退職希望者を会社は引き止めるべきか、送り出すべきか【退職理由・交渉のホンネ】

d's JOURNAL
編集部

社員から退職相談された際にどう対応すべきか悩む人事・採用担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。社員が長く活躍できる職場づくりが大切とわかってはいるものの、すぐ根本から改革できるわけではありません。となると、退職希望者を引き止めるための好条件の提示、いわゆるカウンターオファーで引き止めるしかない。しかし、引き止めても転職の意思を固めてしまった社員の決意を変えることは難しい…。それとも、最近ではアルムナイ・ネットワーク事例も出てきているし、無理に退職を引き止めない方がいいのか…。

そこで今回は、退職経験のある人たちにアンケートを行い、退職を決意したときの本音を探りました。引き止め後の注意点なども交えながら退職を決意した人たちのリアルな声をご紹介します。

Q1.退職した本当の理由を教えてください

Q1.退職した本当の理由を教えてください
アンケート調査の結果によると「人間関係」で退職する人が全体の28%を占め、圧倒的に多いことがわかります。続いて多かったのが「業務過多、労働環境」が18%。一方で、「新たなことへの挑戦」が6%、「業務内容のミスマッチ」が7%と、キャリアアップや業務内容を理由に退職する人は少数派のようです。具体的には以下のような回答がありました。

「人間関係が嫌になったからです。自分の事しか考えない人たちの集まりで、仕事をお願いしても“それは私に必要な仕事ですか?”と返ってきます。上司も、性格のキツイ人、言い返してくる人には何も言わず、性格の穏やかな人、言い返さない人にどんどん仕事を振ってくる。そんな環境に嫌気がさし、こんな人たちと一緒に働きたくないと思ったからです」
(金融業界・カウンター営業/43歳/女性)

「お局様的存在の女子社員に色々と嫌がらせをされました。まったく身に覚えはなかったのですが、彼女にとっては私の何かが気に入らなかったみたいです。次第に会社に行くのが苦痛になり、退職することを決めました」
(保険会社・事務/40歳/女性)

「私が退職した本当の理由は、社長と考え方が合わなかったからです。零細企業にいたため社長との距離が近く、話す機会が沢山ありました。しかし、仕事に対するやり方などの話で幾度となくぶつかってしまい、ストレスで脱毛症にもなりました。このままではいけないと思い、退職しました」
(広告代理店・営業/30歳/男性)

「残業ありきの拘束時間が長い仕事だったため、プライベートの時間を確保することができませんでした。先輩や上司はさらに激務で、毎日深夜まで残業した上で休日出勤も当たり前。そのため、この先結婚や子育てを考えた際に、仕事一色の人生しか見えなかったので退職を決意しました」
(建設業界・営業/37歳/女性)

こうしてみると、従業員の定着率を高めるためには、まず上司との関係性や良好な人間関係が築ける風土づくり、業務過多にならない環境づくりが大切と言えそうです。

Q2.退職する際、上司に本当の理由を伝えましたか?

Q1.退職した本当の理由を教えてください
アンケート調査の結果、退職する際に本当の理由を会社に伝える人は約半数であることがわかりました。正直な理由をそのまま伝える人も多い一方で、約半数の人が本当の退職理由を会社に告げない傾向にあるようです。この結果から、退職者の「円満退社したい」「言っても理解してもらえないのではないか…」といった心理が垣間見えます。では、退職する人たちはどのような理由を上司に伝えているのでしょうか。

Q3.退職する際、上司にどのような理由を伝えましたか?

Q3.退職する際、上司にどのような理由を伝えましたか?
上司に伝えた退職理由で最も多かったのが、結婚や親の介護といった「家庭の事情」で全体の32%を占めています。続いて、「新たなことへの挑戦」が23%、「病気、怪我」などが22%と、言われた側が引き止めにくい理由が上位を占める結果になりました。一方で、本当の退職理由で上位にランクインしていた「人間関係」は13%、「業務過多、労働環境」は4%と圧倒的に少ないことがわかります。本当の退職理由と上司に伝えた退職理由に、大きな乖離があることが見えてきました。具体的には以下のような回答がありました。

「人間関係の悪さに嫌気がさしていたことは伏せ、結婚して2交代勤務が難しくなったということと、配偶者が転勤のある部署に異動になり、急に退職することになっては職場に迷惑をかけることになるので、という理由を話しました」
(看護師/40歳/女性)

「趣味のサークルの先生からスタッフとして誘われたことにしました。この先生が大変な高齢で車の運転が危なく、今後は送迎が必要なことや、出先での介助が必要なこと、自分も将来この趣味で身を立てたいことを理由にしました」
(医療系・コールセンター/47歳/女性)

「現在の仕事に不満があるわけではなく、自分のやりたいことが見つかりキャリアアップのために転職することを伝えました。決して給与面や待遇、仕事内容に不満があったわけではないことを強調しました。そのうえで“すでに希望する企業に内定が決定しているため退職したい”と伝えました」
(人材業界・情報システム部/31歳/男性)

「事務職からプログラマーになろうと勉強をし、情報処理技術者試験に合格。再就職先の目処が立ってから退職の意向を伝えました。直属の上司には正直に事情を話し、“表向きは実家に帰省して結婚するのでその準備ということにしておいてください”とお願いしました」
(一般事務/54歳/女性)

退職の申し出を受けた際、一緒に働いてきた社員ですから、引き止めたいところです。しかし、人生に関わる決断だけに、引き止めるべきか悩むケースもあるでしょう。では、実際にどれだけの人たちが会社から引き止めにあっているのでしょうか。

Q4,退職の意思を伝えた際に、会社から引き止められましたか?

Q4,退職の意思を伝えた際に、会社から引き止められましたか?
アンケート調査の結果からわかるように、半数以上の人が退職の意思を会社に伝えた際に引き止めにあっていることがわかります。上司なり人事なり経営者なり、「会社に残ること」を提案されているケースが多いようです。では、企業は退職希望者を引き止める際に、どのようなアプローチをしているのでしょうか。続けて確認していきましょう。

Q5.Q4で「はい」と回答した方は会社からどのような提案(条件提示)をされましたか?

Q5.Q4で「はい」と回答した方は会社からどのような提案(条件提示)をされましたか?
アンケート調査の結果、「希望の働き方・雇用形態へのシフト」が27%、「条件の提示はなく、単純に口頭での引き止め」が22%、「昇給・昇進」が21%、「他部署への異動」が12%、「休暇取得推進」が10%ということがわかりました。「家庭の事情」を理由に退職を申し出る人が多いことから、このような結果になったと推測されます。具体的には以下のような回答がありました。

「同じ業務のまま、“仕事に来る日数を今の週5回から少し減らして働くのはどうか”ということを最初に言われました。それを断ると、次に、当時は現場仕事だったが、“せめて次の仕事が見つかるまででいいから、事務所の仕事を手伝ってほしい”と言われました」
(自動車部品の検査スタッフ/30歳/女性)

「雇用条件はそのままに、フルタイム勤務から1日5~6時間程度の時短勤務への短縮、並びに週5日ではなく週4日出勤のシフト変更を提示いただきました。在籍当時の成績と、会社の給与計算方法によると昇給対象であり、将来的な昇給も示唆されました」
(テクニカルサポート/34歳/男性)

「直属の上司からは“もし、制作寄りの仕事がしたいというのが退職理由であれば、現状の業務を見直して、もう少しあなたが望む仕事ができるように職務の幅に融通をきかせてもよい。だから、退職は思いとどまってほしい”と言われました。また、総務からは、“退職者が続いて、中堅層が手薄になっているので、とどまってほしい。そのために、他部署への異動や待遇面での希望があれば言ってほしい”と言われました」
(広告の企画職/45歳/女性)

「8000人規模の会社でしたが専務と常務に喫茶店に呼び出されました。具体的には“+100万円で何とか転職をあきらめてくれないか”という提案をいただきました。また辞めた際のデメリットを長年の社会人生活から得た知識で説明していただきました」
(営業/32歳/男性)

では、このような引き止めにあった人たちは、実際に会社に残る決断をしたのでしょうか。

Q6.Q4で「はい」と回答した方は、会社にとどまりましたか?

Q6.Q4で「はい」と回答した方は、会社にとどまりましたか?
アンケート調査の結果、引き止められた人の95%が会社にとどまらなかったことがわかりました。退職を決意した人を引き止めることがいかに難しいかを物語る数値です。しかし、引き止められて会社にとどまった人が5%でも存在していることは事実。会社にとどまる決意をした人たちは、なぜ引き止めに応じたのでしょうか。

Q7.Q6で「はい」と回答した方は、なぜ会社にとどまる決意をしたのですか?

Q7.Q6で「はい」と回答した方は、なぜ会社にとどまる決意をしたのですか?
アンケート調査の結果によると、「引き止めた上司の言葉に心を動かされたから」が最も多い36%、次いで「提示されたポジションに納得したから」が29%、「提示された給与額がよかったから」が28%、ということがわかりました。この結果を見ると、昇給・昇進などの提示はたしかに有効ですが、それ以上に一緒に働いてきた上司の言葉がどれだけ刺さるかの方が、引き止めには重要のようです。一方で、会社にとどまらなかった人たちは、なぜ引き止めに応じなかったのでしょうか。

Q8.Q6で「いいえ」と回答した方は、なぜ会社にとどまらなかったのですか?

Q8.Q6で「いいえ」と回答した方は、なぜ会社にとどまらなかったのですか?

この設問での回答は上記の図のような結果となりました。「すでに次の職場が決まっていて、転職の意思が固かったから」が36%、「自分のやりたいことやキャリアアップを優先したかったから」が29%を占めていることから、退職希望者の半数以上は退職の意思を伝えている時点で、次の職場が決まっていたり、次のフィールドに意識が向いていたりすることが多いようです。また、「その場しのぎの対応であることが透けて見えたから」という回答も21%と多く、引き止めで提示した条件や上司の言葉が魅力的だったとしても、退職希望者との信頼関係がない状態だと効果が薄いと言えるでしょう。

Q9.Q6で「はい」と回答した方は会社にとどまることを決めた後、どのような気持ちでしたか?

仮に引き止めるに成功したとしても、本人が本当に納得したうえでの判断だったのでしょうか。実際にとどまった人たちは以下のような気持ちを抱いているようです。
引き止め

「会社内のいろいろな人から引き止めをされたこともあり、自分の存在意義を確認できたことによる満足感を得ることができたという感覚もあったが、一方いろいろな人に心配や迷惑をかけたという申し訳ないという気持ちの両方を感じることになった」
(商社の経理/38歳/男性)

「何があっても受け流す術に長けていなかった自分の未熟さを実感しつつも、身体と精神が疲弊している今の状態でさらに使い潰す意図が見え隠れする会社への不信感で揺れていました。“本当はここにとどまりたくないんだ”と心の中では決まっていたのに、目先の生活の安定性を重視して自分を粗末にしているとも感じていました」
(テクニカルサポート/34歳/男性)

「一旦は会社にとどまったものの、居心地はさらに悪くなり、会社ではだんだんと傍流の仕事に移されていきました。もう私の我慢も限界であると会社も考えたのでしょう。結局会社を退職することにしました。気を張っていたからできた仕事に対しても、既にやる気も失っていました」
(電気系エンジニア/58歳/男性)

「“残業代は出すし、プライベートが充実するように努力する”と言われました。しかし、そもそも仕事内容自体に魅力を感じておらず、仕事をしていて楽しくなかったので辞める決断をしました。いくら待遇が良くなっても仕事自体が嫌だったら苦痛で仕方がありません。今では会社にとどまらずに転職したことでやりたい仕事ができていて本当に良かったです」
(管理栄養士/26歳/女性)

「“社会からは必ずしも求められない仕事ではあるけれど、会社からは求められているのだから…”と無理に納得するようにしました。とは言え、やはり身体的・精神的に合わない仕事を続けるのは困難で、結局は一年後に退社しました」
(調査会社/51歳/男性)

こうした回答からわかる通り、引き止めに成功したとしてもほとんどの方が、一度失ったモチベーションを取り戻すことはできず、最終的には退職・転職している傾向にあるようです。

仮にとどまった本人が再びやる気になったとしても、周囲からは一度退職を決意した人に対して「またあの人は辞めると言い出すのではないか」という不安が生まれてくるかもしれません。結果、昇給や昇進のチャンスを逃し、再びモチベーションが下がってしまう可能性があります。さらに、好条件で引き止められた人は、「あの人だけずるい」という目で周囲から見られるリスクがあり、他社員のモチベーションダウンにつながる恐れがあるのではないでしょうか。

重要なのは無理な引き止めではなく、「退職理由」を確認した上で改善をすること

上記のような引き止めによる副作用を抑えるためには、まず引き止めた社員に安心感を与えることが重要です。そのためには、直属の上司を中心に、周囲が積極的に話しかけるなど、マメなコミュニケーションを意識するといいでしょう。また、好条件を出して引き止めた場合は、周囲のモチベーションダウンの影響を考え、正当で公正な評価制度をつくり、透明性の高い経営を心がけることも重要です。

人事・採用担当者として取り組めるのは、「本人への定期的なヒアリング」でしょう。会社にとどまったことに後悔をしていないか、上司・同僚との関係性は構築できているか、望む仕事が実現できているのか…、退職理由が少しでも改善できているのかフォローしていくことが求められます。同時に、上長や周囲へのヒアリングも行い、場に馴染めているのか、何か不穏に感じることはないか、確認しておくことも大事です。

しかし、ここまでご紹介してきた退職者たちの声からわかる通り、従業員が退職の相談にきた時点で、本人の意思はほぼ固まっています。仮に引き止めに成功したとしても、本人がやる気を取り戻す可能性は低い傾向にあることから、結局のところ、引き止めは一時的な処置にすぎず、本質的な解決策にはなりません。もし、従業員に退職したいことを相談された場合、重要なのは「なぜその決断に至ったのか」を紐解くことなのではないでしょうか。

(制作協力:サムライト株式会社)

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