お祈り“メール”をお祈り“エール”に変える!ABABAに学ぶ「応募者との縁をつなぎ続ける」不採用通知の届け方【連載 第20回 隣の気になる人事さん】

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他社の最終面接まで残った応募者へスカウトを送れる『ABABA』。応募者の強みを深掘りする会話から入れるため、選考プロセス全体の効率化にもつながっている
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お祈り“エール”の文面では応募者への感謝を伝え、評価したポイントを明確にし、可能であれば「再チャレンジ歓迎」の想いも届ける
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多数の応募者と向き合う大手企業と比べ、中堅・中小企業ではよりきめ細やかな不採用通知を書けるはず。お祈りエールによって大手企業と差別化するチャンスあり
全国各地の人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、気になる取り組みの裏側を探る連載企画「隣の気になる人事さん」。
第19回の記事に登場した第一生命保険株式会社の竹内晴哉さんは、お祈り“メール”をお祈り“エール”に変えるプラットフォーム『ABABA』を開発・運営する株式会社ABABAを気になる企業として紹介してくれました。
▶第一生命保険の竹内さんが登場した第19回の記事はコチラ
会社を飛び出し、自分のキャリアは自分で決める!企業版ふるさと納税(人材派遣型)を活用した第一生命保険の“キャリアオーナーシップ”とは
同社が運営するプラットフォーム『ABABA』は、最終面接まで進んだ就職活動中の学生のみが登録でき、最終面接まで進んだ企業のライバル企業や類似企業から、選考フローを大幅にカットしたスカウトを受け取ることができるサービス。企業側は最終面接まで進んだ応募者だけにアプローチでき、エントリーシートや一次面接などの選考をスキップすることで、選考時間の削減につなげることができます。また、最終面接で採用しなかった学生向けに、企業側が『ABABA』への登録を促し、登録した学生の推薦文を入力することで他社にオススメする機能も備えています。
人事・採用担当者としては、時間を割いて選考に参加してくれた応募者へ不採用通知を送らなければならない申し訳なさや、不採用通知によって自社のブランドイメージを傷つけてしまう懸念を覚えることもあるのでは。ABABAの取り組みから、「応募者に好印象を残せる不採用通知」のヒントが得られるかもしれません。

不採用通知によって応募者から感謝され、新たな選考への挑戦を後押しできる
——プラットフォーム『ABABA』についてお聞きします。お祈りメールを「お祈りエール」に変えるプロセスや、御社からの支援内容について教えてください。
久保氏:私たちは、プラットフォームを利用する企業から採用活動への想いや人事・採用担当者の考えなどをヒアリングし、「不採用者に送るべきエール」を文章として提案しています。それによってテンプレートの定型文による一律のお祈り“メール”ではなく、個別の応募者に響く“エール”にしたいと考えているのです。
そして、このエールの中で応募者向けのABABAのサービスを紹介しています。最終面接まで残った人を他社が評価してくれるプラットフォームとして登録を促し、現在は6割近い応募者が登録してくれている状況です。
契約企業は、他社で最終面接まで残った人の情報を見てスカウトメールを送れます。書類選考や一次面接をスキップするなど、多くの企業が選考面で優遇していますね。

——ABABAのサービスを通じて生まれた採用成功事例をお聞かせください。
久保氏:ある大手通信系企業では、最終面接で700人近い応募者が不採用となっていました。その中で約500人がABABAに登録し、他社からスカウトメールを受けて採用決定に至っています。たとえば大手金融系企業には、お祈りエールをきっかけに3人の入社が決まりました。企業間の協力によって、最適な人材が見過ごされることなく採用につながっています。
大手通信系企業としては個人向けのサービスを展開していることもあって、人事・採用担当者にはお祈りメールを送ることに躊躇(ちゅうちょ)する想いもあったといいます。エールに変えたことで、今では最終面接に落ちた学生から感謝の声が届くようにもなりました。
スカウトメールを送る別の企業にとっては、応募者の基本情報に加えて「他社の最終面接まで進んだ」という実績がわかるメリットがあります。選考では「最終選考まで進めた要因」や「あと一歩足りなかった部分」など、応募者の強みを深掘りする会話から入れるため、選考プロセス全体の効率化にもつながっているようです。
感謝の気持ちを伝え、評価点を明確にするお祈りエールの具体例
——『ABABA』の考え方を中途採用へ応用するためのヒントをお聞かせください。不採用通知を書く際には、どのような点に留意すべきでしょうか。
久保氏:応募者の評価している点と、自社に合わなかった点を明確にし、それぞれについて丁寧に書くべきです。加えて、自社の方針としてNGでなければ、「またいつでもチャレンジしてほしい」といったニュアンスを加えてもいいかもしれません。
以下で、よくあるテンプレート的で簡素なお祈りメールの例と、応募者への想いを込めたお祈りエールの例を提示します。
【簡単なお祈りメールの例】

丁寧な言葉で記載しているものの、不採用の通知のみを伝える淡々とした定型文的な文面(画像提供:株式会社ABABA)
【応募者への想いを込めたお祈りエールの例】
○○さま
この度は弊社の最終選考にご参加いただき、誠にありがとうございました。弊社にご興味をお持ちいただき、貴重なお時間をいただいて選考に進んでくださったこと、心より感謝申し上げます。
慎重に検討を重ねた結果、誠に残念ながら、今回は採用を見送らせていただく結果となりました。
当社はBtoB企業であり、○○さんにとってはなじみのない企業だったかと思いますが、創業以来から大切にしてきた価値観やスピリット、そして何よりも、過去より紡いできた独自技術をベースに未来を変えていこうとする弊社の姿勢を深くご理解いただき、次のキャリアの場として弊社をご検討いただいたこと、大変うれしく感じております。
○○さんが前職で培われた経験、とりわけ業務改善プロジェクトに貢献した実績や、その中で得たプロジェクトマネジメントの知見は、弊社にとって大変魅力的でした。一方で、現在弊社が進めているプロジェクトの規模感を鑑み、○○さんにとって最適な活躍の場を提供することが難しいと判断するに至りました。
○○さんが伝えてくださった想いにお答えすることができず、大変歯がゆい気持ちです。今回はご縁をつなぐことはかないませんでしたが、フィールドは違えど、社会問題と向き合い、未来を変えていく志は同じであると考えています。
弊社ではこれからも、誰かをワクワクさせたいという気持ちを大切に、好奇心と行動力をもって、新しいものを創り出していきます。○○さんにおいても、さらなるチャレンジを重ねてますます躍進されますこと、心より応援しております。
勝手を申し上げますが、○○さんにはぜひ今後とも、弊社の取り組みに注目していただけたらと考えております。下記のリンクから、弊社の最終選考へ進んでいただいた方向けに発信するメールマガジンのご購読を登録いただけますので、ご興味を持っていただけましたらご活用ください。いずれ、今回とは異なる新たなポジションでの募集が始まる際にはいち早く情報をお届けする予定です。その際には、○○さんに再びご応募いただけるとうれしいです。
最後になりますが、改めて弊社へご応募いただき誠にありがとうございました。○○さんの今後の転職活動、そしてその後のご活躍を、人事チーム一同、心より応援しております!
株式会社■■
人事チーム
——よくある簡単なお祈りメールと比べて、お祈りエールの文章からは応募者への個別の想いがよく伝わってきますね。
久保氏:実際には、ここまで個別にカスタマイズしたエールを書くのは限界があるかもしれません。特に数百名規模の応募者と向き合う大手企業では、文面内容にこだわって突き詰めていってもどこかで一律のテンプレートを用意しなければならない場合もあります。
その意味では、向き合う応募者数が比較的少ない中堅・中小企業こそ、応募者一人ひとりに合わせたきめ細やかな対応ができるはず。お祈りエールによって大手企業と差別化し、自社の魅力を高めることもできるのではないでしょうか。
参考:【ABABA総研】「今後のご活躍をお祈り申し上げます」だけじゃない!企業が就活生に送る、様々な「お祈りメール」を紹介
「そこまではできない」ではなく、「割かなければならない工数」だと肝に銘じるべき
——エールの文面以外で、不採用通知を出す際に気をつけるべきことはありますか?
久保氏:企業の誠実さを示すポイントの一つはスピードです。応募者には、「1週間以内に結果をご連絡します」などの形で、選考を実施してから結果を通知するまでの期間をあらかじめ伝えておくべきでしょう。期間についても、選考から3〜4週間も空けてしまうのはあり得ない対応だと思います。
伝え方そのものもポイント。企業によってはメールなどのテキストを送るだけでなく、不採用であっても応募者へ電話して、肉声で直接感謝の気持ちを伝えているところもありますよ。
また、事務的なミスにはくれぐれも注意していただきたいです。テンプレートを使い回して不採用通知を送っていると、冒頭の名前の欄が「◯◯さま」のままになっているような初歩的なミスが起きることも。こうした失礼なミスは応募者の気分を害することはもちろん、昨今ではインターネット上で共有され、批判にさらされてしまうリスクもあります。
現下の厳しい転職市場だからこそ、企業側がいかに応募者に対して誠実になれるかが問われています。「そこまではできない」ではなく、「割かなければならない工数」だと肝に銘じて取り組むべきだと思います。

——応募者に好印象を持ち続けてもらえる不採用通知を送ることで、企業の採用活動にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。
久保氏:前述のエール文例でも触れたように、今回は不採用とした応募者が、10年後や20年後に大きなレベルアップを遂げて自社を受けてくれることもあるかもしれません。不採用通知を丁寧に送ることで、選考が終わった後も応募者と定期的に連絡を取り、近況報告をしやすいようにするなど、将来の縁につなげられるようになるのではないでしょうか。
中途採用に取り組む企業では、短期的な採用以外に、中長期で応募者とのつながりを維持しておきたいと考え、タレントプールの充実に取り組むところが増えていると思います。企業によっては書類選考や最終面接で落ちた人に対して、自社の最新情報を発信するサイトへの登録を促したり、LINEなどを交換してやり取りしたりと、定期的な接点を確保しています。
特に最終面接まで進んで不採用となった応募者は、採用基準をほぼクリアしていたはず。その後を追いかけないのは、非常にもったいないことではないでしょうか。
そうやって応募者と誠実に向き合い続ける企業が増えれば、中途採用においても、ABABAが提供しているような「ご縁をつなぐ取り組み」ができる可能性は大いにあると考えています。
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取材後記
「そこまではできない」ではなく、「割かなければならない工数」。そんな久保さんの言葉には、ABABA創業の背景となった学生時代の経験があるといいます。就職活動の最終面接で不採用となり、精神的ダメージを負った友人の姿を見てABABAを立ち上げた久保さんは、「不採用通知によって大きなダメージを負う人は、企業が想像している以上に多い」と話します。
最近では「サイレントお祈り」と言われるように、「通過者のみ連絡」「◯月◯日までに連絡がなければ不採用」といった形にして、不採用通知さえ出さない企業もあります。心を込めた形で個別に不採用通知を送る企業は少ないのが現実。そんな転職市場だからこそ、不採用通知に想いを乗せ、応募者との縁を大切にしようと考える企業が採用に成功するのではないでしょうか。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
パターン別・不採用通知フォーマット【Word版】
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