リーダー・マネージャー層の採用に効く!?自社に合った優秀人材の“思考力”を見抜く「インシデントプロセス面接」とは
どの企業も優秀なリーダー・マネージャー層を必要としており、年々採用難易度が高まっています。さらには、候補者との限られた接点の中で、自社で活躍できる人材か否かを効果的に見極めることも難しく、この層の採用に苦労されている担当者の方は多くいるのではないでしょうか?
そこで、リーダー・マネージャー層の採用手法として近年注目され始めているのが「インシデントプロセス面接」です。
これは、企業やチーム内で起こり得る事例(インシデント)に対して、候補者自らが質問を行いながら原因究明や解決法を提示するまでの過程(プロセス)と、その結果から評価を行う面接手法。そうすることで、自社にあったリーダーやマネージャー候補となる優秀な層を見極めるのに有効と言われています。
さまざまな企業で採用や人事を経験し、現在は人事コンサルティング会社人材研究所の代表取締役である曽和利光氏も「インシデントプロセス面接は、プロジェクトやタスクをマネジメントするための“思考力”を測ることに適した面接手法である」と語ります。
しかし同時に、「この手法を活用するのに適した企業と、そうではない企業がある」とも同氏は指摘します。
では実際に、インシデントプロセス面接を行う際には何に留意し、どのように進めればよいのか、ポイントを伺いました。
インシデントプロセス面接は「思考力」を測る面接手法
曽和氏:面接は、大きく「構造化面接」と「非構造化面接」の2種類に分けられます。「構造化面接」は質問項目が決まっている、いわゆるマニュアル化された面接で、「非構造化面接」はフリートークのようなものです。「インシデントプロセス面接」は、構造化面接の中の一つで、組織内で発生している「課題」や「問題」を例としたケーススタディーに対して候補者がどう回答するのかを考察する手法。もっとわかりやすく言うと、「会社内でこんな問題が起こったケースで、あなたがマネージャーだったらどう考えますか?」と聞くようなイメージです。
具体的な流れとしては、まず採用担当者が提示したインシデントについて、候補者が質問をしながら情報収集を行います。候補者は集めた情報から発見した問題点に対する、原因究明や対策立案などを行いながら、解決に導くストーリーを策定します。最終的に、採用担当者や場合によっては該当部署のマネージャーやリーダーが、候補者が考えた解決までのプロセスや結果を評価する面接手法です。
曽和氏:まずは、どのようなマネジメント力を持った人材を採用したいのかを事前に考えておくことが重要です。
そもそも、企業におけるマネジメントというのは「タスクマネジメント」と「ピープルマネジメント」の2つに分けられます。「タスクマネジメント」は、仕事を分解してどのようなスケジュールで行うかなど、メンバーの進捗(しんちょく)管理やタスク管理などを行うこと。一方、「ピープルマネジメント」は、分解した仕事に誰をアサインするのか、仕事の内容をメンバーにどのように教え、評価するのかなど、人の「見立て」とも表現するアセスメント力が鍵となるマネジメントです。マネジメントの種類によって、それぞれ必要な能力やスキルが異なるため、これから採用する人にはどちらの能力が備わっていてほしいのかを明確にしておく必要があるでしょう。
曽和氏:「インシデントプロセス面接」は、2つのマネジメントのうち「タスクマネジメント」を重視する企業やチームリーダー候補の採用に適した面接手法と言えるでしょう。それは、「タスクマネジメント」に必要なスキルである、質問力や問題発見力、情報整理、分析、問題解決力といった「思考力」を問う面接手法であることが理由です。そのため、候補者が持つ「思考力」を重視し、リーダー・マネージャー候補となる人材を採用したい企業にはとても有効だと思います。
また、事業の仕組みや作業のマニュアルが確立されており、決められたフロー通りに行うことが正解である企業と、インシデントに対してどう行動するか一人一人が考え行動する権利が与えられている企業でも違います。「インシデントプロセス面接」に向いているのは、もちろん後者の企業です。
採用ポジションをイメージした「インシデント」と「多面的な評価」が重要に
曽和氏:「インシデントプロセス面接」は思考力を測るのには適していますが、「ピープルマネジメント」に必要とされるアセスメント力や、その人個人の人間性を測る指標としては使用しにくいと感じます。このため、構造化面接の中に「インシデントプロセス」を問う質問を入れ込むと、より広い範囲でリーダー層の採用に活用できるでしょう。
このとき重要なのが、「どのような行動をしたか」という行動面を問うものではなく、「問題解決のためにどのように考えたか」というような思考面を問うことです。また、企業やチームの形態によって、起こるインシデントが変わってくるため、実際に社内で起こっているインシデントを基に現場のメンバーやマネジメント層を巻き込みながら、質問のシナリオをつくることも大切です。
曽和氏:思考力が測れる面接手法であるとお話ししてきましたが、実際に「インシデントプロセス面接」においてそれを見抜くのは容易でないのも事実です。一般的に、「人間は自分より能力が高い人の能力を判定することは難しい」と考えられているため、1人では適正な評価を行えない場合が多くあるでしょう。
ですから、採用担当者が1人で評価を行うのではなく、現場のマネージャーやチームリーダーなど、さまざまなメンバーに関わってもらったり、アセスメントツールなども活用して多面的な視野から評価をしたりする必要があります。近年では、オンライン面接も主流になってきていますが、その場合は録画を残すなどして、複数のメンバーで確認するようにし、それぞれの視点からフィードバックを受け、最終的な評価をするのもよいでしょう。特に、リーダー・マネージャー層の採用のミスマッチは組織運営上のリスクにもなりかねないので、面接の効果を最大限機能させるためにも、評価のフェーズも丁寧に実施していくことが大切です。
インシデントプロセス面接に活用できるフレームワーク
曽和氏:インシデントを構成する要素には、「環境」「問題」「思考」「対策」「苦労」「結果」の6つがあります。面接で使用するインシデントをつくる際には、この6つを基本に、現場の状況を確認したり、意見聴取を行ったりするとよいでしょう。
各項目を説明すると、環境とは、「何人のチームなのか」「チームの雰囲気はどうなのか」など。問題は、「どのような問題が起きたのか」ということを、数字を入れてできるだけ定量的に設定します。思考は、レバレッジポイントはどこなのかという原因を分析する視点と、問題を解決するためにどのような案を策定するのかという対策立案の視点を入れ込むよう配慮しましょう。思考を基にして立案した対策を行い、気付いた点や改善点などを洗い出すのが苦労です。そして、最終的な結果を入れ込みます。
社内でそれぞれの状況把握ができたら、客観的な視点を入れるために、第三者に取材してもらうことなども有効です。例えば、会社のパンフレットや求人広告を作成するように取材をしてもらうことで、より現場で実際に起きている問題を取り入れたインシデントを作成することができます。
インシデントプロセス面接を実践する際には、現場で実際に起こっている事例を面接でのインシデントに置き、より現実的な視点で評価することを心がけましょう。
【取材後記】
自社で活躍できるリーダー・マネージャー層の候補者を見極めるのはとても難しく、採用の難易度の高さから苦労している担当者の方が多くいる現実が見えてきました。
今回の取材の中で曽和さんは、「『インシデントプロセス面接』は、一般の面接で抜け落ちてしまいがちな思考力を見るにはとても強い選考手法である」とお話しくださっています。採用したい人材に合わせたインシデントを設定し、構造化面接の中にインシデントプロセスの質問を取り入れるなどの工夫を凝らすことで、リーダー・マネージャー層の採用成功につながるのではないでしょうか。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社はたらクリエイト