パーソルキャリアも苦戦!?「本部人事×現場」連携。採用成功への取り組み事例

パーソルキャリア株式会社

南雲咲紀(なぐも・さき)

プロフィール
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  • 面接官の見極め基準のばらつきには、面接官向けガイダンスを定期的に実施し、面接官ごとの定量データを提示し自己認識を促す
  • 応募者の意向醸成を進めるため、百戦錬磨の面接経験者である現場トップに「面接講座」を依頼。話者を現場トップにすることで、現場も受け入れやすくなる
  • 採用戦略を立てるために職種理解は必須。外部ツールを使って職種概要を学び、現場との1on1で役割、やりがいなどを確認する

昨今、中途採用における「本部人事と現場の連携」を課題に挙げる企業が増えています。母集団形成を本部人事が担い、面接を現場に任せるケースでは、「現場が転職市場の厳しさを認識しておらず面接がうまく進まない」といった声も。

この記事では、パーソルキャリアで中途採用人事を務めた南雲氏へのインタビューを通じて、本部人事と現場間の連携の工夫についてご紹介します。人材領域を専門とするパーソルキャリアもまた、同様の課題と向き合っているのです。本部人事と現場の連携を強化し、転職希望者と丁寧に向き合えるようにするためには何が必要なのでしょうか。

昨年の常識は通用しない。「見極め」と「意向醸成」への問題意識

——パーソルキャリアにおける中途採用の流れを教えてください。

南雲氏:現場でのニーズ発生が発端となりますが、現場が採用したいと考えても必ずしも募集に至るわけではありません。本部人事と事業企画部門が連携し、事業企画の観点で組織の状態や生産性などを踏まえ、現場のニーズ通りに採用することが妥当なのかを判断しています。場合によっては採用にストップがかかることもありますね。

事業企画部門から承認されたら本部人事が採用に動きます。母集団形成の手法は本部人事に一任されていますが、まずはどれくらい予算を使えるのかを採用を希望する現場や事業企画部門と擦り合わせ、その上で採用手法を決めています。その後の面接に関しては、基本的に現場に一任していますね。

——本部人事と現場との連携に課題を持つ企業は多いと思いますが、パーソルキャリアでも同様の課題があるのでしょうか。

南雲氏:はい。面接で言えば「見極め」と「意向醸成」に問題意識を持っています。

まずは見極めについて。当社の場合は面接官の数が多く、面接官によって見極め基準のばらつきが生じています。また昇格・異動などで面接官が変わることも多く、新しい面接官が増えたり、経験豊富な面接官が外れたりする中で、基準を継続的にそろえていかなければなりません。

意向醸成については、人材領域を専門とする会社でも、転職市場における採用競合の現状を把握し、全てに対応するのは簡単ではないと感じています。転職市場の変化は本当に目まぐるしく、「昨年まで通用していた面接スタイルが今年は通用しない」ということも珍しくありません。他社を見れば、クロージングで経営陣が登場して応募者を口説いたり、経営陣総出で応募者へラブレターを送っていたり。競合他社はここまでやっているのだという現状を本部人事は認識し、それを現場に伝え、他社を上回る対応をしなければいけないのです。

百戦錬磨の面接経験者が「アイスブレイクで天気の話をしない」理由

——「見極め」の課題に対しては、どのように対策しているのでしょうか。

南雲氏:見極めの基準をそろえていくため、四半期〜半期に1回のペースで「新任面接官向けのガイダンス」を本部人事主催で実施しています。ここでは参加者に基本的な見極め基準をインストールしてもらうとともに、現在の転職市場を踏まえて転職希望者のどんな点を見極めるべきか、転職希望者にどんな質問を投げかけるべきかなどのガイダンスも行っています。

部門によっては面接基準をさらに細かく設定し、「質問に対してこんな回答が来たらどう評価するのか」まで落とし込んだ評価シートを作成しているところもありますね。

——新任面接官向けということは、主に若手の方が対象になるのですか?

南雲氏:若手社員にはもちろんガイダンスが必要なのですが、面接経験が豊富なベテラン社員にも課題があると思っています。長年面接官を務めていると、自分の中での独自基準が生まれてしまうからです。この独自基準が「あの人の面接基準は厳しい、優しい」といった属人化につながっていきます。

ただ、こうした独自基準が全て悪いわけではありません。面接の中身を見れば、独自基準を持つベテラン面接官ならではの会話で応募者の本音を引き出していることも多々あります。そのため、本部人事からベテラン面接官のスタンスを無理に変えようとするのではなく、自身の面接での状態を可視化し自己認識してもらうことで、必要に応じた自発的な改善を促しています。面接官ごとの面接実施数や合格率、辞退率、最終面接官への接続率、入社受諾率など、定量面の客観的事実を提供することで気付きを得る機会につなげていますね。

——「意向醸成」の課題への対応は。

南雲氏:百戦錬磨の面接経験者である現場トップに講師となってもらい、全事業の管理職向けに「面接講座」を実施しています。当社の中途採用は即戦力層の獲得にシフトしており、転職希望者の選考体験価値を高めて意向醸成しなければ採用成功にはつながりません。そこでこの講座は、転職市場の理解と意向醸成に振り切った内容としています。

——具体的な講座の中身を教えてください。

南雲氏:まずは事実やデータをもとに転職市場の現況を伝え、現場トップの執行責任者や現場の部長から面接での時間の使い方や応募者との会話内容など「明日からすぐに使えるテクニック」を伝授しています。

面接講座の資料抜粋

たとえばある講座では、現場トップが「アイスブレイクで天気の話をしないように」と話していました。この言葉の裏側には、冒頭の自己紹介やアイスブレイクも意向醸成に使える時間なのだという思いがあります。天気の話では応募者の意向は高まりません。面接官が魅力的に自己紹介し、「こんな仕事もあるのか、面白そう」「この人は仕事に強いやりがいを持っているんだな」と感じてもらうことが重要なのです。そのための具体的な話し方や内容を、受講者自身が実践するイメージを持てるように、面接がうまい現場の上長から伝えてもらいます。

工数をかけてでも職種理解は必須。採用戦略や母集団形成にも関わる重要度の高いプロセス

——人事部門内での取り組みで、他社でもすぐにまねできることがあれば教えてください。

南雲氏:中途採用を担当する人事・採用担当者は、自分がやったことのない職種の採用に取り組むことが多いですよね。その際には現場と同じくらいの解像度で職種を理解する必要があると思っています。

当社の中でも、本部人事としてあまり深く理解できていない職種もあります。そうした職種については、一般公開している「doda職種図鑑」などのツールを使って基本を理解するようにしています。

その上で大切なのは、職種についての圧倒的な専門性を持つ現場のメンバーに聞くこと。たとえば、なかなか理解が追いつかないエンジニア採用などの場合は、本部人事メンバーから現場メンバーに1on1を依頼し、実際に手を動かして仕事をしている人に教えてもらっています。工数はかかりますが、採用の中で優先すべき重要度の高いプロセスだと思っています。

——現場メンバーからはどんなことをヒアリングしているのですか?

南雲氏:募集している事業部がどんなミッションを掲げ、どのような方向性を描いているのか。募集職種にはどんな役割が求められているのか。所属するメンバーはどこにやりがいを感じるのか。このあたりは必ず聞くようにしていますねエンジニアやITコンサルタント、企画職などの職種の場合は、現場で動いているプロジェクトや案件について、本部人事が具体的に語れるようになるのは難しいかもしれません。それでも、現在の主要プロジェクトの概要くらいは最低限語れるようになるべきだと考えています。

——面接自体は現場に依頼しているとおっしゃりましたが、それでも人事・採用担当者はここまで理解するべきなのでしょうか。

南雲氏:必要だと思います。人事・採用担当者が事業のことを深く理解していないと、採用戦略を立てることが難しくなるからです。事業の目的や方向性がわからないままだと、人材要件を理解したり、募集手段を選択したりすることも難しくなるでしょう。外部の人材サービスなどに頼る場合も、事業や現場についての質問に的確に回答できなければ母集団形成がうまくいきません。

これは人事・採用担当者の市況感を育むためにも重要だと思います。求める人材が転職市場にいるのか、その人材は自社の条件で採用できるのか。採用決定に向けてのストーリー設計にもつながるのです。

コミュニケーションの鍵は「こまめな報告・共有」。現場への感謝・称賛の思いも伝える

——現場と連携する際のコミュニケーションで、南雲さんはどんなことに留意していますか。

南雲氏:話者を適切に選択することが大切だと考えています。本部人事として描くゴールや目的を伝えるために最適な話者は本部人事とは限らず、現場トップや外部の人材紹介サービス担当者など、知識・ノウハウ・影響力がある第三者に語ってもらうことも重要です。「誰が言えば最も現場に伝わるのか」を常に意識していますね。

また、現場へのこまめな報告・共有も大切です。採用を始めるタイミングや採用成功したタイミングだけではなく、当社では「どんな応募状況なのか」「面接はどこまで進んでいるのか」といった途中経過も逐一伝えています。

加えて現場メンバーを称賛することも欠かせません。現場メンバーは本業がある中で採用業務に動いてくれています。採用ができたかどうかだけではなく、そのメンバーが採用業務にどれだけ貢献してくれたのか、応募者からどんなフィードバックがあったのかなども、称賛とともに共有しています。

現場のメンバーが前向きに採用活動に協力してくれるかどうかは、本部人事がこうした情報を情熱的に伝えられるかにかかっているのではないでしょうか。私たちはこれからも、多くの現場メンバーが採用という重要ミッションに貢献する喜びを感じられるようにしていきたいと考えています。

取材後記

本部人事と現場の連携というテーマは、ともすれば「どのように役割や業務を切り分けるか」に焦点が当たりがちかもしれません。取材を終えて、南雲さんたちが取り組んでいるのは「切り分け」ではなく、むしろ「融合」ではないかと感じました。現場に面接を任せっぱなしにするのではなく、事業・職種理解の段階から深く入り込み、選考プロセスをこまめに共有する。「そこまではできない」ではなく、「ここまでやらなければいけない」というスタンスで転職市場に臨まなければ採用成功にはつながらない。そんなメッセージを受け取った取材でした。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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