経営層・CxO・事業部長などのエグゼクティブ人材を登用・採用する際に大切にすべきこと

パーソルキャリア株式会社

シニアエグゼクティブコンサルタント 上原真一(うえはら・しんいち)

プロフィール

企業のビジョン実現や戦略推進に大きな影響を及ぼす、経営層・CxOクラス・部長クラスなどのエグゼクティブ採用。近年パーソルグループにおいても、エグゼクティブ層の採用に関する相談が急激に増えています。一方、高頻度で行われる採用ではないため、採用の現場からは「ノウハウが不足している」「どのように人材にアプローチすればいいのかわからない」といった声が多く聞かれています。

エグゼクティブ層を採用するにはどのような手法があるのか?また、どのような工夫が必要なのでしょうか。パーソルキャリアのエグゼクティブ層向け人材紹介サービス「エグゼクティブサーチ」にてシニアエグゼクティブコンサルタントとして活躍する上原氏に、採用成功の秘訣を聞きました。

エグゼクティブ層を取り巻く採用市場。具体的な人材の探し方・採用手法

——上原さんは、現在のエグゼクティブ層の採用市場をどのように捉えていますか?

 

上原氏:外部からの高度経営人材の登用は近年ますます増加していますが、コロナ禍や世界情勢による経営環境の変化や不確実性の高まりで企業を取り巻く外部環境が大きく変わり、経営戦略や事業戦略を見直す企業が増えたことで、エグゼクティブ層の採用ニーズがさらに高まっていると感じています。加えて、新たに策定した戦略を実行する部長クラス・専門技能を有するプロフェッショナル人材を求める声も大きくなってきていますね。

経営課題や事業課題によって求められる人材は多岐にわたりますが、経営や財務(ファイナンス)、M&A、ガバナンス、IT・デジタル、新規事業など、さまざまなニーズが常に存在しています。

また、コーポレートガバナンスやESG経営の重要性が年々増す中で、経営の透明性・公正性を担保すること、および持続的な成長を通じて企業価値を増大させ続けるための活動が、企業にとってさらに必要性を増してきていますね。

こうしたテーマに対して、高い専門性を持つ人材の内部育成が追い付いていない企業も多いと想定されます。今後も経営の高度化・複雑化がさらに進むことが予想され、役員や事業責任者クラスの外部登用も、引き続き増加していくと予想しています。

——こうした動きに呼応して「エグゼクティブサーチ」を活用する企業も増えています。そもそもエグゼクティブサーチにはどのようなサービス・手法があるのでしょうか。

上原氏:エグゼクティブサーチには、世の中にあるさまざまな人材データベースに登録しているエグゼクティブ人材にアプローチし、採用成功時に報酬をいただく「成功報酬型」のサービスと、着手金をいただいた上で各種調査や人材サーチを行い、採用成功時に紹介手数料をいただく「リテーナー型」サービスがあります。

「成功報酬型」の場合は、世の中の人材データベースに登録していただいている方やコンサルタント自身のネットワークから企業にご紹介しています。このサービスの特長は、データベースの中に採用したい「求める経験・知見を持つ人材」がいれば早期にアプローチができる点です。大手企業のデータベースには長年の蓄積からさまざまな経験・知見を持つ人材が登録しており、専門的な技能が必要な特殊ポジションでも対象者が見つかるケースも少なくありません。

 

——「成功報酬型」「リテーナー型」のサービスにはどのような特徴があるのでしょうか?

上原氏:エグゼクティブサーチを提供している企業の場合、どちらにおいても経営層~高度専門人材までサーチが可能ですが、「成功報酬型」と「リテーナー型」の違いは、コンサルティング・アセスメントの方法や対象となる個人の発掘方法、それに伴う報酬額およびスピードです。

「成功報酬型」の場合は、会社内に蓄積されたマーケット情報・コンサルタント個人の知見・経験を基にしたコンサルティング・アセスメントプロセスを通じて対象となる人材を探します。

一方、「リテーナー型」の場合は、先の成功報酬型に加え各社独自のリサーチチームの活用およびマーケット全体を俯瞰したプロセスになります。私たちの「リテーナー型」のサービスで言えば、人材データベースに登録のある「顕在」候補者だけでなく、登録のない「潜在」候補者を専任の調査チームが探索し、世の中全体を俯瞰して候補者をサーチします。加えて、採用までの全てのプロセスを可視化して企業に提供し、ナレッジの再現性を高められるようにしています。

2つの手法ではトータルコストが大きく変わってくるため、どんな人材を、どんな予算で、どんな期間で採用したいかをお伺いし、採用可能性を基に最適な形をお客さまと共に検討しています。

エグゼクティブ層の関心事は「経営層の意思決定の考え方やパーソナリティ」。できるだけ早く経営層に引き合わせるべき

——通常のキャリア採用とエグゼクティブ層の採用では、採用プロセスにどんな違いがあるのでしょうか。


 

上原氏:これは採用全般に言えることですが、エグゼクティブ層採用では特に、経営トップや候補者の直属の上長になる人など「意志決定者」の関与がとても重要です。

なぜなら、エグゼクティブ層は企業のビジョンや戦略、意思決定の流れ、経営判断の基準などを理解した上で、自身が最大限に貢献できる環境であるかどうかを見極めようとする傾向があるからです。採用プロセスにおいては、こうした関心事に対して真正面から答えられる意志決定者が、なるべく早いタイミングで関わるべきだと考えています。

そのため私たちも、企業から採用のご相談をいただく際にはまず経営層の方々とお会いして、「これからどんな未来を創造したいのか?」「ビジョン実現に向けた現状の課題は?」「課題解決に向けた意思決定は?」などを伺えるよう努めています。

——エグゼクティブ層は、広く公開されている情報だけでは動いてくれない可能性も高いと。

上原氏:そうですね。特に、経営層の意思決定の考え方やパーソナリティに強い関心を寄せる方が多い印象です。候補者の方々も現職で、重要で難しい意思決定を繰り返している立場なので、皆さん特に興味を持たれます。だからこそ、有力な候補者の方が見つかれば経営層を早期に引き合わせ、選考ではなく相互理解と双方で創りあげる未来の話に移行するべきなのです。

オファー額だけが決め手になるわけではない。あらゆる企業にエグゼクティブ層を採用できるチャンスがある

——具体的なオファーの段階で留意すべきことは何でしょうか?


 

上原氏:エグゼクティブ層の候補者の多くは、これまでに培ってきた豊富な経験や、ご自身の価値観に合った環境を求めています。そのため、選考プロセス全体を通じて「候補者の経験や想いが最大限に活かされるポジション・ミッションであること」を説明し、「候補者に会社をけん引してほしい」という熱量が伝わるようにすることが大切ですし、それを経営層から語っていただくのが一番だと思います。

その上で報酬オファーに移るわけですが、エグゼクティブ層の場合はミッションにかなった適切な報酬かつご希望の報酬を満たせば、必ずしも金額の大小が最終的な決め手にはならないと感じています。これはあくまでも私の個人的な印象ですが、さまざまな経験を重ねてこられたエグゼクティブ層は年収アップを求めるだけではないのかもしれません。経営層の想いに共感し、オファー額が少ない企業を選ぶケースも多数見てきました。報酬や待遇は実績を出してからついてくるものと考える方も多く、その意味では、企業規模に関係なくあらゆる会社がエグゼクティブ層を採用できるチャンスも大いにあります。

——採用プロセスにおける落とし穴を、あえて挙げていただくとしたら?

上原氏:企業側が採否を判断するタイミングを明確にしないと、せっかくの採用チャンスを逃してしまうかもしれません。「1週間後に返事を出します」と明確にするかどうかだけでも採用成功を左右するのです。意思決定に要する時間が長いと、「経営判断の意思決定も遅い」「リーダーシップが弱い」などと候補者に思われる可能性もあるので、気をつけていただいたほうが良いと思います。

——こうした点を踏まえ、上原さんはコンサルタントとして、どのように企業や候補者と向き合っていますか?

上原氏:選考に入り、意思決定するまでのプロセスの中では、企業と候補者が互いに興味を持っていることをさまざまな角度から伝えるように努めています。一次面接と二次面接の間が空き、候補者の熱が冷めてしまうケースもあるので、私たちが間に入って必要な情報を相互に伝え、働きかけ続けることが大切です。

また、想定されるリスクがあれば早々にクリアにしていくことも強く意識しています。当たり前の話ですが、募集企業が月給制で候補者の現職が年俸制だと、想定していない部分で大きな収入差が生じることも。また、副業・兼業をしている場合は、転職後も継続可能かどうかを確認しています。細かなポイントも見逃さず、企業・候補者双方に最善な意志決定を支援していきたいですね。

私たちは、採用成功のために必要な企業内のコミュニケーションも積極的にサポートします。経営層、人事・採用担当者、そして候補者と同じ目線を持ち、最大限に活用していただける存在であり続けたいと思っています。

 

取材後記

「エグゼクティブ層を迎え入れるなら、早い段階から経営層にも本気で採用プロセスに加わってもらうべき」と語る上原氏。そう聞いて、どのように経営層を採用プロセスに巻き込んでいけばよいか悩む人事・採用担当者も少なくないかもしれません。上原氏は取材の中で「『エグゼクティブ層に効果的なアプローチをするための作戦会議をしたいとエージェントから申し入れがあった』と、私たちの存在を口実にして採用の体制を整えていくこともあります」と、ひとつの事例を教えてくれました。コンサルタントやエージェントとの関係を良い意味で利用し、必要な関係者をうまく巻き込んでいく。そんな工夫が大きな成果につながるのだと感じた取材でした。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也