サイボウズ・サイバーエージェント・LIFULLによるインナーブランディングの秘訣

サイボウズ株式会社

コーポレートブランディング部 部長
大槻 幸夫

プロフィール
株式会社サイバーエージェント

ゲーム・エンターテイメント事業部 PRデザイン室 室長
青山 文吾

プロフィール
株式会社LIFULL

クリエイティブ本部 コミュニケーション1グループ長
山岡 早穂

プロフィール

働き方の多様化により「企業に属して働く意義」が強く問われ始めた近年。企業のインナーブランディング、社内広報の重要性は高まりつつも、いまだ十分な成功事例は多くありません。今後、組織の基盤となるビジョンや経営理念への共感を育てるために、私たちはどのような取り組みを行っていけばいいのでしょうか?

5月21日、株式会社オルトプラスが主催したイベント「サイボウズ・サイバーエージェント・LIFULL・オルトプラス 企業価値を高める インナーブランディング×社内広報 by CBsync」では、インナーブランディングと社内広報の成功事例が紹介されました。司会はオルトプラス社コーポレートブランディング部 マネージャーの柳奈央子氏。

オルトプラス社コーポレートブランディング部 マネージャーの柳奈央子氏

株式会社LIFULL、株式会社サイバーエージェント、サイボウズ株式会社の3社を迎え、「全社員巻き込み型の組織」「デザインを通した当事者意識の浸透」「社外向けのブランディングを通じたインナーブランディング」など、各社の先進的な取り組みをご紹介します。

カルチャーは社内全員で創り上げる。巻き込み型の組織づくり/株式会社LIFULL 山岡氏

カルチャーは社内全員で創り上げる。巻き込み型の組織づくり

山岡氏:弊社は創業以来「日本一働きがいのある会社」を目指し続けています。この話をすると、よく「働きやすい会社を目指している」と間違えられてしまうのですが、そうではありません。働きがいのある会社とは、社員が高いモベーションで働くことができ、ビジョンを達成したいと思う会社だと考えています。

そのような組織を目指す中での一番の気付きは「インナーブランドは社内全員で創り上げるものである」ということです。LIFULLは、経営層やバックオフィスだけで組織をつくるのではなく、社内の有志メンバーが集うプロジェクトを幾つも持ち、社内全体を巻き込んでいます。

では、どうしたら「有志」で社員が組織づくりに参加するようになるのか?これは大きく分けて2つ、「内発的動機づけ」と「圧倒的当事者意識」がポイントになります。

「内発的動機づけ」と「圧倒的当事者意識」

「誰かが何かをやってくれるだろう」という待ちの姿勢ではなく、当事者意識を高め、社員が持つ「課題を解決したい」「新規事業を立ち上げたい」などの内発的動機をいかに明確にするかが重要です。LIFULLでは、この2つを引き出すことに徹底的にこだわり、有志プロジェクトなどに挑戦してもらっています。

たとえば、参加メンバーがどのように社内にビジョンを浸透させるのかを考え、一人ひとりがビジョンの体現者になれる「ビジョンプロジェクト」という有志プロジェクトがあります。

ビジョンプロジェクト

(登壇資料より。LIFULL社提供)

このプロジェクトでは、まず「ビジョンツリー」を作成します。たとえば人事本部のビジョンツリーがこちらです。一番上に会社の経営理念、その下に人事本部のビジョン、その下にそれぞれに紐付くグループのビジョンをデザインし、明文化しているのです。LIFULLにある最小単位の組織にもビジョンを持ってもらうことで「自分の活動組織のビジョンが、会社の経営理念につながっている」と、全員が理解できるようになります。

このように、社員が自発的な挑戦をするために大切なことは「心理的安全性」の担保です。私たちは「たとえ失敗したとしても、挑戦した人をたたえるべき」というカルチャーを根付かせることで、社内全体を巻き込んできました。

また、社内と社外の広報をどちらも行っている中で感じるのは、「社内広報と社外広報は表裏一体だ」ということ。、発信したことに対して第三者から社内が評価されると「うちの会社って、こんなカルチャーの会社だったんだ」と社員が再認識できるので、それがインナーブランディングにつながっています。

カルチャーを組織に伝える。デザインが担う企業文化/株式会社サイバーエージェント 青山氏

青山氏:サイバーエージェントは、AbemaTVなどのメディア事業部、インターネット広告事業部、ゲーム事業と事業が大きく3つに分かれており、ゲーム事業の中で「SGE(スマートフォン ゲーム・エンターテイメント事業部)」と呼ばれる組織があり、10社以上の子会社が所属しています。

カルチャーを組織に伝える。デザインが担う企業文化

そして、子会社への周知情報や制作物などのデザインを担当しているのが、私の所属しているSGEのPRデザイン室。ここは「制作物のクオリティーを上げる」「カルチャーを組織に浸透させる」、この2つの役割を担っています。

もともとSGEには、「自分たちの組織は、自分たちで作る」というカルチャーがあります。それは当事者意識を持って行動するという意味であり、さらには組織の成長・成果につながる一番の方法だと考えています。その中で私たちPRデザイン室に求められるのはデザインを通じて「当事者意識を浸透させること」。

では、どのようなアプローチをすればいいのでしょうか?結論から言うと「当事者自身が表に出てきてもらうこと」が一番の方法です。

たとえば「紅白地力合戦」という施策があります。年末年始はお客さまがよくゲームをされるので、どうやったらお客様に満足してもらえるのか、子会社が紅組・白組に分かれて競います。PRデザイン室ではメンバーの顔が出ている目立つポスターを作成して、各社に貼ってもらいました。翌年の同じ施策でも、エッジの効いたポスターを作成しましたね(笑)。

紅白地力合戦

(登壇資料より。サイバーエージェント社提供)

このように、社内に貼るポスターに顔を出してもらうなど、常にデザインを人とセットにすることが肝となります。当事者に体を張ってもらうことで、当事者意識の向上にもつながりますし、責任者の顔や人柄などが周囲にもよく伝わるようになるのです。

当事者意識を組織に浸透させていくということは、「経営メッセージを組織に伝える」ことです。ブランディングは1日では成し得ないですが、地道に続けることで「うちの会社はこういう文化を大切にする会社なんだ」と徐々に理解してもらえるようになるはずです。

社外向けのブランディングこそ、最良のインナーブランディング/サイボウズ株式会社 大槻氏

大槻氏:サイボウズのコーポレートブランディング部は、コンテンツ編集のメンバーと広報で構成されており、マネージャー陣は評価や成長支援をしています。

社外向けのブランディングこそ、最良のインナーブランディング

部署のミッションは「文脈を伴った差別化されたサイボウズの認知向上」で、ターゲットは、顧客・株主・社員・採用などサイボウズを取り巻くステークホルダー全般です。製品ではなく企業姿勢を訴求することで、単なるグループウェアのメーカーではなく、「社会課題に取り組む」企業であることを知ってもらうための活動を行います。

たとえばオウンドメディア『サイボウズ式』の運営、書籍の出版をはじめ、自分たちでサイボウズは良い会社だと言い続けても説得力がないので「働きがいのある会社ランキング」へ応募し、第三者評価を受けるなど、さまざまです。

ただ、以前のサイボウズは、今のようなホワイト企業ではありませんでした。離職率は28%で、売上成長は踊り場(停滞)。これではダメだと判断して、「サイボウズに新しいストーリーはあるのか?」と新しい訴求に挑戦し始めてから、少しずつ今の組織に変化したのです。

サイボウズに新しいストーリーはあるのか?

提供するサービスも、機能性重視から価値重視へ転換。2014年には、「オウンドメディア以外でもサイボウズのメッセージを伝えよう」と、働くママを応援するムービー『大丈夫(編集部注:現在は公開終了)』を制作しました。YouTubeに投稿したこの動画は、広告を配信せずに162万再生を突破し、企業PRのつもりが「社会課題」としてテレビで大きく取り上げられ、さまざまな広告賞を受賞することとなりました。

こうして、当初、社長の青野が「これからの時代はチームワークだ!」と言い始めても変わらなかった社内の雰囲気は一変。外向けのコミュニケーションをきっかけに、サイボウズの発信したメッセージが社外から大きな評価を得るようになりました。その結果、「私たちが働いているサイボウズは、良いメッセージを伝える企業なんだ」と社員の心に届くようになったと感じています。

社内だけでビジョン浸透に力をいれるのではなく、一度社外の評価を得ることで客観性が付き、ビジョンが浸透しやすくなる効果を実感しました。

一度社外の評価を得る

他にも、副業解禁、年功序列の撤廃、リモートワークなどさまざまな施策を取り入れ、現在の離職率は4%になりました。オウンドメディアの『サイボウズ式』にも社員が出てくれるようになり、社外にサイボウズの社風が伝わるコンテンツを制作できるようになりました。今では、『サイボウズ式』のコンテンツが採用にも大きな効果をもたらしています。

では、これまでの経緯を踏まえてサイボウズは何を学んだのか。それは、ブランドとは「意味のある差別化」であり、「一貫性のある体験」であることです。発信するメッセージや取り組みが「サイボウズは日本社会の課題を解決するブランドですよ」と一貫性を持つこと。これが他社との差別化になり、組織のブランドを創るのだと思います。

社外向けのコーポレートブランディングこそ、最良のインナーブランディングの手段であり、組織づくりに大きなインパクトをもたらしてくれるのです。

【まとめ】

従業員の帰属意識や売上、採用活動にも大きな効果を発揮するインナーブランディング。働き方や企業メッセージが多様になっている現代、他社との差別化を図ることが、企業の社会目的を果たすための必須事項と言えるのではないでしょうか。

「企業文化の浸透に悩んでいる」「社内外を巻き込んだ企業メッセージの発信を行いたい」。このような悩みを抱える経営層やバックオフィスの担当者は、今回の登壇企業3社の取り組みを参考にしてみてください。きっと、企業の在り方を振り返り、見直すきっかけになるはずです。

(取材・文/須崎ちはる、撮影/二條七海、編集/田中 一成(プレスラボ)、企画/齋藤 裕美子)