学生のナビ離れで新卒採用は次の時代へ。ダイレクト・ソーシングで見えた本来の在り方

株式会社ベネッセi-キャリア

新卒事業本部 取締役 本部長 大竹 航

プロフィール
株式会社ベネッセi-キャリア

新卒事業本部 事業推進部 部長 桜井 貴史

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IT人材不足「19年危機」 新卒争奪戦が過熱(2018/2/26付 日本経済新聞より)』という報道にもあった通り、中途採用だけではなく新卒採用においても、“売り手市場”が顕著に表れました。そして、かつてナビサイト(就活ナビ・新卒ナビ)中心だった学生たちに“ナビ離れ”が見られ、「新卒紹介」がトレンドの1つとなりました。さらに最近では、就職活動において「ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)」が活発に利用されるなど学生・企業両者にとって新卒採用に変化が生じています。学生が登録している情報を見て、企業が直接スカウトするダイレクト・ソーシングの手法が一般的になる中で、企業はどう変わる必要があるのでしょうか。そこで、大学生の就職活動を変える新サービス『dodaキャンパス』を展開している株式会社ベネッセi-キャリア(※)の大竹氏、桜井氏にお話を伺いました。

※大学生・社会人を対象に総合的な人材育成事業を行う株式会社ベネッセi-キャリアは、株式会社ベネッセホールディングスとパーソルキャリア株式会社の合弁会社として誕生しました。

新卒採用は大きく二極化の時代へ

まず、新卒採用の市況について、お聞かせいただければと思います。

大竹氏:大卒の有効求人倍率は現在、1.78倍(※リクルートワークス研究所調べ)となっており、ここ数年で右肩上がりの傾向です。学生優位の“売り手市場である”と言えますが、内情を見てみると実は、大きく二極化が進んでいることが分かります。

従業員数5000名を超えるいわゆる大手企業に人気が集中し、倍率は0.4倍程度です。一方、300~1000名規模の中小企業には応募が集まらず、倍率は5~6倍となっています。いくらナビサイトに掲載していても、企業名が知られていないとスルーされてしまうのです。これが二極化と言われる所以です。
さらに近年の注目すべき事項として、従業員数3000~4000名規模の準大手企業において内定通知後の辞退が増加傾向にあります。ある程度のネームバリューがある企業でもなかなか内定数を確保できず計画の見通しが立てられない状況になっていますね。
新卒採用の市況とは

売り手市場において応募数の二極化が顕著になっているのですね。では、学生側の動きについて、何か変化は見られるでしょうか。

大竹氏:よく言われていることですが、ここ3年くらいで一気に学生の「ナビ離れ」が進みました。それは、OB・OG情報はもちろん、SNS(ソーシャルネットワークサービス)や口コミサイトなど、学生を取り巻くさまざまなチャネルから欲しいときに情報を取得できるようになったからでしょう。先輩や友人からのリアルな情報が得られるようになることで、良いことしか書かれていないナビサイトへの信頼が薄れている傾向にあるのではないかと考えられます。これに伴い、学生の利用が増えているのが「新卒紹介サービス」です。今や5人に1人が登録していると言われています。これまではナビサイトを介して企業を探しにいくという動きが中心でしたが、一括エントリーすると説明会案内メールがひっきりなしに届き、情報過多になってしまう。自分にあっている企業はどこか分からない学生が、エージェントに登録し、企業を紹介してもらうスタイルは非常に増えています。

もちろん、学生は「ナビサイトを一切使わない」という決断をしているわけではありません。さまざまな就職活動を試しながら、自分にあったサービスを選んでいると言えるのではないでしょうか。
その中、18年卒の学生から急速に利用が増えているのが、ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)。私たちは「dodaキャンパス」を運営しておりますが、企業からの問い合わせも非常に多くなっています。

ダイレクト・ソーシングで学生本来の可能性に出会うことができる

ダイレクト・ソーシングの活用により、企業側の動きはどのように変わるのでしょうか。

桜井氏:ダイレクト・ソーシングとは、企業自らが学生を見つけにいく採用手法です。逆求人型の手法と言えます。新卒において今までのように、ナビサイトに掲載する。大学名を検索して一斉に説明会案内をメールする…といった受け身の採用手法ではありません。攻めの姿勢が求められるダイレクト・ソーシングにより、先ほど申し上げた大手企業と中小企業、両方が抱える課題を解決できるようになります。つまり、応募があふれる大手企業では、ピンポイントで本当に欲しい学生にアプローチできる。その結果、書類選考や面接の工数を大幅に削減することができるようになります。一方、なかなか見つけてもらえない中小企業の場合は、企業自ら「うちの会社はこんな会社です」「あなたの学んだ実績は、うちではこう活かしていただけます」など、直接口説くことで自社を知ってもらうきっかけとなります。
企業側の動きはどのように変わるのか

大竹氏:dodaキャンパスの場合、学生は自身の経験や学びを整理しておける仕組みがあり、非常に多くの情報を記載することが可能です。というのは、ナビサイトや履歴書、エントリーシートの場合、入力項目が決まっているため存分に自分の経験を入力することができません。また、自分の経験・体験が分かっていてもそれがアピールにつながるかどうかを判断できず、マニュアルにとらわれた内容になる可能性もあります。つまり、アピール前提ではない情報…、例えば、これまでどのような授業を受けてきたか、課外でどのようなことを行ってきたか、という何気ない学生本来の姿が載せられています。そのため、人事・採用担当者は、新卒マニュアルに沿っていない、素直な学生情報に触れ、その上で、1to1でコミュニケーションをとることができるのです。

ダイレクト・ソーシングは中途採用で主流になりつつありますが、新卒採用と中途採用とで、利用するにあたっての違いなどはあるのでしょうか。

桜井氏:新卒・中途に限らず、個別性や特別感は非常に大事なポイントになります。その上で、中途採用だとスキルマッチがメインですよね。「あなたの仕事で培ってこられた▲▲の経験に魅力を感じ…」というように、送るのが一般的です。一方、新卒採用は業務経験がないのでスキルで判断するのが難しい。よって、新卒採用の場合、経験以上に「今までの人生で培われてきたパーソナリティや人間力、志向性」「裏側に隠された力」を重視する傾向にあります。

例えば、ゼミでこんなことを行った…という裏側にはどのような力があるのか。学生4年間の努力を企業が見抜き、「あなたならではの力ってここですよね」「こんな風に取り組んだのであれば、こんな可能性があるのではないですか」と伝えてあげることが重要になります。

学生からすれば、人事・採用担当者から直接声がかかることで、大きな喜びを感じますね。会社への興味・志望度も高まるように思えます。

桜井氏:おっしゃる通りで、そのような効果も期待できます。先ほども述べましたが、学生は自分のどのような学び・経験がアピールとなるのか、自分自身では分からない場合も多い。企業からダイレクトに評価してもらえることで、「自分のことを必要としてくれる会社」と感じ、意向が醸成されます。

また、dodaキャンパスの学生登録情報を一読するだけで、学生の人となりがイメージできるため、結果、面接・面談時により深い質問ができるようになり、双方にとって有意義な場になると考えています。
会社への興味・志望度も高まる

学歴・大学名にとらわれることない、新卒採用の姿

dodaキャンパスの場合、学生は1年次から登録可能です。就活生ではない、低学年と接点を持つ必要性はあるのでしょうか。

桜井氏:もちろん、就職セミナーや説明会に呼ぶことは倫理憲章でも禁じられているので、そのような使い方は一切推奨していません。その上で、低学年に向けてアプローチする目的は、「早期のタイミングからの自社ブランディング」にあります。例えば中小企業だけではなく、大手企業にも言えることですが、実態が学生に正しく理解されていないことが非常に多いです。就職活動で説明会に参加してはじめて「BtoCの事業が有名だけど、実際の売上げの80%はBtoB事業で成り立っている」と知ってもらった…など。就職活動期の短い中で伝えようとしても限界があります。学生に早期段階から理解を深めてもらうことで、いざ就職活動のタイミングで、理解の上で応募をしてもらうというプロセスができあがります。
学歴・大学名にとらわれることない、新卒採用の姿

また、早い時期に接点を持つことで、学生の成長を支援することができます。多くの企業が就業体験(インターンシップ)やキャリア形成セミナーなどを行っていると思うのですが、「社会人になるとこのようなスキルが必要です。だからそれを高めるためにこういうチャレンジを意識しましょう」など、社会人として活躍できるスキルや学生時代の過ごし方のアドバイスをしてあげることができ、結果、その学生にとって有益となるだけでなく、その企業への興味を高めることができます。

大竹氏:学生は就職活動のタイミングになって「自己分析」では遅い。それに、就活目的で焦って行う自己分析は、不必要なところまで掘り下げたりする傾向もあり、迷子になって不安をあおられるだけです。一方、企業との設定を低学年次から持つことによって、、学生は企業や社会が何を求めているか?をリアルに体感できます。これは、将来的なマッチングにつながることじゃないでしょうか。

桜井氏:学生は随時学生登録情報(キャリアノート)をアップデートできるので、自分自身の成長の振り返りとしても使ってくれているようですね。

とは言っても、これだけ多くの大学・短大群から一人ひとりの情報を読み込むのは大変な印象です。結局、学校名でソートをかけることも出てきてしまうのではないでしょうか。

桜井氏:実は私たちも驚いたのですが、プロフィール情報が70%以上入力されていれば、大学ランクに関わらずオファー受信率が80~90%という数値が出ています。今は大学名だけでは優秀か優秀じゃないか(自社にあっているかあっていないか)を判断できない。それよりも、どんな経験で何を感じたか、どういう力を身に付けたのか、も重視されているわけです。大学名にとらわれることなく、学生本来の姿を知ってレターを送れることは、学生企業双方にとって、非常に有益な就職活動の在り方なのだと思っています。

では、学生登録情報を見てレターを送ったが、実際のイメージが違った…ということはないのでしょうか。

桜井氏:お断りいただく際は、真摯に対応いただいています。中途採用とは違い人物面やポテンシャル面を重視してレターを送るので、十分に注意する必要があるのは事実です。しかし、企業から「dodaキャンパスの情報と、実際に会った印象のブレがない」というご意見もいただいています。やはり学生も気負いすることなくありのままの情報を入力しているので、アンマッチが生まれることも少ないのではないかと考えています。

新卒採用においても、“ダイレクト・ソーシング”がスタンダードへ

実際に、新卒でダイレクト・ソーシングを活用しようとすると、体制構築も必要になってきますね。

大竹氏:新卒マーケットの変化にあわせて、採用チームの編成もだいぶ変わってきているように感じています。正直、企業が学生の登録情報を一つ一つ確認して、自分でレターを送るのは手間ですよね。でも、そこに工数をかけておけば、その後の選考フェーズに工数をかける必要がなくなります。それを理解して、まずは少しずつでも取り組んでみようという企業が増えてきているのは事実です。ここを決断できない会社は、既存手法から抜け出すことができず、自社が欲しい学生へのアプローチに差が出てきてしまうでしょう。
新卒採用においても、“ダイレクト・ソーシング”がスタンダードへ

桜井氏:採用予算の考え方も変わってきていますね。ダイレクト・ソーシングは後課金の場合が多いので、既に予算が決まっている場合、そこにアドオンすることは難しいと思います。しかし、今は予算取りの段階から「先行投資にいくら、後課金型にいくら…」と切り分けている企業が増えてきていますね。ナビサイト、新卒紹介とあわせて、ダイレクト・ソーシングなどの逆求人型手法は、どんどんスタンダードになっていくと確信しています。

大竹氏:ダイレクト・ソーシングは、これまでの採用手法とは異なる側面を持ちます。学生にとっても早期から自分自身を見つけキャリアを考えるきっかけになりますし、企業にとってもより自社にマッチする人材へ直接アプローチすることができる。少々大変かもしれませんが、応募の多い大企業においては、選考における手間を結果的には大きく省くことができるし、ナビサイトでなかなか見つけてもらえない中堅中小企業においては、会いたい学生に直接アプローチができます。ぜひ積極的に新たな手法を取り入れ、採用を成功に導いていただきたいです。

【まとめ】

新卒採用は転換期を迎えています。今、どの企業も試行錯誤しながら、採用に関するそれぞれの課題を解決しようと尽力している状況です。その中で、ダイレクト・ソーシングという新たな手法が着目され始めました。現状を鑑みると、ダイレクト・ソーシングは今後の採用手法の一つの柱となることはほぼ間違いありません。積極的に活用していただければと思います。
まとめ

(取材・文/中谷 藤士、撮影/加藤 武俊、編集/齋藤 裕美子)