「毎日が文化祭状態」。事業創出が続くLINEを“採用”で支える人事のホンネとは

LINE株式会社

人材支援室 採用2チーム
マネージャー 田中 那苗

プロフィール
LINE株式会社

人材支援室 採用1チーム
マネージャー 市川 絵美

プロフィール

国内7600万人以上の月間アクティブユーザーを抱えるコミュニケーションアプリ「LINE」を中軸に、ゲーム、電子コミック、音楽、占い、ニュース、トラベル、求人情報、決済…と、ここでは書ききれないほど多角的な事業を創出し続ける、LINE株式会社。今年9月に実施された「LINEエンジニア採用の日」では、現在のエンジニア1700名体制から3000名規模への拡大を目指す計画が発表されるなど、サービスの拡大に合わせた採用強化も話題となっています。

企業が事業拡大を目指す上で、人事の活躍と努力は必要不可欠。LINEほどのメガベンチャーであれば、そのやりがいや苦労は相当ハイレベルに違いありません。そこで今回は、知られざるLINE人事の実態について、中途採用チームのマネージャーを務める田中那苗氏と新卒採用チームのマネージャーである市川絵美氏にお話しを伺いました。

人材業界出身や元ゲーム開発者など、人事のバックボーンはさまざま

人材業界出身や元ゲーム開発者など、人事のバックボーンはさまざま

市川さんと田中さんはお2人とも中途入社と伺っていますが、以前から採用業務を手掛けてきたのでしょうか?

市川氏:いえ、以前はリクルートスタッフィングという会社で人材派遣の営業をしていました。そこから人事を目指して転職活動をしたのですが、その会社のサービスやプロダクトへの愛と言いますか、人事になった時に候補者の方に向けて熱く語れるかはとても重要だなと思っていました。ずっと無形商材を扱っていたからこそ、自分自身も誇れるサービス・プロダクトに携わりたいという思いがあったんです。
そういう意味では、「LINE」のサービスを日ごろから愛用していたのは大きかったです。それに、完成しきった組織よりも、会社全体が成長フェーズにあって、人事としての課題にイチから取り組めるような環境を探していたので、その点でもLINEはピッタリでしたね。

田中氏:市川さんは、LINEにとって初めての新卒採用担当として入社してきたんですよ。

市川さんが初代の新卒採用担当なのですか?

市川氏:はい、専任担当としては初めてです。私が入社した2014年当時は、即戦力の中途採用が約9割5分を占めていたのですが、その頃に新卒採用が本格化しました。スタート当初は私とマネージャーの2名のみで、採用チーム全体で見ても、中途採用担当の田中さんたちを含めて5名程度の組織だったんですよね。

全体で5名ですか…!かなりの少数精鋭チームだったのですね。

田中氏:私は2010年の入社で、当時はまだLINEの前身である旧NHN Japan株式会社、ネイバージャパン株式会社の時代。社員数もまだそれほど多くない規模でした。私はもともと人材紹介会社に勤めていたのですが、知り合いの紹介でネイバージャパンのユーザー向けオフラインイベントに参加したんですね。そこで、社員の方々と触れ合ううちに「熱い想いを持ってサービスを作っている人たちを、サポートできたらいいな」と漠然と思ったのが入社のきっかけになりました。

スタートアップの時代から、採用活動を通して企業成長をサポートし続けてきたわけですね。

田中氏:今ではグループ合計で2000名以上の規模に拡大していますので、ずいぶん大きくなりました。人材支援室としても、中途採用チームがリクルーター6名を含めた23名、新卒採用チームが市川さんを含めて5名、それ以外に人材開発・人材支援・HRBPの3チームができるなど、着実に拡大してきました。
人材支援室の拡大

市川氏:私たちのように人事未経験でスタートした人間もいれば、他社でインハウスの採用担当を経験したメンバーがジョインしたり、もともとLINEのゲーム開発のチームでアナリティクスを担当していたスタッフが、「ピープルアナリティクスにチャレンジしたい」と人材支援室に異動してきたりと、メンバーのバックグラウンドも多種多彩に広がっていますね。

田中氏:こうして社内において「人材支援室」の存在が大きくなっているのは嬉しいことですね。おかげさまでチームが大きくなってできることも増えましたし、また新しいチャレンジをする余力も……、いや、ごめんなさい。余力はまだないです(笑)。モチベーションは高まり続けているものの、やりたいことや、やれてないこと、やらねばいけないことがたくさんある状態。ですから、人材をさらに強化したい、というのが本音ですね。

新しい事業が生まれるたびに、未知の領域の人材と出会える

新しい事業が生まれるたびに、未知の領域の人材と出会える

LINEほどのメガベンチャーで、中途採用チームがリクルーター6名、新卒採用チーム5名で採用活動を展開するのはかなり大変な印象です。

田中氏:ありがたいことに、最近ですと中途採用では年間のエントリー数が1万5000件を越えます。さらに入社人数も、今年の1~2月頃は月に多くとも40名程度で推移していたのですが、この9月は100名以上に拡大しているんですね。
というのも、世の中全体でFinTechやブロックチェーン技術など、非常に早いスピードで技術革新が進む中、当社としても「LINE Pay」「LINE証券」といった新サービスを立ち上げ、併せて新会社も設立するなど、大幅に採用ニーズが伸びています。当然、採用チームの業務量も増えていますので、これを乗り越えるのが少し大変でした。

どのように乗り越えてこられたのでしょう?

田中氏:新しいチームメンバーの採用と、生産性を高めるために数パーセントのオペレーション改善を続けています。例えば、中途採用で使用するシステムは自社開発のものなのですが、エンジニアに協力してもらい、一度データ入力すれば他の人事システムにも自動連係されるようにし、作業負担とミスを大幅に削減しました。また、リクルーターとコーディネーター、オンボーディングの担当と役割を分けることで、各々の業務に集中できるようにしています。最近、新卒・中途問わずイベントを開催したり、情報発信したりと採用ブランディングにも注力できるようになったのは、こういう基盤を整備できてきたからだと思っています。
ただ、大変さを感じる一方で同じくらい面白さも感じていて。ずっと同じ組織で同じ業務に取り組んでいても飽きる瞬間がないんですよね。

それはやはり事業の面でも組織の面でも、変化が多いからでしょうか?

田中氏:おっしゃる通りです。たとえばLINE Financial株式会社の立ち上げひとつをとっても、社内に前例がなかったため、人事が部門と一緒になって「どんな人材が必要なのか」を検討するフェーズから参加しました。専門用語・技術・市場動向などを調べ、今までに採用したことのない銀行出身の方、証券会社出身の方といった新しい領域の専門職の方々のレジュメに向き合い、事業立ち上げのための組織図やチーム構成についてLINE Financialの担当役員と採用チームとでゼロベースからディスカッションしていくわけです。LINEの人事は決して受け身ではつとまりません。自分自身も「このサービス・プロダクトを成長させなければいけない」という意識を持つのは当然ですし、「事業をグロースさせるためにこのような人材が必要である」と提案する姿勢が求められます。事業が多様なことで、新しい領域にチャレンジするたびに学びがあるし、並行して既存事業を伸ばすための採用についても創意工夫を続けていますので、新しい採用手法にトライする機会も多い。ですから、常に刺激があるんです。

たしかにこの9月には「LINEエンジニア採用の日」を初開催されるなど、新しい施策も積極的に行われている印象です。

LINEエンジニアの日

市川氏:「LINEエンジニア採用の日」に関して言えば、エンジニア組織に属する「Developer Relationsチーム」という技術情報の発信やエンジニア採用推進に取り組む専門チームと共同で企画・運営しました。LINEの場合は、会社全体として「ユーザーファースト」の意識が根付いており、良いサービスを提供するためにエンジニア採用の強化が必須となれば、こうした他部署との協業も非常にスムーズです。それを実現するために、人事として何ができるのかを純粋に考えられるのもLINEの人事ならではの面白さだと思いますね。

仕事の成果は、サービスの進化になって表れる

仕事の成果は、サービスの進化になって表れる

新しい取り組みと言えば、新卒採用チームもさまざまな仕掛けを展開しているのではないでしょうか?

市川氏:そうですね。たとえばインターンシップひとつをとっても、以前は1つだったコースを今年は4つに拡大しています。2016年から実施している1カ月で40万円の報酬を支払う「エンジニア就業コース」は学生さんの間でも話題になりましたし、「エンジニアスクールコース」はエンジニアを目指す学生に“チーム開発の経験を積んでほしい”という思いで、今年から新設しました。また、採用選考においては約1年間、毎月行われるテストに何度でもチャレンジできる「Re-Challenge制」を導入したり、海外で採用イベントを行ったりと、自由度高くさまざまなチャレンジを行っています。

採用イベント同様、インターンシップなども現場の協力は必須だと思いますが、その点はいかがですか?

市川氏:新卒採用はスタートしてまだ5年程度で、どうしても前例のないことばかりですからね。現場サイドに対して、なぜそうした施策をやるべきなのか、どんな成果が期待できるのかをしっかり提案・発信して巻き込んでいく姿勢が欠かせません。そうした大変さはあるものの、やれることもやるべきこともまだまだあると感じていますし、会社全体としては「まず一度やってみよう」を応援してくれる文化ですからね。自ら改善点を見出し、裁量を持ってトライアンドエラーで成果を目指している状況です。

そうした新しい施策を生み出していけるというのは、やはり大きなやりがいなのでは?

市川氏:たしかに目に見える実績も多く出てきていますが、やっぱり新卒で採用した社員が活躍している話を聞くときに一番テンションが上がるんですよね。

田中氏:それは中途採用も同じです。特に「この人を採用できたことで、あのサービスが生まれた」といったケースは最高ですね。採用の成果が、ゆくゆくサービスや事業の誕生・進化になって表れるというのは、すごく面白いです。

たしかに、人事の努力が事業成長にダイレクトにリンクする環境というのは珍しいですね。

市川氏:以前、ある役員が当社について「毎日が文化祭」と表現していたのですが、本当にその通りだなと。今年だけでも何社も子会社が立ち上がるなど、常に新しいモノを創出し続けている。ですから人材支援室を含めた全部署が、本当に「毎日が文化祭」状態なんですよね。
毎日が文化祭

田中氏:文化祭なのでイレギュラーな事態が起こることもありますが、「大変!」と言いつつ、それすら楽しんでしまうのがLINEのカルチャーだと思っています。今後、人材支援室の仲間をさらに増やして、いま以上に文化祭を盛り上げていけたら嬉しいですね。

【取材後記】

ある時は採用システムを自社内で開発し、またある時は新事業の創出にあわせて、人事が現場と一緒になって組織構成や必要な人材の要件定義から検討する。さらに新卒採用に関しても、前例の無い施策を積極的に提案していく…。お2人が語るLINE人事のフレキシブルさとスピード感は、驚くべきものがありました。今後もLINEではサービスの拡大や新事業誕生が続いていくはずですが、その陰には必ず人事の活躍あり。同社の人事は、社内はもちろん国内外のユーザーの暮らしにも大きく貢献していると言えるでしょう。
(取材・文/太田 将吾、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)