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「称賛」を戦略的に仕組み化する。ポジティブな職場づくりの糸口

PROFILE

株式会社シンクスマイル

代表取締役 新子 明希

1972年大阪府生まれ。2007年シンクスマイル設立。現在は、社内モチベーション向上SNS『ホメログ』や『RECOG(レコグ)』を社内開発、販売している。「称賛文化の形成」や「従業員エンゲージメントの向上」を促進させるアプリの開発販売を通じて、毎日の「働く」が楽しくなる世の中の形成を目指している。

Google社が社内で取り入れている称賛制度のひとつ「ピアボーナス」を筆頭に、いま世界の企業で称賛文化が注目を集めています。日本企業にもその波は浸透しつつあり、中には、風土として称賛文化を根付かせようと奮闘する企業も出てきました。

ただし、称賛文化といっても、簡単に浸透するものではありません。むしろ、謙遜しがちな日本人が称賛文化を受け入れ習慣にするのは、難しいことなのではないでしょうか。

そこで今回は、称賛文化を企業に浸透させるため、業務支援ツール『RECOG(レコグ)』を提供する株式会社シンクスマイル代表の新子さんに話を伺いました。社内に称賛文化を浸透させ、さらには世の中の企業へと広げていくために、シンクスマイルが行っていることとは-?

始まりは、ポジティブな掛け合いを増やすための社内ツールだった

「RECOG」の歴史をたどると、独自の評価システム『CIMOS(シーモス)』からスタートしていますね。2012年から企業向けにリリースしていたそうですが、どのようなきっかけで制作が始まったのでしょうか。

始まりは、ポジティブな掛け合いを増やすための社内ツールだった

新子氏:僕自身が、「良い会社とは何だろうか」と疑問を抱き始めたのがきっかけです。僕は19歳のときに初めて起業し、もう28年も起業家として歩んでいます。起業した当時は「月曜日に通いたくなる会社」を目標にして、事業を始めたんです。

ところが、当時はまだ起業家として未熟だったので、どうしても売上ばかりに目がいってしまって。企業風土やカルチャーなどがないままに走っていたら、組織が50名を超えた段階で、どこを目指して走れば良いのかわからない社員が出てきた。そのときに一度、会社のビジョン、ミッション、バリューを作り直さなければならないと思ったんです。そうして、考えました。良い会社とは、何だろうかと。

良い会社、ですか。さまざまな条件があるように感じます。新子さんが出した答えはどのようなものでしたか。

新子氏:結論から言うと、良いチームのある会社でした。良い会社の定義を考えたとき、まず「良いサービスを持っていること」が重要なのではと仮説を立て、世界的に知られるリッツ・カールトン、スターバックス、オリエンタルランド、Googleなどを訪ね、職場の様子を見せてもらったんです。そこで共通していたのが、良いチームがあることでした。

新子さんが実際に目で見て感じた、良いチームらしさはどのような点にあったのでしょう。

新子氏:要素はさまざまあります。たとえば、周囲をリスペクトする、けなさない、弱みを克服させず補い合う、などがありますね。総じて良いチームでは、ポジティブな言葉が飛び交うのだとわかりました。そこで、僕らも良いチームを目指していくため、ポジティブな言葉を交わせる仕組みをつくろうと思い、社内の業務ツールをつくり始めたのです。それが、現在の『RECOG』です。

ポジティブな会話

初期は社内ツールだったのですね。当時はどのような仕組みでしたか。

新子氏:ゲーム形式にしたら面白いのではないかと思い、バッジを集めるルールにしました。社内で決めている10の行動指針があるのですが、それぞれをひとつのバッジとして、社員が集めていく。働く中で、チームメンバーが良い行動をしたらバッジを送り合える制度にしました。

社内のコミュニケーションが活発になりそうな取り組みですね。

新子氏:社内外ともに、非常に反響が大きかったです。社内では、導入から1年ほどで、社員が送り合ったバッジの数が10万個を突破しました。社外では、メディアからのお問い合わせや、「うちの会社も導入したい」という声をいただいたりして。僕らだけではなく、他の企業でも称賛文化を浸透させたいニーズがあるとわかったのです。

「コト」ありきで褒めること。シンクスマイル流・称賛文化のつくり方

 「コト」ありきで褒めること。シンクスマイル流・称賛文化のつくり方

称賛文化は、日本企業でも注目を集めているカルチャーです。ただ一方で、企業体質によってはなかなか取り入れにくいのではと思います。たとえば、上司の背中を見て学ぶことが当たり前だった団塊世代の働き方と今とでは、スタンスに違いがあるのかなと。

新子氏:もちろん、そうですね。これまで『ホメログ』などを含め弊社サービスは1,000社以上に導入いただきましたが、必ずどんな企業からも「褒めるのが苦手」「褒められるとつい謙遜してしまう」と声が上がります。

全ての、とは言いませんが、日本人の性質としてはあると思います。実際、「いやいや私なんて…」「自分はまだまだです」などと言ってしまいがちですよね。

新子氏:ただ、実は面白い話があって。企業に勤める会社員が所属先に求めることをアンケートで調査してみると、「給料」「やりがい」「人間関係」が多く挙げられるんです。一方で、人が転職を考えるのは、これら3つの要素のうちのいずれか2つが欠けたときです。

2つがかけるとNG

「自分が認められている」「居場所がある」と感じていれば、まず1つ、人間関係の項目はクリアできる。「謙遜してしまう」とは言いながらも、私たちは「認められたい」と感じているんですよね。だからこそ、称賛を文化にするのは有意義なことだと思います。

ちなみに、褒めることを社員の自発的行動に託すのと、仕組み化するのとでは、得られる効果に差が出てくるものなのでしょうか。

新子氏:まったく違います。そもそも、「根付いたらいいな」と淡い期待を抱くだけでは、絶対に仕組みは浸透しません。特にそれを感じたのは、Google社を訪れたときです。Google社も、コミュニケーションの自然発生を仕組み化しています。たとえば、入社したばかりの社員には、本社敷地内で黄色い帽子をかぶってもらうようにしているんです。そうすると、敷地を歩く社員が積極的に声を掛け、自然と会話が広がるようになります。文化は、自然発生的に生まれるものではありません。必ず、戦略として組み立てていくことが必要です。

称賛文化をつくろうと思っても、褒めることが苦手な方は少なからずいると思います。どうしたら、相手に届く形で、素直に褒めることができるのでしょうか。

新子氏:まず、褒めることとおだてることを混同しないことです。褒めるとは、相手の行動を認めること。おだてるとは、相手の人柄そのものを認めることを言います。これが混同すると、周囲が「ひいきしているのでは」と感じるようになり、あまりうまくいきません。加えて、何を褒めているのか、具体的に相手に伝えることも重要です。「ありがとう」とだけ伝えるのではなく、「スピーディーに対応してくれて、ありがとう」と、何に対する感謝なのか明確にすることで、より相手に伝わりやすくなります。

ちなみに、叱るときにも同様のことが言えます。叱るとは、事実を元に注意すること。怒るとは、感情に任せて注意すること。どちらも、誤解を生まないためには「コト」に焦点を当てることが大切です。

コトに焦点を当てる

称賛文化の浸透によって、評価制度はなくなるかもしれない

褒めることが仕組み化され、根付いていくと、企業にはどのような価値がもたらされるのでしょうか。

新子氏:直接的な価値と間接的な価値と、それぞれあります。直接的な側面として挙げられるのが、離職率の低下。先ほども話題に出ましたが、称賛されやりがいを実感することが、転職意向の低下に一役買っているためです。また、離職率の低下に伴い、採用にかかる費用の削減にもつながりますよね。

そして間接的には、マネジメントコストの減少や業績の向上なども考えられます。称賛文化が浸透すると、上下関係の有無を問わず、社員同士がお互いを認め合って仕事に取り組めるからです。結果として、モチベーションを高く維持しながら働くことにもつながります。意見やアイデアも言いやすくなるはずなので、良い循環で仕事が回りますよね。

称賛文化の浸透によって、評価制度はなくなるかもしれない

企業の業績低迷の発端は、コミュニケーションがうまくいかないことだと思うんです。コミュニケーションの不一致が発生することで、社員のモチベーションやパフォーマンスが低下し、結果として業績に影響が出る。それならば、適切なコミュニケーションが取れる環境をつくることが解決策になり得るのではないかなと。

なるほど。最後に、称賛文化が企業にもたらす価値は、今後どのように変化していくと思いますか。

新子氏:称賛文化の浸透によって、評価制度がなくなっていくのではないか、と思っています。評価制度は人を成長させるための場でもありますが、一方で、人を裁くための場にもなりかねません。実際に、人事評価を気にしながら働く人々は多いと思います。

称賛文化が仕組みとして根付くと、人の評価はよりフラットに、かつ「見える化」されます。どれだけの人に貢献し、どれだけの人に感謝したのか、全てが可視化されますからね。そうなると、人事・採用担当者の力を必要とせず、適切な評価ができる世界が生まれるような気がするんです。たとえば、年間で最も多く感謝の言葉をもらった人に、最も多くの賞与を渡す仕組みなども、悪くないと思います。

面白いですね。個人の信頼性が透明化する未来は、確かに訪れるかもしれません。

新子氏:また、称賛の「内容」に着目すると、個人の強みも見えてくるようになりますよね。「すぐに対応してくれてありがとう」とたくさん褒められたことのある人の強みは、スピードだと言えるでしょう。ビジネスパーソンにとっての強みとは、自分が思うものではなく「人にたくさん感謝されたポイント」だと思います。

もし前職での評価や働きぶりなどの口コミをクラウド上で横断的に見られるようになれば、働く個人のポートフォリオとしても使えるようになります。本人が面接で「私は熱血な人間なんです」と話すより、「今まで受け取ったレターの中で、私は熱血なところを評価されています」と話した方が、説得力がありますよね。ゆくゆくはそのような、言うなれば『食べログ』の人事版のような仕組みをつくっていきたいと思っています。

食べログのような仕組み

【取材後記】

企業のカルチャーを語る上で、今回のテーマである「称賛文化」をはじめ透明性、心理的安全性などの言葉をよく耳にするようになりました。すでに国内でも、デファクトスタンダードとなりつつある概念のようにも思えます。

ただし、まだまだ実現できずにいる企業があるのもまた事実。「いつかやろう」ではなく、仕組みを整え、堅実に実行することが浸透への近道なのだと取材を通して痛感しました。

私たちは、多かれ少なかれ、誰かのためを思いながら働く瞬間に充実感を覚えます。称賛文化は、そんな尊い時間を提供するためのきっかけとなり得るのかもしれません。聞きなじみのある「やりがい」というフレーズは、働く人々の、何よりの源となることでしょうから。

(取材・文/鈴木 しの、撮影/黒羽 政士、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・齋藤 裕美子)

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