「リファラルは人事を幸せにしてくれる」―採用を全社プロジェクト化したGMOペパボ

GMOペパボ株式会社

HR統括部HR統括グループ人事企画チーム 太田 紘子

プロフィール

自社で働くメンバーからの紹介をきっかけに入社してもらう「リファラル採用(リファラルリクルーティング)」。採用コストの軽減はもちろん、ミスマッチを防ぐことにもつながるとして、ここ数年で注目度が大いに高まっています。とは言え、取り組みの精度は企業ごとに異なるのも実情。「リファラル採用を始めてみたものの、なかなか結果が出ない」と悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。

そこで今回は、リファラル採用で大きな成果を上げているGMOペパボ株式会社の太田紘子さんを訪ねました。2016年から制度として本格的な運用を始め、これまでに39名がリファラルで入社。2019年だけでも13名(8月時点)の採用が決まっているといいます。なぜ同社はリファラル採用を軌道に乗せられたのか。その秘訣をうかがいました。

「採用」という全社プロジェクトの中で、人事・採用担当者がやるべきこととは

御社は、どのような経緯でリファラル採用を推進し始めたのでしょうか。

「採用」という全社プロジェクトの中で、人事・採用担当者がやるべきこととは

太田氏:制度として運用を始めたのは2016年ですが、それ以前にも社員が自発的に知り合いを紹介して、入社につながったケースもありました。当社エンジニアが、ブログやOSS活動を通じて知り合った、外部のエンジニアに声をかけたことがきっかけです。「一緒に働いたら面白そうだな」と感じた人に呼びかけて、どんどん輪が広がっていきました。

もともとはエンジニアの方々が積極的に動いていたのですね。

太田氏:はい。人事・採用担当ではなく、エンジニアが主体となってスタートしたのが当社のリファラル採用です。そうした動きを組織として管理しつつ、エンジニア採用をさらに強化していくために制度として整えていきました。それができたのは、弊社がアウトプットを推奨する文化だったからだと思います。当時から弊社のエンジニアたちは、ブログで技術的な知見・ノウハウをアウトプットしていました。それは現在も同様で、エンジニアに限らずTwitterやSNSで発信をしているんです。これは、アウトプットした情報の拡散はもちろん、人柄・雰囲気を伝えたり、コミュニケーションのきっかけになったりといった効果につながっています。

具体的にはどのような内容を発信しているのでしょうか?

太田氏:個人的なことだったり、様々です。「ランチにラーメンを食べました」とか(笑)。ほかにもエモーショナルな部分や、ためになる情報発信も含め、日々積極的につぶやいている人が多いです。もちろん業務に関わる情報は全社的に管理していますが、Twitterは良い意味で、プライベートとビジネスの境目があいまいかもしれません。面接に来てくださる方からはよく「GMOペパボのみなさんがTwitterで赤裸々につぶやいているのを見て驚きました」と言われます。もちろんエンジニアによる技術的なアウトプットも、引き続き採用に一役買ってくれていますよ。

ということは、応募者の方々も、事前に社員のみなさんのTwitterアカウントをチェックしてくれていると。

太田氏:そうですね。当社では社員のことを「パートナー」と呼ぶのですが、採用サイトの募集情報でも、パートナーのTwitterのアカウントグループを紹介しています。事前にみんなのツイートやツイッター上でのコミュニケーションを見てもらうことは、入社後のミスマッチを防ぐ意味でも機能しています。

入社後のミスマッチを防ぐ意味でも機能

ペパボHRブログのインタビュー記事で、太田さんが「GMOペパボの文化とリファラル採用の相性が良かった」とおっしゃっているのを拝見しました。

太田氏:もともと当社には、エンジニアの仕事の進め方として、ナレッジやフレームワークを共有したり、より良い状態へ持っていくためにみんなで能力や知見を出し合ったりする文化が根付いています。Twitterをはじめ、各々が積極的に発信する文化が自然と外部へのアウトプットにもつながっているので、そうした意味ではリファラルとの相性の良さを感じていますね。

リファラル採用を進めていく上では、既存の転職メディアやエージェントなどを活用する方法と比べて、採用担当者が担うべき役割も変わってくるのではないかと思います。

太田氏:転職メディアや人材紹介サービスを介した採用は、すでにアクティブに転職活動をしている方が対象になりますよね。従来はそうした方に求人フォームを開いて応募してもらったり、こちらからお声掛けをして興味を持ってもらったりすることが採用担当者の役割だったと思います。最近では「スクラム採用」や「採用広報」という言葉も出てきていますが、採用担当者だけが頑張るのではなく、パートナー全員を巻き込んでみんなで採用活動をするという方向に動いているように感じます。リファラルにはそれが如実に現れています。

パートナー全員を巻き込んでみんなで採用活動をする

そうした意味では、自社に興味を持ってもらうための活動や、それを選考につなげたりという仕組みづくりが、人事・採用担当者の重要な役割なのかなと。その上で、情報共有や人を紹介するためのツールなどの受け皿を整えていくイメージでしょうか。あとは人事・採用制度全般に当てはまりますが、仕組みをつくった後の運用が最も大変なので、PDCAを回しながらより使いやすい形に変えていくことが大切だと思っています。

採用という全社プロジェクトをマネジメントしていく。

太田氏:そうですね。当社では広報にも関わってもらい、会社を紹介するためのコンテンツづくりにも力を入れています。何の材料もない状態で「GMOペパボはいい会社だよ」と伝えるには限界がありますよね。まずは会社を知ってもらうためのコンテンツをつくり、その情報を社内に拡散していくことで、パートナーから外部へと効果的に伝えてもらえるようになるんです。

「必ずやってください」「1人何件お願いします」…強制するのは厳禁

実際に、これまでのリファラル採用ではどんな職種の方がどんな方を連れてきましたか?

太田氏:基本的には同じ職種の方が入社に至っています。エンジニアがエンジニアを紹介する、ディレクターがディレクターを紹介するといった形です。当社の場合、職種によっては独自の評価制度もあるため、自分が体感的に知っていることで、より具体的な話もできるのだと思います。

「必ずやってください」「1人何件お願いします」…強制するのは厳禁

関係性としては、「前職の同僚」が多いです。過去に一緒に働いたことがあるので、GMOペパボに向いているかどうかもわかるのでは。あとは、当社のブログやSNSなどをきっかけに、パートナーとつながってくださる方も多いです。

ブログなどは、リファラル採用に向けて工夫している面もあるのでしょうか。

太田氏:昨年、採用サイトをアップデートしました。もともとコーポレートサイト内に採用関連の情報を載せていたのですが、当社のデザイナーに協力してもらい、どんな方であればGMOペパボにマッチするのかがわかりやすいサイトにしようと別サイトに切り出しました。それに付随して、以前から細々と続けていたHRブログについても、広報と連携して更新頻度を高めることで、社内の行事やパートナーについての情報も積極的に掲載できるようになりました。

パートナーのみなさんにもコンテンツ拡散を依頼するのですか?

太田氏:フォロワーが多く、影響力があるパートナーには個別にお願いすることもありますが、面白い内容であれば、特にこちらからお願いしなくても拡散してくれます。「必ずやってくださいね」とか「1人何件お願いします」といった依頼の仕方だとそっぽを向かれてしまうと思うので、「参加したら面白そうだな」という空気をつくるようにしていて。

情報拡散に限らず、リファラル採用において「強制」は厳禁だと思うんです。誰しも、友人や知人との関係性は大切じゃないですか。そんな中で、例えば「毎月必ず3人に声かけてね!」みたいにこちら側から強制すると、ストレスになってしまう。そこまで行かなくても、「このブログをしっかり拡散してね」などとプレッシャーをかけてしまうと、やる気もなくなりますよね。

強制は厳禁

声を出せば誰かが必ず反応してくれるという安心感

では、GMOペパボのパートナーのみなさんが、悩んでいる知人に対して自社を積極的に紹介できているのはなぜでしょう?

太田氏:「あくまで本人と会社が決めること」という安心感があるからだと思います。うちはリファラル経由であっても、実際にご応募いただいてからは、他のルートでご応募いただいた方とまったく同じ選考フローなんです。ですから紹介した人が、そこまで採用に大きな影響を与えたり責任を背負い込んだりする心配はなく、あくまで「つないでもらうだけ」なんですよ。つないだ後は、候補者と会社とが相互理解を深め納得のいく決断ができるように進めていくので、「あくまで本人と会社が決めること」という安心感があるのではないでしょうか。

それは意外です。社員紹介だと書類選考は通過扱いになっていたり、一部のフローはスキップされたりするものかと思っていました。

太田氏:「パートナーの紹介だから融通が効く」というのは、そもそもの目的と合っていないと思うんです。リファラル採用の1番の目的は、ペパボの文化とマッチする優秀な人材を採用すること。選考フローを短縮することによって相互の理解が足りなかったり、納得のいく決断になっていなければ、その目的を達成できません。ただ、当社に興味を持ってくださっている度合いや、理解度の面では、他のルートの応募者との違いを感じる部分もあります。「事前にもう少し会社のことを知りたい」というご希望がある方には、カジュアル面談という形で情報交換をする機会も積極的につくっています。

納得いく決断に

社内では、採用活動についての情報も積極的に発信されていますか?

太田氏:それはもう、常に。社内の情報共有ではSlackやGitHubを使っていますが、何をやるにしても、たとえば今回の取材を受けることについてもオープンに共有しています。採用に限らず、そうした書き込みをみんなが見てくれて、「これはうちの部署で対応できますよ」と声をかけてくれることもあります。イベントの準備をしているときに手が足りなくて「荷物運びを手伝ってください!」と書いたら、みんなが駆けつけてくれるとか(笑)。会社自体は大きくなっていても、声を出せば誰かが必ず反応してくれるという安心感がありますね。

ありがとうございます。「これからリファラル採用に挑戦したい」と考えている企業も多いと思いますが、ぜひアドバイスをいただけますか?

太田氏:まずは人事・採用担当者や経営側から、「このチームは自分たちで大きくしていくんだよ」「自分たちでどんどんいいチームにしていくんだよ」という想いを社内に発信していくことだと思います。その上でルールをつくり、みんなに周知して、動き始めていく。やってみて初めて、自社に合った方法が見つかることもあると思います。仮にうまくいかないことがあっても人事・採用担当者だけで抱え込まずに、「仕組みのどの部分がよくなかったんだろう?」「もっとみんなが参加しやすいようにするにはどうすればいいんだろう?」と柔軟に見直していけばいいんです。人事・採用担当は本当に孤独な仕事だと思うので。そこのマインドチェンジが一番大事かもしれません。

まずは人事・採用担当側のマインドチェンジが必要だと。

太田氏:はい。私は前職でも採用担当をしていましたが、人事は人事で忙しい、現場は現場で忙しいといった状況で、うまく連携できずに孤独感を覚えたことがありました。でも今にして思えば、当時の私には独りよがりな面もあったと思うんです。大きな目標を達成しようと思えば思うほど、個人でできることに限界を感じるもの。特に会社が成長し続けている状況では、採用に求められる要件もどんどん厳しくなっていくはずです。そんなときに協力者として一番心強いのは、やっぱり現場の人たちだと思うんですよ。一度思い切って助けてもらって、そこから「採用はみんなでするもの」というマインドセットに自分を持っていくことが重要なのかもしれません。

人事・採用担当のメンバーだって社員の一員です。当の自分が幸せじゃないのに、他のメンバーや、新たに加わってくれるかもしれない社外の人を幸せにはできませんよね。「これからも人事を、採用担当をやっていたいな」と思えるように、前向きに社内のメンバーを巻き込んでいくことが大切なのだと思います。

当の自分が幸せに

【取材後記】

「人事・採用担当者」と名乗るからには、自社の採用目標を何としてでもやりきらなければ――。人事・採用担当者が抱えがちなプレッシャーを考えると、リファラル採用は対局にあるものだと言えるのではないでしょうか。自分がやるのではなく、みんなでやる。採用環境が厳しさを増す今、それが人事・採用担当者に求められるマインドセットなのだと痛感しました。日々の人事・採用の仕事を楽しめているか。幸せだと言えるか。そこに疑問符が付くようなら、部門の壁を超えて、社内のメンバーと協働する努力が必要なのかもしれません。その手段の一つとして、GMOペパボのリファラル採用は大いに参考にできるはずです。

(文/多田 慎介、撮影/安井 信介、取材・編集/檜垣 優香(プレスラボ)・齋藤 裕美子)