面接官同士をつなぐ、精度の高い「面接申し送り」ノウハウとは -申し送り例フォーマット付-

オーティファイ株式会社

HRBP 佐伯叡一(さへき・えいいち)

プロフィール
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  • 感想ばかりの申し送りでは上位役職者が判断できない。申し送りの基本は「事実と解釈」を分けて伝えること
  • 「定量評価のチェックボックス」「定性質問の事前準備」をフォーマット化することで、高精度の申し送りを効率的に実現できる
  • 入社後の現場ミスマッチを防ぐために、面接で感じた懸念点などのネガティブな解釈もすべて共有すべき

現在の採用では、人事・採用担当者のみならず部門関係者や上位役職者にも選考プロセスに深く関与してもらう必要があります。面接官と次の面接官をつなぐ「申し送り」の内容を充実させることも採用成功に欠かせないポイント。しかし、日々の忙しさの中で内容をまとめることに時間を割けなかったり、そもそもどんな内容をまとめるべきなのかがわからなかったりと、申し送りに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

フリーランスの人事・採用担当者として数多くの企業の採用に関わり、オーティファイ株式会社でHRBPを務める佐伯氏は、「必要なポイントを押さえて仕組み化することで、時間をかけなくても精度の高い申し送りを実現できる」と話します。申し送りでは何を伝えるべきなのか。どのような工夫で効率化できるのか。現場視点でのアドバイスをいただきました。

申し送りの基本は「事実と解釈」を分けて伝えること

——佐伯さん自身は、日頃の採用活動で「申し送り」をどのように位置付けていますか?

佐伯氏:申し送りは採用活動の成否に大きく影響する部分だと考えています。

なぜ面接官同士での申し送りが必要なのか。面接は時間が限られており、1人の転職希望者に対しては一次・二次などをすべて合わせても4〜5時間しか話すことができません。その中で転職希望者を理解し判断するには、一つ一つの機会の密度を高めるしかない。申し送りは、そのための準備なのです。

つまり申し送りとは、次の面接に臨む面接官のコンディションを整えるためのもの。面接は後の段階になればなるほど、転職希望者への理解よりも見極めやアトラクト(自社への魅力付け)が重要となります。そのための事前準備はできる限り充実していた方がいいですよね。

——上位役職者の立場で考えたときに、佐伯さんが「この内容は勘弁してほしいな…」と感じる申し送りは?

佐伯氏:合否結果だけしか書かれていなかったり、前の面接官の個人的な感想ばかり書かれていたりするケースです。

「この人は当社に最適な方だと思います」「うちにフィットすると思います」とだけ伝えられても、次の面接を担当する面接官は何をもって最適だと判断したのかがわかりません。逆のパターンでは「この人はすぐに辞めてしまいそうな気がします」といった感想だけが書かれていることも。

理由もなくこうした情報だけが伝えられると、余計なバイアスが生まれてしまいます。しかし、実際に転職希望者と会って話してみると、前の面接官とはまったく違う印象を持つことも珍しくありません。

転職希望者が面接で発言したことなどの「事実」と、それに対して面接官がどんな印象を持ったかという「解釈」を分けて伝える。これは申し送りを機能させるための基本だと考えています。

書く量を減らして共有精度を高める「申し送りフォーマット」のつくり方

——「事実と解釈」を分けて伝えることを前提として、申し送りの際はどのような項目を押さえるべきでしょうか。

佐伯氏:申し送り項目が多くなればなるほど面接官の負担が増してしまうので、的を絞り、必要なポイントだけを押さえたフォーマットにして共有すべきだと思います。私が実際に携わっている採用現場での例をご紹介します。

まずは事実の申し送りについて。一次面接で確認することの多いスキルセットは、チェックをつけるだけで定量的な評価ができるように項目化します。例えばマーケティング担当者を採用する際の面接では「○○の企画・立案に携わったことがあるか」「▲▲(ツール名)を使用したことがあるか」など、YES・NOにチェックするだけで転職希望者のスキルセットを共有できるようにしているのです。

また、職種によっては定性的な質問をして考え方や価値観を聞くことが重要になる場合も多いので、募集職種ごとに「定性的な質問集」を用意します。面接官にはこの質問集に沿って転職希望者へ質問し、回答内容を「事実」として共有するためにログを残してもらっています。

これら定量・定性の各項目は、採用がオープンになる前の段階から関係者に共有。採用プロセスに携わる人の間で面接の目的や選考基準などの目線を合わせることにもつながっています。

——この工夫があれば、面接官の経験値によって面接内容に差が出てしまうことも防げそうですね。「解釈」はどのように共有するのでしょうか。

佐伯氏:ここは企業によって重視するポイントが変わると思います。

私が携わっている採用のケースでは、「自社のバリューに沿った4段階評価」「面接で感じた転職希望者の強み(アドバンテージ)と弱み(伸ばしてほしいところ)」「面接官として推したいポイント」の3項目を設け、面接官が感じた印象を自由に記載してもらっています。

加えて「特記すべき申し送り事項」も自由記述欄として設けていますね。時間の関係で自分が担当していた範囲を聞ききれないこともあるので、その際は次の担当者への引き継ぎの意味で記載してもらいます。また、想定しているポジションでの採用は難しくても、その手前のポジションなら合格ラインに到達するということもあるでしょう。そうした条件付き通過のときにも理由を共有しています。

このように必要な申し送り事項をフォーマット化して共有すれば、何を書けばいいのかを明確に理解でき、書く量を減らしつつ精度の高い申し送り内容を実現できるのです。

情報共有の遠慮はNG!「ネガティブな解釈」もすべて共有すべき

——申し送りフォーマットを実際に運用していく上で気を付けるべきことはありますか?

佐伯氏:ご説明したように、事前に設定した質問に対する転職希望者の回答は重要な「事実」情報。ここに面接官の解釈が混ざらないよう、転職希望者の発言内容はできる限り正確にログを取るべきです。

私が推奨しているのは、転職希望者の了解を得た上ですべての面接内容を録音すること。その場でログを取りきれない内容をフォローするためにも、録音は検討していただきたいですね。ハイクラス人材の採用など、どうしても判断に悩む際には、チームで録音内容を共有して検討することもできます。

——面接官によっては、「転職希望者のネガティブな部分」についての解釈をどこまで共有すべきか悩む場面があるかもしれません。これについてのアドバイスはいかがでしょうか。

佐伯氏:面接を行った上で懸念点が残るのであれば、個人の判断でその解釈を飲み込むのではなく、すべて率直に共有すべきだと思います。転職希望者が発した言葉を事実として記録し、それに対する解釈を切り分けて共有すれば、その後を担当する面接官におかしなバイアスが生まれることはないでしょう。

むしろ、ネガティブな解釈の共有を遠慮してしまう方が問題です。面接官の誰かが違和感を飲み込んだまま面接が進み、転職希望者が入社した後に懸念が明らかになっても取り返せません。職場で問題が起きてからでは遅いのです。転職希望者にとっても不幸な結果につながってしまいかねません。

——人事部門以外の採用関係者にも、申し送りの重要性を深く理解してもらう必要がありますね。

佐伯氏:その通りです。申し送りは面接に臨むための重要な事前準備であり、面接官同士での情報共有が採用の成否に大きく影響することを関係者全員に理解してもらうべきでしょう。そのためにも人事は、短時間でも申し送りの情報量を確保できるよう、仕組み化を進めていくべきだと思います。

私の場合は仕組みを丁寧に準備した上で、面接官には「面接後24時間以内の申し送り共有」をお願いしています。記憶が鮮明なうちに書いてもらうのが一番ですし、期限を設けることで人事が申し送りを真剣に考えていることが伝わりますから。転職希望者に対しても社内に対しても、採用活動にかける人事の本気度が最も伝わるのはスピード感ではないでしょうか。

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取材後記

自社での申し送りノウハウを惜しみなく共有してくださった佐伯さん。その採用現場では、申し送りフォーマットを採用プラットホーム上で共有し、入力された情報をリアルタイムで確認できるようにしているそうです。すぐにこれほどまでの環境を整備するのは難しいかもしれませんが、そのエッセンスは大いに参考にできるのでは。申し送りを仕組み化することで、面接後の転職希望者へのフィードバック内容が充実したり、人材紹介サービスなど外部パートナーとの情報共有精度が高まったりする“副次的な効果”も表れているとのことです。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央

精度の高い引継ぎが期待できる!面接申し送り例フォーマット

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