楽天、リンクトイン、IBM——杉本氏が「採用」を軸に歩んで来たキャリアとは

日本アイ・ビー・エム株式会社

人事 タレント・アクイジション 部長
杉本 隆一郎

プロフィール

楽天、LinkedIn Japan、アクセンチュア、そして日本アイ・ビー・エム。新卒時から一貫して人事畑を歩み続け、「採用」を軸にキャリアを構築してきた杉本 隆一郎さん。楽天時代にダイレクト・ソーシング(ダイレクト・リクルーティング)と出会い、LinkedIn Japanでは代表代行も務めた杉本さんに、自身が歩んで来た人事系ビジネスパーソンとしての類稀なるキャリアを振り返っていただくと共に、日系企業と外資系企業における採用業務の捉え方の違い、これからの採用担当者に求められる資質やスキルなどについてもお聞きしました。

先輩社員の給与格差に驚き、人事ゼネラリストとしてのキャリアを歩み出す

先輩社員の給与格差に驚き、人事ゼネラリストとしてのキャリアを歩み出す

大学卒業以降、現在まで一貫して人事畑のキャリアを歩まれていますね。ご自身のキャリアについて新卒のころから順を追って、お聞かせいただけますか?

杉本氏:世の中に新しいサービスを広めていきたいという考えで就活をしていた時に、当時は画期的だったケーブルテレビとインターネット、電話を三位一体で提供しているタイタス・コミュニケーションズ(現:株式会社ジュピターテレコム)に出会ったのです。「オフィスも表参道だし、ここしかないぞ!」と。今考えると単純にミーハーですね(笑)。入社時の配属希望は営業もしくは広報でしたが、人事部配属となり、給与計算をメインに従事しました。

労務管理からスタートされたのですね。

杉本氏:一見地味ですが、給与計算を通し、例えば同じ営業職でも、関連会社からの出向者、新卒から営業一筋、社内ローテーションで営業部門に移った人など、売上や評価だけではなく、キャリアの歩み方によっても給与に差があることを知りました。当時は、将来的には営業をと考えていましたが、「人事での経験を活かし、さらにスキルを高めたほうがよい」と思い、キャリアを考え直すきっかけにもなりましたね。

その後、2001年にエム・ティー・ヴィー(MTV) ジャパン(現:バイアコム・ネットワークス・ジャパン株式会社)に転職された経緯は?

杉本氏:30歳までに人事のゼネラリストになりたいと考えていたので、幅広い業務に携われる企業を探していました。MTVジャパンに勤務する先輩に相談したところ、「労務に加えて採用なども経験できるよ」と言われて、26歳の時にMTVジャパンへ移りました。ここでの約4年では、給与や労務に加えて採用や研修、人事制度の企画などを経験することができました

そして2006年に楽天へと移られたのですね。

杉本氏:「35歳以上転職限界説」といわれていたので、30代半ばまでに自分を高く評価してくれる企業にと考えていたところ、人材紹介サービス会社から楽天HRマネージャーを紹介されました。2006年当時インターネット業界はまだまだ成長の余地がありましたし、「人事の経験者に採用を任せたい」との言葉もあり、新しいフィールドにチャレンジをしようと考えたのです。

楽天でダイレクト・ソーシングに出会い、LinkedIn Japanの代表代行へ

楽天でダイレクト・ソーシングに出会い、LinkedIn Japanの代表代行へ

楽天ではマネージャーとして採用業務を中心に担当されていますね。

杉本氏:営業職やWebディレクターの月間50名採用など、大量採用を手掛けていました。人材紹介サービス会社との取引も20社程度から約200社に増やし、各社とウィークリーで採用候補者の進捗管理をしたり、各人材紹介サービス会社に出向いてプレゼンをしたりと忙しく働いて時に、本格的な海外展開や社内の英語公用語化が始まったのです。グローバル人材や海外MBA人材の採用もスタートし、もはや日本人採用にこだわる必要はない、海外から優秀な人材を集めようというときに知ったのがLinkedInのサービスです。

当時、人材紹介サービス会社から届くグローバル人材のレジュメには「どこかで見たことがある」ということが頻繁にありました。それは自分がLinkedInで見たプロフィールと同じものであり、「あの時、自分で声をかけておけばもっとスピーディーに採用できたのか」ということがわかるようになって…これは凄いなと思いましたね。それがダイレクト・ソーシングとの初めての出会いであり、2010年ごろの話になります。

楽天では、どのようなスキルが身についたのでしょうか?

杉本氏:スピーディーに変化するビジネス側からの要求への対応力が試され、鍛えられました。例えば、採用した外国人から後輩を紹介してもらう仕組みや、海外の大学を回って1日選考会を開催するなど、他社が試みていないさまざまな施策にチャレンジしました。すると「やってみたら意外とできたね」ということが増えてきたのです。トップ・ダウンで「できるかどうかではなく、とりあえずやってみなさい」というお題をいただける環境で働いていたことは、今の自分の仕事の進め方・考え方に大きく活かされていることは間違いありません。

採用ツールのひとつとしてLinkedInを使っていたことが、LinkedIn Japanへの転職のきっかけとなるのですね。

杉本氏: LinkedInが日本進出に当たりリクルーティングマネージャーを募集していることを知り、就活時に考えていた、新しいサービスを世の中に広めたいという考えが、自分の中に蘇ってきたのです。「この仕事は誰にも渡したくない」と自ら応募し、2011年の冬にオファーをいただきました。

楽天での経験は自分のキャリアの中でも重要な部分を占めていましたが、入社から5年、6年経ち、「自分がストレッチできる機会が少なくなっている」と感じ始めていたのも事実です。 LinkedIn Japanで新しいチャレンジがしたかったんですね。

代表代行まで務めたLinkedIn Japanでのお仕事はいかがでしたか?

杉本氏:代表代行と言ってもファイナンスに関してはAPACの組織が担当していたので、私はスポークスマン的な立場でカンファレンスやセミナーなどに登壇し、LinkedInの認知拡大やダイレクト・ソーシングに関する啓蒙活動をメインに担当していました。さまざまな経験を積むことができましたが、やはり経営者の視点を得られたことが大きいと思っています。人事担当者として自分が出していたスケジュール感やアウトプットの品質など、あらゆる側面において、実は経営者にとっては物足りないものであったことに気づいたのです。過去の自分を振り返り、もっと頑張っておくべきだったなと強く感じましたね。

その後、2016年10月にアクセンチュア株式会社、2017年9月に日本アイ・ビー・エム株式会社に移られた経緯についても教えてください。

杉本氏:LinkedIn Japanでダイレクト・ソーシングの啓蒙活動を続けている5年の間に、日本でも多様なサービスが生まれ、ダイレクト・ソーシングという採用手法も次第に認知されるようになりました。そして、自分自身でダイレクト・ソーシング組織を立ち上げ、採用活動を統合的にリードしてみたいという思いが生まれてきたのです。LinkedIn Japanでの自社採用はダイレクト・ソーシングで進めていましたが、年間の採用人数は限られたもの。そんな時に会社規模が大きく採用人数も多いアクセンチュアからお声掛けいただき、大規模な採用にチャレンジしようと考えました。

アクセンチュアは採用組織も大きく、採用予算も潤沢にあり、あらゆる施策を実行できるリソースがありました。当時、ダイレクト・ソーシングの割合を高めていこうという方針があり、さまざまな施策を展開した結果、かなりのボリュームの中途採用実績のうち、約半分近くをダイレクト・ソーシングで採用することができたのです。この経験によって自分の中のキャパシティはかなり広がったと思います。

ただ、仕組みができてしまえばあとは実行するのみで、デリバリーをしながら、自分の中で何かしらストレッチの領域がほしいと感じていたタイミングで、日本アイ・ビー・エムと出会いました。グローバル企業の日本採用を担当するという観点では同じですが、日本アイ・ビー・エムの場合、施策や資金についての交渉を全て自分で行わなくてはならない環境だったので、これは似て非なるロールであると感じました。

日系企業でも採用担当者に求められるスキルは大きく変わりつつある

日系企業でも採用担当者に求められるスキルは大きく変わりつつある

これまで日系企業と外資系企業の双方で採用を経験されていますが、日系と外資における採用業務の違いはどこにあるのでしょうか?

杉本氏:一般的な日系企業では、採用担当者が求人広告や人材紹介サービス会社に依頼し、候補者・応募者が紹介されてから面接調整、コーディネート、条件オファーを行って、入社につなぎこむというプロセスを中心に担当することが多いと思います。待ってプロセスするだけの、誰にでもできる仕事だと見られることもあります。

候補者・応募者を集めてからのプロセスを担当するのがリクルーティングという言葉ですが、一方で、外資系企業の多くはリクルーターではなく、タレントアクジションという職種名称を使用することが多いですね。自社に応募してこない人、まだ転職活動を考えていない人に対しても自社の情報を伝えて興味喚起を行い、積極的に人材を採りにいくという動きを求められるのが、現在の外資系企業の採用担当です。まさにダイレクト・ソーシングの世界なのですが、外資系企業の採用チームは、そうしたプロフェッショナル集団であるという気がしますね。

今後、日系企業の採用担当者も外資系企業のようにプロフェッショナル化していきそうですね。

杉本氏:インターネット業界を中心に、日本でもダイレクト・ソーシングが広まってきています。さまざまな会社が人材のデータベースを提供していますし、ミートアップイベントを開催することで転職活動をしていない人も巻き込む採用活動に資金を投下する会社が増えているので、いずれ外資系企業と同様の採用スキルが必要になるでしょう。また、ダイレクト・ソーシングも含めて採用に関する指標は全て数字で管理できる世界に変化してきているので、営業活動のように数字を追いかけ、コミットしていく必要もあります。採用手法を取り巻くサービス、テクノロジーの変化にあわせて採用担当者に求められる資質やスキルも変わっていくでしょうね。

新卒時から現在まで、人事として刺激的なキャリアを積んで来られたと思いますが、今後の目標などがありましたらお聞かせください。

杉本氏:私自身、LinkedIn Japan以降のキャリアでは採用の仕事にスポットを当ててきましたし、日本でも五指に入るような採用リーダーという地位を確立したいという思いでキャリアを構築してきました。今後さらにダイレクト・ソーシングが拡大していけば、日本においても採用がプロフェッショナルの仕事になっていくことは間違いありません。採用担当者として、採用における知識やテクニックの向上はもちろん、経営者の視点を持ちながら、組織の採用ニーズにスピード感を持って対応する力が、これまで以上に必要になるでしょう。私個人としては、これからも自分自身のキャリアを通して、「採用」はプロフェッショナルジョブであるという認知を広めていきたいと考えています。

【取材後記】

インタビュー中、「常にストレッチができる環境を求めてきた」と語り、自身のスキルベースで会社と仕事を選んでキャリアを切り開いて来た杉本氏の話を伺っていると、人事部門はバックオフィスであるという旧来的な考え方を改めざるを得ないと同時に、人事・採用部門において求められるリーダー像のイメージが大きく変わってきていることを実感しました。現在人事・採用担当として将来のキャリアパスを模索している方にとっては、さまざまなキャリアの可能性を示唆してくれるインタビュー内容だったのではないでしょうか。

後編の記事では、杉本氏が考えるダイレクト・ソーシングを成功させるために必要なノウハウ、現在所属されている日本アイ・ビー・エムにおけるさまざまな取り組み、ご自身の今後のキャリアで成し遂げたいことについても詳しくお伺いします。
(取材・文/佐藤 直己、撮影/石原 洋平、編集/岩田 巧・齋藤 裕美子)