AI面接は信用できるのか?簡素な応募書類でもポテンシャルを見逃さず「年間15名」の採用可能性を開いたラクスの採用術

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株式会社ラクス

経営管理本部 人財採用部 部長 野田浩(のだ・ひろし)

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人財採用部 河内真愛(かわち・まい)

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  • 書類選考での機会損失を防ぐためにAI面接を導入。書類だけでは見えない転職希望者の可能性をAIが引き出し、年間約15名の採用機会を創出する見込み
  • AIのみで合否を判定するのではなく、「AI判定」→「自社プロンプト判定」→「人事による最終判断」の3段階プロセスを設計
  • AI面接導入後、対象職種の中途採用に関する人事工数は約3分の1に削減。フロント職種の採用での成果により、他職種へ応用できる可能性も見えてきた

近年、AIが急速に進化をし、ビジネスシーンでの利活用も増えてきています。面接対応・日程調整・部門連携・エージェント対応など、業務範囲が広い中途採用業務を担当する人事からも「AIを活用して業務効率化を進めたい」という声が聞かれるようになりました。

一方、「個人情報を取り扱わなければならない」「部署ごとに求める人物像が異なる」といった中途採用業務特有の難しさから、AI導入のイメージを持ちにくい企業も多いのではないでしょうか。

こうした中、クラウドサービス「楽楽クラウド」で知られる株式会社ラクスでは、年間400名規模の中途採用において、営業・カスタマーサクセス職では書類選考後にAI面接を実施し、新たな採用成果につなげているといいます。「目的は単なる効率化ではなく、機会損失を防ぐことにある」と話す同社の野田浩氏と河内真愛氏。AI面接導入のプロセスや運用方法、現在の手応えなど、実践企業だからこそ語れるリアルな知見を聞きました。

「簡素化される応募書類」が人材採用の機会損失につながっていた

──なぜラクスではAI面接を導入したのですか。

 

野田氏:ここ数年の採用市場トレンドから、中途採用における機会損失への懸念を抱いていたことが背景にあります。

当社は近年400~500名規模の中途採用を行っていますが、採用成功以上に入社後の活躍を重視しているため、以前から書類選考にはこだわってきました。しかし圧倒的な売り手市場が続く中で、選考に臨む転職希望者の書類はどんどん簡素化される傾向にあります。結果、転職希望者がラクスに合わないとは限らないのに、書類の内容が簡素であるがために選考に通らないケースが増えていたのです。

この機会損失を防ぐ一番の方法は全件面接を対応することでしょう。しかし、採用規模を考えると現実的ではありません。こうした状況でAI面接の可能性に注目し、導入を決意しました。

──「AI面接を導入する」と聞いて、採用担当側はどのように受け止めたのでしょうか。

河内氏:大きな期待感を持っていました。

人事は「人の可能性を探っていくこと」がミッションであり、果たしてAIが本当にそのミッションの一部を担えるのか、疑問を持っていたのも事実です。ただ実際の業務では、本質的に時間をかけるべきところに対応しきれていない状況がありました。

当社はさまざまな部署で中途採用を行っており、事業環境の変化に応じて、求める人物像を柔軟に見直していかなければなりません。本来なら私たち人事が現場と深く関わり、ヒアリングを通じて人材ポートフォリオを更新していくべきなのですが、目の前の業務に追われて対応しきれていなかったのです。

AI面接の導入は、そうした状況を変える一手になるのではないかと考えていました。

専門的なシステムの知見は不要。人事部門のみでツール選定と導入準備を進められた

──AI面接導入までのプロセスについてお聞きします。AIエージェントは外部サービスを活用しているとのことですが、サービス選定はどのように進めたのでしょうか。

野田氏:「機会損失を防ぐ」という目的に向け、さまざまなツールがある中で、人が行う面接に近いことができるサービスに注目しました。AI面接の機能で比較検討を行い、最終的に当社に最も合うものとしてVARIETAS社の「AI面接官」を導入しています。

選定にあたっては機能だけでなく、ツールが持つ思想や価値観も重視しました。ここが当社の考え方に合わないと、中長期的には使いづらくなってしまうと感じたからです。当社は多様なデータを活用してPDCAを回すことを大切にしており、データ分析に強みを持つ「AI面接官」の方向性に共感したことも選定の決め手となりました。

──新たなAIツールの導入となると、高度な技術的知識が求められるように思います。この点はどうでしたか?

 

河内氏:導入自体はシステム部門の力を借りることなく、人事部門だけで進められました。必要な準備としては、面接時の必須質問の設定とオペレーション構築のみ。本番導入までの期間は約3カ月で、オペレーションを決めてしまえばそこまで複雑ではありませんでしたね。

野田氏:「AI面接官」では、当社の過去データを取り込まなくても、システム自体が持つデータを基に一般化された基準で面接にすぐ対応できました。当社の場合は経験だけでなく、思考力や行動力、人間関係構築力などのコンピテンシー評価を重視しています。これらの能力判定は特定企業にひもづくものではないので、汎用化されたシステムのデータで存分に活用できています。

──AI面接の対象となる転職希望者は、どのように決めているのでしょうか。

河内氏:当社がAI面接のテスト導入に際し、まず対象としたのは、採用計画数が多く、応募書類が簡素化されがちな「営業・カスタマーセールス職」などのフロント職種です。

これは、書類選考だけでは転職希望者の経験や潜在能力(ポテンシャル)を判断しきれないケースが多いという課題を解決するためです。特に簡素な応募書類からではわからない、この職種で必要とされるコミュニケーション能力や意欲をより深く見極めることを目的に積極活用しています。

選考フローにおいては、必ずしも全ての転職希望者にAI面接を受けていただくわけではありません。応募書類の記載内容などを踏まえ、従来通り書類選考後に1次面接に進むルートに加え、書類選考とAI面接を併用した後に一次面接に進んでいただくルートなど、柔軟に選考フローを使い分けています。

マストの質問項目を2問のみ設定。あとはAIが会話して深く掘り下げてくれる

──AI面接とは、具体的にどのような内容ですか。

河内氏:1回の面接につき、所要時間はおおむね15~20分です。

当社からマストで設定している基本の質問項目は、「今回の転職理由と転職活動で重視している軸を教えてください」「今まで一番上げた成果とその要因を教えてください」の2つだけ。ここから、転職希望者の回答に応じてAIが深く掘り下げてくれます。プロジェクトにおける課題、どんな工夫を元に乗り越えていったのかなど対話形式で面接が進み、会話自体も違和感がありません。

野田氏:テスト期間にはまず自分たちでテスト面接を受けてみたのですが、その精度の高さに驚きましたね。転職希望者の回答に対してさまざまな角度から、何度も深掘りして聞いてくれるため、転職希望者が備えている本質的なスキルや適性を読み解くのに役立っています。

──面接の合否判定もAIが行っているのですか?

河内氏:いえ。AI面接後は、AIに加えて当社独自のプロンプトによる判定を行い、最終的に人事が合否を判断するという3段階の体制にしています。あくまでもAI面接の目的は書類選考と一次面接の間にある機会損失を埋めることであり、合否判定自体を効率化したいわけではないんです。

AI面接の内容は人事が全て録画データを視聴し、最終的な合否を決定しています。

──人による合否判定が加わると、選考スケジュールが長期化してしまいませんか?

河内氏:選考スピードはとても大切なので、転職希望者をお待たせすることがないように徹底しています。

転職希望者へは、AI面接の案内が届いてから3営業日以内に受検してもらうようお願いしています。期間内であれば、24時間いつでも受検可能です。AI面接が終わり次第、私たちに結果が届き、そこからは即日ないし1営業日以内に判定しているので、早ければAI面接を受けていただいた翌日には結果をお伝えしていますね。

野田氏:当初、合否判断は私と河内の2名のみで対応しており、3連休明けなどはビデオチェックが大変なときもありました。今はある程度の型化を進め、他の担当者もチェック対応できるようにしています。数が増えたからといって時間をかけてしまっては意味がないので、この体制構築が重要でした。

かつては「書類でお見送り」にしていたかもしれない15名の採用可能性が開ける

──これまでにAI面接を実施した転職希望者の中で、採用決定に至った人数を教えてください。

野田氏:約400名の方にAI面接を受けていただきました。3カ月テスト導入した期間で7名の入社決定をいただきました。このペースで考えると、年間で約15名は採用成功する見込みです。従来は書類段階で見送りにしてしまっていた方々の採用機会を創出できているので、大きな成果だと感じています。

河内氏:営業やカスタマーサクセスなどのフロント職種は、開発職や技術職とは異なり、書類に書かれている具体的なスキルベースで判断するのは難しいんですよね。こうした職種で成果を出せたことには手応えがあります。

──AI面接の実施に対する転職希望者の反応は?

河内氏:現状はご案内した方の約7割にAI面接を受けていただいています。自分が転職希望者の立場になって考えてみると、他の企業と比べて一手間増えることは事実なので、参加率は5割程度と想定していました。でも蓋を開けてみると、それを上回る状況となりました。

──多くの転職希望者が抵抗なくAI面接を受けてくれているのですね。受検率を上げるために工夫したことがあれば教えてください。

 

河内氏:一つのポイントは受検期限の設定です。当初は受検期限を「5営業日以内」としており、この際は受検率が5割程度でした。そこで試しに、よりタイトな「3営業日以内」の受検期限に変更したところ、受検率が上がったんです。受検期限が近いからこそ、並行して進んでいる選考よりも優先して対応いただけたのかもしれません。

また、当社の採用手法のメインである人材紹介エージェント側への情報提供も工夫しています。AI面接を導入していない企業がほとんどのため、人材紹介エージェントからは「転職希望者へご案内するイメージが湧かない」「参加を後押しする情報がわからない」という声がありました。そのため、私がテストで受けたAI面接内容を動画で共有し、サンプルとして見ていただきました。

 

野田氏:特に「doda」では、AI面接を受ける方へのフォローに力を入れてもらっていますね。AI面接のサンプル動画を転職希望者に共有したり、面接の意図を理解した上で事前準備をしたりと、従来の面接同様の対策を取っていただいています。

ケース面接の機能を活用し、フロント職種以外への応用も検討

──AI面接を導入してから、中途採用に関する人事工数はどのように変化しましたか。

河内氏:人事負担を減らす目的で導入したわけではないですが、結果的に人事の工数は明らかに減ったと感じています。以前は、現場面接に先立つ人事面談を行う前に書類をじっくり読み、どんなふうに転職希望者の魅力を引き出すかを考え準備していました。そして面談自体の時間もかかっていました。

今はこうしたプロセスをAIが担っているので、人が対応する時間は以前の3分の1程度になっています。徐々に、より戦略的な業務や転職希望者との深い対話など、人事として注力すべき役割に時間を割けるようになってきました。

──逆に、導入後だからこそ感じる課題があれば教えてください。

河内氏:現場との調整や、採用担当者間の調整には課題感がまだまだあります。現在は野田や私以外も録画データの視聴に対応できるようにしていますが、どうしても属人的な差が出てしまうことがあるんです。より細かく観点を共有し、調整を続けていく必要があると感じています。

野田氏:転職希望者目線でのAI面接の印象も気になる点です。AI面接と聞くと、個人によっては「AIが全てを判定している」と誤解してしまうかもしれません。繰り返しになりますが、当社の目的はあくまでも機会損失の防止であり、最終的な判断は人が担っています。この点が転職希望者にも伝わるようにしていきたいですね。

──今後、採用業務においてAI活用をさらに広げていく計画はありますか?

河内氏:私は現在、AI面接を導入していない職種の採用を担当しています。これまではフロント職種のみを対象としていましたが、現在のツールではAIがケース面接を行う機能もあるので、企画・マーケティングなどの他職種でも導入を検討していきたいです。

野田氏:当社の事業でもAIを実装したプロダクトを開発していますし、社内業務でもAI活用を進めて生産性向上につなげています。その意味では、人事業務でのAI活用の可能性はまだまだあると考えています。採用における機会損失をできるだけなくせるよう、活用の方向性をさらに広げていきたいですね。

【取材後記】

取材の中で特に印象的だったのは、「効率化ばかりを考えていると本質を見失ってしまうかもしれない」という野田さんの言葉でした。AI面接というテーマは、「転職希望者の人間性が見えなくなるのではないか?」「判断をAIに委ねてしまっていいのか?」といった議論とともに語られがちです。しかしラクスの取り組みから見えてきたのは、AIを“単なる置き換え”として使うのではなく、“機会損失を防ぐための入り口”として使う姿勢でした。最終的には人が判断する。このスタンスが明確だからこそ、約7割に及ぶ転職希望者がAI面接に応じてくれているのではないでしょうか。

企画・編集/酒井百世(d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/宮本七生

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