トライアル雇用とは?申請条件や制度の仕組み・利用方法を解説

d's JOURNAL編集部

「トライアル雇用」とは、文字通りトライアル期間を設けて人材を雇用する方法を指します。しかし、一般的に普及している「試用期間」とは異なる意味合いを持っており、きちんと条件を満たして実施すれば助成金を利用することもできます。

この記事では、トライアル雇用の仕組みやメリット・デメリット、助成金の申請条件などをまとめて見ていきましょう。

トライアル雇用とは

トライアル雇用とは、就業経験のない人やブランクのある人などを対象に、一定のトライアル期間を設けて雇用する制度です。その期間を通じて、常時雇用するかどうかを見極めることが目的であり、企業にとっても求職者にとってもさまざまなメリットがあります。

一般的には、ハローワークや人材紹介会社を通じて企業と求職者が接点を持ち、両者の条件などを踏まえたうえで雇用契約を結ぶこととなります。

トライアル雇用の目的

トライアル雇用は、求職者と企業でそれぞれ目的が異なります。

■求職者の目的
就業経験のない人や未経験の職種に対して活躍できるかを判断し、常用雇用への道を開くこと。

■企業の目的
慢性的に人材不足の企業に対して、人材採用・育成のきっかけづくりをサポート。
労使間のミスマッチを防いだうえで、常用雇用へ移行すること。

試用期間との違い

試用期間とは、採用した従業員の適性やスキルなどがマッチするかどうかを判断する期間のことです。期間を決めて実際の現場で働いてみることでマッチするかどうかを試してみる点ではトライアル雇用と類似していますが、その位置付けや実施期間、契約の結び方が異なります。

試用期間は継続雇用を前提とした「期間の定めのない契約」を結んだうえで、「業務に対する適性を見るための期間」という位置付けになります。個々のスキル・経験をもとに試用期間の長さを設定することが可能です。

一方、トライアル雇用は原則「3カ月」と期間を定めて契約を結びます。試用期間の場合、あらかじめ期間の定めのない契約を結んでいるため、万が一マッチせずに解雇をしなければならなくなってしまった場合は、「なぜ試用期間で解雇をすることになったのか」を具体的に示す必要が出てきます。

一方、トライアル雇用の場合、もともと契約が原則3カ月となります。そのため、万が一マッチしないと判断すればそのまま契約終了となります。

トライアル雇用の種類

トライアル雇用には、大きく分けて3つの種類があります。「一般トライアルコース」は、就業経験のない若者や育児などでブランクのある求職者を対象に行うトライアル雇用です。

それ以外には、障害者を対象にトライアル雇用を行う「障害者トライアルコース」や「障害者短時間トライアルコース」があります。障害者短時間トライアルコースでは、1週間の所定労働時間を10時間以上20時間未満に設定し、通常よりも労働の負担が軽減された状態で雇用するのが特徴です。

トライアル雇用を利用するメリット・デメリット

企業と求職者のそれぞれにとって、トライアル雇用を利用することには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、デメリットとともに詳しく見ていきましょう。

トライアル雇用のメリット

トライアル雇用には、次のようなメリットがあります。

・ミスマッチを防止できる
・職務や社風との相性を確認できる
・本採用の義務がない
・採用コストの削減(助成金の支給)
・就業経験や就業機会のブランクが長い人に適している
・面接に至るまでのハードルが低い
・業務を通じて、スキルの習得が可能

企業から見れば、採用のミスマッチを予防できるのが大きなメリットとなります。企業と求職者の相性は、スキルや経歴、年齢といったものであれば、求人情報などから客観的に判断してもらえるでしょう。

しかし、社風や実際の業務、社内の人間関係といった点は、実際に働いてみないと判断が難しいものです。せっかくコストをかけて採用しても、「社風と合わない」「人間関係に苦痛を感じてしまう」といった理由で離職されてしまえば、企業にとっては大きな損失につながります。

反対に、企業側が合わないと感じたとしても、本採用を行ってからは簡単に解雇することはできません。試用期間を設けていても、期間の定めのない契約を結ぶ点は変わらないため、解雇にはさまざまな手続きが必要となります。

それに対して、トライアル雇用であれば本採用の義務がないため、ミスマッチに気づいてからも適切に対応することが可能です。一方、求職者から見れば、就労経験がなかったり、ブランクを経験していたりしても、比較的雇ってもらいやすくなるのがメリットです。

実際に業務をスタートするまでのハードルが低いため、実務で学びながらスキルを高め、本採用の機会を広げることもできます。

トライアル雇用のデメリット

続いて、トライアル雇用のデメリットについても見ていきましょう。

・教育する体制の整備が必要
・人材育成の時間とコストがかかってしまう
・助成金支給までのタイムラグ(トライアル雇用終了後にまとめて支給)
・求職者にとっては、本採用が確約されていないという不安がある
・不採用でも(短期の)職歴として残ってしまう

トライアル雇用で採用される人材は、通常とは異なり「就労経験が浅い」「ブランクが長い」といった事情を抱えているケースが多いため、どうしても人材育成には時間やコストがかかってしまいます。教育担当者や管理者の負担も大きくなるため、教育体制をしっかりと整え、組織全体としてフォローできるように努めなければなりません。

一方、求職者から見れば、やはり本採用が確約されない点が大きなデメリットとなります。原則としては最長3カ月まで働くことになるにもかかわらず、その先の雇用は約束されていないため、どうしても不安を感じてしまいやすいのは確かです。

トライアル雇用は複数の企業に同時応募することができないため、企業の選定は慎重に行うことが大切です。また、トライアル雇用であっても短期の職歴として残るため、不採用の場合は今後の就職活動に影響が出てしまう可能性もあります。

トライアル雇用の申請条件と金額

トライアル雇用を行う企業は、一定の条件を満たしていれば、助成金を受け取ることができます。ここでは、トライアル雇用助成金の申請条件と対象者、金額などをご紹介します。

トライアル雇用の申請条件

トライアル雇用の申請条件は、次の通りです。

□後述の「トライアル雇用の対象者」に該当している
□紹介日時点において、以下のいずれにも該当しない
・安定した職業に就いている
・自営業または会社役員で1週間あたりの実働時間が30時間以上である
・学校に在籍している(卒業する年の1月1日を経過していて、卒業後の就職内定がない者は除く)
・他の事業所においてトライアル雇用期間中である
□ハローワーク・職業紹介事業者等に提出された求人に対し、ハローワーク・職業紹介等の紹介により雇い入れること
□原則3カ月のトライアル雇用をすること
□1週間の所定労働時間が原則として通常の労働者と同等の30時間(ケースにより20時間)を下回らないこと

企業側としては、「求職者がトライアル雇用の対象者に当てはまっているか」「規定の紹介方法を通して雇用しているか」「トライアル期間や所定労働時間の規定を守っているか」が重要なポイントとなります。求職者側の条件については、次の項目で詳しく見ていきましょう。

トライアル雇用の対象者

トライアル雇用の対象者は、利用する助成金のコースによっても異なります。

一般トライアルコースの対象者
『一般トライアルコース』は、紹介された“日”時点で、安定した職業に就いている人、自営業または役員として週30時間以上働いている人、学生、他の事業所でトライアル雇用期間中の人を除いた、以下のいずれかに該当する人が対象となります。

□就労経験のない職業に就くことを希望している
□学校卒業後3年以内で、卒業後安定した職業(期間の定めのない労働契約を締結し、1週間の所定労働時間が通常の労働者の所定労働時間と同等であること)に就いていない
□紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
□紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている(パート・アルバイトを含め、一切の就労をしていないこと)
□妊娠・出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
□就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する(生活保護受給者、母子家庭の母など、父子家庭の父、日雇い労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者のいずれか)

上記以外にも、ウクライナ避難民の方を雇用する事業主にたいしてトライアル雇用助成金を支給するよう法律が、トライアル雇用の対象となる労働者は拡充しています。

障害者トライアルコースの対象者
『障害者トライアルコース』は、「障害者の雇用の促進等に関する法律 」第2条第1号に定める障害者のうち、以下のいずれかの条件を満たし、障害者トライアル雇用制度について理解したうえで応募を希望している人が対象となります。障害の原因・種類は問いません。

□紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
□紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
□紹介日の前日時点で、離職している期間が6カ月を超えている(パート・アルバイトを含め、一切の就労をしていないこと)
□重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者

障害者短時間トライアルコースの対象者
『障害者短時間トライアルコース』は、障害者短時間トライアル雇用制度について理解したうえで応募を希望している、精神障害者または発達障害者が対象となります。まずは短時間から働きたいという障害者に向けた制度であるため、障害者トライアルコースと比べると対象者の条件は緩やかに設定されています。

トライアル雇用で受け取れる助成金

トライアル雇用の実施により企業が国から受け取れる「トライアル雇用助成金」には、一般トライアルコース、障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコースの3種類があります。

一般トライアルコース
『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)』は、就業経験のない若者や一定期間のブランクのある労働者などを対象にトライアル雇用を実施した際に支払われる助成金です。支給金額は以下の通りで、合計額がまとめて1回で支給されます。

通常 一人あたり4万円を最長3カ月間(一人あたり最大12万円)
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 一人あたり5万円を最長3カ月間(一人あたり最大15万円)

※一人あたり5万円が最長3カ月支給されるのは、「若者雇用促進法」に基づく認定事業主が35歳未満の対象者(母子家庭の母または父子家庭の父)に対しトライアル雇用を実施した場合のみ

なお、月の途中で退職したり常用雇用に切り替わったりした場合、その月の分の支給額は下記の表の通りに決定されます。

※【計算式】A=支給対象者が1カ月間に就労した実日数/支給対象者が1カ月間に就労を予定していた日数

A≧75%
通常 4万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 5万円
75%>A≧50%
通常 3万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 3.75万円
50%>A≧25%
通常 2万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 2.5万円
25%>A>0%
通常 1万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 1.25万円

障害者トライアルコース
『トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)』は、障害者を対象にトライアル雇用を実施した際に支払われる助成金です。支給金額は以下の通りで、合計額がまとめて1回で支給されます。

対象者が精神障害者以外の場合 一人あたり4万円を最長3カ月間(一人あたり最大12万円)
対象者が精神障害者の場合 一人あたり8万円を最長3カ月間支給後、一人あたり4万円を最長3カ月間(一人あたり最大36万円)

なお、月の途中で退職したり常用雇用に切り替わったりした場合、その月の分の支給額は下記の表の通りに決定されます。

※【計算式】A=支給対象者が1カ月間に就労した実日数/支給対象者が1カ月間に就労を予定していた日数

A≧75%
通常 4万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 8万円
75%>A≧50%
通常 3万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 6万円
50%>A≧25%
通常 2万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 4万円
25%>A>0%
通常 1万円
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合 2万円

障害者短時間トライアルコース
『トライアル雇用助成金(障害者短時間トライアルコース)』は、障害者を対象に、週の所定労働時間を10時間以上20時間未満に設定し、トライアル雇用を実施した際に支払われる助成金です。支給金額は一人あたり4万円が最長12カ月間、合計で一人あたり最大48万円が支給されます。

基本的には最初の6カ月間の合計額とその後の期間の合計額が2回に分けて支給されますが、まとめて1回で支給を受けることもできます。月の途中で退職したり常用雇用に切り替わったりした場合、その月の分の支給額は下記の表の通りに決定されます。

※【計算式】A=支給対象者が1カ月間に就労した実日数/支給対象者が1カ月間に就労を予定していた日数

A≧75%
通常        4万円
75%>A≧50%
通常        3万円
50%>A≧25%
通常        2万円
25%>A>0%
通常        1万円

トライアル雇用を利用するときの流れ

トライアル雇用を導入する際の一般的なステップは、次の通りです。

・ハローワークの求人を申し込む
・ハローワークから紹介を受け、応募者と面談
・雇用条件を決め、有期雇用契約を結ぶ
・トライアル雇用を実施する
・実施計画書をハローワークに提出する

ハローワークに求人を申し込む

まずは求人票を作成し、ハローワークに求人の申し込みを行います。このとき、助成金を利用する場合は、「トライアル雇用」として助成金の給付を希望する旨を伝える必要があります。

また、一般の求人も同時に行う場合は、「トライアル雇用併用求人」として申し込みましょう。

ハローワークから紹介を受け、応募者と面談

求人票の登録を済ませると、ハローワークはその内容をもとに、条件に合った求職者を探してくれます。条件に合致する応募者がいれば、ハローワークが自社の求人を紹介し、トライアル雇用に申し込むかどうかを確認します。

応募者がその条件に応じると、ハローワークが自社に紹介をしてくれるので、採用面接へと進んでいきましょう。なお、トライアル雇用を利用する際には、書類選考のみで採用を済ませることはできません。

面接によって採用の可否を決めるように定められているので、応募者と日程をすり合わせ、面談を行う必要があります。

雇用条件を決め、有期雇用契約を結ぶ

採用することを決めたら、給与や勤務時間といった雇用条件を明確にします。時間外労働や休日出勤を行った場合は、トライアル雇用であっても手当の支給対象となるため、あらかじめ手当の金額も決めておくことが大切です。

なお、勤務時間などの一定の条件を満たしていれば、雇用保険や健康保険、厚生年金への加入も義務となります。雇用条件が決まったら、必要な事項を記載した契約書を用意し、有期雇用契約を結びましょう。

トライアル雇用を実施する

トライアル雇用の期間中は、一般の従業員と同様に残業や休日出勤を依頼することも可能です。ただし、就労すること自体に不慣れであったり、ブランクがあったりする点を考慮して、労務管理には十分な注意を払うことが大切です。

実施計画書をハローワークに提出する

トライアル雇用を開始したら、その日から2週間以内に、「トライアル雇用実施計画書」をハローワークに提出する必要があります。フォーマットは厚生労働省のホームページからダウンロード可能であり、利用する助成金のコースによって書式が分かれています。

トライアル雇用の対象外となる企業

トライアル雇用の助成金を利用するうえでは、前述の条件を満たしたうえで、念のために対象外になっていないかどうかもチェックすることが大切です。「6カ月以内に従業員を事業主の都合で解雇した企業」や「過去に不正受給を行った企業」は、その他の条件を満たしていても利用できないため注意しましょう。

また、「労働関係法令に基づいた適正な雇用管理が行えていない」「ハローワークの紹介時点とは異なる条件で雇い入れ、被雇用者に対する不利益または違法行為があった場合」なども対象外となります。

トライアル雇用利用時の注意点

トライアル雇用は、原則3カ月間(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコースは12カ月以内まで延長可能)の雇用期間を定めることとなります。しかし、状況によっては、契約期間の途中で退職や解雇となってしまうケースもあるでしょう。

ここでは、トライアル雇用を利用するうえで知っておくべき注意点として、「退職希望があった場合」と「解雇を検討する場合」の対応方法を解説します。

労働者が退職を希望した場合

トライアル雇用期間中に労働者が退職を希望した場合には、基本的に通常の退職と同様の手続きを行うこととなります。労働者側は、就業規則で定められたルールにのっとり、決められた期日(多くの場合は退職希望日の1カ月前)までに退職の申し出をしなければなりません。

退職日が決まったら、企業側は社会保険の喪失手続きを進める必要があります。また、必要に応じて業務の引き継ぎを行い、離職後の業務が滞らないように配慮することも大切です。

なお、対象者都合による退職があった場合には、助成金の支給額も減額されます。「実際に就労した日数÷就労を予定していた日数」の結果によって支給額が決められるため、あらかじめ計算しておくとよいでしょう。

企業が途中で解雇する場合

トライアル雇用は本採用を前提にしないといっても、雇用期間中はむやみに解雇を行うことはできません。理由や方法によっては不当解雇にあたる可能性もあるので、企業側から途中で解雇する場合には、通常の解雇と同じように正しい手続きを踏む必要があります。

まず、解雇の理由については、「勤務態度が著しく悪い」「正当な理由なしに遅刻・欠勤を繰り返す」「経歴や履歴について重大な虚偽の事実が発覚した」などの正当な事情がなければ認められません。また、解雇する際は、解雇日の30日以上前に解雇予告を出すか、解雇予告期間が30日に満たない場合は解雇予告手当を支給する必要があります。

そのうえで、途中解雇をする場合には、たとえ対象者に責任があったとしても助成金の支給額は減額 されます。この点については、途中退職があった場合と共通しているので、誤解がないように注意しておきましょう。

まとめ

トライアル雇用は一定の期間の定めを設けて雇用し、そのうえで本採用を行うかどうかを判断できる採用方式です。はじめから正式な採用を確約するわけではないため、企業と人材のミスマッチなどのリスクが軽減され、幅広く雇用の機会を提供できるのがメリットといえます。

さらに、特定の条件を満たせば、トライアル雇用の実施に対して助成金を利用することも可能です。人手不足に悩む企業にとって、トライアル雇用は多様な人材を確保するのに有効な手段となるはずです。

トライアル雇用の仕組みや注意点を理解したうえで、自社の新たな採用戦略として検討してみるのもよいでしょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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