「いい職場づくりができているか?」ピクスタの改革キーマンによる組織づくりの方法論
写真・イラスト・動画などデジタル素材のオンラインマーケットプレイス「PIXTA」。ピクスタ株式会社が手掛ける同サービスは、短期間でブランド力とサービス規模を拡大しています。
今回、そのピクスタで組織基盤の構築に取り組んでいる戦略人事部長 秋岡和寿氏にお話を伺いました。秋岡氏は、社員が「いい職場だ」と感じられる組織づくりは、採用力向上にも必ず繋がると語ります。
それでは、実際にどのような取り組みを行ってきたのでしょうか? その軌跡と、手法をご紹介します。
規模拡大に混乱する社内。はじめの一手は経営合宿から
秋岡氏:はい。私がピクスタにジョインしたのは2014年6月で、当時はまだ30名ほどの会社でした。ただ、2011年までは10名ほどで取り組んでいた事業が一気に成長し、2012年に10名を採用、翌年も10名採用し、社員規模が急拡大しました。それによって社内がひどく混乱していたのです。
秋岡氏:私がピクスタと接点を持ったのは、まだ株式会社グロービスに在籍していた2014年の上旬なのですが、当時は代表の古俣も役員陣も「人・組織づくりに関して、どうしたらいいのか?」と非常に困っていました。話を聞くと、事業に対する姿勢は間違いなく素晴らしい。ただ、組織づくりの点では、「どんな組織を目指しているのか?」が見えませんでした。
もっとも、この組織を応援したいという思いが高まり、ピクスタに転職する前の4月に1泊2日で、組織の在りたい姿を再定義するために「Reborn」というテーマを掲げ、経営合宿をやりましょうと企画しました。
秋岡氏:そうです。経営陣の考えを一つにまとめる感覚で、古俣や役員たちに思っていることをすべて吐き出してもらい、ディスカッションを重ねていきました。そして、「事業のビジョンはこれですよね」「目指す組織ってこうじゃないですか」「求める人材の要件は…」と、一つひとつ言語化していったのです。
その後、ピクスタに転職してすぐ、今度は混乱の原因を把握するために、全社員インタビューと役員・経営陣へのヒアリングも実施しました。そこで得た生の声をベースに、課題設定と分析を行い、組織開発の全体プランを設計していったのです。
秋岡氏:それまではスキル重視の採用で、どうしても目先の活躍を考えていましたが、ディスカッションの結果、採用したい人材に求めていることは「理念・ビジョンに共感してもらえる」「セルフスタートができる」など、スキル以上に大事なものがあるという根幹の部分がハッキリしました。それを経営陣みんなで再確認できたことは大きかったと思います。
秋岡氏:当社ならではの理念・ビジョン・ウェイを共感の軸に、一体感を持った組織を作りたいと考えています。ただし、私たちは事業においても社内においても、「個人のクリエイティブの支援」に重きを置いています。そのため、メンバーみんなが自由に才能を発揮できるフラットな社風を堅持しつつ、社内のいたるところでコミュニケーションが生まれる会社になりたいと考えています。
そうした考えもすべて明確に言語化し、メンバー全員に共有して、新しい組織カルチャーの醸成に取り組んできました。そこを軸に採用プランを組み立て、人事評価制度や給与制度も整えた形です。
現場と役員陣が、一緒にテーブルを囲む採用会議
秋岡氏:これをやるとやらないとでは、組織づくりの成果がまったく変わると思います。そもそも混乱の大きな原因は、メンバーと経営陣との意識のズレにありました。メンバーは、ひとつ一つの施策の背景が分からないと「結局どんな行動を求めているの?」と不安になりますが、経営陣は「細かく言わなくても、分かっているだろう?」と考えていた。その間を埋めるためには、お互いの思考を言語化することが不可欠だったのです。
秋岡氏:採用にしても、何をやるにしても、本質的に重要なことは、メンバー一人ひとりが今の職場を「いい場所だ」と思えるかどうかだと思っています。ですから、先ほどの組織像を実現できれば、たとえ派手さはなくても、転職希望者にも我々の魅力は伝わっていくはずだと。実際に、新たな組織カルチャーを牽引するような人材が、どんどん集まってきてくれたのは非常に嬉しいですね。
秋岡氏:たとえば面接などの場で、採用候補者を客観的に見極めるのは簡単ではありません。面接官によって相手の特徴をどう見るか、どう感じるかはまったく変わってきます。ですから、「主観の集合体が一番、客観性が高まるのではないか」と考え、できるだけ多くの人の視点や考えを集積して最終決定を行うようにしています。
秋岡氏:たとえば面接で3次選考まで行った場合、そこまで進んだ採用候補者に関しては、1次・2次選考で接点を持った人全員が集まる会議を開き、採用候補者に関する情報共有をします。それぞれどんな会話をしたのか、どういうキャリアを歩み、今後どうしていきたい人なのか。その採用候補者が考える人生の方向性と、ピクスタが目指すベクトルはマッチするのか……。
そうやって一人ひとりが見てきた風景を重ね合わせることで、本当にマインドとスキルが合致しているのかを見極めていくんです。
秋岡氏:それにこの会議には、現場のメンバーも役員陣も参加しますからね。経営サイドが何を見て評価するのか、現場が今どう考えているのか。そうしたお互いの目線を共有する場としても機能するのでは、と考えています。
会社の現状と課題を徹底的に把握すれば、最善の施策が見えてくる
秋岡氏:常々意識しているのは、むやみに「施策」「打ち手」に走らないことでしょうか。当社で行ったことも、ひとつ一つをみると決して突飛なことはやっていません。役員と社員の意識の摺合せを言語化することで、方向性を見出していますから。
それは、採用に対しても同じです。たとえば、2016年度は20名ほどの社員の採用を行いましたが、そのうち40%はリファラルリクルーティングです。
ただリファラルリクルーティング=バズワードという印象ですが、当社が導入した背景には、社員が自分の知り合いや仲間を紹介したいと思えるような、今の職場を「いい場所だ」と感じてもらえる取り組みが進んでいることに加えて、「共感度の高い人材を求めている」という要件を満たす人材の採用に、この手法が適していると考えた上での判断です。
秋岡氏:そうです。単に流行の施策に飛びつくのではなく、その前段に行うべき「組織の現状に対する目利き」といった本質を見極めることが、何より大事ではないでしょうか。その上で、課題解決の方法を徹底的に考え、今のタイミングで一番レバレッジが効く手法は何か?を見つけてやっていこうとしています。
秋岡氏:組織づくりには、自ら現状を捉えに行く姿勢が不可欠です。メンバーから声を聞ける流れをつくる、役員といつでも話せる状況をつくる。そうすると現場の情報も、経営サイドの情報も常に自分の中にある状態で、「今組織に何が起きているのか」「課題はこれで、原因はここだ」「ならばベストな手法は……」と、具体的な方法を構築できますよね。そして、手法が決まれば、他には手を出さず愚直にそれをやり続けます。そして、組織に変化の兆しが見えたら、次の手を考える。その繰り返しが今に繋がっている感覚です。
【取材後記】
2015年に採用を加速し、2016年にリファラルリクルーティングを導入したピクスタ。秋岡氏は、1年目から新たな採用手法を検討していたそうですが、「メンバーに良い会社だと思ってもらえるまで、焦るのはやめようと自分に言い聞かせていた」と当時を振り返りました。
すぐに手法を模索するのではなく、まず解決すべき課題と原因を徹底追及する「急がば回れ」の姿勢には、見習うべき点が数多くあります。次回、後編インタビューでは秋岡氏のマインドや方法論がいかに育まれてきたのか、そのキャリアを紐解きます。