離職率28%からの改革。サイボウズの働き方改革&採用戦略とは【セミナーレポート】

サイボウズ株式会社

人事部副部長 兼 チームワーク総研 研究員
青野 誠

プロフィール

ビジネスアプリ作成プラットフォーム『kintone』や中小企業向けグループウェア『サイボウズ Office』など、チームワーク向上に特化したサービス展開をしているサイボウズ株式会社。世間に先んじて「働き方改革」に取り組んでおり、多様な働き方を実現。2018年の『働きがいのある会社ランキング(Great Place to Work® Institute Japan社)』中規模部門において第4位を受賞されました。そんな注目を集めているサイボウズ社も、約10年前は、過酷な労働環境によって離職率が高く、ブランド力のなさから採用も精力的に行っていなかったとのこと。10年でどのような改革を行い、今の企業体質へと変貌を遂げたのでしょうか。
今回は人事部 副部長である青野誠氏をお招きし、「多様な人材獲得にむけた採用戦略」についてお話いただきました。

(この記事は、dodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています)

“働き方”を考えるきっかけとなった、離職率28%

サイボウズは、理念を大事にしている会社です。『チームワークあふれる社会を創る』を企業理念に掲げています。私たちが扱っているグループウェアというのは、社内情報共有をするのがメインとなるソフトウェアで、チームで使ってもらうことが多い。そのため、皆さんのチームワークを高めていこう、としているわけです。そしてもう1つ、『チームワークあふれる会社を創る』ということ。言うだけではなく自分たち自身がそういう会社である必要があるよね、と。これら2つを企業理念とし、中でも「理想(ビジョン)を共感する」「多様な個性を重視していく」ということを重要視しています。

“働き方”を考えるきっかけとなった、離職率28%

まず、サイボウズの多様な働き方についてご紹介していきます。サイボウズが働き方改革をはじめたきっかけですが、今から約10年前、2005年に離職率28%と過去最高レベルにまで上昇したんですね。社員の4人に1人が辞めていた計算になります。会社として給与を引き上げたり、業務転換を行ったり…、引き留め施策を実施しましたが一向に状況は良くならない。私は2006年に入社しているのですが、この頃のサイボウズは、まさにブラック企業。「ベンチャーなんだから長時間働くのが当たり前」「上司が帰らないから帰れない」「会議室で寝て、そのまま朝を迎える」といった風土があったんですね。これはまずい。この状態のままでは社員はどんどん辞めていきますし、しかも当時はブランド力もない会社なので、採用しようとしても思うように集まらないわけです。必然的に、社員を定着させていくためにどうしたらいいのか、深く考えるようになったんです。このことが、サイボウズの“働き方改革”に取り組む経緯になります。

100人いれば100通りの働き方があってよい

議論を重ね行き着いたのが、「100人いれば100通りの働き方があってよい」という人事方針です。これは、制度に社員をあてはめるのではなく、社員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬制度が実現されればいい、という考え方から生まれました。

では、一人ひとりにあわせた就業制度を考えよう、ということになったんですが、ここで気が付いたことがありました。働き方の変革を実現するためには、「制度」に加え、場所や時間にとらわれずに働くことができる「ツール」、企業の価値観としての「風土」。この3つをセットで考えないといけないということ(下記図参照)です。残業禁止、時短勤務…といった「制度」自体はすぐにつくれると思いますが、いくら制度だけ整備してもそれを受け入れる環境がなければ活用されないのです。例えば、時短制度を用意しても「申請できる雰囲気じゃない」、育児休暇制度を用意しても「利用したら昇級できない」…。こんな雰囲気では、せっかくの制度も活用されません。みんなの意識を変えていく必要があるわけですね。同様に、重要なのが「ツール」です。在宅勤務を推進しても、オフィスから離れて仕事をするとストレスや疎外感を感じてしまってはNGです。例えばテレビ会議システムやチャット機能が備わっている、出社したときには快適に過ごせるオフィスがある…など、制度と同時にツールを整えなければなりません。このような3要件をセットで考えていく必要があると思っています。
【セミナー資料】3つのポイント
その結果、働き方の多様化を実現するための制度が誕生しました。以下、一部をご紹介します。

働き方の選択

働き方を時間と場所の9分類から選択できる制度です。バーチャルオフィスを可能にするグループウェア同様、働き方も自由度を認めるべきという主旨になります。事情に関わらず、働き方をいつでも変更可能です。

ウルトラワーク

“働き方の選択”で宣言した働き方以外に、時間や場所の選択を一時的に変更することができる制度です。元々は台風や大雪など天候から考えられた制度ですが、今はフレキシブルな理由で活用されています。

最大6年間の育児・介護休暇

国が定めている育児休暇制度は最長1年半にとどまりますが、サイボウズでは子どもが小学校に就学するまでの最長6年間休業することができます。

退職しても再入社できる育自分休暇

退職しても6年の間であれば復帰できる制度です。環境を変えて成長したいという人に、退職後復帰しやすい環境を創ることを目的にしています。社外で新たな知見・ノウハウを得た社員がまた戻ることで、組織も強くなります。

複業(副業)の自由化

サイボウズでは、2012年に自己責任での複業(副業)を可能にしました。これは、自分らしい個性的なキャリアを積むことを目的に定めています。

このように多様な働き方を実現するにはどうしたらいいのか考え、多様な制度が誕生しました。「よく、そんなにたくさん制度をつくられますね」と言われることもありますが、制度は決して福利厚生ではありません。制度をつくると目的を忘れてしまいがちですが、あくまでも『チームワークあふれる社会/会社を創る』という目的を軸に、だったらこんな制度が必要だよね、と考えていった次第です。
結果、離職率は自然と下がっていき約4%までに改善。反比例して売上高は上昇していきました。また、出産した社員は100%復帰するなどよい成果も表れています。

【セミナー資料】離職率28%→4%

 

採用で何よりも大事なのは、「理想への共感」 -エコシステムという概念-

採用で何よりも大事なのは、「理想への共感」
次に、サイボウズの採用についてお話しします。採用でも大事にしているのは、『チームワークあふれる社会/会社を創る」という企業理念。いずれの施策を考える上でも、この企業理念は根底にあるわけです。理想(ビジョン)に共感すること、多様な個性を重視すること、これに向けて採用活動を行っています。一般的に、どのような組織を目指したいかという話をする場合、「▲▲年までに●●人目指そう」という考え方になりますよね。決して間違いではありませんが、サイボウズでは巨大な企業という考えは少し違うんです。組織内におさまる姿、ヒエラルキー型組織はサイボウズの目指す姿ではないので、社員数をとにかく増やすという考え方にならない。ビジョンを掲げて、それに共感してくれる人がたくさんいれば雇用形態・立場は関係ないのではないし、協力者を増やしていこうよという考えに至りました。このことを、サイボウズを中心としたエコシステム(※)と呼び、エコシステムを大きくしていくことが、採用活動と決めました。2017年度の人事部の採用・育成チームミッションも「人材のエコシステムの拡大と強化」に設定しています。

【セミナー資料】エコシステム
(※)エコシステムとは、複数の企業や人物、モノが有機的に結びつき、循環の中で広く共存共栄していく仕組みを指すマーケティング用語のこと。

 

採用を担当していて感じているのは、「会社と個人との間で様々な契約(約束)があったほうがよい」ということ。有期雇用・無期雇用、短時間勤務、在宅勤務中心、転勤なし、など。本来は様々な契約が可能です。しかし、多くの会社は総合職なら転勤はあるが一般職はないなど、枠を作ってそこに人をあてはめていきます。多様な働き方を推進している会社だからこそ、その人にあわせたオーダーメイドな採用をしていきたいんです。

人材サービス会社依存からの脱却

採用基準は明確で「共感」を見ています。「共感」というとあいまいな表現でさまざまにとらえられてしまいますが、あくまでも大事にしているのは企業理念に共感してくれるかどうか。仕事は一般的に“やるべきこと”と“できること”の掛け合わせだと思いますが、それだけではモチベーションは長続きしません。そこに、“その人のやりたいこと”を掛け合わせることで、より意欲高く活躍できるんじゃないかと思うのです。そのため、スキルだけを見るのではなく、サイボウズの目指す方向性に共感してくれるか、サイボウズでやりたいことは何か、に重きを置いてます。「共感のフィルタリング」ですね。

最初は、さまざまな人材紹介会社や求人広告(ナビサイト・転職サイト)に依頼し、母集団を集めようと努力していきました。人事部内で「目標採用数や合格率から逆算して、▲▲▲人を集める必要がある」などと数値設定をしていたんですね。そのために、説明会に大量誘導する、何十社もの紹介会社さんに依頼をする…など行っていました。しかし結局数だけ集めても「サイボウズへの共感」がないと、合格しないことが分かりました。となると、応募者や人材紹介会社はもちろんですが、人事・採用担当者や面接官の工数も無駄にかかってしまう。

そこで、量より質だと方向転換をしたのは2016年でした。新卒・中途に限らず、必ず「共感してくれているかどうか」の選考を行っています。新卒であれば、一括エントリーできない仕組みにし、サイボウズのサイトやニュースをしっかり見て感想と一緒にエントリーしてもらう。中途であれば、直接応募でも人材紹介でも、サイボウズへの志望動機ややりたいことを書いてもらうようにしています。人材紹介会社からはブーイングをいただいてますね(笑)。しかし、母集団をとにかく集めていたときと今とでは、内定者数は変わらなかったんです。むしろ、今まで書類選考に割いていた時間を、応募者との接点やフォロー、コミュニケ-ションにあてることができています。特殊なスキルを要する採用の場合は、人材サービス会社の協力が必要ですが、決してそれだけ依存することなく、サイボウズにどれだけ共感してもらえるかに注力しています。

採用も制度もまずはやってみる。ダメだったら戻せばいい

採用も制度もまずはやってみる。ダメだったら戻せばいい

サイボウズの「複業採用」はさまざまなメディアに取り上げていただきましたが、常に新しい採用企画は考えています。ただ特別なことはやっていません。既存にあるものを「なんで?」「なんで?」と疑問に持つようにし、すぐに「これってどう思う?」と社員を交えて議論していたからではないでしょうか。

例えば、「サイボウズはIT企業出身者が多い」ことに疑問を持つ。多様性を考えるのであればいろいろなキャリアがあっていいわけです。そこで生まれたのが「U-29(ユニーク)採用」でした。私自身ずっと“第二新卒”という言葉に違和感があったのですが、大学卒業後、海外でボランティアをしてから入社してきた社員と話をしていたとき、「大学卒業した瞬間から既卒となる。どこの会社も採用してくれない」と言っていたんです。多様な人材が欲しい当社ではもったいないなと。そこに目をつけた制度です。

また、働き方改革によって女性の応募が増えたんですが、そこで「キャリアブランクがある人たちは、どうしているんだろう」と疑問を持ったんです。調べてみると結婚、出産で一度仕事を離れてしまうと再就職に苦労している人が多いことが分かった。優秀な経歴の方も多く、とてももったいないと思って、「キャリアママインターン」をはじめてみました。ブランクがあって働くことに不安を感じている方にまずは1カ月働いてみませんか?という採用です。結果5人中4人が「サイボウズで働きたい」と言ってくれた。入社した方の中からForbes JAPAN WOMEN AWARDの【キャリアチェンジ】という部門で表彰いただく社員も出ました。

「サイボウズが目指す状態にするには何がベストだろう」を考えていく

「サイボウズだからできるんでしょ」と言われることもあります。実は採用活動も制度づくりも、すべて「まずはやってみる」んですね。在宅制度も最初は“仮”とつけていたぐらい(笑)。採用活動だって同じです。今では直接応募の割合が多くなっていますが、初めは自分たちのやり方もわからないし、何が正かもわからない。だから何事も思い切ってやってみればいいんです。やってみてダメだったら戻せばいいだけ。中途採用で志望動機を聞くようになったときもそうでした。人材紹介会社から反発はありましたし、即戦力が欲しいのに充足まで時間がかかるかもしれない。でも、「うまくいかなかったらすぐにやめよう」と決めてしまえば何の問題もありません。

スモールスタートでやってみると、「こんな風にしていこうよ」「実際、こんな方の応募があったよ」など、新たな議論が生まれるんですよ。多様性を重視すれば答えは1つとは限らない。だから、社員同士で積極的に意見を出し合い、「サイボウズが目指す状態にするには何がベストだろう」を考えていく。その結果、どんどん新しいアイデアが生まれ、どんどん採用施策も生まれていくんです。

【まとめ】

このような採用施策の効果もあり、サイボウズでは現在、中途採用の内定者は直接応募の割合が増加し、新卒採用もナビサイトからの採用数が0になったそうです。こう聞くと、「働き方改革を牽引するサイボウズだから、採用も不自由はないのではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、企業理念を叶えるためにという目的は一切ぶらさずに、現場に意見を聞きながらとにかく小さくてもやってみる。うまくいけば制度化すればいいし、失敗したらやめればいい。このような企業スタンスがあったからこその結果なのだと青野さんの講演を聞いて気づかされました。採用においても、自分たちだけで改革を進めるのではなく、協力者を増やしながら地道に行うことで成功につながるのではないでしょうか。

まとめ
※本セミナーでは、サイボウズ株式会社青野誠氏と、多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授の須東朋広氏、パーソルキャリア株式会社の油谷大希によるパネルディスカッションや来場者からの質疑応答も実施。大盛況のうちに幕を閉じました。

(文・編集/齋藤 裕美子、撮影/石山 慎治)