【10年後の会社をつくる】採用文化を浸透させるフロムスクラッチのCREW制度

株式会社フロムスクラッチ

執行役員 三浦 將太

プロフィール

マーケティングプラットフォーム「b→dash」を主要プロダクトとし、急成長を遂げる気鋭のベンチャー、フロムスクラッチ。「b→dash」はSaaSでエンタープライズ向けに開発・提供されるクラウドサービスで、企業が保有するビジネス・マーケティングデータを一元的に取得・統合・管理できるもの。今後、世界のさまざまな国で問題となるであろう「労働不足」を、b→dashのデータテクノロジーによる生産性向上のアプローチで解決していくことをビジョンとして掲げている。

急成長中の同社は、社員全員が採用を行うためのリクルーティング資格制度「CREW」があります。制度開始後約1年で、社員数が2倍以上の150人へと急増したオリジナル制度。それを作った背景・狙いとは。そして、得られた成果やそれを全社に浸透させる方法とは。執行役員の三浦さんにお話を伺いました。

「組織にどんな人を集める」かが競争優位性になる

「組織にどんな人を集める」かが競争優位性になる_フロムスクラッチ

どのような経緯で「CREW」を導入したのでしょうか。

三浦氏:組織というものは「生モノ」なので、会社の成長や市況の変化に合わせて、制度も変えていかなければなりません。

社員数30人くらいまでは、経営トップが尽力すれば採用はうまく回ります。また、30人くらいまでの組織であれば、組織間の階層もないため、メッセージや理念が社員全体へ伝わりやすく、経営者1人でも組織を統率できます。しかし、組織が50人、100人と増えてくると、経営者のメッセージが届きにくくなります。人数が増えればそれだけ社員が直接トップからのメッセージに触れる機会も減りますし、コミュニケーションの対象も「個人」から「マス」に変わっていくため、浸透率も悪化してしまうんです。

そこで、経営陣とメンバーの間に立つミドルマネジメント=中間管理層を強化する必要が出てきます。ミドルマネジメントが、経営陣の考えや方針を理解し、視界を合わせ、自分の言葉としてメンバーに伝えられるかどうかが重要になるのです。「CREW」という制度をつくったのは、フロムスクラッチもちょうど50人~100人の組織規模のときでした。

さらなる組織拡大に伴い、採用力を強化することが必須です。採用担当だけが採用活動をするのではなく、全社を巻き込んで、全社員がリクルーターとして採用活動にあたる仕組みが必要になります。

そこで、2015年末頃から制度づくりのプロジェクトがスタート。2016年4月にはほぼ制度の形ができ上がり、それから半年ほど準備期間としてテスト・調整を実施して、ようやく「CREW」の制度をローンチできました。

さらなる組織拡大を見据えたうえで、CREW制度ができたわけですね。

三浦氏:組織・人は常に経営課題であり、重要な経営資源でもあります。組織づくりこそが競争優位性につながるというのが全社員が認識しているフロムスクラッチの基本的な考えです。あらゆる市場のライフサイクルが短くなってきて、情報の非対称性もなくなっていくなか、戦略やプロダクトの模倣可能性は高くなるばかり。模倣可能性の高い戦略・プロダクトそのものよりも、新たな価値をつくり続ける組織こそが、競争優位性になります。

そのため、私たちは設立当初から、組織づくり・採用を何よりも優先して行ってきました。採用が大事、採用は誰もが行うという文化は、創業期からずっとありましたが、組織が急拡大するタイミングで改めて制度をつくることで、よりその考えや文化を強固にしていく狙いがあったんです。

自社の理解と採用への貢献・実績による、リクルーティング制度

自社の理解と採用への貢献・実績による、リクルーティング制度_フロムスクラッチ

「CREW」という制度は、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

三浦氏:「CREW(Commitment of Recruiting Elites to be World-class)」とは、社員の採用活動の貢献を評価する制度です。社員一人ひとりを、採用への貢献度に応じて「エントリー」「バチェラー」「マスター」「ドクター」の4段階で格付けしています。

CREW制度

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半年に一度、“会社の歴史”や“会社が大切にしている文化”などの理解度を測るテストを実施しており、それに受かれば「エントリー」。このレベルに到達することは、全社員MUSTです。「バチェラー」以上については、会社のミッションや自分がしている仕事を魅力的に伝えられるかどうかを測るプレゼンテストを実施して評価します。

それに加えて、「どのような人材を採用できたか」という実績も一つの評価軸になります。明確な基準を設けているわけではありませんが、大まかなイメージとしては、新卒・第二新卒を口説ければ「バチェラー」、リーダー・課長クラスを採用すれば「マスター」、いわゆるCxO、経営幹部の採用に貢献すれば「ドクター」といった具合です。2017年12月現在、「バチェラー」が約20人、「マスター」が10人くらい、「ドクター」は2人が取得していますね。

テストやプレゼンを実施するなど、明確な条件を設けているのですね。

三浦氏:制度づくりの背景でもお話したように、会社の代表が話すのと同じことを、同じレベルの熱意をもって話すことができなければ、それだけの人材を採用することはできません。我々のようなベンチャーの場合はブランド力も強くないですし、最初に面談をする時の候補者は「何か面白そうな会社だな」という程度の意識で話を聞きに来ているわけです。

候補者の心に私たちの熱意を届けて、どこまで「焚きつけることができるか」が、ベンチャーの採用にとっては非常に大事なのだと思います。

私は、「物語があるか」という話を社員によくします。テストのために学んだ知識、会社の歴史や魅力を“教科書的に”候補者に話すのか、あるいは「僕の個人的な話なんですけどね…」と切り出して、自分のこれまでの経験に絡めながら、われわれのミッションの重要性、目指す世界観への共感を話すのでは、どちらが焚きつけられるか、という話です。代表の言葉をそのままなぞるのでは、相手の心を動かすことはできません。だれにも自社に対する「物語」はあるはずなので、それを自分の言葉で話せることが大事です。

文化を根付かせるには、言い続けるしかない

文化を根付かせるには、言い続けるしかない_フロムスクラッチ

「CREW」制度を始めてから約1年、どのような変化がありましたか。

三浦氏:目に見える変化でいうと、全体の採用数のうち、リファラル採用の比率が大きく高まりました。会社の理解も深まり、さらに全員が採油活動に注力してくれるようになるので、誰が面接に出ても候補者の方の志望度も向上する確率が大幅に向上しました。当然、面談の辞退率も半減しました。

「CREW」を始めた時点では社員数は70〜80人くらいだったのですが、この1年で子会社も含めて150人になりましたから、ほぼ倍増ですよね。

釈迦に説法の話ですが、採用は人事だけの仕事ではありません。これからは全員で採用する時代になっていくでしょう。全社一丸となって採用に力を入れる会社じゃないと人が集まらないし、人が集まらない組織は必ず成長が鈍化します。ベンチャー企業は特にそうです。フロムスクラッチはそういう考えや文化が創業時からありましたが、今回「CREW」という制度をつくり、よりその文化や考えが浸透したという実感があります。

そういう文化が根付くためには、何が最も必要だとお考えですか。

三浦氏:採用・組織づくりにおける経営陣のコミットメントだと思います。組織づくり、そして採用活動が最大の競争優位性なんだ、ということを発信し続け、さらに体現することが大切です。フロムスクラッチでは、あらゆる社員が普段から採用の話をしているくらいに力を入れるようにしています。

例えば、週1回行われる全体朝会や、月次の納会、3カ月に1回の全社総会など、さまざまな場面において、経営陣から組織や採用活動の重要性を発信しています。あるいは日常的に、普段の飲み会や社外イベントでも、「この人いいな、一緒に働きたいな」と思う人に会ったら、「一緒に働きませんか?」と自然と誘えるような意識づけを心掛けてますね。

さまざまな場面で、「組織・採用が最優先なんだ」というメッセージに触れることが、文化を根付かせる上で必要なことです。

あとは、日常的に行う小さな働きかけの積み重ねが文化を根付かせます。例えば、代表や私を含む役員陣は、社内のミーティングがあっても、候補者との面談が入ればそちらを優先します。社員から「この人に会ってほしい」と言われれば時間を割きます。採用に対する姿勢を見ていれば、自ずと組織全体にも重要性が伝わるのではないでしょうか。

いずれにしろ、日頃から「どんな人と働きたいか」「その人と働くために主体的に動けるか」を意識させる工夫が大事だと思います。

現場が「楽しんで」、未来の会社づくりを行っている

現場が「楽しんで」、未来の会社づくりを行っている_フロムスクラッチ

社員の皆さんは、「自分たちが採用をすること」をどのように考えられているのでしょう?

三浦氏:社内でよく言うのは、「採用は10年後の会社をつくる行為」だということです。ある会社の1年後を見たければ、プロダクトを見れば分かります。3年後を見たければ、PLを見れば分かる。では、10年後を見るには? ――採用のレベルを見れば分かります。

今、この東京オフィスにいる社員が100人くらいですが、会社がこの先大きくなっていったら、このメンバーが未来の会社の幹部になるわけですよね。その時に彼らが、どれだけ会社のことを理解しているかは、とても重要です。たぶん今のまま私たちが500人、1,000人単位の組織になったとしても、組織はまとまり、大きな価値提供をし続けていく自信があります。それは、今の社員100人が会社のことを本当に理解し、採用の重要を認識し、会社をつくっていく当事者として働いているからです。

未来の幹部を育てていると考えたら、どれだけ工数を掛かろうが、負荷がかかろうが、やる意味は大きいです。

当然、メンバー全員、採用活動を楽しんでやっています。想いを持った会社の組織を自分たちの手でつくる、ひいては社会を良くしていくと考えた時に、良い仲間が一人でも多くいたほういいですからね。

今後、組織づくりに関して三浦さんが構想されていることはありますか。

三浦氏:考え始めたらキリがないほど、それこそ採用活動だけでも色々あります。例えば、プロモーションの手法って、ものすごく進化していますよね。採用活動も、自分たちの会社の魅力を伝えて、意向を高めてもらって、入社してもらう、という流れを考えれば、プロモーションとほぼ同じ構造のはずなのに、採用はそこまで進化していない。もっと採用手法はユーザー行動にあわせて発展していくべきだと思っています。
データを活用して選考プロセスごとに接点を持ったり、候補者ごとに別の選考プロセスやコンテンツを用意したり、シナリオを生成しオートメーション化したり…、マーケティングやプロモーション領域で用いられる手法をヒントに、もっと徹底して採用活動のバージョンアップをやっていきたいですね。

「CREW」の取り組みはいかがでしょう。

三浦氏:前述した通り、組織は「生モノ」です。組織が拡大するにあたってどんどん制度も仕組みも変化していく必要があります。状況に応じてCREWも変化していくかもしれませんが、“フロムスクラッチの採用文化”という考え方そのものを根本は変えるつもりはありません。そんな組織であり続けたいし、あり続けなくてはならないと思っています。

【取材後記】

目に見える分かりやすい「制度」があると、ついそれに着目してしまいますが、会社の「文化」をつくり、根付かせるには、日常的かつ継続的な働きかけの積み重ねが重要だということをあらためて気づかされました。文化が根付くと、それまでは「上から下へ」の働きかけだったものが、社員同士でお互いに働きかけるようになる。そうしてさらに文化が強固になっていくのでしょう。経営トップから現場まで、会社の思いが浸透している「純度の高い組織」という印象を受けました。
(取材・文/畑邊 康浩、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)