【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?

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編集部

労働力不足が加速する中、企業では少ない労働量でも成果を生み出せるよう、生産性向上に向けた取り組みの必要性が高まっています。企業ができる生産性を上げるための施策にはどんなものがあるのか?取り組む上で何を注意したらいいのか?具体的な取り組み事例や活用できる補助金や助成金の紹介も含めて解説します。

生産性とは?

生産性とは、投入した生産要素に対してどれだけ付加価値を生み出せたかを表すものです。英語では「Productivity」と言います。生産性には、労働の視点からみた「労働生産性」、資本の視点からみた「資本生産性」、投入した生産要素すべてからみた「全要素生産性」の3種類があります。中でも企業活動の現場でよく用いられるのが「労働生産性」です。

 

「労働生産性」とは労働者1人あたりが生み出した成果のことを言います。この「労働生産性」には2種類あり、成果を付加価値として表す付加価値労働生産性と、生産量や金額で表す物的労働生産性があります。これらの労働生産性の数値は数式を使って算出することが可能です。また、国際社会において「労働生産性」は国内総生産(GDP)で計算されます。

労働力の減少などが問題視される中で生産性を上げるには、まずこの数値を改善していく必要があります。

生産性向上と業務効率化の違い

「生産性向上」と混同して使われやすい用語に「業務効率化」があります。業務効率化とは、より効率的な業務遂行を目指す取り組みです。例えば、コストを下げたり、業務遂行のスピードを速めることなども業務効率化の取り組みのひとつです。つまり、業務効率化は成果物の質・量を減らさずに時間やコストを削減することと言い換えることができるでしょう。業務が効率化すれば、必然的に1人あたりに生み出せる成果も自然と増えるため、生産性向上にもつながります。当然、企業全体の業績も向上させられます。

一方で生産性向上は、事業や会社全体の「付加価値を高める」という観点から、業務効率化に加えて事業の再構築や新規創出など幅広い対策が考えられるのが特徴です。

(参考:『業務効率化を検討したい!企業がすぐに取り組めるアイデア18選【チェックリスト付】』)

生産性の計算方法は?どのように算出するものなのか

ここでは「労働生産性」の計算方法について、詳しく見ていきましょう。
生産性の計算方法は?どのように算出するものなのか
労働生産性とは、労働者1人あたり、または労働1時間あたりでどれだけの付加価値を生み出したかを指します。つまり、生産性向上を実現するためには、同じ労働量でより多くの成果物をつくり出す、あるいはより少ない労働量でこれまでと同じ量の成果物をつくり出すことがポイントです。「付加価値」とは売上高から原材料費や外注費など外部から購入した費用を除いたもので、人件費として労働に、配当として資本に分配されます。

生産性向上が注目される理由

近年「生産性向上」への注目が高まっている背景には、どのようなことがあるのでしょうか。「国際競争の激化」「労働力の減少」の観点からご説明します。

国際競争の激化

生産性向上が注目される理由の一つに、IoTや人工知能などの技術革新による急速な国際競争の激化があります。日本の労働生産性は1970年代から1990年代にかけて加速した「生産性向上運動」により一時的に高まったものの、2000年代以降は伸び悩んでいる状況です。
国際競争の激化

(出典:日本生産性本部『労働生産性の国際比較』)

また日本の労働生産性はOECD加盟34ヵ国のなかでも下位に位置しており、主要先進7ヵ国では最下位となっています。今後世界における日本の競争力を高めるために、国を挙げた生産性向上が不可欠です。

労働力の減少

日本では、かつてない勢いで少子高齢化が進行し、総人口も2008年をピークに減少に転じています。そのため、労働力として国の経済を支える生産年齢人口(15歳~64歳)も、1995年をピークに減少に転じ歯止めのかからない状況です。具体的な数でみると、生産年齢人口は、2015年には7592万人でした。それが将来の予想として、2030年には6773万人、2060年には4418万人に減少していくとされています。これに伴い、労働力も減少傾向にあるのは一目瞭然です。
そこで企業は少ない人数でも成果を上げるために、生産性向上に取り組む必要があり、近年政府でも企業の生産性向上を後押しするために、「働き方改革」を積極的に掲げています。

生産性向上に向けて、企業ができる施策5つ

企業が生産性向上のために実施できる施策は多岐にわたります。その中からポイントを5つに絞り、ご紹介します。

施策1.個人業務の可視化

個人業務の可視化
まずは、個人が抱えている業務を可視化することから始めましょう。業務の優先順位を確認し、取捨選択を行うことも大切です。また身の回りの整理整頓など、集中できる環境づくりも大事な要素になります。

個人で意識しきれないことはチームで習慣化する、個々の工夫を全社で共有する、といった業務改善を定着させるためのサポートをしていくと良いでしょう。

施策2.タイムマネジメントの可視化

タイムマネジメントの可視化<
1日単位もしくは、1週間単位で業務を洗い出し、目標時間を設定することも生産性向上に有効です。実際に掛かった時間を計測することで無駄を見つけることができる他、業務の抜け漏れを防ぐこともできます。

また長時間の残業は作業効率を落とし生産性の低下につながるため、所定労働時間内での業務を意識した目標設定を促しましょう。

施策3.スキルアップ

生産性向上のためには、限られた時間の中で効果的なパフォーマンスを発揮するためのスキルアップも効果的です。

ブラインドタッチの習得やショートカットキーの活用などの「パソコンスキル」のほか、要点を端的に相手に伝えるための「コミュニケーションスキル」、難易度の高い仕事ができる「専門的スキル」、パフォーマンス向上のための「セルフマネジメントスキル」など、生産性向上のためのスキルは多岐にわたります。必要に応じて、社内研修の実施や個々の学習機会の提供等、積極的に進めていくと良いでしょう。

パソコンスキル ブラインドタッチ、ショートカットキー
コミュニケーションスキル 要点を端的に伝える
専門的スキル 難易度の高い仕事、特殊な技術を要する仕事
セルフマネジメント モチベーションアップ、リフレッシュ

施策4.業務の平準化

同じような業務を複数人でやる場合にルールが定まっていないと、独自のルール設定で工数が増えたり、品質に差が出たりと、問題が発生しやすくなります。また特定の従業員が行う業務でも、ルールが属人化されることで、その人が退職したときに混乱が想定されます。
業務の平準化
そういった問題は生産性向上を妨げることになるため、ルールやマニュアルに落とし込むことで平準化できることがないか、定期的に見直しを行いましょう。

施策5.業務の自動化

製造促進のための設備投資のほか、勤怠管理やプロジェクト管理を担うシステムなどによる自動化も生産性向上に有効です。AIやロボットなど、最新技術の動向にも目を向けていきましょう。

生産性向上施策を実施する前におさえておきたい3つの注意点

企業で生産性向上施策に取り組む上での注意点について紹介します。

1.全体像を“見える化”する

生産性向上施策に取り組む前にまずは業務の全体像を把握し、課題や問題点を見える化することが必要です。共通する項目はまとめて、「会社全体で取り組むもの」「チーム・部署で取り組むもの」「個人で取り組むもの」など役割分担や優先順位付けを行うことで、効率的に施策を進めましょう。

2.関係者と共通認識を持つ

関係者には、目的を理解し当事者意識を持って取り組んでもらうことが大切です。全社施策として経営者が主体になり、生産性向上の取り組みに対してKPIを設定して定期的に評価するなど、意識強化を行うことで取り組みを根付かせましょう。

3.時間と根気が必要であることを理解する

生産性向上に取り組む際、関係者との協力体制の構築や制度・研修の導入、マニュアル化など一時的に業務が増えるほか、すぐに効果が出ないことも想定されます。生産性向上にはある程度の時間を要することも理解し、根気強く続けていきましょう。

生産性向上施策の効果の測り方(KPI)

生産性向上に取り組む際、施策の効果を測るためにはより具体的な指標(KPI)を設定することが有効です。主なKPIとして、「年間総労働時間」や「1人あたりの売上高」「コスト削減率」のほか、「残業時間」「年次有給休暇取得率」などが挙げられます。
特に残業時間の削減や有給休暇取得などの「働き方改革」に関する指標の強化は、従業員のモチベーションアップや優秀な人材の獲得にもつながります。企業の現状の課題感や目指す方向性に合わせて、指標を設定してみましょう。

生産性向上の取り組み事例

国は生産性向上に取り組む企業の情報収集を積極的に行い、事例を公開しています。ここでは財務省関東財務局が平成30年2月に発行した『生産性向上・人材投資事例集』をもとに、企業による生産性向上の取り組み事例を紹介します。

マニュアルで業務平準化・見える化を図り効率性向上(P3)

小売業を営む株式会社良品計画では、商品の陳列方法といった店舗業務や本部業務に係る業務実施方法等を「マニュアル化」し、業務標準化・見える化を実施。「マニュアル」に基づき業務を実施することで無駄な作業がなくなり、定時退社率93.9%を達成しました。またマニュアルにより全ての店舗で同様のサービスを提供できるようになり、売上・営業利益ともに10年間で2倍に成長しています。
マニュアルは、現場の意見に基づいて日々進化させ、現場のアクションには必ず回答、小さな提案でも改善効果が判断されたら採用するなど「現場がマニュアルに対する意見を出しやすい風土の醸成」に努めていることが成功の鍵とのこと。

TV会議システムの導入により商機拡大(P7)

株式会社東京スター銀行では、一部店舗にしかローン担当を配置していないため、ローン相談希望の顧客に対してスピーディーな対応ができないことが課題でした。そこでTV会議システムを導入し、ローン担当不在の店舗でも端末を通して相談できる体制を構築。TV会議システムを通じて相談が増加し、成約率が向上しました。
顧客のことをよく知る担当行員も同席することでしっかりとフォローができ、顧客に安心感を与えられたことが実効性を高めたようです。

セレクト勤務で時間外労働を削減し、従業員満足度向上(P11)

株式会社千葉銀行では、1日の勤務時間を変更せず、始・終業時刻を15分単位で自由にずらせる「セレクト勤務制度」を導入。この制度をはじめとする「働き方改革」の取り組みにより、営業店での1人当たりの時間外労働時間が1カ月に平均4時間程度削減されました。また、制度の活用により保育園等の子どもの送迎がしやすくなったことなどから従業員の満足度が向上。さらに仕事帰り等の遅い時間に契約したい顧客に合わせた対応も可能になり顧客満足度も向上したようです。

アウトソーシングの活用で本業に集中(P15)

東京都にある不動産業を営む会社では、出張手配や経費の精算・給与計算等の経理業務等をアウトソーシングし、本業である営業に人員を集中させることで生産性向上に取り組んでいるようです。

生産性向上に関する補助金・助成金

助成金
国は生産性向上の取り組みを後押しするため、生産性向上に取り組み成果を上げた企業に対して補助金や助成金を支給しています。

業務改善助成金(厚生労働省)

中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内最低賃金の引上げを図るための制度です。生産性向上のための設備投資や人材育成に係る研修、業務改善のためのコンサルティングなどを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資などにかかった費用の一部を助成されます。

IT導入補助金(経済産業省)

中小企業・小規模事業者が生産性向上を目的としたITツールを導入する際、経費の一部が補助されます。

人材確保等支援助成金(厚生労働省)

人事評価改善等助成コース

生産性向上に資する人事評価制度を整備し、定期昇給等のみによらない賃金制度を設けることを通じて、生産性の向上、賃金アップ及び離職率の低下を図る事業主に対して助成されます。

設備改善等支援コース

生産性向上に資する設備等を導入することにより、雇用管理改善(賃金アップ等)と生産性向上を実現した企業に対して助成されます。

両立支援助成金(厚生労働省)

従業員の職業生活と家庭生活の両立支援や女性の活躍推進に取り組む事業主に対して助成されます。

人材開発支援助成金(厚生労働省)

従業員のキャリア形成を促進する、職務に関連した専門的知識や技能普及のための研修導入等に対して助成されます。

生産性向上に関する法律ー生産性向上特別措置法ー

政府は近年のIoTやビッグデータ、人工知能など、ICT分野における急速な技術革新の進展による産業構造や国際的な競争条件の変化に対して、「生産性革命」を実現させるべく、2017年12月に「新しい経済政策パッケージ」を取りまとめました。この中で2020年までを「生産性革命・集中投資期間」とし、以下の目標を示しています。

●日本の生産性(1人あたり、1時間あたりの実質GDP)伸び率を2015年までの5年間の平均値である0.9%から倍増させ、年2%向上させる
●2020年度までに対2016年度比で日本の設備投資額を10%増加させる
●2018年度以降3%以上賃上げする

生産性向上特別措置法とは

生産性向上特別措置法とは、上記目標に対して短期間での生産性向上を図る上で必要な支援措置を講じるための法律として、2018年6月より施行されました。

(参考:中小企業庁 中小企業・小規模事業者に対する支援施策「生産性向上特別措置法」

生産性向上措置法の概要

生産性向上特別措置法では、施策として以下3つの柱を掲げています。企業は認定を受けることで、投資に対する援助や税制優遇等を受けられるようになります。

①プロジェクト型「規制のサンドボックス」制度の創設

新しい技術に対して、迅速な実証や規制改革につながるデータ収集を可能にするため、実証のための環境(サンドボックス)を整備しています。

②データの共有・連携のためのIoT投資の減税等

生産性向上に向けたIoT(システムやセンサー、ロボットなど)の導入に伴うデータの収集・活用等設備投資に対する減税措置支援などを規定し、セキュリティ確保等を要件として認定しています。

③中小企業の生産性向上のための設備投資の促進

中小企業が生産性向上を目的とした設備投資をする際に、導入計画を提出し、市町村の認定を受けた場合に、以下いずれかの支援措置が受けられます。

●税制措置:認定計画に基づき取得した一定の設備について、固定資産税の特例措置を受けることができます。
●金融支援:民間金融機関の融資に対する信用保証に関する支援を受けることができます。
●予算支援:一部の補助事業において優先採択が行われます。

 

設備投資の減免となる条件

生産性向上特別措置法の施策の中で、より企業で取り入れやすいのが「③データの共有・連携のためのIoT投資の減税等」でしょう。国から「導入促進基本計画」の同意を受けた市区町村において、新たに設備を導入する中小企業者が対象となります。ただし、税制措置(固定資産税の特例)を利用できるのは、中小企業の中でも資本金1億円以下の法人に限られており、設備にも条件がありますので注意が必要です。

税制措置の対象となる設備

商品の生産もしくは販売、サービスの提供に直接的に関わるもので、生産性向上に資する指標が旧モデル比で年平均1%以上向上する設備とされています。

減価償却資産の種類(最低取得価額/販売開始時期)

●機械装置(160万円以上/10年以内)
●測定工具及び検査工具(30万円以上/5年以内)
●器具備品(30万円以上/6年以内)
●建物附属設備(償却資産として課税されるものに限る)(60万円以上/14年以内)

申請方法

申請方法

ステップ①事前確認・準備

新たに導入する設備が所在する市町村に「導入促進基本計画」があるか確認します。市区町村によっては、認定の対象となっていない業種や地域等もあるので、市区町村に詳細を確認してみましょう。
また、認定を受けるためにはる新規取得設備の取得日より前に「先端設備等導入計画」の策定・認定が必要です。既に取得している設備は対象にならないので、注意してください。
さらに、受けたい支援措置に対する適用対象者の要件や手続き等を事前に確認しましょう。税制措置を受けるには、計画申請時に工業会証明書や経営革新等支援機関の確認書等が必要となります。

ステップ②先端設備等導入計画の策定

市区町村が策定した「導入促進基本計画」の内容に沿っているか確認しましょう。「先端設備等導入計画」の様式・記載例を確認し、認定支援機関に確認を依頼すると安心です。

ステップ③先端設備等導入計画の申請

市区町村長に計画申請します。認定を受けた場合、市区町村長から認定書が交付されます。

(参考:中小企業庁『先端設備等導入計画策定の手引き』)

【まとめ】

国際競争の激化や労働力人口の減少などの背景から、より注目が集まっている「生産性向上」。取り組みを強化することで、企業としての付加価値を高め、今後の人事戦略や長期的な生存戦略にもつながります。国が「働き方改革」を掲げて法律の制定などに力を入れている今だからこそ、補助金や助成金の活用も視野に入れながら、生産性向上に取り組んでいきましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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