“Z世代に選ばれる”企業とは。サイバーエージェントの採用・選考ノウハウ【面接質問例付き】

株式会社サイバーエージェント

専務執行役員 人事管轄採用戦略本部長 石田 裕子(いしだ・ゆうこ)

プロフィール

少子化が進み、若手の採用・育成に悩む企業が増え続けています。こうした中で注目されているのが「Z世代」の存在です。1990年代半ば(もしくは2000年代序盤)以降に生まれた世代を指し、最近では2010年代以降に生まれた層を指す「α世代」という言葉も聞かれるようになりました。

物心ついたころからインターネットやデジタルツールに囲まれて育ったため、「デジタルネイティブ」とも呼ばれるZ世代。この世代はどのような価値観を持ち、どんな職場を選ぶのでしょうか。Z世代に合った採用・選考とは。株式会社サイバーエージェント専務執行役員で、採用・育成をはじめとした人事戦略を統括する石田氏に聞きました。

変化に素早く適応し、訴求力にも長けているデジタルネイティブ

——石田さんは、Z世代の方々に対してどんな印象を持っていますか。

石田氏:前提としては、単純に世代で人を一括りにして語るのは難しいと思っています。型にはめて総論を述べても、実際の一人ひとりは違う個性を持っているわけですから。

 

ただ、若い方々と採用面接で話したり、私自身がα世代に当たる子育てをしていたりする中で、明らかにこれまでの世代とは違う傾向があるとも感じるんです。大きな特徴は、やはり「デジタルネイティブ」であること。大人世代がデジタルシフトするためのリスキリングに追われる一方で、Z世代以下の人たちはデジタルに囲まれた環境の中で生まれ育ち、自然と生活の一部に取り入れていますよね。

日常生活で接するデバイスやゲームでは、システムやコンテンツが頻繁にアップデートされていきます。そのたびにZ世代は素早く適応する。すさまじいスピードで進化していくテクノロジーにも、まったく違和感なく付いていけるところが圧倒的な強みだと感じます。

——サイバーエージェントの社内でもZ世代の強みを感じる瞬間はありますか?

石田氏:はい。たとえば当社では、内定者研修の一環として「4〜5人のチームに分かれてサイバーエージェントの会社説明動画を作る」というテーマに挑戦してもらっています。実はこのテーマは、2004年入社の私の世代のときからあったんです。

でも、今の若手と当時の自分たちを比較すると、自分たちのアウトプットが恥ずかしくなるくらい、動画の表現力や編集力が圧倒的に違います。当たり前のように動画共有サイトやSNSに接してきた世代だからこそ、クリエイティブな訴求力にも長けているのだと思います。

能力やスキルではなく、「入社後に活躍してくれそうか」を重視

——こうした強みを持つZ世代は、どのようなキャリア観・仕事観を持っているのでしょうか。

石田氏:Z世代の親世代はバブル崩壊後の失われた30年を社会人として生き、リーマン・ショックや東日本大震災を経験しています。こうした親の元で育ったZ世代には、安定志向の傾向があると感じています。採用見込み対象者からは「将来性がある大企業を中心に受けている」「親に言われて安定性を重視している」といった声を聞くことも多いです。

その一方、変化の激しい時代を生きているからこそ、Z世代にはスキルアップ志向が強いとも感じますね。コロナ禍で学校の授業がストップしたり、働き方が大きく変わったりしたこともスキルアップ志向に拍車をかけているのではないでしょうか。「会社に依存せず、社会が変化しても自分の力で生きていけるようにしたい」と考える人が増えています。

もう一つ言えるのは、社会的意義を求める側面が強いこと。近年ではパーパス経営が重視され、経営者が自社の意義を言葉にして発信しています。こうした風潮がある中で、Z世代もまた自身のパーパスを大切にし、仕事を通じてどのように社会へ貢献できるかを重視する人が多いのではないでしょうか。

 

——これらの志向を踏まえて、Z世代採用の面接法についても伺えればと思います。今後20年でZ世代が企業の中核を担う存在になっていきますが、Z世代との面接で面接官が意識すべきこととは。

石田氏: Z世代に限った話ではありませんが、対等な関係やコミュニケーションを大切にしています。面接では面接官が高圧的だったり、時には人格否定のような言葉を投げかけたりすることもあると聞きます。こうした接し方は理解できません。もちろん企業の採用面接なので最終的に合否を出さなければいけませんが、その前にまず、一対一の人間同士として会話することが大切だと思っています。

ちなみにサイバーエージェントの新卒ビジネスコースの場合、いわゆる適性検査や書類審査は一切行っていません。基本的には複数回の面接と、コースによって日数は異なりますがインターンシップを交えて、サイバーエージェントのカルチャーとマッチするか、私たちが一緒に働きたいと思えるかを徹底的に見ています。能力やスキルではなく、「入社後に活躍してくれそうか」を重視しているということです。

面接官として関わる社員にも「面接は人をジャッジする場ではなく、一緒に働きたい人を見つけるための場」なのだという大前提を共有しています。

採用見込み対象者の考え方や価値観を「一緒に深掘りしていく」質問法

——石田さんご自身は、Z世代と面接をする際にどのような質問を投げかけていますか?

石田氏:就職活動でも転職活動でも、面接慣れしている人はその場のコミュニケーションがとても上手ですよね。しかし、私たちが知りたいのはその場しのぎの対応ではなく、その方の価値観や人柄です。だから私は、面接の場のコミュニケーションだけで判断するのではなく、採用見込み対象者がこれまで考えたことがなかったような視点を提示し、一緒に考えることで、その人となりを見るようにしています。

特に重視しているのは、表面的な能力ではなく考え方について聞くこと。過去の成功体験や失敗体験について尋ねるときも、「どうやって成功したか/問題を解決したか」ではなく、「なぜその行動を取ったのか」「なぜその意思決定をしたのか」を質問して、採用見込み対象者の思考を一緒に深掘りしていけるよう心がけています。こうやって話を聞いていくことで、採用見込み対象者が過去の経験から何を感じているのか、どんな思いを持つ人なのかが見えてくるんです。

——採用見込み対象者のキャリアや仕事への志向性を探るために有効な質問はありますか?

石田氏:よくあるのは「なぜ当社に入社したいのか?」という質問だと思いますが、私は一度も、この質問を採用見込み対象者へ投げかけたことがありません。

私がよく聞くのは「就活当初と現在を比べて、キャリアに対する考え方が変わったポイントはありますか?」というように、前後で比較するような質問です。このように尋ねれば、「就職活動の中で社会貢献への思いが芽生えてきた」「学生時代は安定を重視していたけれど、キャリアを積んで価値観が変わった」など、現在のリアルな志向性や価値観を聞かせてもらえる可能性が高いからです。

Z世代におもねらない。会社のリアルを伝えるのも面接官の役割

——Z世代からは、働き方に関して質問されることも多いのではないでしょうか。

石田氏:多いですね。働き方について質問された際に重要なのは、採用見込み対象者に過度な期待を抱かせないことだと思います。期待させるだけさせておいて、「実際に入社してみたら話が違った」というパターンは絶対にダメです。そんなことは当たり前だろうと思うかもしれませんが、人事・採用担当者が面接の場で発信するメッセージは、過度な期待を持って採用見込み対象者に受け取られているケースもあるのでは。

たとえば、Z世代の価値観を踏まえたつもりで、ふんわりと「キャリアの描き方は自分自身で決められるよ」と伝えていませんか?でも冷静に考えればそんなはずはありません。会社は市場の環境変化に合わせて戦略を変えることもあります。全員が自己都合だけで部署を異動していたら会社の戦略が成り立たなくなるはず。

面接官はきれいごとだけを言って面接を終わらせず、そうした会社のリアルを伝える必要もあると考えています。Z世代におもねって、無理に自社をよく見せようとするのはやめるべきです。

 

——現状、Z世代に選ばれる職場にはどのような体制が求められると思いますか?

石田氏:働き方についての選択肢が豊富にある体制ではないでしょうか。人それぞれ、多様な価値観を持つZ世代には特に、「個」にアジャストできるパターンが多いほど受け入れられやすいと思います。

最近では「出社するべきか、リモートワークにするべきか」の二者択一ではなく、状況に合わせて働き方を選択できるハイブリッド・ワークの考え方が広がってきていますよね。サイバーエージェントでも早期にハイブリッド・ワークを選択しました。「このやり方しかない」と制限してしまうと、Z世代に選ばれなくなるだけではなく、社員の新しい発想やイノベーションを阻害することにもつながってしまいます。

働き方や採用手法のトレンドは、この先も数年単位で移り変わっていくはず。変化に敏感で、かつ柔軟なZ世代とともに、私たち自身も変わり続けていきたいと考えています。

写真提供:株式会社サイバーエージェント

取材後記

Z世代の採用について考えたときに、もう一つ気になる点がありました。大企業でも終身雇用が崩れつつある今、Z世代は「ずっと1社で働く」前提ではキャリアを考えていないはず。長く活躍してくれる人を見極めるのは、ますます難しくなっていくのではないでしょうか。この問いかけに対し、石田氏は「2〜3年で次のキャリアを描く人が多いからこそ、企業側にとってもこの期間が重要」と指摘します。短期間でどれほどの経験機会を提供できるか。Z世代が「一緒に会社を大きくしたい」と思える環境を作れるか。本質的なリテンションは、Z世代の志向性と向き合ってこそ実現できるものなのかもしれません。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介