採用もCRAZYに。徹底して人生を共に考える「ライフプレゼンテーション」とは

株式会社CRAZY

採用責任者 吉田 勇佑

プロフィール

求職者が仕事を選びやすくなった今の時代、何となく条件や雰囲気で入社を決めてしまう方も。一方で企業側も選考スピードを重視するあまり、求職者の本質を掴めないまま採用してしまう。求職者・企業の双方で、入社後アンマッチに悩むケースが増えています。そんな中、採用過程を単なる選考ではなく、人生を共に考える場として捉えることで、入社後の活躍・定着につなげている企業があります。

今回お話を伺ったのは、完全オーダーメイドの結婚式を提供しているCRAZY WEDDINGを運営する株式会社CRAZYの人事責任者である吉田氏。Work Story Award 2017「日本を代表する人事マネージャー10人が選ぶWork Story賞」を受賞した、ライフプレゼンテーションとはどのようなものなのか。そして、入社する側と受け入れる側に与える効果などについて、詳しくお話を伺いました。

創業から5年続く「ライフプレゼンテーション」誕生のきっかけ

創業から5年続く「ライフプレゼンテーション」誕生のきっかけ

まずはご自身も結婚式をあげる過程でCRAZYに惹かれた、その理由についてお聞かせください。

吉田氏:CRAZY WEDDINGの結婚式の特徴として、プランニングの過程で個人の価値観をかなり深掘りするんです。普通聞かれるのは「どんな会場や料理がいいですか?」だと思いますが、ここではここでは「なぜ結婚式をしたいの?」「吉田くんは今まで何を大事にしてきたの?」「結婚して実現したいことはどんなこと?」。

最初は「えっ?」って感じですよね(笑)。でも、話をしているうちに見栄を張っている自分や、「本当にやりたかった社会に貢献する仕事や生き方ができているのか」という心の中の疑問に気がついたんです。CRAZYとは、自らの本質と向き合い、理想の生き方を実現できる場所。働く場としても魅力を感じて、結婚式の後、迷わず入社を決めていました。

社員の約3分の1が、元CRAZYの新郎新婦というのもすごいですよね。

吉田氏:このCRAZYのビジネスと、採用への考え方、ライフプレゼンテーションは全てつながっているんです。CRAZYが目指すのは、生きると働くを分断しないワークスタイル。転職とは単なるジョブチェンジではなく、ライフチェンジです。自らの人生と向き合い、どういう生き方や働き方をしていきたいのかを考え、仲間たちに表現するライフプレゼンテーションは、CRAZYの理念を具現化した制度であり、採用におけるとても重要なプロセスになっています。

ライフプレゼンテーションは、選考の一環と伺いました。

吉田氏:そうですね。数回の面接を経て入社が決まったら、ライフプレゼンテーションの準備にかかります。入社日に行うライフプレゼンテーションとは、単に自分の今までの経験・実績・スキルを披露する場ではありません。「なぜ働くのか?」「自分は何を大事にしているのか」と、徹底的に自分の人生と向き合い、CRAZYに入社する意味を考える。そして、その覚悟を全社員に向けて発表する場なのです。入社に向けての欠かせない過程であり、「最後の仕上げ」とも言えます。

実は当社の面接も同じやり方になります。「理想の生き方は何ですか?」「あなたはどんな人ですか?」「どんな価値観を大事にしていますか?」とあらゆる角度からその人を知るんです。面接は担当者を変えて何度も実施しますが、基本スキルチェックではなく、その人の本質は何なのかを確認することに注力しています。求職者の方にとっても、選考過程である程度自分と向き合っていただけるので、その後のプレゼンテーションは意外と入りやすいんですよ。

ちなみに、このライフプレゼンテーションは、いつ、どのように誕生したんですか?

吉田氏:始まりは創業半年、6人目のメンバーである中西が入社した時です。彼は商社で20年間バリバリのキャリアを築いてきて、そこからベンチャーへの転職。この決断は中西や家族にとってもリスクがあるし、また受け入れる側にとっても、創業メンバーとしてCRAZYを共に創り上げていく覚悟を持ってジョインしてほしいという想いがあり、それを問う場が必要でした。

もう一つの背景としては、彼はこれまでどちらかというとビジネス偏重の生活でしたが、CRAZYでは何より家族や人間関係を大事にしています。だからこそ、入社するタイミングで改めて家族との関係を考える時間を持って欲しかった。彼はプレゼン前夜に、奥さん、娘さん、息子さんの前で「お父さんはこんな覚悟で働くよ」「こんな人生を選択するよ」と手紙を読んで、家族の応援を得たそうです。

もともと、CRAZYは前職の同僚や知人たちとで立ち上げた会社なので、新しい人材を迎え入れる体制もなかったんですね。今後会社を作りあげていく中で、受け入れ体制の確立は必須だったのです。

あれから5年、中途新卒問わず、入社する社員は全員ライフプレゼンテーションを行っています。

自らの本質と向き合う苦しみと喜びの2週間、それを支えるバディの存在

自らの本質と向き合う苦しみと喜びの2週間、それを支えるバディの存在

「ライフプレゼンテーション」は、どんな流れで進めていくんですか?

吉田氏:やることは基本シンプルで、改めて自分の人生を棚卸して、自分の生き方や未来への意志を明確にしていく場です。準備期間は人によりますが、だいたい1〜2週間ほど。その人専任の「バディ」が一人ついて、生まれてからこれまでどんな出来事があって、どう変わってきたのか、大切にしていることは何か、どんな未来を作りたいのか、徹底して話し合っていく。3回ほど練習して、徐々にプレゼンを磨き上げていくんですが、その間に深めていくためのプロセスはあまり決めておらず、その人に合わせた完全オーダーメイドですね。

「自分の決断について、母ときちんと話したい」と九州の地元に一度帰った方もいますし、完全オフラインで一人旅に出て自然に触れた方、親友とじっくり語る方、母校に行ってみる方など、プレゼンテーションの準備は本当に人それぞれ。そこはバディとの相談です。そして最終的に、全社員の前で、自分の人生ダイジェストを10分程度でプレゼンします。

吉田さんご自身は「ライフプレゼンテーション」をやってみて、いかがでしたか?

吉田氏:私は一度結婚式の時に似たようなことをやっているので(笑)。ただ実際は、自分の本質に深く入っていくことは、決して楽なことではないんです。人は誰でも実績や経験などで良く見せようとするし、一方、思い出したくないことには蓋をしているじゃないですか。そこを一つ一つ開けて掘り下げて、自分の鎧を一つ一つ剥がしていく。相当苦しいけれど、ただ同時に、今までの人生や周りの人に感謝したり、自分の原点を見つけたりして、大事に握りしめることができるフェーズでもあると僕は思っています。

そうなんですね。しかし、「バディ」の責任は結構重いですよね。どんな方が担当されるんですか?

吉田氏:その通りですね。人の人生に深く関与するわけですから、とても重要な存在になります。最終的には私の方で、事業部を超えて、全社員の中からベストな人を探しています。入社者と同じような経験をして来たメンバーや、CRAZYの真髄を伝えられるようなメンバーにお願いするケースが多いでしょうか。

自分の仕事をやりながら、「バディ」をやるのは大変では?

吉田氏:もちろん業務的な負荷は考えますが、基本はみんな喜んで引き受けてくれますね。やりたがりが多いです(笑)。それに、バディ自身も「ライフプレゼンテーション」を経験して、そこで見つけた自分の原点やバディという存在が、入社後壁にぶつかった時に支えてくれることを十分理解しているんです。そんな人生にとってかけがいのない瞬間を一緒に作れるなら、と言ってくれることが多いですね。

入社者と受け入れ側、双方に与える大きな効果とは

入社者と受け入れ側、双方に与える大きな効果とは

新しい仲間の人生背景や目指す生き方を知れることは、受け入れる側にもいい影響がありそうですね。

吉田氏:成長フェーズの企業だと、毎月新しいメンバーが入ってきて、気づいたら知らない人がいるなんてこともありますよね。そうなると「はじめまして」なんて余所余所しいところから始まる。でも、CRAZYでは、心の扉がすでにオープンの状態で仲間入りしていますから、自然と人と人の結びつきが強くなるし、仕事やカルチャーに馴染んでいくスピードは早いと思います。

それに、まっさらな状態で入ってくるメンバーのプレゼンを聞くことで、既存メンバーが改めてここにいる意味を思い出してモチベーションアップにつながる効果もあります。

そのほか、ライフプレゼンテーションが生み出す効果はありますか?

吉田氏:入社前に覚悟を決めて、自らの決意を仲間にも表明していますから、どんな壁にぶつかっても、自ら突破していく芯の強さがあると思います。それに、周りもフォローしやすいですね。「こういうことを大事にしたいって言ってたけど、ちゃんとできてる?」と声を掛けたり、アドバイスをしたり。

あと、プレゼンテーションの文化が根付いているので、社員からどんどん提案が出てきますね。朝礼の時間の使い方やエコへの取り組みといったものから、子連れ出勤や遠隔での働き方もこうした提案から制度化していった事例です。入社時のライフプレゼンテーションで自分の大事にしたいことが明確になっているので、提案にブレがないんですよ。

個人的に、カルチャーマッチってなかなか難しいと思ってまして。ただし、その人ならではの本質や価値観を聞いて、それをCRAZYという場で実現できるのか?を考えることはできる。採用とは、「実現可能性を見極めること」が重要なのだと思ってます。

今後さらに企業規模は大きくなっていくと思いますが、新たな取り組みとして考えていることはありますか?

吉田氏:ライフプレゼンテーションに関してはまず「バディ」の役割を若手社員にも広げていきたいですね。誰かの人生に責任を持って深く向き合うというのは人格としても成長するので、教育観点としても有用ですし、サブバディとして先輩バディから学ぶことで、カルチャーの伝承にもつながっていくのではと思っています。

あと、ライフプレゼンテーションを通して新しく入ったメンバーのことは知れるものの、逆に入社者が既存メンバーのことを知れる場がないのは一つの課題。今後はアーカイブとしてまとめたり、社員の物語をまとめた絵本などを作ったり…、そんなことを考えています。

それは素敵ですね!今日は貴重なお時間をありがとうございました。

階段には全従業員の写真

【取材後記】

採用活動を通して一貫して本質的に一人ひとりと向き合い、働き方や生き方を問い続けているCRAZY。3年間で倍以上拡大しながらも大切な創業理念を守り続けながらも新しいことに挑戦し続け、新たなカルチャーの体現者を次々と育てることができている秘訣は、この採用力にあるのでしょう。

ライフプレゼンテーションやバディの取り組みは、まさに「組織の成功循環モデル(マサチューセッツ工科大学 ダニエル・キム教授提唱)」であると感じました。この理論では、一見遠回りに思えても、組織における“関係の質”をまず高めていくべきと述べられています。組織内の関係性が良好になることで、個人の質も高まり成果が向上される、その結果、組織内にさらなる信頼関係が生まれるグッドサイクル。CRAZYが行っているライフプレゼンテーションも、近しい考え方なのかもしれません。

「ライフプレゼンテーション」をそのまま取り入れるのは難しいかもしれませんが、面接なり、入社後なりで「なぜ転職をするのか?」「どんな働き方や生き方を実現したいのか?」を人事・採用担当者も捉えたうえで、求職者と向き合っていく必要があるのではないでしょうか。

(取材・文/関口 朗子、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)