SNSで「採用候補者様への手紙」を公開した企業が目指す、理想の組織と採用のあり方ー株式会社ミラティブ

株式会社ミラティブ

代表取締役 赤川 隼一

プロフィール
株式会社ミラティブ

採用チーム 採用担当 廣田 良歌

プロフィール

昨今の人材採用の現場では「候補者一人ひとりに自社のカルチャーや強み、目指すべき会社のあり方を伝えることが重要だ」という考え方が支持されるようになってきました。しかし、「まだ入社していない社員にどこまで伝えていいものか」と提供すべき情報の内容や範囲・深度について悩んでいる人事・採用担当者も少なくないはず。

株式会社ミラティブは、今年2月にTwitterやFacebookで発表した44ページにも及ぶ採用資料「採用候補者様への手紙(採用サイトへ)」が話題になるなど、サービスやプロダクトだけではなく、「エモさ」(※)のある独自の組織構築や採用手法でも注目を集めています。
そこで、同社代表の赤川さんと採用担当の廣田さんに、「採用候補者様への手紙」を公開された意図や背景、公開後の反応などをお聞きするとともに、組織づくりや採用において重視されていること、同社のカルチャーを強烈に特徴づけている「エモさ」について詳しく伺いました。

※編集部注:「エモい」とは、気持ちが揺さぶられる、高まっていく、動かされるなど、感情・心の動きを表す意として用いられる。英語の「emotional」が由来。「すごい」と使い方は似ているが、感情をうまく言葉にできないとき、情緒があるときなど、感情寄りの意味で使われることが多い。

ロジックだけで人は動かない。これからの採用に必要なのは共感や感情報酬

ロジックだけで人は動かない。これからの採用に必要なのは共感や感情報酬

今年2月に公開された「採用候補者様への手紙」が話題になっていますね。貴社のミッションや行動指針に加え、サービスコンセプトやマネタイズの進捗、さらには経営陣だけでなくスタッフの方々の写真まで掲載されています。あそこまでオープンな資料をSNSで公開された理由について教えていただけますか?

赤川氏:まずは私たちが「どのような組織を目指しているか」ということなのですが、わかりやすく言うとミラティブはWhatsAppのような会社にしたいとずっと言っているんです。WhatsAppは約40人で10億のユーザーがいるサービスを運営していますが、インターネット以前の時代には考えられないことでした。「ミラティブは絶対に40人以下でやっていく」ということではなく、少ないながらも信頼できる仲間、プロフェッショナルだけを集めてメガスケールするものを作っていきたいという想いで立ち上げた会社なんです。だからこそ「共感値とスキルの高いプロフェッショナルを、いかに採用するか」ということが経営における最重要テーマの一つとなっているんです。

そんな仲間を集めるための施策の一つが「採用候補者様への手紙」だったのですね。

赤川氏:本当に優秀な人を惹きつけるためにどうするか…と考えたとき、あの資料のようにオープンに、ありのままを伝えるべきだろうと思いました。今は優秀な人ほどシビアに判断する時代になってきているので、いかに正直に会社の現状を伝えていくか、さらには自分たちが考えていることや目指していることについて、できる限りエモーショナルに伝えていくことが大切だと思っています。

確かにその通りですね。

赤川氏:もう少しメソッド・how的な話をすると、半年ぐらい前にSmartHRさんが、会社情報を開示したプレゼンテーション資料を発表していたんです。それを見て「これ、いいな」と思った部分もありました。また、私はメルカリの登場によってスタートアップの流れはこれまでと大きく変わったと思っているのですが、メルカリが仕掛けていたオウンドメディアやオープンネスを体現した動きがあって。そうしたオープンな考え方の発展系、延長線上にあの資料があると思っています。

制作そのものは廣田さんが担当されたのでしょうか?

廣田氏:そうですね、最終的には赤川もガッツリ入ったというのが正直なところですが(笑)。データがあって、社員の写真があって、会社の魅力を伝えて…とたたき台を作っていたのですが、赤川から「もう少し人らしさや温かみがほしい。手紙のように人が喋っている感じにしてほしい」というフィードバックが返ってきたんです。

もう少し人らしさや温かみがほしい。手紙のように人が喋っている感じにしてほしい

赤川さんは、どのような意図があって廣田さんに「手紙のようにしてほしい」とオーダーされたのでしょうか?

赤川氏:私たちの資料には、正しい情報はもちろんですが、さらにミラティブが大事にしている想いというか、「エモい」要素を入れたかった。「採用候補者様への手紙」の中には、ポエムが入っているのですが、それはすべて自分で書きました。

「エモい」というと、「感情を動かす、揺さぶる」ということだと思いますが、そうした要素が欲しかったと。

赤川氏:もうロジックだけで人が動く時代でもないと思っているんですよね。ロジカルであることは前提としてあって、その上で「ここで一緒に働きたいと」思うには、感情報酬的なものが必要な時代になっていると考えています。自分でやりたいことがあれば起業するという人も多くなっていますし、ただ稼ぎたいということであればフリーランスになることもできます。個人が多様な働き方を選択できる時代に、わざわざミラティブを選んでもらうには何かしらの共感であったり、「こんな仲間と働きたい」という理由であったり、そんなものが絶対に必要になるだろうと。それがなぜ「手紙のように…」と言ったのかは私も覚えていないのですが(笑)、限られた情報の中でも最大限相手に刺さる表現で伝えるべきですし、自分たちらしく想いを語っていく必要があると思いました。

実際に「採用候補者様への手紙」をリリースされてからの反響はいかがですか?

廣田氏:リリースした直後は応募者数が一気にドンと増えて。本当にたくさんの方からご応募いただきました。1カ月以上経った現在、応募者数は一定落ち着いてはいますが、以前より書類通過率は上がっていて。より当社にマッチしている方からの応募が増えていると感じています。

赤川氏:誰にとってもいい会社というのは存在しないと思いますし、ミラティブもそれなりに濃いカルチャーを持った会社ですからね。仕事にエモさを求めたくない人もいていいと思いますし、それは個人の生き方の問題です。ただ、スタートアップである当社からすると採用ミスは一番怖いですし、相手の方にとっても貴重な時間を無駄にしてしまう可能性があります。そうした意味でもマッチング精度が高いことはお互いにとって効率的ですからね。

リーダー・メンバー間の心理的安全性によって支えられる理想的な内輪ノリ・部活感

リーダー・メンバー間の心理的安全性によって支えられる理想的な内輪ノリ・部活感

赤川さんは先日noteで「【自戒】こんな組織じゃオワコンだ。と、ミラティブ社で意識・実践している16のこと【逆張り】」という記事を公開されていました。その中でマスコメディ→内輪ノリへ(コンテクスト・ナラティブ・部活感)という組織トレンドについても言及されていました。貴社の中で内輪ノリや部活感を醸成するために、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

廣田氏:月に一度、「プレミアムエモイデー」という全体会議をしています。フルタイムや副業などのステータスを問わず、会社や事業の状況、今後の戦略をフルオープンにしてお互いでわかりあう会です。当社には毎月新しい方が入ってくるのですが、会の始めに既存社員はもちろん、新しい方にも自己紹介といっしょに「最近あったエモい話」を話してもらっています。「最近、結婚しまして…」とか「今、このことわざについて考えているのですが…」とか。まさに内輪ノリなんですよね。文字で見るとなんだか恥ずかしい感じがするかもしれないのですが、実際の現場では、何を話しても許される雰囲気があるんです。そういった空気感づくりにはとても気を使っています。

新しくジョインされた方もいきなり「エモい話」を披露しやすい雰囲気になっているわけですね(笑)。

廣田氏:そうですね、先日テレビCMの放映が始まったのですが、放映に合わせて社内でさまざまなことをメンバー一丸となって仕込んでいた時期がありました。そのときにメンバーから「ミラティブって文化祭の前日みたいなノリですよね」と言われたのですが、それってまさに内輪ノリ、部活感の真骨頂だなと思いました(笑)。大変な中でも、みんなで楽しみながら、ワクワクしながら何かを作り上げていく感じ。私たちはここで「青春」みたいなものをリバイバルしているのではないかと思ったりもします。

そうした状態だとメンバーのモチベーションも自然に上がりますよね。他には内輪ノリ、部活感のために取り組まれていることはありますか?

赤川氏:当社ではSlackを活用していますが、まさにそうしたものを加速させやすいツールだと思っています。メールですと限られた人とのやりとりになりますが、Slackであれば誰が何を発言しているのかわかる。できるだけみんなに溶け込んでもらいたいと思っているので、日々、すごくくだらない話をしています(笑)。そこは大事にしていますね。

廣田氏:経営陣から「部活っぽさ」を発信してくれるのはとてもありがたいです。プロダクトに関しても経営陣が一番初めに反応をくれるんですよ。つい最近もボイスチェンジャーのプロトタイプが出来上がってきたら、経営陣が一番に「わーーすげぇじゃん!」と反応する。メンバーとしても嬉しいですし、「こういうノリでいいんだ」とも思えるんですよね。

経営陣がビシッとビジネスパーソン然としていたら、メンバーも部活ノリにはなれないですもんね。

赤川氏:偉そうにしてもいいことはないと思っているんです。noteの記事にも書きましたが、私は昔、マウント王みたいな感じだったんですよ。

DeNA(株式会社ディー・エヌ・エー)で最年少の執行役員として活躍されていた時代でしょうか。

赤川氏:DeNAには感謝していますし、今でもすごく尊敬しています。ただ、20代のうちに一度天狗になってしまって…そのとき虚無感みたいなものを感じたんです。基本的にプライドが前面に出てしまうときって、自信がないことの裏返しなんですよね。私も20代の最年少執行役員っぽく振舞わなければならないと感じていましたが、実際の自分の能力がいかほどのものかは自分が一番良くわかっていて、それでも何とか組織をコントロールしようと「人に圧をかける」ということをやってしまっていました。そんな黒歴史があったので…。

マネジメントのスタイルを変更されたのですね。

赤川氏:私がそうだったように、役職がある人は「僕はわかりません」ということがあってはならないと思いがちなんです。もちろん、そのために裏でこっそり勉強もしましたし、背伸びしていたあの時期が自分の成長につながったと振り返ることもできるのですが…。ただ、いざ会社・組織を作ったときに、神輿を担がれるというか「(あの人は)しょうがないなあ」と言われるぐらいのほうが丁度いいと思ったんです。嘘がつけない時代なので。

そうした関係性があるからこそ、社員の皆さんも自由に発言し、遠慮なく仕事ができるということですね。

そうした関係性があるからこそ、社員の皆さんも自由に発言し、遠慮なく仕事ができるということですね。

赤川氏:リーダー側、メンバー側、お互いの心理的安全性が確保されていることが何より大切だと思っています。リーダー側も統率できる自信がないとマウントを取ろうとしてしまいますが、失敗を受け入れてもらえると感じていればメンバーに対して「すいません、やっちゃいました」と言えるようになります。それに対してメンバー側も「ちょっとちょっと!」と言えるのは、突っ込んでもリーダーから怒られないと思っているからです。こうした関係性が構築できればリーダーもメンバーも自分の意見を頭ごなしに否定されることはないと考えるようになるんですよね。

反対に、ミラティブらしい組織を作るにあたって感じられている課題などはありますか?

廣田氏:当社では体験入社のような形で、候補者の方に一定期間社内で仕事をしていただき「お互いに見極め合いましょう」という時間を設けているのですが、以前にある候補者の方から「隣のクラスっぽさを感じています」というフィードバックをいただいたことがあります。その方には周りで起こっていることが、自分のクラスではなく、他のクラスの出来事(他人事)のように感じられてしまったということなのですが、そうした意見から今後どのように改善していくかについてさっそく検討しています。もちろんカルチャーフィットの部分もあるので、入社前に見極めていただけたという点については、逆に良かったとも言えるのですが。

ミラティブの課題

赤川氏:私たちもオンボーディングをきちんとやらないと「隣のクラス感」を感じさせてしまう可能性があることを学ばせていただきました。日々、七転八倒しながら組織をつくっているので、現時点では「こうした理由で入社をためらう方も出ている」という事実を真剣に受け止め、次なる施策につなげていっています。

多くの人が「心が動かされる瞬間」を尊ぶようになってきている

多くの人が「心が動かされる瞬間」を尊ぶようになってきている

採用施策や組織についてお話をいただきましたが、人材採用に関して最も大切にしていること、譲れないことがありましたら教えてください。

赤川氏:「一番イケている人を採る」ということを大事にしています。この領域に関して世界で一番の人は誰か、世界で一番の人がダメなら日本で一番の人は誰か、という考え方で人を探し、ダメ元であってもその人に自分から会いにいくことを心がけています。とりあえず動けるという人に週5で働いてもらうよりも、一番イケている人に週2時間でもインプットをいただいたほうが効果が出る領域というのもありますし、働き方に関しても正社員or Notという時代ではありませんからね。

優秀な方に来てもらうとなると「自分たちももっと頑張らなきゃ」という気になりますよね。そうした相乗効果みたいなものもありますか?

赤川氏:一流の人を見ると自分も負けてられないと思いますし、そうした相乗効果を期待している部分もあります。また、私たちなりにイケてる人が来たくなる会社、人を惹きつける組織について考え、そこから逆算して組織を作っている部分もあります。もちろん、まだまだ道半ばではあるのですが。

一流の人を見ると自分も負けてられないと思います

採用担当である廣田さんは、普段の採用業務に関してこだわっていることはありますか?

廣田氏:いかにメンバーと一緒に採用を行うかを意識しています。やはり今は共感の時代ですし、例えばエンジニアの採用を行うとき、やはりエンジニアから発信する言葉や行動が一番伝わりやすいんですよね。エンジニアのことはエンジニアが一番よくわかっているので…。そんな状況にある中で、採用担当ができることを考えていくうちに、「どうしたら社内のエンジニアが、最高にイケてるエンジニアを紹介してくれるだろうか」、そのためには「どんな協力体制が必要か」「どんなお祭り感を演出する必要があるだろうか」ということに注力すべきだと思うようになりました。スクラム採用などが主流になりつつある今、採用担当というのは母集団を獲得し面接を回していくだけでなく、PM的な存在でもあると考えていますし、さまざまな形で「採用にコミットしたい」と考えてもらえるような制度や環境、体制を作ることが大切だと感じています。

今までのお話の中でも「エモい」という言葉が何度か出てきました。それは貴社のミッションや組織、事業など、あらゆるものに貫かれているキーワードのような気がします。あらためて「エモい」とはどういうことかについてお聞きしてもいいですか?

赤川氏:なんですかね(笑)。つい150年前ぐらい前までは奴隷制度があったりしたわけですが、今は誰もが「人間性の追求」を許される時代になってきました。私はインターネット、さらにスマートフォンによって人類がエンパワーされたと感じています。誰もがスマートフォンを持っている今のような時代になると、食べるために、稼ぐために、なんとかサバイブするために…という目的意識から「心を動かされる」ことに人々のプライオリティが移っていき、多くの人が心を動かされる瞬間を尊ぶようになってきているのではないでしょうか。あまりまとまってないですが…。

廣田氏:確かによく考えると言葉にしづらいのですが(笑)、それでもみんなが「エモい」という共通言語を使っていますからね。感情が揺れ動いたということなのかもしれません。ミラティブでは、それを大事にしようという共通認識があります。

「それってエモいね」という言葉が普通に出てくる、それを言い合える環境があるということを採用の中で候補者に伝え続けているのですね。

赤川氏:表現は「エモい」でなくてぜんぜん良いのですが、「心が動かされるような仕事をする」という意味ではそうですね。誰しもが貢献欲求を持っているので仲間やユーザーから「ありがとう」と言われれば私たちもその瞬間に心が動かされて仕事が楽しいと感じますよね。稼ぐために心を殺して働く、心を無にして働くという時代は終わったと思っています。心を動かし、心を動かされる仕事をしたほうがいいんじゃないかと。それはつまり「エモい仕事をしたほうがいいよね」ということにつながると思います。

【取材後記】

インタビュー中、赤川さんが「上場など会社の成長フェーズによって組織マネジメントや採用の手法が変わっていくのは当然。その制限や範囲の中でいかに時代にアジャストしていけるかが勝負だと思っている。その局面局面に応じて全力でやるだけ」と語っていたように、すべての企業がミラティブの「エモい」チームビルディングや採用手法をそのまま取り入れることは難しいかもしれませんが、社員や候補者に対してオープンであることの重要性、フラットな組織を構築することの意義など、参考にできるお話も多かったのではないでしょうか。廣田さんの言葉にもありましたが、採用に関しても「共感の時代」が到来していることは間違いありません。これからの人材採用には、候補者が「自社のどんな部分に共感を持ち得るのか」「どんな共感を求めているのか」をしっかり考えた上で採用戦略を練り、適切な情報を発信していくことが重要になりそうです。

(取材・文/佐藤 直己、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)