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即戦力やスキルではなく、求職者の潜在的な資質や将来的な可能性を重視する「ポテンシャル採用」。近年の売り手市場などを背景として、これまでの「新卒採用」や「中途採用」に加えて、ポテンシャル採用を導入する企業が増えています。「ポテンシャル採用にはどのようなメリットがあるのか」「採用を進める際、どのようなことに気を付けるとよいか」などを知りたい人事・採用担当者もいるのではないでしょうか。今回は、ポテンシャル採用の概要や注目される背景、導入するメリットなどを、導入している企業の例とともにご紹介します。
ポテンシャル採用とは、潜在能力を意味する「ポテンシャル」を重視した選考方法のこと。英語では「potential adoption」と表記します。
従来の中途採用では、即戦力となるスキルや経験、実績を重視する「キャリア採用」が一般的でした。それに対し、ポテンシャル採用では応募者の潜在的な資質や可能性など、将来性に重きを置いています。
将来性を重視する採用という意味では「新卒採用」も同様ですが、ポテンシャル採用とは採用時期や採用基準が異なります。新卒採用は主に年に1~2度(4月、9月)の一括採用で、採用基準も基本的には「●●年度に大学を卒業する者」「大学卒業後3年以内の者」といったように限定されます。一方、ポテンシャル採用は不定期かつ通年で行うのが、一般的です。採用基準は企業によって異なりますが、主に20代全般を対象として、応募者の職業経験は不問にしているところが多いようです。
こうした特徴から、ポテンシャル採用は、「新卒採用」にも「中途採用」にも通じる要素がある一方で、従来の採用とは異なる新しい採用方法と言えるでしょう。
「新卒採用」「中途採用(キャリア採用)」「ポテンシャル採用」それぞれの採用時期や採用基準の違い
採用区分 | 採用時期 | 採用基準 |
---|---|---|
新卒採用 | 主に年に1~2度 | ・●●年度に大学を卒業する者 ・大学卒業後3年以内の者 など |
中途採用(キャリア採用) | 不定期 | ・募集時に即戦力となるスキルを保有していること |
ポテンシャル採用 | 不定期・通年 | ・主に20代全般 ・対象者の職業経験は不問 |
なぜ今、ポテンシャル採用が注目を集めているのか、その背景をご紹介します。
まず、人材採用が難航していることが挙げられます。近年の就職・転職市場では新卒採用・中途採用ともに人材の競争率が高い、売り手市場の状態が続いています。そのため、特に中小企業においては、「応募者がなかなか集まらない」「内定を出しても辞退されてしまうため、必要な人数を採用できない」といったケースも多いでしょう。
そうした状況を打開する有効な方法として考えられているのが、ポテンシャル採用です。新卒・中途という採用区分にとらわれず、素質のある未経験者にアプローチをかけることにより、必要な人材の確保が期待できるため、ポテンシャル採用に切り替える企業が増えてきています。
ポテンシャル採用は、新卒で入社して数年の求職者を指す「第二新卒」や、海外大卒者、博士号取得者、海外留学・ワーキングホリデー経験者などの、多様なキャリアを持った人材を採用するための方法としても注目されています。求職者がこれらの条件に該当する場合、新卒採用や中途採用の枠組みでは、「応募期間に間に合わない」「採用基準に該当しない」という課題が生じますが、ポテンシャル採用であれば、応募者の間口を広げ、潜在能力を持った人材の掘り起こしが期待できます。
ポテンシャル採用を導入することによって、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。ポテンシャル採用のメリットについて、ご紹介します。
優秀な人材を採用できることが、ポテンシャル採用の大きなメリットです。経験やスキルではなく潜在能力を重視した採用を通年で実施することで、これまで採用できる機会が少なかった優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
また、働き方の多様化が進むとともにキャリアに対する価値観も変化しており、「より自分を活かせる企業に転職をしたい」と考える若手層も増えています。そのような成長意欲を持った人材を採用できるという意味でも、ポテンシャル採用は有効と言えるでしょう。
ポテンシャル採用には、研修コストを抑えられるというメリットもあります。新卒採用で入社した新入社員には、ビジネスマナーや企業理解、パソコンの基本的なスキルなどを一から身に付けるための研修を一斉に行うのが一般的です。
一方、ポテンシャル採用では、職種における経験はなくとも、社会人経験のある人材が集まることが多く、最低限の一般常識やビジネススキルが身に付いています。その分、研修の回数を少なくできるため、新卒採用に比べ、コストや時間を大幅に抑えられるでしょう。
先ほど紹介した通り、ポテンシャル採用は、主に20代や職種未経験者が対象です。前職の企業における在籍年数がさほど長くないため、特定の企業のカラーやルールに染まり切っていないという点もメリットと言えます。思考や業務の遂行方法が硬直化しては、新たな知見を得たりアイデアを生み出したりすることが難しいですが、ポテンシャル採用ではそのような心配がありません。
ポテンシャル採用ではさまざまなバックグラウンドを持つ人材から新しいノウハウや技術、柔軟な発想を得ることで、「時流に寄り添ったビジネス」「企業のダイバーシティー化」「イノベーションの創出」といった効果も期待されています。
ポテンシャル採用を導入する際には、しっかりとした判断基準や体制を整えておくことが重要です。気を付けるべきポイントをまとめました。
ポテンシャル採用の場合、中途採用(キャリア採用)のような「実績」などの数値化・明確化できる判断基準がないため、求職者の潜在能力や可能性を見極めて採用の可否を判断しなければなりません。年齢が若ければ選考を通過させるといったものではなく、30代でもポテンシャルが高く企業が求める人物像にマッチしていれば採用することがあります。
面接においては、コミュニケーション能力や情報収集力などの「社会人としての基礎スキル」「仕事に対する価値観」がわかるような質問を通して、個々人の持つ知識や経験を自社でも活かせるかを判断していくことがポイントです。学生時代の経験や前職の業務内容、経歴の空白期間なども確認し、資質を探っていくとよいでしょう。
(参考:『面接官を初めてやる人が知っておきたい質問例7つと面接ノウハウ【面接評価シート付】』)
面接に役立つフォーマットはこちらからダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
ポテンシャル採用の導入には、柔軟かつ適正な給与提示を行うことも重要です。「年功序列」を前提としてしまうと、年齢が同じ人の給与に差をつけることが難しくなるでしょう。また、成果物がないことを理由に提示する給与を低くすると、応募や採用に至らないケースが考えられ、反対に高額過ぎると既に在籍している社員から不満が出たり、組織のモチベーションが低下したりする恐れがあります。
自社における新卒採用、中途採用の給与体系を参考にしつつ、応募者の前職の給与も考慮しながら、適切な給与提示を行いましょう。
ポテンシャル採用で入社した社員は、最低限の社会人スキルはあるものの、職種についての知識や経験がない人が大半です。中長期的な目線で企業に貢献できる人材に育てるには、未経験から一つ一つスキルを獲得できる教育体制の構築が必要となります。「OJTとOFFJTの併用」や「オンラインによる外部研修」の他、「メンター制度の導入」も検討するとよいでしょう。
(参考:『OJTとは?メリットデメリット、やり方、手順を徹底解説【受け入れシート付】』)
(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説』)
OJTで活用できる育成計画のテンプレートは、こちらからダウンロードできます。
実際、企業はどのようにポテンシャル採用を導入しているのでしょうか。ポテンシャル採用を導入している企業の例をご紹介します。
ヤフー株式会社では、2016年10月から「新卒一括採用」を廃止し、ポテンシャル採用を導入。従来の採用方法では第二新卒者や既卒者などに平等な採用選考機会を提供できないこと、就職活動の時期の多様化から従来よりも柔軟な採用の枠組みが必要であることがポテンシャル採用に切り替えた理由です。新卒・既卒・就業者問わず、応募時に18歳以上30歳以下であれば、誰でも応募できます。
サイボウズ株式会社ではこれまでにも、29歳以下の多様なバックグラウンドを持つ人材を広く募集する「U-29(ユニーク)採用」を行っていました。現在は、年齢や過去の経験を問わず一人一人の可能性を応援するために、U-29(ユニーク)採用の年齢制限を撤廃し、名称も「ポテンシャル採用」へと変更。IT業界未経験・職種未経験でも、自社に興味のある人がチャレンジできる体制を整えています。
ポテンシャル採用は、既存の採用方法では埋もれてしまう優秀な人材を獲得する機会としても、企業の成長につなげる手段としても有効です。ポテンシャル採用の年齢制限や採用基準、給与は企業によって異なるため、どのような基準や体制を構築できるかが重要となります。自社の人材採用における課題や中長期的な目標などを整理し、自社に合った形でポテンシャル採用を進めてみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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