【人材紹介サービスのプロに聞く】採用候補者の入社意向の高め方。面接前後に“見落としがち”なポイント解説

パーソルキャリア株式会社

エグゼクティブコンサルタント 石川英治(いしかわ・えいじ)

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  • スカウトメールは「選考プロセスに一貫して関われる人」から送り、採用候補者の心理に訴えかける内容にする
  • 知名度や待遇で劣る中堅・中小企業にも、採用候補者の入社意向を高める情報はあるはず。「ウチには魅力がない」で立ち止まるのはNG
  • 採用候補者が最も悩むのは、採用決定の連絡をもらってから正式に承諾されるまでの期間。現職からのカウンターオファーなども想定し、何でも相談してもらえる体制をつくる

現在は、人材紹介サービスやダイレクト・ソーシングといった手法も広がっており、採用候補者1人あたり、20社以上の選考を受けるのが当たり前になっています。そんな時代に自社を選んでもらうのは本当に至難の業です。特に大企業と比べて知名度や条件で劣り、採用ノウハウも十分に蓄積されていない中堅・中小企業の中には、採用候補者の入社意向醸成に頭を悩ませているところも多いはず。

エグゼクティブ専門の人材紹介サービス 「パーソルキャリア エグゼクティブエージェント」で活躍する石川氏は、「採用候補者によっては月に300件のスカウトメールが届くこともある。募集企業だけでなく求人情報の流通パターンも増えており、以前にも増して意向醸成の重要性が高まっている」と指摘します。

選考プロセスや面接において自社の魅力を効果的に伝え、採用候補者の入社意向を高めていく秘訣はどこにあるのでしょうか。

異業種にいる採用候補者の心理を「社内で学ぶ」方法

——応募前の段階で転職希望者に興味を持ってもらうための方法として、石川さんは普段、企業にどんなことを提案していますか? 

石川氏:まずは採用候補者と最初にコンタクトするきっかけとなるスカウトメールの内容を非常に重視しています。特に「企業情報の伝え方」と「誰から情報を届けるか」は重要だと認識していますね。

 

企業情報については、「当社の話をさせてください」というスタンスではなく、転職希望者に対して「こんな志向を持っていませんか?」と投げかける形で伝えることが重要です。たとえば私が担当する自動車関連の中堅部品メーカーの場合、スカウトメールには「従来の製品の成長性に不安を抱えていないか?」「より新しい領域へチャレンジしたい志向をお持ちでないか?」といったことからお伝えするようにしています。

転職データベースに登録している転職希望者には、濃淡はありますが、何かしら現状への不安や不満があるはず。その想いをイメージしながら採用候補者との接点を持たせていただいています。

——人事・採用担当者としては、同業であればまだしも、異業種にいる人の心理を推し量るのは難しいかもしれません。

石川氏:確かに私たちは人材紹介サービスの立場なので、さまざまな業界の採用候補者心理を知ることができる強みがあります。ただ、企業の人事・採用担当者の立場でも難しいことではないと考えているんです。

実は、一番確かな情報は社内にあると思っています。たとえば、過去に異業種から中途入社した人に「どんな想いで転職の意思決定をしたのか」を改めて聞くのも大切だと思いますね。当時の悩みや不安を聞くことで深い気付きを得られるかもしれません。これをやっている企業は意外と少ないのですが、社内に貴重な情報源があることを認識していただきたいです。

代表の名前で送ったスカウトメールが逆効果になることも…

——もう1つの「誰から情報を届けるか」については。

石川氏:同じ情報であっても、転職希望者はそれを誰から伝えてもらったかによって異なる反応を示すことがあります。これは人材紹介サービスの世界でもよく起きることです。

たとえば以前にお手伝いしたある転職希望者は、他の人材紹介サービスから紹介された求人に対して、応募への意欲が上がらずに判断を保留していました。しかし私が同じ企業の求人を紹介したところ、「面白そうなので受けたい」と言ってくれたことがあったんです。

私はその企業に4〜5年携わっていたため、詳しい情報を持っていました。加えて、転職希望者には私自身のバックグラウンドや想いなども伝えていたので、個人としての信頼関係を築けており、同じ求人に対しても捉え方が変わったのだと思います。

 

——企業からスカウトメールを送る際にも、「誰から送ったか」が重要になるのでしょうか。

石川氏:はい。効果的だと感じているのは、入社後に採用候補者の上長や同僚となり、採用プロセスにも一貫して関わってもらえる身近な人からメッセージを届けることです。

採用候補者が知りたいのは、誰とどんなふうに仕事を行うかです。実際に一緒に働く人からのメッセージであれば、部署や仕事に関するリアルな情報に加え、入社後を見据えて上長や同僚が持つ想いを知ることができます。採用候補者が最も知りたい情報を届けることで、信頼関係を築くことができるのです。

——中堅・中小企業では、最初から社長の名前でスカウトメールを送るのも効果的ですか?

石川氏:役員・部長層などの採用で、社長がカジュアル面談から最終面接まで選考プロセスに関わり続けられるのなら効果的でしょう。しかし一貫して関われないなら、スカウトメールを社長の名前で送るのは避けたほうがいいと考えます。

なぜなら、状況によっては採用候補者の期待を裏切ることになるかもしれないからです。採用候補者にしてみれば、社長の名前でスカウトメールが届いたのに、その後の返信が人事・採用担当者からだと拍子抜けしてしまうでしょう。社長からスカウトメールが届けば、初回のカジュアル面談でも社長と話せるものだと思ってしまうかもしれません。

採用候補者に「この企業は社長の名前を使っているだけだ」と思われてしまうと、入社意向を高めていくのは極めて難しくなるでしょうね。こうした事態を招かないためにも、誰が情報を届けるべきなのか、スカウトメールを送る前から明確に設計することが大切だと思っています。

「ウチには魅力がない」は本当?採用候補者の好奇心をくすぐる自社ならではの情報

——面談・面接で企業の魅力を伝えるためには、どんなスタンスを持って臨むべきでしょうか。

石川氏:中堅・中小企業の場合は、採用候補者が前からよく知っている企業か、よほど採用候補者のキャリア志向にフィットしている場合を除いては、最初から入社意向が高いケースは少ないかもしれません。むしろ「採用候補者は自社に興味を持っていない場合がほとんど」だと考えておいたほうが良いと考えています。

ただ、最初の面談時点でまだ自社に興味を持ち切れていないことは、実はプラスの面もあります。採用候補者が先入観を持たずにフラットな状態で自社のことを理解してくれるからです。無借金経営を続けている、業界内で独自の立ち位置にいる、他社にはない独特の制度があるなど、「当社にはこんな強みがある」といった情報を伝えることで、採用候補者は好奇心をくすぐられるはずです。

——しかし中堅・中小企業は、知名度でも報酬・条件面でも大手企業に劣るところがほとんどだと思います。それでも採用候補者は魅力を感じてくれるのでしょうか。

石川氏:中堅・中小企業の人事・採用担当者は「ウチにはあまり魅力がないから…」と思い込んでしまっていることも多いように感じます。しかし本当にそうでしょうか?

知名度が低いとか、大手と比べて待遇が劣るといったことは採用候補者もよく理解しています。そうした部分に転職の優先順位を置いている採用候補者は、そもそも大企業だけを受けることが多いと思っていますね。

中堅・中小企業にも、自社ならではの制度や風土、商品・サービスの強み、社長が考えているビジョンや計画など、採用候補者が魅力的に感じる情報はきっとあるはず。それを日頃から振り返り、言語化しておくことも大切です。

——ここまで応募前から面接までの対応について伺いましたが、面接後に意識すべきことも教えてください。

石川氏:面接後のフィードバックですね。採用候補者が「自分のことを丁寧に見てくれたんだ」と感じられるよう、誠実にフィードバックすることが重要です。

私自身は採用候補者に対して「あなたのこの部分が評価されている」「一方、この部分は課題があるので、入社後にキャッチアップしてほしい」と、強みも弱みも率直に伝えています。それによって企業が採用候補者を丁寧に見ていることが伝わるからです。

人材紹介サービスを介さない場合は、面接官を務めた現場関係者が直接フィードバックする機会を持てないことも多いので、人事・採用担当者が間に立って情報をつなぎ、丁寧にフィードバックしていただくことが効果的だと思います。

「現職からのカウンターオファー」を想定したコミュニケーション

——選考が順調に進み、採用決定を出すタイミングとなった際に気を付けるべきことはありますか?

石川氏:選考プロセスの中で採用候補者が最も悩むのは採用決定の連絡をもらった後です。「本当にここに決めていいのか?」と再び考え、それまで高まっていた入社意向が大きく低下することもあります。

採用決定通知を出しても企業は安心しないほうがいいでしょう。昨今では、退職を切り出した採用候補者に対して、現職から大きなカウンターオファーが来ることも珍しくありません。これまでよりも良いポジションや良い待遇を提示され、現職に残ることを選択する採用候補者も多いんです。そのため、採用決定後も入社意向を高めるためのフォローを続けることがとても重要です。

——具体的にはどのようにフォローすべきでしょうか。

石川氏:基本的な部分としては、入社時の必要書類をそろえ、スケジュールを明確にして採用候補者に伝えることが大切です。「入社までに間に合えばいい」とあいまいに処理するのではなく、最短スケジュールの中で手続きを進められるように準備していただきたいですね。

そんなことは当たり前だと思うかもしれませんが、企業側は、採用候補者にとって重要な情報のやり取りを見落としがちです。実際にあった例では、車通勤が可能だと伝えていた採用候補者に対し、後から「入社後の2週間は手続きの関係で車通勤ができません」と連絡したことで辞退になってしまいそうなこともありました。

また、現職からのカウンターオファーを想定したコミュニケーションも重要です。

私の場合、初めての転職となる採用候補者の場合は特に力を込めて、「退職を切り出すと現在の職場から強く慰留されたり、これまでよりも良い条件を提示されたりすることがあります。それでも次の会社へ本当に移りたいですか?」と聞くようにしています。慎重に、慎重に、入社意思を確認した上で企業へ承諾の回答を出してもらうようにしています。

同じように企業側からも直接聞くべきではないでしょうか。入社までのスケジュールを明確にし、「可能ならこれくらいの時期までに退職交渉を終わらせてくださいね」とやり取りをしておく。その上で「困ったことがあったら何でも気軽に相談してください」と伝えていただくと良いと思います。

そうすることで、もし退職交渉でもめたり、長引いてしまいそうになったりしても、採用候補者から誠実に相談してもらえるでしょう。採用候補者にとって、退職交渉の悩みごとを打ち明けられる相手は限られています。だからこそ企業側が窓口となり、いつでも何でも話してもらえる状況をつくっておくことが大切です。

取材後記

日々多くの企業、採用候補者と向き合っている中で「この企業はもったいないと感じる瞬間は?」そんな質問をしてみたところ、石川さんは「自社の公式サイトを必ず確認しておいてほしい」と話してくれました。掲載されている写真がぼけていたり、事業に関するニュースリリースの最新履歴が数年前だったり…。そんな公式サイトを見て採用候補者の入社意向が大きく下がってしまうこともあるといいます。募集前にまずは足元から整えていく。地道ではありますが、それが入社意向を高める近道なのかもしれません。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

【中途採用成功ノウハウ】選考スピード化と意向上げ

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