企業史上「最大級」の大型採用を支えた、採用サイト開発の肝とは

日本ヒルズ・コルゲート株式会社

人事・総務・コミュニケーション担当 副社長 安岡幸徳

プロフィール
パーソルキャリア株式会社

考えるディレクター・クリエイティブディレクター 仁木俊輔

プロフィール

ダイレクト・ソーシング、求人広告、人材紹介サービスなど、どんな応募チャネルの候補者も必ず一度はチェックするもの。それが「採用サイト・採用ホームページ」です。その存在感は年々高まり、時にはサイト全体の設計・コンテンツのクオリティ・情報の新しさなどが、採用成功を左右するケースも。

「サイエンス・ダイエット」など数々の人気商品を展開し、アニマルヘルスケア業界を牽引してきた日本ヒルズ・コルゲート株式会社の副社長・安岡幸徳氏は、そんな採用サイトの重要性を、会社始まって以来の大型採用計画を前に再認識させられたと言います。そこで、サイト制作を手掛けたパーソルキャリア株式会社“考えるディレクター”仁木俊輔と安岡氏の対談を実施。同社がサイトリニューアルにかけた想いとその成果に迫ります。

組織改革に不可欠だった、採用サイトリニューアル

安岡さん×仁木対談1

安岡氏:当社の採用サイトの制作が始まったのは、昨年12月頃でしたね。その頃、初めて仁木さんともお会いして、肩書に“考えるディレクター”とあって。「ぜひ考えていただけますか」なんてお話ししたのを、よく覚えていますよ。

仁木:一所懸命考えさせていただきました(笑)。事前情報として今年4月の採用サイトオープンを予定されていることや、経験者で40名ほどの大型採用を計画していると伺っていましたので、これは頑張らねばと。

安岡氏:当社は、今からちょうど40年前に日本でのビジネスを開始し、ペットフードのマーケットをリードしてきました。実際、わんちゃん・ねこちゃんのための動物病院向け特別療法食「プリスクリプション・ダイエット」、マス市場で展開する健康維持食「サイエンス・ダイエット」、ペット専門店やブリーダー様向けに特別に開発された「サイエンス・ダイエット<プロ>」といった製品は、世界中の獣医師から高い評価を得ています。

仁木:採用サイトのFAQにも記載しましたが、全国の動物病院のカバー率はほぼ100%近いレベルになると伺っています。

安岡氏:その通りです。ただ、2008年頃をピークに売り上げが伸び悩んでいるのも事実です。マーケットシェア停滞の原因は何なのか、世界的なコンサルティング会社に調査とアドバイスを仰いだところ、製品のクオリティ、ビジネスの将来性、お客様のロイヤリティ、ポートフォリオなどは全く問題がないと。ただ1点、「組織と人材にビジネスをドライブするケイパビリティが不足している」という報告がなされました。

仁木:そこで会社全体で組織改革に舵を切られた、というお話でしたね。

安岡氏:はい。2014年に「ジャパン・リニューアルプロジェクト」を立ち上げ、3年がかりで組織構造の見直しや配置転換などを行いました。その中で最後の課題だったのが動物病院向け獣医チャネルの営業力の強化です。これまで獣医チャネルでは、営業をほぼ全面的に外部委託しており、なかなか思うような改善ができずにいました。そこで自前の営業体制を構築しようじゃないかということになり、獣医チャネルの営業職「VSR職(ベットセールスレップ職)」を中心とした大型採用をすることになったわけです。

今回の採用では、パーソルキャリアさんをはじめ様々な人材紹介エージェントにご協力をお願いしたのですが、最近は、ほとんどの候補者の方が一度は企業ホームページを確認されますよね。しかし、リニューアル前のサイトを謙虚な目線で見た時に、正直なところ「イケてないな」と(苦笑)。これは何とかせねばということで、仁木さんに尽力いただいたわけです。

仁木:採用サイトは、ある種“幕の内弁当”になりがちと言いますか、「あれもこれも言いたい」となるのが一般的です。しかし今回は、「VSR職の中途採用にフォーカスしていい」とオーダーをいただけたのが非常に大きかったです。明確な基軸がありましたから、ターゲットを意識したコンテンツ作りができました。

安岡氏:売り手市場の採用マーケットで、なおかつグローバルとの兼ね合いや営業戦略の都合もあり、約4カ月間で40名を採用しなければいけない。さらに採用する方には、当社の変革をリードできるメンタリティやバイタリティも必須でしたから、注力すべき職種と当社にマッチする人物像に関しては最大限クリアにすべきだと考えていたんですよね。

コンセプトは、「ビジョン」「仕事」「現状」を分かりやすく

安岡氏:ただ、我々はHPやWebサイト作りや採用のためのPRに関しては、全くの素人です。ですので今回は、仁木さんへの「サーバント・リーダーシップ(※)」に徹し、基本的なコンセプトさえズレがなければ、どんなコンテンツを前面に出し、どういうデザイン・色味にするのかはプロである仁木さんにお任せし、彼が仕事がしやすいように全面的に支援しようというのが、基本的なスタンスでした。

(※)サーバント・リーダーシップとは、「相手を支援することで成果に導く」という支援型リーダーシップ哲学のこと

安岡さん

仁木:おっしゃる通り、ご要望としていただいたのは「当社に興味を持って採用サイトを訪れた方が、ヒルズが国内外でどういう会社・グループなのか、どんなビジョン・ミッションを持っているのか、どんな仕事をするのか、そうした特徴をきちんと伝えたい」といったコンセプトのみで、あとはかなり自由に提案させていただきました。

安岡氏:できるだけ具体的な仕事内容や活躍のポイント、やりがいといった情報をオープンにして、色々な手段で伝えたいと思っていました。そうして、候補者の方と我々との価値観が合うかどうかの判断材料を提示したいなと。

仁木:私としても、企業様のHPをご支援するにあたって、入社前・後のギャップを可能な限り無くし、内定が決まった方には長くお勤めいただきたいというのが念頭にあります。

それを踏まえて、今回の場合は、コンテンツの中で企業として組織改革に臨んでいる現状をきちんとお伝えすべきだと思いました。そこを打ち合わせでご相談したところ、「問題ないです。包み隠さずすべて出しましょう」と即答いただけた。これは強く記憶に残っています。

安岡氏:会社でイキイキと働き続けていくためには、やはり仕事内容や会社を好きかどうかは重要な要素ですよ。ですから、そこは社員インタビューなど活躍中の社員の声を通して、できるだけ会社や仕事の実態を理解してもらえるように発信すべきだと思いました。他にも仁木さんからは、「そのデータはちょっと持ってないぞ」と驚くようなご相談もいただきましたね(笑)。

仁木:候補者からすると、「業界的にどうなんだろう、どうなっていくんだろう」がまずあり、「その業界において、この会社はどうなんだろう」、さらに「ここで自分の経験が活かせるか?」という三段階のブレイクダウンがあると考えていまして、色々ご相談させていただきました。

相談と言えば、採用ターゲットはMR職など医療業界の営業経験者または異業種でも即戦力の営業経験者などであると。そこで、VSR職の場合の顧客との関係性や空気感を伝えるために、獣医師先生へのインタビューも打診させていただきましたね。“お客様のお客様”ですから、提案しながらも「調整が難しいかな」と思いましたが、これも快くご協力いただけて。

安岡氏:私も15年ほど製薬業界にいましたが、医薬・医療業界経験者といえども、獣医師先生への効果的なアプローチはなかなか想像しにくい。ですから、獣医師さんとどんな会話をしてどんな関係を構築できるのかを見せるのは、非常によいアプローチだと思いました。

仁木:社員インタビューに関しては、現役のVSR職で活躍する方に加えて、マーケティングなど別の職種にステップアップしている方も登場させることでキャリアの広がりも提示でき、非常に特徴的なコンテンツになったと自負しています。

日本ヒルズ・コルゲート キャリア採用ホームページ

価値観の合う候補者との出会いで、2カ月で21名入社を実現

仁木:サイトオープンから数カ月ですが、すでにVSR職に関しては事実上募集をクローズされたと伺っています。

安岡氏:おかげさまで、この7~8月で21名の方にご入社いただきました。また10月には、更に20名程度の方にご入社いただく予定です。これは当社始まって以来、最大の入社人数です。

仁木:採用サイトからも初月で15件ほどエントリーがあったと伺っていますが、人物面や価値観のマッチングというのはいかがでしたか?

安岡氏:私は最終面接を担当していましたが、最終面接の通過率は7割以上。「この人ならば、本人も会社も嬉しいはずだ」と思えるような、よい人材が集まってくれました。

もちろんご応募いただいたチャネルは様々ですが、それでも新サイトの影響は大きいと思いますね。以前は、コーポレートサイトの中に採用情報を載せて、しかも情報は募集要項と数名の社員インタビューのみでしたが、今回制作いただいたものならば、日本ヒルズ・コルゲートがどういう会社で、実際に働いている社員が仕事のどういったところにやりがいを見出しているのか、きちんと伝わると思えましたから

安岡さん×仁木対談2

仁木:そう言っていただけて何よりです。今後も採用やPRに注力されていく計画はおありですか?

安岡氏:今年のような大型採用はしばらく予定していませんが、全職種で欠員補充などのニーズは出てくると思います。その際も、今回の採用サイトには、当社に興味を持っていただいた転職希望者に訴えかけるパワーがあると思うんですね。ですから、情報更新を定期的に行いながら活用していければと思っています。

もうひとつ、自社のブランディングに関しても継続的に力を入れていきたいと思っています。たとえば今回のような機会もそうですし、CSR活動として、2015年から動物シェルターへのサポートや国内の盲導犬協会へのサポートも始めています。これらの活動も段階的に広げていく計画です。

【対談を終えて】

1. どんなターゲットに、何を伝えたいのか、サイトの機能を明確にする
2. 的確にメッセージを伝えるために、可能な限り情報はオープンにする
3. 社内外の協力を仰ぎ、クオリティの高いコンテンツを目指す

企業の将来を見据え、仕事や組織改革にやりがいを見出せる人材を求めた日本ヒルズ・コルゲート社。そうした要件を崩すことなく、短期間で40名もの大型採用を実現するためには、採用サイトによる的確な情報発信が不可欠でした。採用計画を進行する際には、自社サイトが企業の特徴や魅力、候補者に伝えるべきメッセージを発信できているかどうか? まずチェックすることをオススメします。

(取材・文/太田 将吾、撮影/シナト・ビジュアルクリエーション、編集/齋藤 裕美子)