採用手法のこれからを考える ダイレクト・ソーシング ジャーナル

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やみくもに配信されるスカウトメールは終わりを迎える―「マーケティング視点」で採用は更なる進化へ

PROFILE

LAPRAS株式会社

代表取締役 CEO 島田 寛基

2015年、京都大学で計算機科学の学士号を取得。人工知能を専攻。大学時代にはフリーランスエンジニア/デザイナー、Google Tokyo エンジニア(インターン)、 インキュベイトファンド株式会社(ベンチャーキャピタル)でのスタートアップ支援など幅広く経験。2016年、イギリスのエディンバラ大学大学院で修士号を取得。2016年、日本初のAIヘッドハンティングサービスを運営する株式会社scouty(現LAPRAS株式会社)を創業。

転職希望者に対して企業側から直接アプローチする「ダイレクト・ソーシング(ダイレクトリクルーティング)」。ここ数年で多くの企業が導入し始めたこともあり、人材採用手法の1つとしてすっかり定着した感があります。人材サービス会社が提供するデータベースから候補者を検索し、大量のスカウトメールを送って反応を待つというスタイルが一般的ですが、「思ったように効果が上がらない」と感じている企業も少なくないようです。

LAPRAS株式会社(旧:株式会社scouty)は「インターネット上のオープンデータから転職潜在層の情報を自動的に取得してAIで履歴書の代わりを生成する」という技術を軸に、広範な人材にアプローチできるダイレクト・ソーシングサービスを提供しています。
しかし、同社代表の島田さんは自社のサービスも含めて「現状のダイレクト・ソーシングには多くの課題がある」と感じているようです。島田さんが感じているダイレクト・ソーシングの課題とは何か。さらにはそれらの課題を踏まえて新たにチャレンジしようとしている新サービスの構想、島田さんが実現しようとしている「これからの採用のあるべき姿」についても詳しく伺いました。

知らない会社からスカウトメールが来ても転職潜在層は動いてくれない

知らない会社からスカウトメールが来ても転職潜在層は動いてくれない

2018年4月10日に社名と共にサービス名を『scouty(スカウティ)』から『LAPRAS(ラプラス)』に改められましたが、サービスの内容について簡単にご紹介いただけますか?

島田氏:TwitterやFacebookといったSNS、GitHubのようなリポジトリ共有サービス、技術情報共有サービス、イベント情報サイト、ブログなど世の中には個人が発信できるツールは増えています。私たちが手掛けているのは、これらインターネット上のオープンデータをクロールすることで転職潜在層のデータを収集・分析。「転職を考えているのではないか」という方に企業側から直接アプローチできるサービスです。これまでの「scouty」は企業向けサービスのみでしたが、「LAPRAS」では転職を考えている個人も登録できるようになったので、企業が閲覧する自分のプロフィールページを更新、充実させることができるようになりました。個人向けのサービスは「LAPRAS」、企業向けのサービス を「LAPRAS SCOUT」と名付けて提供しています。

企業にとっては、これまでのscoutyと同様、転職サービスに登録していない個人・転職潜在層へもアプローチできるメリットは変わらずということですね。

島田氏:企業向けサービスは「LAPRAS SCOUT」と名前が変わりましたが、メリットは変わりません。簡単に説明すると、ある人物がSNS上で「会社を辞めたくなった」と呟いたとします。そうするとその人の転職意向のスコアが上がる。するとその人をチェックしていた企業に転職アラート通知が届く仕組みです。

実は、転職をしようと決め、転職サイトや転職サービスに登録している転職顕在層は全就業者の1割程度に過ぎません。この1割の人材を多くの企業が採用しようとしている状況なので、特に獲得競争が激しいエンジニアの有効求人倍率は8倍を超えています。転職顕在層だけをターゲットにしても優秀な人材が採用できない時代ですので、転職潜在層にも幅広くアプローチできるLAPRASを開発したという背景があります。現状はダイレクト・ソーシングのツール、スカウトサービスとして機能していますが、当社としては現状のダイレクト・ソーシングそのものが抱えている課題を解決するために新たな機能、もしくはサービスが求められてくるだろうと思っています。

島田さんが考えている「現状のダイレクト・ソーシングそのものが抱えている課題」とは、どのようなものでしょうか?

現状の課題

島田氏:2つの課題があると考えています。1つは企業側から見た課題です。当社はスカウトサービス運営会社として、どの顧客企業も同じようにサポートしているのですが、どうしても成果にバラつきが出てしまいます。どこのスカウティングサービスでもその傾向はありますが、有名な人気企業ではスカウトの返信率も高く、多くの人材の採用に成功している。一方、ネームバリューがない会社、ブランディングがうまくいっていない会社の場合はなかなか返信が来ないという状況が発生しています。ネームバリューやブランディングの問題となると私たちもタッチできない領域になるので、解決が難しいのです。

確かにダイレクト・ソーシングでは、そうした問題が起こり得ますね。直接アプローチができるが故、「知っている会社」であるほうが読まれやすい…。

島田氏:私たちは採用とマーケティング活動を非常に近しいものだと考えています。ダイレクト・ソーシングでも、まず候補者に会社や求人を「認知」してもらい、その方たちにさらなる「興味喚起」を行うことで、「カジュアル面談」や「選考」に来てもらうというファネルがあると思うのですが、「認知」してもらっていない状態、「興味喚起」ができていない状態でも、スカウトメールを送れば、いきなり「カジュアル面談」や「選考」に来てもらえると誤解をしている方が多いのではないかと考えています。現在の売り手市場では、転職希望者側に多くの選択肢がある状態なので、知らない会社からスカウトメールが来ても動いてはくれません。転職顕在層であればまだ可能性はありますが、転職潜在層はまず反応してくれないのです。

ファネル

(LAPRAS社提供。採用ファネルの考え方)
「認知」や「興味喚起」ができていない人にスカウトメールを送っても意味がないということですね。もう一つの問題についても教えてください。

島田氏:企業側の問題の裏返しではあるのですが、転職希望者側からすると「興味のない会社からスカウトメールが大量に送られてくる」という状況になってしまいます。アメリカではUXに近い概念としてCandidate Experience(キャンディデイト エクスペリエンス、候補者体験)という概念があるのですが、言い換えると「転職希望者のユーザー体験的なもの」となります。転職希望者への対応を誤ると、それが著しく損なわれるため、サービス提供会社やスカウトを送っている企業への印象が悪くなってしまうのです。

企業としては効果が出なければ「もっとたくさんメールを送ろう」という話になってしまいますからね。

島田氏:一つ目の企業側の問題に戻りますが、最近ではWantedlyのような媒体が一般的になったこともあり「採用ブランディングって大事だよね」という考え方が根付きはじめてきたように思います。各種媒体やオウンドメディアを通じて自社のブランディングを狙った記事をたくさん作ろうという企業や人事採用担当者が増えてきました。

「認知」や「興味喚起」を重視する企業が増えてきたということですね。

島田氏:そうした流れ自体は良いことだと思います。しかし、「たくさん記事もアップしているしブランディングがうまくいっているから、最近はスカウトの返信が増えてきたんじゃないか」「イベントを催したからスカウトも増えるだろう」という感じで、結局のところほとんどの企業が「何となく」の感覚でスカウトサービスを運用している状況です。どの記事が実際のコンバージョンにつながっているのかに関しては、憶測や感覚に頼っているので正確な費用対効果も見えにくくなります。また、一部の企業ではタレントプールを構築して候補者に対するナーチャリングを推進していますが、20人、30人と候補者が増えていった場合、継続的にフォローするにはかなりの工数がかかります。こうした問題を解決するソリューションの一つとして、転職アラート機能を用意しているのですが、私たちとしては「認知」「興味喚起」「カジュアル面談」「選考」というファネルを可能な限り平らにできるような新しいツール、サービスが必要だと考えています。

採用マーケティングが進化すれば1通のメールで1人を採用することも可能に

採用マーケティングが進化すれば1通のメールで1人を採用することも可能に

貴社が考えている「認知」「興味喚起」「カジュアル面談」「選考」のファネルを平らにする構想について教えていただけますか?

島田氏:名前は変わるかもしれませんが、現時点ではTRM(Talent Relationship Management、タレント・リレーションシップ・マネジメント※)と呼んでいます。アメリカではTalent CRM(Candidate Relationship Management、キャンディデイト・リレーションシップ・マネジメント)と呼ばれているサービスであり、すでに数社のプレイヤーが登場し、マーケットとしても注目を集めています。これで何ができるかというと、各ソースからの候補者流入を可視化することで、どこの媒体やどこのメディア、どこのツールからなど正確なコンバージョンの計測が可能になります。また、タレントプールを半自動的にナーチャリング(育成)してくれるような機能も備えています。例えば記事をリリースした際に、「その記事を見た人が自社のWebサイトを閲覧した」「自社のWebサイトを見た人がさらに採用サイトを閲覧した」といった候補者一人ひとりの動きをトラッキングできようになります。

※TRM(Talent Relationship Management)とは、自社の候補者データベース(タレントネットワーク) 上で展開できる採用概念のこと。

 

そうなると自社採用サイトに来た人だけにスカウトメールを送ることもできますね。

島田氏:その通りです。現在のダイレクト・ソーシングのように、まったく興味がない人に対してランダムにメールを送るということがなくなるため、コンバージョンも大きく高まると考えています。

まさにマーケティングの考え方・手法を採用に取り入れたサービスであるという印象を受けました。

島田氏:そうですね。これからはリクルーティング・インテリジェンスのようなものが盛り上がるのではないかと考えています。その中で私たちは、可視化、トラッキング、さらにはトラックされたデータに応じて採用戦略を更新していくという流れを作りたいですね。TRMは究極的には、先ほどのファネルをより平らな形にしていくことを目指していますが、そのためには「認知」「興味喚起」の段階に中間コンバージョンを設定するなど、「カジュアル面談の人数」や「選考人数」よりもさらに前段階のKPIを取れるようなツールにする必要があると考えています。そうすることでやみくもにスカウトを送るという行為もなくなりますからね。

やみくもにスカウトを送らない

TRMによって先ほどの2つの課題も解決できそうですね。

島田氏:これまではブランディングや興味喚起のための記事を作って「記事のPVが3000を超えた! 認知が上がったからスカウトメールを送ろう!」となっても、実際には記事を見ていない人たちに送っていた可能性もあるわけですからね。企業の認知を上げていくことも大切ですが、認知が少ない状況、たとえば10人にしか知られていなくても、その10人をしっかり見極めてスカウトを送ることができれば10人全員が話を聞いてくれるかもしれません。そうした世界が実現できれば100通メールを送って1人を採用するというこれまでのやり方とは異なり、1通のメールで1人を採用できると考えています。

「LAPRAS」ではインターネット上のオープンデータから転職潜在層の気持ちの変化、企業に対する興味の度合いなどを拾い上げることができますが、TRMと「LAPRAS」を組み合わせることで、より精度の高いマッチングができそうですね。

島田氏:そうですね。今は「LAPRAS」をスカウトサービスのデータベースとして提供している状況ですが、今後TRMと結びついていくことで、よりリアルタイムな情報、正しいパーソナライズができる情報を提供できると考えています。たとえば候補者各自の「自社への興味度」といったデータを付け加えることによって、同じ条件で候補者を検索したとしても、検索結果は企業によって大きく変わってくるでしょう。候補者側から考えても「自分が気になっていた企業からスカウトメールが来る」という状況になるので、当然ミスマッチは減りますよね。

採用を偶然ではなく「必然化」していくことでミスマッチをなくしたい

ミスマッチをなくしたい

「LAPRAS」とTRMによって、島田さんはどのような世界を作っていきたいと考えているのでしょうか?

島田氏:会社の名前、サービスの名前にもなっている『LAPRAS』は、「ラプラスの魔物」という空想上の概念から付けたものです。「ラプラスの魔物」はあらゆる物事を必然にするというものであり、当社自身も「あらゆる事象を必然化し、世の中のミスマッチをなくす」というミッションを掲げています。さまざまなテクノロジーを活用し、これまで偶然の要素が強かった採用の世界を必然化することで「one to n」から「one to one」へ、採用の形を変えていくことを目指しています。

では、採用マーケティングが一般化し、採用が「偶然」ではなく、より「必然化」していったとき、企業の人事採用担当者にはどのような意識が求められるようになるとお考えでしょうか。

島田氏:今後、転職希望者に対するカスタマーエクスペリエンスのようなものを大事にできない企業はどんどん採用が難しくなっていくと考えています。数字だけを見て「採用率が1%だから100人にスカウトメールを送って1人を採用しよう」という考え方もありますが、やみくもにメールを送ることで企業価値を損ね、長期的には自社の採用を厳しくしてしまうケースもあるでしょう。これはスカウトメールだけの話ではありませんが、候補者のエクスペリエンスを高めることや、直近の採用に結び付かなかったとしても地道に自社のファンを増やしていく施策に取り組めるような会社に勝機があるはず。まずは人事採用担当者がそうした考え方を持つ必要があると思います。

これまでのような母集団形成に頼った採用の考え方では通用しなくなるということですね。

島田氏:もちろん、人事採用担当者だけがそうした意識を持っていても難しいと思います。採用は経営に直結している部分もあるので、会社や経営陣に対して「そうした考え方が重要だ」と発信していくことが必要です。また現場レベルであれば、さまざまな人を巻き込んで採用を行っていくことも大切でしょうね。たとえばエンジニアに送るスカウトメールの内容をエンジニアにレビューしてもらうなど、専門家である現場社員をアサインし、マネジメントしていく。まさにディレクター的な動きができる人事・採用担当者がいる企業は、採用がうまくいっているという印象を受けますね。

ミスマッチがなくなることで、より「会社そのものの魅力」を問われるということになるのでしょうね。

島田氏:転職希望者側に立って考えると、能力の高い人が自分の市場価値に気づくことなく現状に甘んじているという状況をなんとかしたいと思っています。世の中には多くの企業がありますが、一人の人が名前を挙げられる会社の数はそれほど多くありません。その人にとって本当に魅力的な会社というのは、その人の観測範囲外にある場合も多いのです。「LAPRAS」やTRMのようなサービスで会社と個人をきちんとマッチングさせて、一人ひとりを最もマッチしている会社とつなげることができれば、必然的に「ブラック企業」と呼ばれるような会社も無くなっていくと思いますし、多くの人の幸せに貢献できると考えています。

今後

【取材後記】

既存のダイレクト・ソーシングサービスの問題点を本格的なマーケティング手法の導入によって解決し、偶然を必然に変え、ミスマッチをなくしていくという同社と島田さんのビジョン・構想は、近い将来、個人と企業の双方にとって理想的なマッチングを生み出すソリューションとして結実するのではないかと感じました。また、島田さんのお話を伺いながら、これからの採用にはマーケティングに基づいた考え方が不可欠なものになりつつあることも実感しました。今後の採用のトレンドを正確にキャッチアップするには、人事採用担当者であってもマーケティングに関する知見を積極的に吸収しておいた方が良さそうです。そしてミスマッチがなくなった世界で最終的に問われるのは「会社そのものの魅力」であることは間違いありません。会社として長期的な採用力を維持するためには、一人ひとりの候補者のエクスペリエンスを高める施策、自社のファンを増やすための施策など、会社全体を巻き込んだ取り組みを進めていく必要がありそうです。

(取材・文/佐藤 直己、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)

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