欲しい人材に出会えないのは“書類選考”に問題?すぐ取り入れたいレジュメ確認方法

株式会社人材研究所

安藤健(あんどう・けん)

プロフィール
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  • 書類選考合格率のボーダーラインは7割以上。人材紹介サービスとの関係性を良くする上でも、できるだけ応募者と会うスタンスを
  • 書類選考では過去の在籍企業や目立つエピソードに引きずられる例も。バイアスに左右される「もったいない書類選考」を防ぐこと
  • 書類選考で見るべきポイントは最低限にとどめる。MUST & WANTに加え「なくてもいい要件」を設定・共有することで採用成功へ

採用難時代にあって母集団形成に苦しむ企業が増えています。しかし、採用できないのは本当に外部環境だけが原因でしょうか?せっかく応募してくれた人に対して適切に書類選考を行えていなかったり、レジュメを厳しく見すぎたりして、本質的な要件を理解する前に自社に最適な人材を落としてしまう…。そんなもったいない採用活動をしてしまっているかもしれません。

たとえば「余白がなくびっしり書かれているレジュメ=意欲的なレジュメだと誤解してしまう」「休職期間などのブランクがあるとすぐ不合格にしてしまう」「要件に優先順位をつけず学歴・年齢・転職回数で選びがち」など、どんな企業にも、いつの間にか当たり前になってしまっている書類選考の落とし穴があるもの。

数多くの企業の人事コンサルティングに携わる株式会社人材研究所の安藤氏は、「書類選考の基本方針は“迷ったら合格”にすべき」だと指摘します。採用がうまくいっている企業はどのように書類選考を進めているのか。その具体策を聞きました。

書類選考合格率のボーダーラインは7割以上にすべき

顎を触るスーツ姿の男性

——採用難が続く中で、安藤さんは書類選考の重要性をどのように捉えていますか。

安藤氏:書類選考ではまず「落としすぎない」ことがとても大切だと考えています。

私が支援する企業には「書類選考合格率のボーダーラインを7割にすべき」とアドバイスしています。10人の応募があれば、少なくとも7人は通したほうがいいということです。合格率がこのボーダーラインを下回っている場合は、書類選考の在り方を見直すことを強くオススメします。

——書類選考の基準が厳しすぎることで貴重な転職希望者を逃していると。

安藤氏:はい。そもそも、履歴書や職務経歴書で見えるものは転職希望者のごく一部だけです。前職の仕事やプロジェクトについて詳しく書かれていたとしても、それらの場面ごとに何を思い、どんなふうに動いたかまでは分かりません。直接聞いてみなければわからないコンピテンシーがあるのに、それをせずに転職希望者が書いた情報だけでジャッジするのは非常にもったいないですよね。

最近では採用成功に必要な要素として「エージェントマネジメント」の重要性も指摘されるようになりました。中途採用では人材紹介サービスに頼ることが多いと思いますが、現在は採用したい企業がたくさんある一方で転職希望者が少ない状況です。人材紹介サービス側は企業に対して「とにかく一度、転職希望者に会ってみてほしい」と考えているのが本音でしょう。

それなのに書類選考合格率が7割を切っていると、人材紹介サービス側から「この企業は書類が通過しにくい」と思われ、紹介が次第に減っていく可能性もあるのです。エージェントマネジメントにおいては、「この企業は紹介した転職希望者を大切に見てくれている」と感じてもらうことが重要。

書類選考のチェックポイントは必要最低限に、基本方針は「迷ったら合格」にして、できる限り面接で会って確認するスタンスが望ましいと考えています。

人材紹介サービス側から嫌われてしまった企業の書類選考改革

ペンと紙

——厳しく書類選考を進めることで、人材紹介サービス側から敬遠されてしまった実例もあるのでしょうか。

安藤氏:実際にありますよ。私が支援していたあるメーカーでは書類選考合格率が極めて低く、2割程度しかありませんでした。そのうち人材紹介サービスからの紹介が減り、この企業は契約する人材紹介サービスを次々に増やしていったのです。

最終的には約200社の人材紹介サービスと契約しましたが、1社あたりのコミュニケーション量が極端に減り、希薄なコミュニケーションばかりになって、母集団形成がさらに厳しくなるという負の循環が続いていました。

——この状態をどのように立て直していったのですか。

安藤氏:書類選考合格率を高めるためのルールをつくりました。前述の通り書類選考合格率7割をボーダーラインと置き、書類選考は基本的に通すことを方針としたのです。

そうなると必然的に現場が対応しなければならない面接数が増えます。現場からも理解を得られるよう丁寧に説明しましたが、多忙の中では大量の面接に対応しきれないという問題もありました。

そこで各部門にアンケートを行い、募集する各職種の「要件の重みづけ」を明確にしました。「TOEIC○○○点以上」「●●●の有資格者」といった要件を洗い出し、優先順位を決めたわけです。これをもとに書類をABCの3段階で判定できるようにし、人材紹介サービスからの紹介時にも応募者の優先順位をABCでつけてもらうようにしました。このランク分けを面接の優先順位や日程調整に反映し、最適な応募者を逃さないようにしました。

この対策は人材紹介サービス側からも好評でした。人材紹介サービス側が避けてほしいのは、会ってもいない転職希望者を書類だけで落とされてしまうことです。企業側が面接した上で不合格だった場合は応募者へ適切にフィードバックできますが、書類選考で落とされてしまうとそれさえできませんから。

よくある「もったいない書類選考」6例

——なぜ企業側の書類選考はうまくいかないのでしょうか。さまざまな企業を見てきた中で、安藤さんが感じる「もったいない書類選考」の例を教えてください。

安藤氏:実例の中から、よくあるケースをご紹介します。

余白のないレジュメを高く評価し、余白が多いレジュメを落としてしまう

レジュメに余白がないくらい書かれていると、「この応募者は意欲的だな」と感じるかもしれません。しかし現在の転職市場では、引く手あまたの転職希望者ほど1社あたりの志望度は低いもの。現職で活躍している人ほど忙しく時間がないため、レジュメをそこまで熱心に書いていない可能性もあります。また、ほとんどの転職希望者はエントリー時点ではそこまで志望度が高まっていません。選考に進み人事・採用担当者や現場関係者と会話する中で志望度が高まっていくのです。書類の段階で意欲や志望度を測ろうとするのには無理があります。

少しでもブランクがあると落としてしまう

ブランクが少しでもある応募者は落とすと、内規で定めている企業も実際にあります。しかし最近では、退職後に数カ月の休みを取って学び直す人が増えていますし、育児や介護などのやむを得ない事情でブランクが生じることもあるでしょう。「1カ月以上のブランクがあれば面接で理由を聞く」程度の決め事にして、書類選考で落とす条件にはしないほうがいいですね。

転職回数の多さを理由に落としてしまう

最近では減ってきたものの、昔は「20代で2社以上、30代で3社以上を経験しているとジョブホッパー=離職傾向が高い」というラベリングをしている企業も多かったと思います。転職が当たり前になって転職市場が活性化している今、外資系企業などは特に、応募者の転職回数を気にしていません。いまだに転職回数を不合格の理由にしている企業は、その考え方をすぐにやめたほうがいいと思います。

知らない職種・用語を理解できずに落としてしまう

自分と同じ領域なら共通言語で理解できるものの、あまり知らない職種については「何が書かれているのかもわからない」といったことがあると思います。たとえばエンジニア経験のない人事・採用担当者が専門的な技術用語の羅列を見て、すぐに理解するのは難しいでしょう。恐ろしいのは、理解できないまま不合格にしてしまうこと。こうした場合は人事・採用担当者が見るのは最低限にして、専門的な内容は現場に見てもらうべきです。

過去の在籍企業の知名度で判断してしまう

高い知名度を持つ大企業や、書類選考担当者が知っている企業に在籍していたからという理由で通過させ、他の応募者を落としてしまうこともあります。心理学では最初に提示された情報に強く影響されてしまう「初頭効果」が知られており、まさにこのバイアスがかかっている状態です。中には「特定の企業に在籍している人しか通さない」とまで内規で決まっている企業も。過去の在籍企業によって活躍できるかどうかが決まるわけではないので、非合理的な判断だと言えます。

特定の応募者が書く目立つエピソードに引きずられてしまう

心理学では、一部の目立つ特徴に気を引かれて全体を正しく評価できなくなる「ハロー効果」というバイアスが知られています。複数の応募者のレジュメを同時に見る際、その中に「○○のイベントを企画して数千人を集め…」といった目立つ内容があると、他のレジュメが陳腐に見えてしまうかもしれません。本来は応募者ごとに絶対評価をしなければいけないのに、決まった人数の中で相対評価をしてしまうようになるのです。人が人を判断するときにはバイアスがかかるもの。それを自覚して書類選考に臨むべきでしょう。

MUST & WANTだけでなく「なくてもいい要件」も設定・共有

——もったいない書類選考を避け、自社に最適な応募者を見落とさないようにするためには、どんな準備をしておくべきでしょうか。

安藤氏:まず重要なのは、募集ポジションの人材要件を整理することです。人材要件を整理する際には「絶対に必要なもの」(MUST要件)と「あればうれしいもの」(WANT要件)を軸にすることが多いと思いますが、これらに加えて「なくてもいいもの」を考えておくことがポイントです。

つまり、何を捨てるのかを決めておくということ。捨てられる要件としては、入社後に育成できるものが挙げられるでしょう。たとえばエンジニアの場合なら、業務に必要な言語の中にも、入社後に学べるものがあるかもしれません。現場と擦り合わせをして「なくてもいい要件」を明確にしておけば、書類選考の合格率を高められるはずです。

——「なくてもいい要件」が関係者間に共有されていれば、その後の面接精度も高まりそうですね。

安藤氏:はい。書類選考や一次・二次面接などの各プロセスで何を見極めるべきかを決めておく上でも重要だと思います。特に、書類選考で見るのは最低限の項目だけにしたいですね。

「募集ポジションの想定年収と応募者の希望年収が明らかに乖離(かいり)している」など、応募者が求める条件をかなえられる可能性がない場合のみ、書類選考で落とすという基準でもいいと思います。書類選考で見るべきポイントはほとんどなく、落とすこと自体がレアだという認識を持つようにしてください。

——応募者にとっては他社も選択肢にあり、現職から好条件で引き留めに遭うことも想定されます。こうした中で最近では「選考のスピードアップ」の重要性も指摘されるようになりました。

安藤氏:書類選考もスピード対応が重要です。採用がうまく進んでいる企業では、レジュメを受領してから一両日中に結果を返すのが基本になっています。他社が結果を次々に連絡しているのに自社だけ書類選考が遅いと、応募者からは忘れ去られてしまうかもしれません。

最近では「書類選考を行わない」と公言する企業も出てきています。エントリー後にすぐ面接日時を設定し、当日までに履歴書や職務経歴書を準備してもらうという流れです。人事と現場が密に連携して、これまで以上の多くの面接に対応する準備を整えています。

どんな業界でも、採用競合はここまで工数をかけているのだと認識すべきでしょう。どうしても工数をかけられないのであれば、書類選考や一次面接を外部へアウトソーシングすることも検討すべきです。今は、そこまでやらなければいけない時代なのです。

写真提供:株式会社人材研究所

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取材後記

ひと昔前まで、書類選考は「応募者を足切りするためのスクリーニング」として重要なプロセスであり、現場にはできる限り「有効面接」を設定することが求められていたように思います。安藤さんへの取材を通じて、その常識が完全に塗り変えられてしまったことを痛感しました。できるだけ多くの応募者と会う。そのために必要な工数を厭わない。現在の採用成功企業には、そんな覚悟が求められているのではないでしょうか。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

欲しい人材を“落としすぎない”ための書類選考チェックシート

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