内定をもらうと入社意欲が下がる?求職者心理をとらえて採用成功につなげる方法

d's JOURNAL
編集部

書類選考、面接を通過し、ようやく勝ち取った内定。内定者の心理として「新たな環境で働くことへの期待や希望に満ちている」だろうと想像する人も多いのではないでしょうか。しかし、内定獲得後の求職者心理は、必ずしも転職に対して高いモチベーションを維持できているというわけではありません。こうした求職者の心理状況を把握せず、企業側から一方的なコミュニケーションを取ってしまうことで、内定辞退につながることも…。そこで今回は、求職者の内定後の心理に着目し、採用成功につなげるコミュニケーションの取り方についてご紹介します。

内定による達成感は大きいが、転職モチベーションは下がる?

転職活動を始めてから内定をもらい、次の職場で働くまで一般的に3カ月程度かかると言われています。求職者はその間、転職に対して常にモチベーションを高く保っていられるかというと、決してそうではありません。「自分に合った会社がわからない」「そもそも転職活動をどう進めたらいいかわからない」といった不安や「応募したのに書類選考や面接を通過できない」「忙しくて面接に参加できなかった」といった悩みなど、転職活動を始めたものの、結局最後まで続けられなかったということもよくあります。

こうしたさまざまな壁を乗り越え、ようやく勝ち取ることができる内定。求職者にとって内定獲得は、大きな達成感や解放感を味わえるものであり、転職活動においてもっともモチベーションが高まる瞬間である、と想像する人事・採用担当者もいるでしょう。

しかし、実際の求職者心理はそのイメージと異なるようです。数多くの転職支援を実現し、求職者心理を熟知したパーソルキャリアのキャリアアドバイザーや転職経験者など、複数名にヒアリング調査を行ったところ、転職活動中の求職者心理は下記の図のように変化していることがわかりました。書類選考や面接を通過できない場合、当然転職に対するモチベーションは下がりますが、その時と同じように内定から内定承諾にかけて転職への意欲が下がってしまう傾向にあるというのです。内定を出した求職者から「他に応募している企業はない」と言われたものの、なかなか承諾を得られないという経験をお持ちの人事・採用担当者もいると思いますが、実は内定後のモチベーション低下が影響していたのかもしれません。

転職活動が長引いた求職者の活動意欲

図

求職者を迷わせる「決断を迫られる不安」と「現状維持バイアス」

内定後の求職者心理として、転職に対するモチベーションが下がる理由は主に二つあります。その一つが「決断を迫られる不安」です。

決断を迫られる不安

転職のきっかけは、大小の差こそあれ現在への不満からスタートすることが少なくありません。そのため、転職活動中は応募先企業に対して理想や期待を抱いていますし、良い部分にばかり目を向けてしまいがちです。しかし、内定を獲得すると状況は変わります。これまで理想や期待の対象としてみていた企業は、入社後の労働条件や給与などが具体的に提示されることで、現実として意識せざるをえなくなるのです。もちろん良い部分だけを見ているわけにもいかず、悪い部分にも目が行きます。

こうした現実を突きつけられたうえで、迫られる入社の決断。将来を左右する重要な決断となるので、改めて現実を突きつけられると「本当にこの会社でいいのだろうか」と不安を抱き、決断に迷いが生じてしまうのです。転職が初めての人や転職活動が長引かず、選考が順調に進んでしまった人ほど、こうした傾向は強く、「もっと良い会社があるのではないか」「もう少し活動を続けてみたほうがいいのでは」と決断を先延ばししてしまうことも多くなります。

現状維持バイアス

二つ目の理由は「現状維持バイアス」によるものです。現状維持バイアスとは、人間は本能的に変化によって得られるリターンよりも、変化によって失うリスクに対して過剰に反応してしまうという心理のことを言います。「転職後の新しい職場で人間関係を築き直したり、新しい業務や知識を増やしたりするのであれば、少し我慢して現職にとどまったほうがいいのではないか」と考え、決断に迷いが生じてしまうのです。また、現職への愛着というのも考えられるでしょう。内定後は改めて現職と内定企業を比較できるタイミングとなります。フラットな条件で見ると、現職の方がなんとなく魅力的に見えてくることもあるようです。現職に引き止められて、最終的に転職をしないという決断をする求職者には、こうした心理背景があると考えられるでしょう。

内定から入社に導くコミュニケーションのポイント

内定から入社に導くコミュニケーションのポイント

中途採用は欠員補充の場合も多いので、早期に入社してほしいと考えてしまうものです。また、入社意思の獲得が遅くなることで、採用競合が求職者にアプローチをする可能性も高まるので、内定の承諾を得るタイミングは早いに越したことはないでしょう。しかし、内定後の求職者心理を考えると、むやみに急かしてしまうのも得策ではありません。無理に判断を迫ることで、内定辞退につながったり、疑問を残したまま入社したもののすぐに退職となってしまうことも。では、内定から入社につなげていくために、人事・採用担当者としてどのような点に注意すればよいのでしょうか。

求職者から内定承諾を得られない場合、まず重要なことは求職者がどんな点に不安を感じているのか、悩んでいるかを把握することです。労働条件なのか、仕事の裁量なのか、一緒に働く社員なのか…。人によってさまざまな悩みを抱えているので、それぞれの悩みを解決できるような情報を積極的に提供する必要があります。

可能であれば時間を作り、直接会って話をするようにしましょう。その際は面接のように自社に来てもらうのではなく、カフェなどで気軽に話せる場を用意し、求職者が来やすい場所を選ぶことも重要です。近しい悩みを持っていたり、同じような立場や年代の中途入社者がいれば、面談への同席してもらうことも有効でしょう。あえて人事が同席せず、社員とフラットに話してもらう場を設けてもよいと思います。また、求職者の悩みごとは、状況によっても変化するため、直接会うだけでなく電話やメールで定期的に連絡を取っておくことも大切です。

もう一つ大切なことは、転職を考えたきっかけや転職理由に立ち返ってもらうことです。転職活動を進めていく中で、当初考えていた転職の軸から、まったく別の観点で決断に迷いが生じているということもあります。この転職を通じて叶えたいことを洗い出し、その中でMUST条件、WANT条件など優先順位をつけてもらうと判断がつきやすくなるでしょう。

いずれにせよ、内定後のタイミングから、すべての不安や悩みを解消するのは不可能です。内定条件を提示した段階で、「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、求職者にとってネガティブになりそうな要素があれば選考段階から情報を提供し、すり合わせておくことも必要になります。面接を通じて、転職理由やほかに応募している企業やその理由などをヒアリングし、求職者が内定承諾をするタイミングで気にしそうな情報を事前に把握できるようにするとよいです。また、求職者がネガティブに感じてしまいそうな情報を伝える際には、単なる情報提供としてではなく、改善の方向性や代替となりうる魅力など、カウンタートークを用意しておくとよいでしょう。

■具体例

  • 残業時間が多い→働き方改革の一環で、週に1度の早帰りを徹底。今後は他曜日にも展開予定
  • 入社時の年収が低い→入社から数年後の中途入社者の平均年収を提示する など

【まとめ】

「母集団形成」「面接」「意向醸成」「クロージング」といった、それぞれのフェーズにおいて求職者がどんな気持ちで転職活動を進めているのかを理解しておくことは非常に重要なポイントになります。アプローチのタイミングや内容によって、採用成功につながる可能性も大きく変わってくるでしょう。内定後のコミュニケーションはもちろんですが、選考段階から状況に応じて適切なコミュニケーションを取れるよう、日頃からの求職者の心理変化にも気を配っておくことが必要です。

(文・編集/岩田 巧)