ミキハウス、オリエンタルランドが取り組む「ダイバーシティ×採用」最前線

三起商行株式会社

人事部 部長 藤原 裕史

プロフィール
株式会社オリエンタルランド

人事本部 人事部長 横山 政司

プロフィール
一般社団法人ALIVE

代表理事 庄司 弥寿彦

プロフィール

ビジネス環境の激変やグローバル化の進展、そして少子高齢化による労働力減少といった課題を背景に、ダイバーシティ(=多様な人材を積極的に活用する考え方)に対する企業の意識が高まっています。曖昧で複雑な世界の中で、変革を起こしていくためには、多様な人材・視点は欠かせません。しかしながら、具体的に何から手を付ければいいのか、どのように施策を推進すればいいのか、迷いを抱える企業は多いのではないでしょうか。

6月7日に開催されたセミナー『ミキハウス、オリエンタルランドが取り組む「ダイバーシティ×採用』最前線』では、一般社団法人ALIVE 代表理事 庄司弥寿彦氏がファシリテーターを務め、ダイバーシティの取り組みに積極的な三起商行株式会社(ミキハウス)人事部 部長 藤原裕史氏と、株式会社オリエンタルランド 人事部長 横山政司氏が登壇。両社のダイバーシティに対する考えや施策について掘り下げていただきました。さらに、「会場全体で一緒に考えていきたい」と庄司氏が呼び掛け、参加者の間でも活発な議論が繰り広げられました。その様子をレポートします。

(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を編集・要約した上で構成しています)

組織の中で、多様性をどのように受け入れ活かしていくのか(一般社団法人ALIVE 庄司氏)

同じモノを見ても、人によって多様な見方がある。自分とは異なる見え方を、理解できないこともありますし、マジョリティが常に正解とは限りません。こうしたモノの見え方が異なる人々がいる中で、どのように相互理解を進め、能力を活用していけばいいのでしょうか。

組織の中で、多様性をどのように受け入れ活かしていくのか

組織変革のためのダイバーシティ(OTD)研究会とは

私は、さまざまな業界・業種の次世代リーダーが集い、リアルな社会課題を解決する一般社団法人ALIVEの代表理事を務めています。その活動の中で、全盲の社会学者 東京大学准教授の星加良司氏のワークショップに参加しました。そこで、“マジョリティが生み出す無自覚の前提”に改めて気付き、衝撃を受けたのです。今年の5月、「一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD普及協会」という団体を立ち上げました。OTD普及協会では、組織の中でなかなか進み難かった「組織変革のためのダイバーシティ」を実現するために、大学の知見と企業のニーズをつなぎ、ダイバーシティのテーマを年間通じ研究しております。

今回は、そうした活動の中でご縁があり、ダイバーシティの取り組みに積極的なミキハウスの藤原氏、オリエンタルランドの横山氏に登壇していただきます。

「ありのまま」と「お互いさま」の考えで、互いを尊重し合う(ミキハウス 藤原氏)

「ありのまま」と「お互いさま」の考えで、互いを尊重し合う

ミキハウスグループは、「子どもと家族の毎日を笑顔でいっぱいに」をビジョンに掲げ、子供服の企画・製造・販売を中心とした事業を営んでいます。私たちはブランドイメージをつくるのは「顧客接点」だと考えており、全員の力を最大限に生かせるような店舗つくり、会社つくりを念頭に、人事部もさまざまな取り組みを開始しました。では、当社のダイバーシティの取り組みについて紹介していきます。

ミキハウスの経営戦略

ご存じのように、いま日本は少子高齢化が進み、子供服業界は非常に苦しい状況にあります。同じく、生産年齢人口も減少しており、労働力の確保も課題です。一方で世界に目を転じると、アジアをはじめ人口は右肩上がりに増加しており、2050年には90億人に達すると予測されているのです。

そこで私たちは、2つの戦略を立てています。1つ目は、「ベビーからのお客さまつくり」。一口に「子供服」といっても、実はベビー、キッズ、ジュニアで、まったく市場は異なります。当社はこれまで、キッズ(2~3歳)領域をメインターゲットとして成長を続けてきました。しかし人口減少となると、ベビーからジュニアまで、お客さまと長いお付き合いをすることが必要となります。2つ目は、「世界トップのベビー・子どもブランドを目指す」。実は当社では少子化に備え、1980年代から海外戦略を進めてきました。2014年から徐々にインバウンド需要が増加し、2019年の現在では日本国内での売上の4割近くが海外のお客さまで占められています。

これら2つの戦略を実行するためには、「女性活躍」「外国籍メンバーとの協業」など、ダイバーシティの取り組みは必要不可欠です。

「女性の活躍支援」についての具体的な取り組み

「ベビーからのお客さまつくり」のために、当社では2014年から子育て経験者の積極的な活用と雇用を推進しています。2017年には子育てをしながら働く女性社員の数は1.5倍にまで増加しました。具体的な施策は以下の5点です。

「ありのママ」採用 ライフステージや家族の状況の変化に合わせて、柔軟に多様な働き方を選択可能。雇用形態や働き方が変わったとしても、一貫したキャリアを築けるように統一した人事制度を設けています。
MHリンク 退職した方の再雇用の仕組みです。退職後も末長くミキハウスを愛し、お互いを応援し合えることを目的にスタート。約1300名が登録しており、年間1割程度が復帰しています。
ママ&ジョブミーティング 産休・育休を取得した従業員がスムーズに仕事に復帰できるよう、育休中のスタッフと、既に育休から復帰している先輩ママスタッフが、情報交換を行う場。先輩ママがアドバイスを行うことはもちろん、育休中のママからも最新の子育て事情をヒアリングし、新商品の開発にもつなげています。
認定子育てキャリアアドバイザー 子育て経験を重要なキャリアと考え設置したのが、マタニティ&ベビーの接客スペシャリストに付与される社内資格「認定子育てキャリアアドバイザー」。この資格を設けた後、ベビー領域の売上が1.5倍に増加しました。
プレママ・プレパパセミナー
(ご出産準備相談会)
これからパパ・ママになる皆さんに、出産準備や赤ちゃんのお世話について学びの場を全国で開催しています。子育て中のスタッフからの提案で、スタートした取り組みです。

「ありのまま」を尊重し、「お互いさま」の考え方で助け合う

「ありのまま」を尊重し、「お互いさま」の考え方で助け合う

女性活躍の部分で我々がキーワードとしているのが、「ありのまま」と「お互いさま」です。家庭によって、子育ての状況や考え方は異なります。そういった「ありのまま」をできる限り尊重し、個々の考えを大事にしながら、仕事と子育ての両立を支援することを大事にしています。育休から復帰したスタッフの多くが感じるのが、「子どもの病気で突然休んだりして、迷惑をかけるのではないか」という不安です。そこは「お互いさま」の考え方で、柔軟に助け合えるような環境整備を心掛けております。こうして、「ありのまま」と「お互いさま」を大事にしながら、互いにリスペクトし合う。それが、ダイバーシティを機能させ、業績向上にもつながっていると考えています。

外国籍メンバーとのチームワーク促進のための施策

次に「世界トップのベビー・子どもブランドを目指す」戦略ですが、これを実現するには外国籍スタッフの存在が不可欠です。なお、今年の新入社員は40名ほどですが、その約半数が外国籍メンバーです。そこで、外国籍メンバーともチームワーク良く仕事を進める取り組みをご紹介します。

お客さまの求めることをカタチに 外国のお客様が多く来店される店舗に外国籍スタッフを配置。母国の事情に合わせた子育てアイテムの提案ができる体制つくりを行っています。
納得感のある人事制度 外国籍スタッフが活躍に見合う評価と処遇を得られるような人事制度を設計。日本人スタッフとの不公平が発生しないように考慮し、「語学スキル」×「販売スキル」で時給が決まる仕組みです。
クロスカルチャーコーディネーター 店舗における異文化ギャップは、日本人スタッフと外国籍スタッフ、そして外国籍スタッフ同士、さらにはお客様との間にも発生します。そこで各店舗に「クロスカルチャーコーディネーター」という役割を設け、「外国籍メンバーに対する指導・育成」「既存店舗スタッフへの受け入れ啓蒙」を実施しています。
研修での相互理解「絆」つくり スタッフ同士が相互理解できるように、同じ目標に向けて取り組むチームワーク体験研修を実施。例えば、新入社員研修はみんなでカッターボートでレースを行うなど、さまざまな経験学習を行っています。
賢島 商品情報交換会 三重県の賢島にある当社の研修センターで、外国籍スタッフの声をものつくりに反映する商品検討会を、年2回行っています。母国のお客さまの声を届ける機会は、外国籍スタッフにとって大きな「働きがい」となっています。

外国籍スタッフとのチームワーク促進においては、「相手」を理解し、「良さ」を認め、発揮できる仕組みをつくることがポイントです。異文化ギャップの理解こそ、外国人スタッフの定着につながると考えております。

外国籍チームワーク促進

(三起商行株式会社 投影資料より)

ここでも女性活用と同じように、「ありのまま」を理解し「お互いさま」の気持ちで、「良さ」をリスペクトすることが、より素早くお客様に良い商品やサービスをお届けすることにつながると考えています。

「足りない」を意識するだけではなく、「できる」を探す

これまでお話しした、ダイバーシティ推進のポイントをまとめると、次の3点となります。

・「マイノリティ」を組織の中に積極的に招き入れて、革新を生む
・「持てる能力」や「良さ」を最大限に発揮できるよう、「制度」面のフォローをする
・「相互理解」と「リスペクト」を大事にできる「風土の醸成」を粘り強く進めていく

「風土の醸成」について一言だけ加えさせていただくと、弊社では創業以来「マイナースポーツの応援」に力を入れてきました。世界レベルの実力を持っていても、資金面の事情から諦めざるを得ない選手がたくさんいます。マイナー競技の選手を応援することで、皆が一つになる、競技がメジャーに育つ。そのような風土がダイバーシティの推進を下支えしていることも、弊社の特徴かと思います。

ダイバーシティについて考える時、「うちの会社はここが足りない」と、欠点を探しがちですが、「できていること」を探すことも大切だと思います。そこで見つけた強みを生かして、人事・採用戦略につなげていけるといいのではないでしょうか。

異なる価値観を取り入れ、新しい「色」を生み出す(オリエンタルランド 横山氏)

異なる価値観を取り入れ、新しい「色」を生み出す(オリエンタルランド 横山氏)

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドでは、社員・アルバイト・パートを含め2万5000人が働いています。2018年度の連結売上高は5256億円。そのうち83.2%がテーマパーク事業。13.8%がホテル事業、残りがその他の事業となっています。正直なところ、当社は先進的なダイバーシティの取り組みができているとは言えず、現在模索している段階です。そこで本日は、ダイバーシティ推進における気付きをお伝えできればと思っております。

オリエンタルランドが100人の村だったら

従業員の構成としては、まず2つのパークで働いているパート・アルバイトスタッフが約2万人。ショーの出演者が約1000人。そして社員が約3400人となっています。私たちの事業運営において、パート・アルバイトスタッフ、出演者がなくては成り立ちません。こうした従業員の構成も、私たちにとって「ダイバーシティである」と言えるでしょう。

次に、オリエンタルランドの社員が100人の村だったらと仮定し、3400名の社員がそれぞれどんな役割を担っているかを紹介します。パークのオペレーションに関わる社員が35人。企画・サポートを担う社員が31人。アトラクションのメンテナンスや施設の開発設計などを行う技術者が12人。ステージマネージャーというショーの公演責任者が5人。調理を担当するシェフが5人。そのほか、コスチュームや商品のデザインなどを行う専門性の高い社員が5人。そして管理職が7人といった構成です。1つのパーク運営においても、実に多種多様な職種、雇用形態のスタッフたちが存在しています。当社では、このような職種や雇用形態をダイバーシティと捉え、お互いを尊重し、関わり合いながらサービスの提供をしているのです。

ひとつの会社に、さまざまなビジネスが同居。テーマパーク業界ならではの多様性

(株式会社オリエンタルランド 投影資料より)

テーマパーク業界特有の面白みとして、さまざまな業界の集合体であることが挙げられます。ひとつの会社の中に、エンターテイメント、広告・イベント、旅行、不動産、小売、農業など、まるで1つの街を構成するようにさまざまなビジネスが同居しているのです。当社には、「商品本部」「フード本部」「運営本部」「エンターテイメント本部」という4つの部門がありますが、別会社と言っても過言ではないぐらいまったく違う事業を運営しているんですね。ビジネスの多様性があるだけではなく、これら一つひとつの規模が大きいこともオリエンタルランドの特徴です。たとえば、お土産を企画販売する「商品本部」の場合、昨年度の売上は1500億円です。そして、食事を提供する「フード本部」の売上は、750億円ほどでした。これは上場する外食企業の売上高ランキングに当てはめると、トップ20以内。全国展開する大手外食チェーンと肩を並べる規模ということです。

東京ディズニーリゾートのライセンサーであるディズニー社からは、非常にレベルの高い事業提案があります。カルチャーが異なるパートナーと共創することで、クオリティの高い企画が生まれていることも当社の強みだと考えております。

クオリティの高い企画

同じ価値観を持つことの課題。変化の激しい時代こそ、違う「色」を混ぜて創造する

「チームワークが良い」「同じ価値観を持つ人が集まっている」、こちらは当社がよくいただく評価です。ただ、チームワークいが良いということは、一方で、チームの中ばかりを見て内向きになってしまいます。そして価値観が共通化されていると、みんな同じような「色」に染まっていきます。安定したビジネス環境が続くのであれば、当社もこのまま変わらなくてもいいでしょう。しかし、今はビジネス環境の変化が激しい時代です。現に、人口減少は日本の大きな社会課題です。そして、当社は舞浜にしか拠点がありません。これも大きなリスクです。このまま明るい未来が描けるかというと難しいでしょう。そういった強い危機感を抱いています。

では、何をすべきか。それは、多様な価値観を取り込んでいくことです。たとえば、「青」と「青」を混ぜても、色は「青」のまま。これでは、従来と同じものしか生まれません。一方、「青」と「赤」を混ぜると、「紫」という新しい色ができます。違う色と混ざっていかなければ、これまでと違うものは生まれません。

違う「色」を混ぜる

(株式会社オリエンタルランド 投影資料より)

違う色と混ざり合うということには、「個人」と「個人」だけではなく、社内の「組織」と「組織」、そして「社内」と「社外」といった観点があります。先ほどお話ししたように、当社はさまざまな業界の集合体です。やっていることも全く異なるため、別会社と言ってもよいぐらいですが、それゆえに、いわゆる「セクショナリズム」もあります。しかし、組織と組織が互いの知見を掛け合わせて、これまでにない新たなサービスや商品を生み出すことも必要です。また、社内で何でもそろうからといって全部自前で行うのではなく、社外とのコラボレーションも進めていくことも考えていかねばなりません。

このように、積極的に違う「色」と混ざり合うことを、今後意識的に進めていかねばならない状況です。近年当社では、中途採用の人数を増やし、異なる「色」を持つ人材を積極的に取り込むようにしています。また、異業種と共同で取り組む研修やベンチャー企業への出向などのプログラムを組み込んでいます。このほかにも、ジョブローテーションのように定期的に異動させることで、各本部の良いところを別の本部で活かしてもらったり、異動者だからこそ気づける課題を指摘・改善したり…。各本部の良いところを混ぜ合わせるように、異なる価値観に触れて刺激を受ける機会を、今後はさらに増やしていきたいと考えています。

【まとめ】

ダイバーシティというのは、単に多様な人材がその組織に所属しているという状態ではなく、異なる者同士が互いの違いを“知る”こと、そして“混ざり合う”ことから進んでいくのだと感じました。そのために、ミキハウスは「ママ&ジョブミーティング」や「クロスカルチャーコーディネーター」を設置し、オリエンタルランドは「異なる色と混ざり合おう」というメッセージを発信しています。しかしながら、これらをそのまま取り入れることは早計です。まずは自社の置かれている状況や経営戦略を踏まえ、その上で社内にどのような人材がいて、彼らがどうすれば能力を発揮できるのかを知ること。それが、ダイバーシティ推進の第一歩なのでしょう。

まとめ

(取材・文/佐藤 瑞恵、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)