DeNA小林氏が実践する、社内の協力体制を高めるコミュニケーション・ルール作り
『怪盗ロワイヤル』や『農園ホッコリーナ』などをはじめ、複数のヒットゲームの運営を手掛ける、株式会社 DeNA Games Tokyo(以下DGT)。その採用計画を担う小林明子氏は、ある時はエージェント各社を「チームDGT」として束ね、またある時は社長さえも「同じゴールを目指す仲間」として、採用関連のイベントに積極的に参加させる“巻き込み力”の人です。
前編では、そんな小林さんが人材エージェントなどの社外パートナーといかに強固な関係を築いてきたかをご紹介しました。今回のテーマは、社内。現場の面接官や経営層とのコミュニケーションの重ね方は、多くの人事の参考になるものばかりでした。
内定オファー後ではもう手遅れ。意向アップの肝は面接官にあり
小林氏:それは間違いなく重要ですね。DGTは社員のゲームへの情熱や人の魅力については自信を持って「すごい」と言えます。ただ、前編でもお話しした通り、知名度の面や給与などの待遇面を考えれば、競争優位性は決して高くないんですよね。
そうした状況下で、世界中に何億社もある企業の中から、候補者にDGTを選んでいただくという“奇跡”を頻繁に起こすためには、リクルーター(採用担当)だけでも、人材サービス各社だけでもダメで、肝は面接官だと思っています。
小林氏:人材紹介経由の場合は特にですが、やっぱり内定のオファーを出す段階で、候補者さんの志望度が低ければ、巻き返すのはかなり難しいです。選考に入る前のエージェントさんによる後押しはもちろんですが、「DGTからは、絶対にオファーがほしい」と候補者さんに思ってもらえるかどうかは、一次面接、二次面接、最終面接で面接官がどう関わるかが大きく左右するはずです。
小林氏:面接官に対しては、定期的に座学研修を行っています。お出迎えのしかたから、会話を掘り下げるコツだったり、ネガティブイメージの払しょくの方法だったり、レクチャーする情報は様々です。
また、人材紹介経由で面接にお越しいただいた場合、各エージェントさんから面接後の候補者さんの声を収集していまして、「面接してくれた○○さんのここが良かった」といった嬉しい内容はもちろん、「面接官が疲れていた」「上から目線に感じた」など気になった点もすべて共有します。
小林氏:すべての応募いただいた方に「良い会社だったな」「たくさん話を聞いてくれたな」「本気でゲーム好きな人が集まっているんだな」「もっとこの会社のことを知りたいな」と、そう感じてほしいんです。ですから、面接対応にクレームが発生したら、きちんと指摘・改善をしています。
「12時間ルール」の徹底で、選考にスピード感と責任感を
小林氏:基本的なことですが、二次面接や最終面接のアテンドでは、“はじめまして感”は絶対出さないです。「この間はお疲れさまでした」「どうでした? 緊張しました?」など、些細なことでも会話をして親しみを感じてもらえるように意識しています。
それに一度、最終面接が誕生日と重なってしまった方がいた時には、小さなケーキを用意したこともありました。そもそも誕生日は避けるべきだったのですが、「こんな日にすみません!お誕生日おめでとうございます」とプレゼントしたら、さすがに驚かれていましたが、喜んでいただいて。それがきっかけではないと思いますが、無事に内定承諾をいただきました。
小林氏:当社の場合は、書類選考とか面接結果の入力とかリミットを決めているんですね。「12時間ルール」と呼んでいるのですが、エージェントさんから午前中に推薦が上がってきた場合はその日帰るまで、午後に来た推薦は翌日の午前中までにそれぞれ選考を終えるというルールが浸透していまして。求人広告経由の応募者さんも同様です。
また、面接に関しても同じです。終了後1時間以内、合格の場合は30分以内にデータ入力を行うルールにしています。もし遅れる場合にも、皆さん「ちょっとすみません……」と必ず連絡をくれます。こうしたルールは、社員だけでなく社長や部長も同じですね。
小林氏:もちろんです。TPOはわきまえますが、社長・取締役・部長といった役職は、あくまで役割分担だと思っているんですね。誰が偉いとかそういうことではなく、同じ目標に向かっていく仲間ですから。人事・採用担当者が決められないことを社長が決められるなら、どんどん動いてもらえるように働きかければいいんです。
「周りが協力してくれない」と思ったら、まず自分を見つめ直す
小林氏:みんな根が素直で、そもそも協力的だなというのは感じています。ただ、私としても「面接終わりには、ちょっと喉が疲れただろうな」と思って、勝手にキャンディ事業部みたいなものを行っています。
小林氏:まあ、飴をワサワサっとカゴに入れてデスクに置いているだけなんですけどね。面接が終わった担当者に「お疲れさま、飴ちゃんでも食べなよ。それで、どうだった? 」と声をかけるようにしています。それを日常的に繰り返していたら、いつの間にかみんな面接が終わると自然に私のデスクに来てくれるようになって。
小林氏:他部署とのコミュニケーションに苦労するケースって、意外と基礎的なところに原因があったりするんです。例えば、誰かに話しかけられた時、忙しいからって相手の顔も見ずに答えようとしていたら「話しかけづらいな」と思われちゃいますよね。
それにもし応募書類のチェックに、現場が協力してくれないなと感じたら、「私の頼むタイミングや頼み方は大丈夫だっけ?」と一度、振り返ってみるといいですよ。社内連絡ってどうしても事務的になりがちですから。一緒に採用活動に取り組むパートナーとして捉えるのが大事です…って、なんだか偉そうにすみません。
小林氏:“明るい自責思考”って、結構大事です。「自責思考」もやりすぎはよくないと思いますので、「失敗しちゃった、じゃあ次はこうしよう」って思うのが大事だなと。チャンスなんて何回でもあるし、チャンスをつかむまであらゆる視点から改善策を打ち続けられたら、必ず結果は出ると思うんですよ。
何より採用の仕事は、たくさんの人の人生にほんのちょっとでも関われる、責任感とやりがいと誇りを感じられる仕事じゃないですか。ミスをしたとしても、「何ができていなかったんだろう」と立ち止まるのではなく、「何をすればいいかな?」と考えて、一歩ずつ前進し続けて、大きなやりがいを得られたら嬉しいですよね。
【取材後記】
1.提供できる情報はすべてオープンにし、人材サービス企業との連携を強める
2.課題に直面した時は、まず自責で考え不要な作業と必要なルールを考える
3.社内外を問わず、「採用活動のパートナー」として適切な対応を心掛ける
小林さん曰く、応募数はもちろん、応募者の意欲候補者の質や採用実績も着実に高まっていると言います。また、社内の採用にかけるモチベーションもこの1年で大きく変わったとのこと。こうした変化のきっかけは、小林さんの「明るい自責思考」にあったとも言えます。外部要因を探る前に、まず自分が変えられること、変えるべきことを見つける。その小さな努力が、大きな成果を生むのかもしれません。
(取材・文/太田 将吾、撮影/石原 洋平、編集/齋藤 裕美子)