“納得できません”なんてもう言わせない!リモートワーク下での適正な人事評価メソッド

株式会社あしたのチーム

代表取締役社長 CEO 赤羽博行(あかはね・ひろゆき)

プロフィール

コロナ禍になって約2年。多くの企業でリモートワークの導入が急速に進み、働き方が大きく変わりました。最近では、その変化への戸惑いも少なくなってきているように思われますが、課題として残された一つが人事評価の在り方です。

人事評価制度の構築からクラウドシステム提供まで手掛け、4000社に及ぶ導入実績を持つ株式会社あしたのチームが実施した調査によると、7割を超える人が、オフィス出社時と比べ、「リモートワーク時の人事評価が難しい」と回答しています。

リモートワーク下での人事評価の課題や、社員のパフォーマンスを公正に反映させる方法について、同社CEOの赤羽氏に伺いました。

業務プロセスを分解・可視化し、社員のパフォーマンスを定量化する

──現在、企業の皆さんは人事評価についてどのような課題を抱えているのでしょうか?

 

赤羽氏:コロナ禍以前は、社員全員がオフィスにいたので部下の働きぶりが見えていましたが、リモートワークになると部下が目の前にいないので、どんな風に働いているのかがわからない。さらに言うと、「部下は本当に働いているのか?実はサボっているんじゃないか?」と疑念に駆られる人までいるかもしれません。

一方、部下は「自分は真面目に働いているのに、上司にサボっていると思われているんじゃないか?」と疑心暗鬼になり、お互いに相手を信じられない状況になってしまう場合もあります。

実際はそこまで極端ではないにしても、上司としては、部下が働いている様子を自分の目で見ていないのに、どういう評価をすれば納得してもらえるのか悩むでしょうし、部下としては、働きぶりを目の前で見てもいない上司にどう評価されるのか、不安を感じるでしょう。また、評価の際に、「この部分は評価できるが、この点は直してほしい」と具体的な指摘ができないのも、悩みどころです。

コロナ禍になってリモートワークを急いで導入し、仕事がどうにかうまく回るようになったものの、人事評価の時期になって、どうしたら適正な評価ができるのかという問題に直面し、その難しさを改めて実感している評価者も多いのではないでしょうか。当社にも、そのような問い合わせが、コロナ禍前の3倍ほど来ていますよ。

──リモートワーク下の評価について、制度設計のポイントを伺えますか?

赤羽氏:これまで人事評価の際、多くの企業は営業職の受注や売上の実績などの一部を除いて、定性評価を行ってきたと思います。ところが、リモートワークになると、普段の働きぶりが見えないため、定性的な評価をするのが難しくなります。そこで、当社が提案しているのが、最終成果ではなく、プロセスの定量評価を行う方法です

営業を例に取ると、受注という最終成果の手前に、お客さまに会うというプロセスがあり、さらにその手前に、アポイントを取るというプロセスがあります。そこで、客先を何回訪問したのか、そのためにどれほどアポを取ったのかということを指標にすれば、社員の活動量が定量化できます。

これらの中間成果をKPIとして評価項目の中に盛り込むことで、目標設定やプロセスに対する評価もしやすくなります。最終成果は、そのときの状況に左右される部分もありますが、プロセスを重視した明快な評価基準があれば、上司にも部下にも納得のいく評価ができるでしょう。

そのためには、まず業務プロセスを分解して可視化し、定量的に表現する仕組みをつくることが必要です。しかし、今のところ、その作業ができている企業はあまり多くないのではないかと思います。

クラウド化した面談記録が、社員育成のための貴重なカルテとなる

──リモートワークにおいて、上司が部下の仕事の進捗状況を確認するには、どのようにするべきでしょうか?

赤羽氏:当社では、部下が毎日業務日報を書いて、上司に提出するようになっています。オフィスワークであれば、自分の目の届くところで部下が働いているので、ちょっとした雑談の中で、どこまで仕事が進んでいるかといった確認ができますし、何かつまずいていることがあれば相談に乗り、対処することもできます。

 

しかし、リモートワークになると、そういう雑談ができなくなるので、部下が今どんな風に仕事をしていて、どの程度の進捗なのかが把握しづらくなります。それを補完するために、業務日報など何らかのコミュニケーション手段が必要になってくるのです。

業務日報は、「今日はこんなことがありました」と単なる報告事項を書いていてもあまり意味がありませんが、設定した目標や上司が依頼したことに対して、今どこまで進んでいるかが記されているだけでも、業務の進捗管理に役立ちます。

──リモートワーク下で人事面談を行う際のポイントを教えてください。

赤羽氏:当社では、人事評価のクラウドシステムを提供していますが、Excelでつくった評価シートもクラウド化されるため、その画面を上司と部下が共有しながら面談を進めることができます。また、クラウドに評価面談や1on1ミーティングなどの履歴も全て残せるので、そのときの上司からのフィードバックも振り返ることができます。

1on1では、大抵プリントアウトしたものにフィードバックの内容を書き込んだりすると思いますが、面談が終わった後に、その紙をいつまでも取っておいたり見返したりする人は少ないかもしれません。そうなると、その人が成長するための貴重な情報や成長過程の記録が失われることになります。また、評価する側の上司自身も以前フィードバックした内容を忘れてしまっている場合があります。

その点、情報をクラウドに残しておけば、それまでのやり取りを振り返り、面談に生かすことができます。また、情報のクラウド化は、人事担当者にとってもメリットがあり、社員の育成のためのカルテのような形で活用したり、評価シートを横並びで見ながら、自社の人事評価の在り方について検証したりすることができます。

例えば、「目標設定の難易度が低すぎたから、もう少しストレッチさせよう」「定性評価と定量評価のバランスが悪いから、ウエートを変えよう」というように、情報を分析することで新たな気づきが得られるのです。

当社でも、半年、四半期というサイクルで人事評価の項目やウエートを見直していますが、新しい仕事やミッションが次々生まれてくる中で、いつまでも同じ評価制度を使い続けるのは合理的ではありません。社員が今取り組んでいる業務に、本当にこの評価方法が適しているのかを常に問い直し、フェアに評価できる方法を模索することが大切です。

まずは役割の見直しと業務の棚卸しから始めよう

──情報共有の仕方について、他に注意すべき点はありますか?

赤羽氏:リモートワークになって、社内の横の連携が乏しくなってきましたね。以前は、社員同士が雑談で情報交換をしていましたが、今は上司と部下の連絡がメインになっているので、他の部門が何をしているのか、とても見えづらくなっています。

それに危機感を抱いたのか、当社では特に私やマネジメント層が指示したわけでもないのに、社員が自発的に部門を横断したオンライン飲み会などを開くようになりました。こういう取り組みは、会社にとってもメリットが大きいと思います。

また、全国で事業展開している当社では、各地に分散しているメンバーが、最初からリモートワークを前提として働いているチームもあります。このチームは勤務時間中、全員Zoomをつなぎっぱなしにしているので、何かあったらすぐに声を掛け合い、画面を共有して問題解決を図ることができ、非常に一体感があります。バーチャルではあるけれど、あたかも同じオフィスに出勤しているような働き方というのも、リモートワーク時代の一つのスタイルではないでしょうか。

──リモートワーク下での人事評価に悩んでいる企業の方々に、改めてアドバイスをお願いします。

赤羽氏:今の「連携」というテーマにも通じる話だと思いますが、以前は職場全体の様子が見えていたので、持ち回り的な業務についても、上司が手の空いていそうな人に「これ、やってもらえるか」と頼んだり、「それ、私がやります」と手を挙げたりして、みんなで補完し合う状態ができていました。

しかし、リモートワークになると、持ち回り的な業務を誰もやらなくなるので、トラブルが起きる恐れもあります。ですので、会社に必要な業務を一度整理してみて、各人の役割も見直した上で、その人がやるべき業務の棚卸しをしてあげるべきでしょう。

社員の役割と担当業務が可視化されれば、それぞれの業務プロセスの進捗・成果を定量評価することもできるようになります。それによって、上司は部下が何をしているかわからない、部下は上司にサボっていると思われているかもしれないという、心理的安全性のない状況に陥らずに済み、お互い気持ちよく働けるようになるはずです。

もう一点、付け加えておきたいのは、進捗管理や業務報告は社員を縛り付けるためのものではないということです。例えば当社は、ほぼデイリーで進捗管理をしていますが、フルフレックス・フルリモートで、いつ・どこで働くかは社員の裁量に任せています。

つまり、自由度高く働くためのルールとして、各人がそれぞれの進捗状況を報告し合い、全員でゴールを目指すというのが我々のスタイルです。リモートワーク下において成果を出し続けられる組織というのは、管理主義ではなく、自由と主体性を重んじる組織ではないかと私は考えています。

 

取材後記

リモートワークの導入により、社員の働きぶりが見えづらくなり、定性的な人事評価をするのが難しい状況になりました。それに対し、赤羽氏が提案するのが「業務プロセスの定量評価」であり、各プロセスでの成果をきちんと査定することで、上司にも部下にも納得のいくフェアな評価を実現できます。

そのためには、業務プロセスを分解・可視化するという作業が必要になり、手間もかかります。しかし、その作業過程で、今まであいまいだった各社員の役割の再定義や、やるべき業務・やめていい業務の整理ができ、社員のパフォーマンスも向上するのではないかと感じました。リモートワークの導入を、ぜひとも人事評価の適正化と社員活性化へのステップにしていきたいものです。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森英信(アンジー)、撮影/中澤真央