大切なのは「ユーザー目線」。ピクシブが目指す採用コミュニケーションの変革とは?

ピクシブ株式会社

取締役/コーポレート本部長 丸山 大輔

プロフィール

“売り手市場”と呼ばれて久しい採用マーケット。「この人と一緒に働きたい」という人材に対して、自社の魅力をいかに訴求できるかが採用成功率を高める上で大きなポイントになっています。では、そもそも求める人材像が知りたい情報とは何か? どんな手段を講じれば、理想の候補者とコミュニケーションを深められるのか? これらは、より良い採用を目指すあらゆる企業が悩む課題かもしれません。

会員数2900万人超を誇り、世界中にファンを持つクリエイター向けコミュニケーションサービス「pixiv」など、多彩なクリエイター/コンテンツプラットフォームを展開するピクシブ株式会社も、採用コミュニケーション/採用ブランディングを試行錯誤してきた会社のひとつです。現在進行形で進んでいる同社のチャレンジについて、取締役で人事・採用担当の丸山大輔さんにお話を伺いました。

最大の課題は、pixivファン以外にどれだけ興味を持ってもらえるか

最大の課題は、pixivファン以外にどれだけ興味を持ってもらえるか

ピクシブ株式会社というと、年々組織やサービスの規模を拡大している印象がありますが、どのような採用計画を立てているのでしょうか?

丸山氏:ここ2~3年ほどは、新卒で年間15名前後、中途は全職種で20名弱は採用しています。ただ、「1年間に何名採用しよう」といった採用目標は一切立てていません。

明確な数字目標はないのですか?

丸山氏:そうです。創業当初から「頭数ありきの採用はしない」という方針を取っていまして、極端な話、一緒に働きたいと思える人材であれば10人でも20人でも採用しますし、難しければ年間採用人数がゼロでも構わないというスタンスです。

国内だけでなく、世界的な認知度も高いウェブサービスを展開していると、応募数などはかなりあるのでは?

丸山氏:ありがたいことに応募者数は多いですね。ただ、よく誤解されるのですが、事業ドメインやサブカルチャーに詳しいことは必ずしも重要ではありません。むしろ、一緒に事業やビジネスを考えられたり、モノづくりを楽しめたり、何より「創作活動がもっと楽しくなる場所をつくる」という、当社の理念に賛同出来ることなどが大事だと思っています。

採用ターゲットはpixivユーザーだけに限らないわけですね。

丸山氏:それに、ひとつの分野で誰にも負けないような知識を持つ「博士」、自らモノづくりをした経験を持つ「職人」、どんな意見も否定せず受け止め、建設的に発展させられるような「やさしい人」といった人柄も採用基準のひとつですから、本当にいい人だけを採用するとなると、かなり母数は絞られてしまいます。さらに業界の発展によって、優秀な学生や候補者に当社の魅力を伝えるのが難しくなってきたな、という課題もここ数年感じていまして。

具体的に伺えますか?

丸山氏:5年ほど前は、そもそも「自社開発のウェブサービスに携われる環境」が珍しくて差別化のポイントになっていました。それが今では、学生でも簡単にアプリ開発などが出来るようになり、敷居が低くなった。それに優秀な人材は、引く手あまたの時代です。特に、当社と内定でバッティングするのは上場企業や大手企業が多く、給与や待遇などの条件面だけでは対抗できないこともあります。

採用力で負けてしまう可能性があると。

丸山氏:とすると、自由度の高い働き方や、プロダクト開発のスピード感、やりたいことが出来る環境などを打ち出す必要があります。ただこうした内容は、広告上ではどの会社にも言えてしまうことで。候補者に本当に魅力を理解してもらうには、「体験」が重要になる。であれば、会社に来てもらうことが大事、知り合うことが大事という考えに必然的になりますよね。

候補者目線のアイデアで、説明会&インターンシップを刷新

候補者目線のアイデアで、説明会&インターンシップを刷新

会社の魅力訴求には、リアルなイベントやコミュニケーションが重要になるとお考えなのですね。

丸山氏:例えば、新卒向けの説明会は大きく変えました。昨年は会社の近くに会場を設けて、毎回200名ほどが参加できる規模の説明会を10回ほど実施しました。ですから、トータルで1000~2000名が来てくれたのですが、実は1名も採用につながらなかったんです。

2000名を集めても、ですか…?!

丸山氏:ただ、これはこれで大事な知見を得られたなと思っていまして。必要なのは、「学生さんいらっしゃい」ではなく、「僕らの方から行きますよ」というスタンスだなと考えました。そこで、都内はもちろん関西圏などでも優秀な人材が集まりそうな場所に、我々が赴いて説明会を行う形にチャレンジしています。

候補者を待つのではなく、自分たちからリーチしていこうと。

丸山氏:新しいスタイルの説明会は始まったばかりですが、すでに参加者の雰囲気には変化が出ていますね。規模も一度に20~30名程度と縮小したのですが、物理的な距離が近づいたことで現場の熱量も高まっていますし。これが理解度アップにつながってくれればと、注視しています。

すでに成果の上がっている施策もありますか?

丸山氏:インターンシップを毎年実施しているのですが、2年ほど前に内容を刷新してから採用成功につながってると感じています。当社では、エンジニアやデザイナーなどの技術職と、プロダクトマネージャーや広告営業といったビジネス職の採用を行っていて、以前はエンジニア・デザイナー職とビジネス職のインターンシップを一度に行い、一緒になって何かを創り出すという内容だったのですが、それは一切やめました。

インターンシップの設計を見直したきっかけはなんだったのでしょうか?

丸山氏:毎年、現場の各部署から優秀なメンバーを10名ほど集めて、採用チームを結成しています。やはり、採用は現場と大きく関わるため、社員の意見を大事にしたいという方針があります。隔週1回、このチームで打合せを行い、採用業務の進捗共有や課題の洗い出しを行うのですが、その中で今回のインターンは、ピクシブをまだ知らない方々にも参加してほしいという話になりまして。「モノづくりがしたい」「自分のサービスをつくりたい」「またはすでに作り始めている」という人が、どんな体験を求めているんだろう?と議論を重ねました。

どんな体験を求めているんだろう?と議論を重ねました

現場を巻き込んでブラッシュアップに取り組んでいるわけですね。

丸山氏:特に参加してほしい人材像に近いタイプのメンバーからは、自身の体験や要望を細かくヒアリングしますね。社内に情報源がなければ、候補者となる方々に直接質問することもありますよ。「普段何に興味あるのか」「どんなテーマにワクワクするか」…など。直接的な質問だけではなく間接的な部分もざっくばらんに。サービスづくりもそうですが、「ユーザーが何を望んでいるのか」を細かくリサーチして形にしていくのは、採用においても非常に重要だと感じています。

「コーポレートサイトって誰が見てるの?」というシンプルな問い

「コーポレートサイトって誰が見てるの?」というシンプルな問い

では、現在のインターンシップのテーマなどには、現場の声や“ユーザー目線”が活きていると。

丸山氏:おっしゃる通りです。たとえば技術職でも、“モノづくり全般”といったテーマ設定ではイメージがしにくいと。スマホアプリがいいのか、Webがいいのか、サーバ側がやりたい人もいれば、機械学習に取り組んでみたい人もいるよねという話になりました。

そこで、今春行う予定のインターンシップでは携われるサービス・技術を細かく設定し、8つのコースを作って募集するようにしました。ここ数年はこうした「セグメントを狭める施策」を積極的に行ってきたのですが、参加者にとっても自分がやりたいこととインターンの内容が結びつきやすくなったようで、非常に上手くいっている印象です。

他にも候補者の視点に立った取り組みはありますか?

丸山氏:昨年の10月にコーポレートサイトをリニューアルしたのですが、これも「誰が見ているんだろうね」という話から始まりました。

コーポレートサイトが誰のためのものなのか、ということですね。

丸山氏:当社は上場もしていませんので、IR情報を掲載しているわけでもありません。pixivのユーザーも、わざわざ会社のHPは見ないでしょうし、取引先が見たところで、事業内容などが書いてあってもあまり面白くないよねと。だったら、採用サイト兼コーポレートサイトにしてしまって、どんな社員が働いているのか顔写真入りで紹介されていたり、どんな社風なのか知ってもらえた方が候補者にとっても取引先にとってもいいんじゃないかと、イチから設計し直しました。

当社は、採用競合である大手企業に比べると、まだまだ会社規模や資本ではぜんぜん勝てないんです。じゃあ、ウチの訴求って何だっけ?と考えたときに、やっぱり“社員第一の働きやすさ”や“魅力的な社員”じゃないかなと。リアルをより感じてもらえるようなコミュニケーション設計は意識していますね。

リアルな立場である現場の方々は、サイトづくりにも携わったのですか?

丸山氏:当社のデザイナーのトップが参画し、「ユーザーからどう見えるのか」を徹底的に考えて、UI・UXの観点やデザインについて、サービス開発と同じ勢いで作り込んでくれました。現場の負担になりすぎないように、とは常に考えていますが、やはり現場が興味を持てないと採用は絶対上手くいきませんからね。

お話を伺っていると、今まさに採用コミュニケーションの変革期を迎えている印象です。

丸山氏:本当に採用は試行錯誤の連続ですね。私たちは「候補者が社員に会い、会社やビジネスの魅力を体験してもらえれば、満足度は高まる」という点にはある程度自信を持っています。ただ、来てもらうまでが本当に大変なんです。社員たちも動線づくりの一環として、サービス開発や最新技術などに関するカンファレンスを自分たちで主催するなど、積極的に協力してくれています。こうした新しいコミュニケーションがうまく身を結んでくれたら嬉しいですね。
本当に採用は試行錯誤の連続

【取材後記】

やみくもに母数を拡大するよりも、求める人材とピンポイントで繋がり、企業の魅力をどれだけ訴求できるか。そのヒントは、ユーザー=候補者目線に立つことで見えてくると丸山さんは考えています。量と質、どちらにこだわるかはビジネスモデルによって様々かもしれません。しかしどのような企業であっても、既存の採用手法や説明会、選考のスタイルなどを候補者目線で見つめ直すことは重要です。売り手市場の時代、変革に取り組む姿勢とスピード感も、採用成功を左右する大きなポイントとなるはずです。

(取材・文/太田 将吾、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)