中小・中堅企業必見!「嫁ブロック」「夫ブロック」の裏側に潜む事実。見えない採用の壁を打破するためのヒントとは

ポジウィル株式会社

代表取締役 金井芽衣(かない・めい)

プロフィール
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  • 妻や夫などパートナーから反対されて転職を断念する人は実際に多い。嫁ブロック・夫ブロックに遭いやすいのは「上場企業からスタートアップへの転職」「年収が下がる場合」など
  • 嫁ブロック・夫ブロックに遭っている転職希望者の本音を引き出すためには、企業は転職希望者を見極めるのではなく味方になるスタンスで面談をすること
  • どうしてもパートナーの懸念を拭えない場合、企業は早期に「次」を考えるべき。入社してもらえたとしても早期退職の懸念あり

さまざまな職種で求人倍率が上昇し続け、企業がほしい人材を採用することは以前にも増して難しくなっています。こうした中、中小・中堅企業の人事・採用担当者をさらに悩ませているのは、有力な応募者が家族などのパートナーから反対されて入社を辞退してしまうこと。俗に「嫁ブロック」「夫ブロック」などと言われる現象(※)です。
(※)この記事ではパートナーによる転職への抵抗・制止の意味で「嫁ブロック」「夫ブロック」を使用しています

キャリア特化型パーソナルトレーニングサービス「ポジウィルキャリア」を運営する金井氏は、「実際にパートナーの反対に遭って転職を断念する人は多い」と話します。個人の生き方支援カンパニーとして多様な相談に応じる同社では、こうしたケースでも徹底的に相談者と向き合い、場合によってはパートナーとの関わり方を根本的に見つめ直すようアドバイスすることもあるそうです。

なぜ嫁ブロック・夫ブロックが発生してしまうのか。パートナーに反対されやすい求人にはどのような傾向があるのか。そして嫁ブロック・夫ブロックを乗り越えることはできるのか。実際の相談事例を交えて語っていただきました。

嫁ブロックの事例。転職を切り出したことで、離婚騒動にまで発展!?

——ポジウィルキャリアが提供するキャリアトレーニングの過程で、相談者がパートナーの反対に遭って転職などを断念してしまうケースは実際にありますか?

金井氏:そうした例は少なくありません。中にはパートナーから激しく反対され、夫婦関係の危機に陥ってしまったケースもあります。

大手総合商社に勤務していた男性の例では、出張の多い日々に疲れて別の業界の大手企業への転職を検討。採用決定を得るところまで進んだものの、奥さまから「私は商社で働いているあなたと結婚したのに」「本当に転職するなら離婚する」とまで言われてしまいました。結果的にこの男性は転職を断念しています。

——転職を考えたことが離婚の理由にまで発展してしまうのですね…。

金井氏:これは極端なケースだと思います。ただ、大企業やブランド力のある有名企業で働く配偶者のことを自慢にしている人は少なくないとも感じますね。企業名や職業でパートナーを選ぶ人は確かにいますから。

女性が夫に反対されることもあります。当社でよく聞くのは「キャリアトレーニングにお金を使うな」と言われてしまうケース。当社のサービスは企業からお金をいただく一般的な人材紹介サービスとは違って、個人からお金をいただき、「一人ひとりがどう生きたいか?」をベースにしたキャリアトレーニングを提供しているんですね。決して安くはない金額なので、新たなキャリアや生き方を描きたいと思っていても、夫ブロックによって踏み出せずにいる女性も多いんです。

いずれのケースでも、反対する人はパートナーが自分の思い通りに動いてくれないことでイライラし、時には感情的になってしまうのではないでしょうか。

——パートナーから反対されやすい求人や企業には、どのような傾向がありますか?

金井氏:上場企業からスタートアップへの転職など、企業規模が大きく変わる際は反対されやすいですね。大手でもブランドイメージが良くない企業は反対されることがあります。

勤務条件も反対されやすいところ。年収が下がってしまう、土日が休みではない、残業が多い、転勤が多いなどの条件があると、転職希望者本人が受け入れていてもパートナーが納得しないことが多いです。

既婚・子持ちの女性の場合は、子育てに支障が出そうな転職について夫から反対されることも。残念なことですが、「夫が育児や家事に非協力的なのでフルリモート・フルフレックスの企業でなければ働けません」と話す女性は少なくないんです。

嫁ブロック・夫ブロックに遭っている転職希望者の本音を聞き出し、その懸念を払しょくするために

——採用する企業側の視点で考えれば、転職希望者がパートナーの反対に遭って選考や採用決定を辞退してしまうのは本当に悩ましい問題だと思います。企業が転職希望者やパートナーの本音をつかむためには何をするべきでしょうか。

金井氏:選考プロセスを進める中で転職希望者が悩んでいること自体をつかめていない企業も多いのではないでしょうか。

即決できない転職希望者は、必ず何かに悩んでいます。決められないことには理由があるんです。「何が原因で悩んでいるんですか?」「決められない理由は?」と率直に聞くべきでしょう。営業と同じで、相手に「検討します」と言われ、そのままにしておいても前に進みません。“何を”検討しようとしているのかまで丁寧に聞き出し、その要因を解決するために動くことが重要です。

——転職希望者がなかなか打ち明けてくれないときは?

金井氏:転職希望者によっては、人事・採用担当者や経営者には入社を決められない理由を打ち明けにくいと感じることもあるかもしれません。そんなときは転職希望者と年齢や立場が近く、本音を話しやすそうな社員をアサインして、代わりに話を聞いてもらうことも効果的だと思います。転職希望者を見極めるのではなく、転職希望者の味方になるスタンスで面談すれば、きっと本音を打ち明けてくれるはずです。

——決められない理由がパートナーの反対によるものだと分かった場合、パートナーの懸念を拭い去るためにできることはあるのでしょうか。

金井氏:誠意を持って説明すれば払しょくできる部分もあると思います。

私は起業前に人材紹介サービス会社でリクルーティング・アドバイザー(RA)として働いていました。当時、嫁ブロック・夫ブロックによって転職希望者が悩んでいると分かった場合には、パートナーが懸念している“こと”を転職希望者に聞いてもらい、その懸念を払しょくするための文書を作って渡していました。

勤務条件についての懸念に対しては、「入社時の年収が前職より下がっても、一定の成果を出せば○年目に△△△万円まで上がる可能性がある」など、将来的に期待できる要素を分かりやすい資料にまとめていました。企業規模やブランドイメージを懸念している場合も、理念やビジョン、取り組んでいる事業の目的などを明確かつ誠実に説明すれば理解してもらえる可能性があります。

企業によっては、転職希望者本人だけでなく家族向けに説明会を開いているところもあります。入社後のフォローも含めて考えると、ファミリーデーの取り組みもこれに近いのかもしれません。

——求人票などでは伝えきれない、未来への展望を理解してもらうことが大切なのですね。

金井氏:とはいえ、それでもパートナーの懸念を払しょくしきれないことは多々あると思います。大幅な給料アップを約束することは難しいし、待遇を急に改善できるわけでもない。パートナーをなんとか説き伏せて転職したとしても、転職希望者本人としては家庭での納得を得られていないまま働き続けるのはつらいでしょう。

どうしてもパートナーの懸念を解消できない場合、企業は無理にクロージングしようとせず、諦めて次の転職希望者へ向かうことを決断するのも大切だと思います。

私はRA時代、「明らかに可能性がない転職希望者は追いかけないほうがいい」「これ以上こだわっても消化試合になってしまう」と企業に明確に伝えていました。入社してもらえたとしても早期離職する可能性が高いですから。そうなってしまっては、転職希望者もパートナーも企業も、誰も幸せになれないんですよね。

相談者が抱える問題の本質を理解するために、あえて「劇薬」を用いて問いかけることも

——企業とパートナーとの板挟みになって悩む転職希望者との向き合い方についてもお聞かせください。パートナーからの反対に遭っている相談者へ、金井さんはどのように対応していますか?

金井氏:カウンセラーとしては当然のことですが、まずは「相談者の話をとにかく聞く」ことに徹していますね。なぜ悩んでいるのか。なぜ現在の状況に陥っているのか。話を聞いていくと、問題の本質がどこにあるのかを自分で理解していない人も少なくないんです。

「私はフルリモート・フルフレックスの会社でしか働けない」と話す女性のケースで言えば、問題の本質は育児・家事の負担が妻に偏っていること、そして、それを継続してしまっている夫婦関係にある。このように嫁ブロック・夫ブロックの原因を紐解いていくと、夫婦で対話をしていないケースがとても多いことに気付きます。

パートナーと向き合い、互いの意見を伝えて理解し合う時間を取ることで大きな変化につながり、夫婦関係が改善されることも少なくありません。これにより、転職活動時の嫁ブロックや夫ブロックがなくなることもあると思います。

——最も身近であるパートナーとの関係について、自らで課題を認識するのは難しいようにも感じます。どのような問いかけが必要なのでしょうか。

金井氏:私の場合は「5年後にどんな状態だったら最悪か」をあえて聞くこともありますね。極端な未来像を想定し、そこから逆算して考えるということです。

悲観的な人の場合は悲劇的な未来をイメージしてしまうので、ある意味では劇薬かもしれません。それでも「現状のままだとその未来が実現してしまう…としたら何を変えるべきか」を考えることに意味があるんです。

私たちは「個を変え、社会を動かす、生き方支援カンパニーへ。」というビジョンに基づいて行動しているため、ここまで徹底的に相談者の人生と向き合っています。採用のための選考プロセスにも、それに近しい覚悟が求められるのではないでしょうか。嫁ブロック・夫ブロックという現象の裏側には、転職希望者の人生を左右する本質的な問題があるのかもしれない。そうイメージするだけでも、転職希望者との関わり方が変わるはずです。

取材後記

どんなに深くつながるパートナー同士でも、どこかに関係性のほころびが生じるもの。それを防ぐためには常日頃から本音で対話することが欠かせません。金井さん自身は夫婦間でのコミュニケーションを深めるために「家族経営会議」を開いているそうです。といっても自宅内での軽い会話ではなく、外部の会議室を押さえ、会議用の資料も作成して、本気で家族の展望や課題について話し合うとのこと。そう聞いて「ウチではさすがにそこまでは…」と感じる人も多いのでは(筆者や編集者たちはそうでした)。同じように転職希望者の多くも、最も身近なパートナーとの対話が不足しているのかもしれません。人事・採用担当者が転職希望者と向き合うことは、そうした状況にも思いをはせるということ。手っ取り早く簡単に採用成功する方法などないのだと、改めて感じさせられる取材でした。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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