分解をしていくと、間接部門も含めた各メンバーの目標設定ができるようになります。それを人事評価制度に反映し、報酬にも連動させていくのです。

もう一つ重要なのがコンピテンシー(成果を上げる人の行動や考え方の特性)です。ジョブ型の職務の効率性だけを突き詰めると、全て業務委託でいいとなりますよね。ところがそうすると、将来重要な役割を担うマネジメント層が育成できません。企業には、リソースを有効活用して価値を生み出す人材の教育・輩出も必要不可欠です。ですから正社員に対しては、業務の成果一辺倒ではなく、理念や方針とのつながりやコンピテンシーという軸でも評価することが大切になります。

──ビジネスの因数分解とは、具体的にどのようなことから始めればいいのでしょうか?

高橋氏: スタッフの業務の棚卸しですね。今やっている全ての仕事を見える化するのが、第一歩です。それによって、各メンバーの職務内容や目標、報酬が定まります。その後、さまざまな業務について正社員に任せるか、外注するか、デジタル技術を使って解決するか、といった割り当てをし、最適化していくのです。

と言っても普段の業務もありますし、棚卸しを面倒に感じる人がいるかもしれません。そのような懸念がある場合は、「無駄な業務をなくす“断捨離”プロジェクトをやりましょう」などの言い方をすることで、「止めることを決める」活動として提案すると賛同を得やすいです。何かの業務を加えるのではなく、止める業務を決めて、空いた時間にできる新しいことを探す活動ですね。

私はよく「両手にコップを持っていると、新しいコップは取れません」と表現します。新しいものを得るには、何かを手放さなければいけませんよね。

 

──ジョブ型雇用によって、企業も働く人も共に利益を享受し、日本社会全体が成長するエコシステムは形成されていくのでしょうか?

高橋氏:機会の平等が生まれるので、企業も働く人もチャンスと捉えてもらいたいです。特に働く人は、報酬が年齢に依存しなくなるメリットを享受できます。年上だから高い給料がもらえるということはなくなりますが、若いから給料が上がらないということもなければ、シニアだからといって報酬が減る、ということもなくなるわけです。

また、子育てなどキャリアの中断によるダメージ解消や、一度ドロップアウトした人の再挑戦にもつながります。年齢、出身大学、過去の経歴などに左右されず、今示せるパフォーマンスに対する報酬が得られるようになるのです。しかも一社だけでなく、複数社からです。

国民全体がチャンスととらえ、努力して成長していけば循環型の社会ができあがると思います。そのためには、「自分は楽をしたいのに努力を強いられるなあ」と、ネガティブに捉えるのではなく「努力をすれば、何にも妨げられることなく報われる」と、メンバーシップ型雇用で育った世代がいかにポジティブに捉えられるかが重要だと思っています。

【取材後記】

ジョブ型雇用や副業解禁、デジタル変革は、従来の雇用形態の問題に直面した日本にとって、足りないピースを埋めて最適化する取り組みだということを再認識しました。

成果報酬制度に対し、格差を生むなど、ネガティブな印象を持つ人もいますが、従来型雇用とジョブ型雇用のよいところを活かす取り組みは、ガソリンエンジンと電気モーターで走るハイブリッド車のような、良い効果が期待できそうです。

画像提供:株式会社あしたのチーム
取材・文/森 英信(アンジー)、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・d’s JOURNAL 編集部