【採用×Webマーケティング】母集団形成に悩む人事が活用すべきDSPとは

株式会社マイクロアド

営業本部 第2営業局 統括
井上 茂樹

プロフィール
株式会社マイクロアド

営業本部 第3営業局 アカウントプランナー
松本 和之

プロフィール

採用競争が激化する中、母集団形成は人事・採用担当者にとって大きな課題となっています。既存の採用手法に加えて自社の採用サイトやブログを強化することで、新たな母集団の形成や採用ブランディングの構築を目指す企業も増えている一方で、Webサイト集客のキーとなる「Webマーケティング」に関する知識不足を感じている人事・採用担当者も多いのではないでしょうか? 今回は人材採用を含むインターネット広告分野で多くの企業をサポートしている株式会社マイクロアドの井上氏・松本氏に、DSP(Demand Side Platform/広告主向けプラットフォーム)による広告配信の概要や採用における成功事例など、Webマーケティングを採用に活用するためのさまざまな心得やノウハウをご紹介いただきました。

DSPでユーザーをターゲティングする2つの手法

DSPでユーザーをターゲティングする2つの手法

最初に貴社が取り組んでいるWebマーケティングの特徴について教えてください。

井上氏:当社では数あるWebマーケティング・Web広告のなかでもDSP(Demand Side Platform/広告主向けプラットフォーム)をメインに扱っています。DSPとは、広告主さまの目的に合わせて配信対象を設定(ターゲティング)するだけで、適切なWebメディアに自動で広告を配信する手法のことです。広告の種類としては一般的なバナー広告や動画広告のほかに、ダイナミッククリエイティブと呼ばれる閲覧するユーザーごとに内容が変化する広告もあります。

配信対象をターゲティングする手法にはどのようなものがありますか?

井上氏:ターゲティングには大きく分けて2つの手法があります。ひとつは「リターゲティング」です。一度サイトを訪れたユーザーに対して、そのサイトの広告を配信するものであり、ある程度ユーザーを追いかけて配信を続けます。自社の求人広告を確認するために転職サイトにアクセスしたところ、しばらくいろいろなWebメディア上で転職サイトの広告が表示されたという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

リターゲティング

もうひとつは「オーディエンスターゲティング」と呼ばれるもので、当該のサイトを一度も訪れていないユーザーに対してターゲティングを行います。ユーザーのWeb上での行動履歴などさまざまなデータを分析することで、「このユーザーであれば、このサイトや商品を気に入るだろう」という予測を立てて広告を配信する手法です。

オーディエンスターゲティング

「リターゲティング」と「オーディエンスターゲティング」は、どのように使い分けられているのでしょうか?

井上氏:すでに多くの人が集まっているサイトを運営している場合は、リターゲティングに予算をかける傾向があります。一度サイトを訪れたユーザー、つまり興味・関心の高いユーザーを追いかけるので、Web広告の指標であるCVR※1やROAS※2(広告の費用対効果)といった指標も上がりやすく、目に見える効果が出やすいのです。

ただし、リターゲティングは一度サイトを訪れたユーザーしかターゲティングできないので、立ち上げたばかりのサイトでは使いにくいですし、企業の採用ページのように閲覧ユーザー数の少ないサイトでは思ったような効果が得られません。こうした場合、より幅広いデータの中から新規ユーザーを獲得できるオーディエンスターゲティングが使われています。

※1.CVRとは、Conversion Rate(コンバージョンレート)の略で、サイトに訪れた人のうち、どれくらいの人が購入や登録などの最終成果に至ったかを示す割合のこと

※2.ROASとは、Return On Advertising Spend(リターン オン アドバタイジング スペンド)の略で、投資した広告費に対してどれだけ売上が上がったかを示す指標のこと

オーディエンスターゲティングに関してはユーザーデータの分析が重要になりそうですね。

井上氏:一般的にユーザーデータの分析は、さまざまなWebメディアと提携しており、「ゲームメディアを見ている人はゲームが好きだろう。転職メディアを見ている人は転職に興味があるだろう」という観点でのターゲティングも行っています。弊社ではUNIVERSEというマーケティングプラットフォームを提供しており、Webメディアだけでなく、購買データのようなより幅広いデータを参照し分析を行っています。

たとえばコンビニなどで利用するポイントカードのデータを見れば「この人はコンビニで何を買っているのか」ということがわかりますし、業務提携しているソフトバンクさんのキャリアデータなども活用しています。今後、採用に活用できそうなもので言えば、有名なクラウド名刺管理サービスの会社からのデータです。このようにWebだけではなく、ユーザーのリアル世界での行動データを取り込むことで、データの精度やターゲティングの質を向上させています。

新たな母集団形成を実現した採用におけるDSPの活用事例

新たな母集団形成を実現した採用におけるDSPの活用事例

採用に関する母集団形成やブランディングに関して、Webマーケティングを活用する企業が増えているという実感はありますか?

松本氏:当社も多くの企業さまからご相談をいただきますが、特にオーディエンスターゲティングの領域でご提案するケースが多いですね。背景としては、転職メディアや人材紹介サービスを継続的に利用しているものの頭打ち状態で、新たな母集団形成に課題を抱えている企業さまが増えているということが挙げられます。

具体的な事例があれば教えてください。

松本氏:ここ最近ではITエンジニアの求人で高い成果が出ていますね。国内でも有数のPV(サイト閲覧数)を誇るエンジニア向けのQ&Aサイトからユーザーデータを提供いただき、当社で保有している別のデータと掛け合わせて分析にかけ、転職意欲が高いと思われるユーザーに広告を配信することで効果が上っています。
あるゲームアプリ会社さまのケースですが、SNS広告も同時に配信していたものの、オーディエンスターゲティング広告を見て集まったユーザーの回遊率、滞在時間が最も優れており、サイトの新規ユーザー率も90%を超えました。2週間という短い配信期間でしたが新規ユーザーを集めるということでは大きな成果が得られた事例です。

ITエンジニア以外ではどのような職種の相談があるのでしょうか?

松本氏:看護師や介護士の採用に関する相談が増えています。これらの職業に関しては特化しているメディアの数が少なく、集められる数にも限界があります。そこで、看護師や介護士に関しては、位置情報などでターゲティングしたユーザーに広告を配信することが多いですね。一般的にはジオターゲティングと呼ばれている手法です。

Webマーケティングより幅広い、デジタルマーケティング領域でのターゲティングもされているのですね。位置情報に関しては、どのようなデータを使って配信しているのでしょうか?

松本氏:看護師や介護士の場合、資格が必要です。資格試験の会場、試験が行われる日時を把握したうえで、その時・その場所でスマホを使っているユーザーのGPSデータを取得し、その人たちに広告を配信しています。この方法を利用すると、特定のビルで働いている人たちを対象にするなど、競合企業の社員をターゲティングすることも可能です。

採用において今後ますます重要になるブランディングに関しては、Webマーケティングをどのように活用すべきでしょうか?

松本氏:採用だけでなく、広報と連携して実施したほうがよいです。ブランディング系の広告は配信してすぐに効果が出るものではないので、他のWeb広告と併用して使うことで、長期的に効果を見ていくべきでしょうね。当社でも採用を目的とした広告とブランディング用の動画広告を併用して配信した結果、動画を配信していた地域から自社採用サイトへの応募が増えたという例もありました。Web広告であればブランディング広告もピンポイントに届けられますし、広告予算の少ない中小企業のお客さまも活用しやすいと思います。

人事・採用担当がDSP・Webマーケティングを上手に活用するために

人事・採用担当がDSP・Webマーケティングを上手に活用するために

貴社の『MicroAd BLADE』のようなDSPを使って採用を行うためには、どのような準備が必要でしょうか?

井上氏:実は、それほど準備することは多くありません。ユーザーを分析するためにサイト内にタグを貼り付けていただくことと、配信広告のクリエイティブをご用意いただくこと。大きくはこの2点だけです。

タグについてはイメージできない方もいらっしゃると思いますが、Webサイトの運用を担当している部署に相談すれば、すぐに対応してくれると思います。広告内容やデザインのクリエイティブは、自社内で作るか制作会社などに依頼するとよいでしょう。バナーのデザインに悩まれる場合は、広告会社に相談していただき、過去実績などを参照いただくことも可能です。

広告配信後の運用に関して、人事・採用担当者が行うべき作業にはどんなものがありますか?

松本氏:ほとんどのDSPでは管理画面が提供されるので、インプレッション(広告の表示回数)やクリック率やCVRなど、さまざまな数値を確認できます。インプレッションに課題がある場合は、配信条件を変更したり、クリック率に課題がある場合はバナーのクリエイティブを変えてみるなど、数値を見ながら施策を打っていくとよいです。ほとんどの広告会社が定期的にレポートを提出してくれるので、一緒に確認しながらPDCを回していきますので、最初はわからなくても徐々に知識が増えていくと思いますよ。

DSPを導入する場合の費用感についても教えてください。

井上氏:基本的には、各社さまの予算に応じて運用することができます。当社の場合、課金形態は1インプレッション(広告1回の表示)ごとです。ケースによって金額は変わってきますが、平均的に1インプレッションで0.1円程度。そこから1クリックにかかる費用、応募完了までにかかる費用などをシミュレートしてご提案することは可能です。

その他、人事・採用担当者がWebマーケティング、DSPを活用するにあたって必要になる知識やノウハウなどはありますか?

井上氏:Web広告はマス広告などと違い、クリック率やCVRという数値がリアルタイムに把握できる点に特徴があるので、配信直後から応募や登録など、最終的な成果が気になってしまいがちです。まずはどのくらいクリックを集めるか、どのメディアに表示させることが良いのか、そのためにはどのようなクリエイティブが良いのかという細かい指標・方針を決めておく、あるいは状況を見て検討していくことが大切になります。

また、採用に関しては単純に応募数が集まればいいというわけではなく、応募者の経験やスキルも重要だと思いますので、求める人材の要件をしっかり固めてから配信方法を決めていくとよいです。

最後になりますが「Webマーケティングに強い人事・採用担当」になるために、日頃から心がけておくべきことがあれば教えてください。

松本氏:Webマーケティングにおける認知からCV(購入や当露光などの最終成果数)に至る過程は、採用もECも不動産も変わらないと考えていますので、ECや不動産といった採用と関係のない領域でのマーケティング事例もキャッチアップしておくと良いかもしれません。また、Webマーケティングには当社のようなDSPを使ったディスプレイ広告だけではなく、リスティング広告やSEOなどさまざまな手法があるので、それぞれの特徴を理解して運用することが重要であると考えています。

井上氏:世の中のWeb広告の全ては、何かしらの理由があってターゲティングされ、配信されています。普段、Webサイトなどで表示されるバナー広告などを見て「どうしてこの広告が自分に配信されているのか」ということを考えることで、自社のWebマーケティングや採用に活かせるヒントが見つかるのではないでしょうか。

【取材後記】

井上さんのお話にある通り、Webマーケティングの中でも特にDSPを活用したWeb広告配信は、求める人材の正確な要件定義、各種指標に対する目標設定など、導入する企業側の運用準備さえ整っていれば、さまざまな職種の採用に活用できるのではないでしょうか。特に「オーディエンスターゲティング」や「ジオターゲティング」といったターゲティング手法、それに基づくWeb広告配信は、求人広告や人材紹介サービスといった既存の採用手法による母集団形成が難しくなっている現状、自社の採用サイトやブログに新規ユーザーを呼び込むための有効な手段のひとつになりそうです。

(取材・文/佐藤 直己、撮影/石山 慎治、編集/岩田 巧)