LINE人事に青田努氏がジョイン。これからの人事に求められることとは

LINE株式会社

人材支援室 副室長 青田 努

プロフィール

人事の重要性が高まる昨今、人事のキャリアの築き方やキャリア観への注目度が高まっています。実際、『日本の人事部』にて多くの企画・運営に携わってきた青田努氏が、LINE株式会社へと転職した際には人事関係者・人材業界関係者の間で大きな話題を集めました。

これまで、人事・採用担当としてリクルートグループやオンラインストア大手のアマゾンジャパン、世界的コンサルティングファームのプライスウォーターハウスクーパース(以下PwC)など、数々の企業でキャリアを歩んできた青田氏。そんな青田氏のキャリア観とは? そして今回なぜLINEの一員となったのか? LINE人事に感じた魅力とは? d’s JOURNAL取材班がご本人を直撃しました。

キャリアの「タテ軸」と「ヨコ軸」

キャリアの「タテ軸」と「ヨコ軸」

まずは青田さんのキャリア観について伺いたいのですが、ご自身の中で何か大きなテーマなどはあるのでしょうか?

青田氏:テーマとして昔から根底にあるのは「仕事で苦しむ人を減らす」ことです。私のキャリアは接客サービス業から始まったのですが、原体験はその時代の同期の声にありまして。日々の仕事や将来のキャリアに悩んでいる話を聞く機会が多く、「人に楽しんでもらう仕事をしている当事者たちが、仕事で苦しんでいるのはおかしい」と思うようになりました。

そうした声が、青田さんのキャリアチェンジの転機になったと。

青田氏:そうですね。「仕事は人生をよくするためにあるべきだ」という思いが高まり、自身もそのためのサポートに取り組むことは大きなやりがいを得られるのではないかと考えました。そこで、リクルート(現リクルートキャリア)に転職して、リクナビの学生向けプロモーションや求人広告の制作ディレクターを経験した後、自ら希望して人事部に異動となりました。30歳になる頃に人事としてのキャリアが始まった感じです。ちなみに、2000年当時のHR事業のミッション「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会を創造する」には深く共感し、それは今も私の中にあります。

リクルートグループに始まり、その後もアマゾンジャパンやPwCなどで人事経験を積まれていますよね。

青田氏:自分の人事キャリアを振り返ってみると、失敗やご迷惑をおかけしたことも多く、胸が痛くなるような後悔もありますが、本当に多くの機会に恵まれていたと感じています。

リクルートメディアコミュニケーションズ(現リクルートコミュニケーションズ)では新卒採用の仕事を通じて、「リクルーターとしての基礎力」を筋トレ的に磨かせてもらいました。戦術企画に始まり、コミュニケーション設計・選考設計・運用・クロージングなど一通りの採用業務を経験し、寝る間も惜しんで没頭して、先輩にもライバルにも恵まれました。多くのダイヤの原石に出会い、仲間になってもらい、それはまるで青春のようでした。私の基礎はすべてここにあります。

また、アマゾンジャパンでは採用ポジションが多岐にわたるため、さまざまな採用手法を駆使したり、リクルーターの枠にとらわれず多くの人事的な取り組みに着手してみたりと、思いきり「応用力」を広げることができました。さらにPwCでは大規模採用をスピーディーに実現させるオペレーショナル・エクセレンスの追求をテーマとして動くことができました。

青田さんの中でのキャリアを考える上での「軸」は、やはり人事としての成長なのでしょうか?

青田氏:以前はスキルコレクター的な志向もありましたが、ここ数年はいろいろと変わってきていて、自身の能力開発や市場価値向上はすでにメインテーマではありません。「応援したいと思える企業に貢献し、世の中を良くしていくという挑戦を楽しむ」、これが今の私の考えです。

具体的にはこのような(下図参照 ※青田氏提供)「タテ軸」と「ヨコ軸」で考えています。タテ軸は「給与・ポジションの高さ」といった客観評価のようなもの。一方、ヨコ軸は自分にとって感じられる意義の度合いや、「好きなことを好きな人たちと好きなようにやる」といった自律感覚のようなもので、自分の主観によって価値を決めるものです。
キャリアのタテ軸とヨコ軸20181001
一般的にキャリアアップというとタテ軸ばかりがフォーカスされがちですが、私は同時にヨコ軸も大切にしたいと考えています。もちろんお金は必要ですし、プライベートの自由度はお金があったほうが高まりやすいので「年収はこれくらいあれば十分だろう」という目安は設けますが、それをクリアしているうちはヨコ軸を追求していきたいと考えています。むしろ、死ぬ時に余るお金を稼ぐために、命や時間を使わないように気をつけています。

新しい事業が続々誕生する。いつまでも挑戦できる

地位や待遇だけでなく、「自分なりの意義」「自律感覚」などを重視してキャリアを築いてこられたわけですね。

青田氏:そうですね。このヨコ軸の価値は、他人は決めてくれるわけではなく、あくまでも自身で価値を決めるものなので、自分が何に喜びを感じるのかという「主観」は錆つかせないようにしたいです。

2017年にLINEにジョインされていますが、きっかけは何だったのでしょうか?

LINEレセプションルーム
青田氏:今までのキャリアから、人材紹介会社経由では外資系企業の採用部長といったポジションを紹介いただくことが多かったのですが、正直あまり興味がわくものはありませんでした。そこで私自身が多くの会社の中途採用担当者と接点があったこともあり、自身で逆求人を仕掛けてみました。具体的には、自身のfacebookのフィード上で「自身のキャリア」「得手不得手・好き嫌い」「希望条件」などについて書き、カジュアル面談してみたい企業を募集しました。ありがたいことに公開1週間で6社ほどお声がけいただき、そのうちの1社がLINEでした。

逆求人というのは面白いですね。LINEへの入社を決めた理由は?

青田氏:3つありました。1つは、その会社の事業が世の中にどのような価値を提供していて、それを人事として一緒にやっていきたいと思えるかどうか。私たち人事は、現場を通じてしか世の中に価値提供できませんので、そこは重視しました。

LINEの場合、コミュニケーションアプリ「LINE」の国内での月間アクティブユーザー数が7600万人超という影響力もさることながら、「LINE」上で展開するスタンプ・占い・ゲーム・ニュース・マンガ・音楽などのサービスに加え、「LINE Pay」などのFinTech関連事業や、AI事業、広告などのBtoBビジネスと幅広く事業展開しています。それ以外にもIT活用によって地方自治体を支援する取り組みを行っているなど、社会を便利にするだけなくその価値提供のバリエーションが非常に多い。そして今もなお、新たな挑戦をしようとしている。これは間違いなくやりがいがあると思いました。

たしかに、近年のLINEは新事業・新会社をどんどん立ち上げている印象です。

青田氏:一方で、急成長を続ける会社の宿命でもあるのですが、まだまだ組織の仕組みづくりが追い付いていない点や、改善すべきことはどうしても多い。つまり、「そのような仕組みや良い環境を作っていける白地が多い」と想像できたのが2つめのポイントです。個人的に、新しいものや仕組みを作っていくことに面白さを感じるタイプなんですよね。それから、3つめがHRパーソンとして未経験の領域にチャレンジする機会が多そうだという期待です。

未経験の領域、ですか?

青田氏:LINEは多くの業種と業務提携することで、新しいサービスや会社組織を次々に生みだしています。そうなると、多くの事業の人事に挑戦ができます。ある時は設立されたばかりのスタートアップ的な人事に、またある時は社員2000名を超える大企業的な人事に挑戦していける。こうした環境は、数ある企業でもLINEならではと考えています。

LINEの人事をさらに強化する

LINEの人事をさらに強化する

入社前のイメージと入社後の印象で何かギャップはありましたか?

青田氏:特にありませんが、想像以上だったのは「サービスやプロダクトをより良いものにしていく」ということを軸に、合理的な判断やアクションがとりやすいことでしょうか。

人事が管理しやすくするためだけの仕組みを考えることもなければ、現場からの意見や要望に対しても「対応が面倒だから」と棄却せず、サービス成長やそれを実現させる組織のための本質的なディスカッションができるのは、とても健全だし、事業に資する人事として努力のしがいがあります。

いま現在の青田さんご自身の役割を具体的に伺えますか?

青田氏:現在は人材支援室の副室長として、主に2つの役割を担っています。1つは人材支援室の体制強化ですね。たとえば、中途採用のチームなどは少人数のリクルーターで年間数百名規模の採用を実践するなど、すでに生産性・採用効率は全業種の中でも相当ハイレベルだと感じています。ただし、それでもまだ現場の採用ニーズを満たしきれているわけではありません。ここからさらに人材支援室の仲間を新たにお迎えしていくことで組織としてのケイパビリティをさらに高め、事業成長に貢献していきたいと思っています。

2つめは、人材支援室は現在5チームで構成されているのですが、その各チームのマネージャーが成果を出しやすくするためのサポートです。各チームの注力テーマをマネージャーとともに設定するのと同時に、そのベースとなる人材支援室全体としての注力テーマを4つ設定しました。

4つのテーマとはなんでしょうか?

青田氏:まずは「最強の採用力」。優秀かつ最適なタレントをいかに早くLINEにお迎えできるかは、人が競争力の源泉であるLINEという組織にあっては生命線です。2つめが「成長機会の最大化」。LINEでは続々と事業が誕生していますので、それを牽引するリーダー層がどんどん輩出されていく状態にするためには、実務の中で成長機会を最大化できる仕組みをつくることが必要です。

3つめが「スピード&フレキシビリティ」で、これはLINEの組織はもともと有しているものですが、大企業になっても失われないように意図的に一層高めていく必要があると感じています。そして、4つめが「プロフェッショナルとしての信頼」です。各々がプロとしての専門性を高めていくのはもちろんのことですが、細かいひび割れなどをなくしていきたい。一般的にスピードやフレキシビリティを高める過程においてはミスや漏れの発生確率は高まってしまうものですが、これらを限りなくゼロにすることで、各部門からの信頼感を高めると同時に、事業の機会損失とならないようにしていきたいと思っています。

人事組織の強化に向けて、外部からの採用と内側の成長支援の両面で着手していくわけですね。これは他社の人事部門でも活かせる重要な考え方です。

青田氏:そうかもしれません。LINEはフロンティアを切り拓く会社である以上、それをサポートする人事もプロフェッショナルでなければいけません。だからこそ、今いるメンバーはもちろん、今後入ってくる方々も含めて、一人ひとりが働きやすく能力発揮がしやすい環境づくりというのも、ひとつ大事な要素かなと。

実は私自身も、本業に良いフィードバックが得られると考えて、副業として2020年に新設予定の大学で教員に着任し、未来型組織についての見識・学びを深めていきたいと考えています。実務を通じて得られる成長だけでなく、自らの成長機会を自らによってつくりにいく姿勢こそ自分のキャリアを豊かなものにしていくと思っています。
事業だけでなく、こういう自身の成長という点でもLINEは面白いと日々感じています。

【取材後記】

人事としてのキャリアアップやスキルアップだけでなく、「意義や好きを追求する」という主観も忘れない。だからこそ、転職先に求めるのは「応援したいサービスや事業があること」であり、「新しい挑戦をイチからできる白地があること」だと語ってくれた青田氏。そんな青田氏が、スタートアップの勢いと自由度、大企業のパワーの両面を兼ね備えたメガベンチャー=LINEと出会ったのは、必然だったのかもしれません。
(取材・文/太田 将吾、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)