LINEがリファラル採用の徹底を発表。社員自らが「自分たちのチーム」を作る意義

LINE株式会社

Employee Success室 副室長 青田 努

プロフィール
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Developer Relations室 Developer Successチーム マネージャー 兼 エンジニア採用チーム マネージャー 藤原 聖

プロフィール

国内で圧倒的なユーザー数と利用率を誇るコミュニケーションアプリ「LINE」を軸に、幅広いサービスを展開しているLINE株式会社が、今年7月1日、LINEグループ各社においてリファラル採用を徹底推進していくと発表しました。

東証一部に加え、ニューヨーク証券取引所にも上場する国内有数のテック企業に成長し、新しいサービスをリリースすれば常に多くの人々の注目を集める存在となったLINEが、このタイミングでリファラル採用を強化する理由とは?

今回は同社のEmployee Success室 副室長である青田氏、Developer Successチームとエンジニア採用チームのマネージャーを兼任する藤原氏に、リファラル採用強化の狙いや背景、リファラル採用を推進するための新たな組織体制などについて詳しく伺いました。

LINEは「最高を目指す、少数精鋭のチーム」であり続けなければならない

7月1日、LINEグループ各社でリファラル採用(リファラルリクルーティング)を徹底推進していくという発表がありましたが、その背景について教えていただけますか?

LINEは「最高を目指す、少数精鋭のチーム」であり続けなければならない

青田氏:当社には、LINEらしいやり方、考え方をまとめた「LINE STYLE」という全11項目の行動指針があります。そのうちの一つに「Build Lean and Exceptional Teams -最高を目指す、少数精鋭のチーム-」というものがありますが、今回の方針はそうしたチームであり続けるためにリファラル採用を中心としたダイレクト型の採用を推進していこうという考えが根底にあります。

当社は従業員数も売上規模も伸びていますが、チームや人員が2倍になったからといって、売上も2倍に成長するわけではありません。それに規模が大きくなったことによって、かえってスピードが遅くなっているという側面もあります。そうした現状を踏まえ、やはり今後も「最高を目指す、少数精鋭のチーム」であり続けなければならない。また、会社がどれだけ大きくなったとしても、100のスタートアップが切磋琢磨しているような場として機能することで、LINE本来の強みを持ち続けていかなければならないと考えています。

これまでは人材紹介経由の採用が多かったということですが、これらをリファラル、ダイレクトに切り替えることで、採用担当者や現場の方々の負担も増えるのではないかと思います。それでも進めていく価値があるということでしょうか?

青田氏:もちろん採用する側もされる側も、以前よりパワーはかかると思います。しかし、これから自分たちと一緒に未来をつくっていく仲間を自分たちの力で集め、迎え入れていくことが重要だと考えています。パワーがかかる分だけ、入社した方の会社やチームへのロイヤリティも向上するでしょうし、リファラルやダイレクトで採用を行うことは、会社や仕事の魅力について「自分たち自身で」語っていく必要があります。その結果、社員一人ひとりが自分たちの会社の価値、仕事の価値を見つめ直すきっかけにもなると期待しています。

既存社員の方々の意識を変えていく効果もあるということですね。

青田氏:そうですね。「自分たちの会社の魅力」「自分たちの仕事の価値」については今まで以上に意識することになると思います。採用時の応募ルートごとで定着率や入社後の評価に大きな差はないのですが、採用効率ということで言えば、リファラルの場合、エントリーから入社までの割合が人材紹介経由のケースと比べて10倍以上高いという結果が出ています。採用過程におけるマッチング度合いは高いと実感しています。

同時に、人材紹介にかかっていたコストを自社の社員に還元していきたいという思いもありますが、あくまでも効率やコストは副次的なものに過ぎません。何より重要なのは、未来をつくる仲間を自分たちの手で集めることで、「最高を目指す、少数精鋭のチーム」をつくることにあると考えています。

「リクルーターサクセス」というミッションを掲げた新組織を設立

リファラル採用を推進していくということで、採用における人事部門と現場部門の関わり方が大きく変わると思うのですが、双方のコミュニケーションや体制などは、どのように変わっていくのでしょうか。

「リクルーターサクセス」というミッションを掲げた新組織を設立

青田氏:すでに部門やカンパニーによっては、人事部門とともに採用TF(タスクフォース)を作っています。リファラルということで部門が主体となって採用を進めていく必要はありますが、部門の人たちは必ずしも採用活動に慣れているわけではありません。まずは人事と一緒にTFを組成し、各部門や仕事個別の魅力を掘り下げ、誰がどのような役割を果たすことで採用成果が上がりやすくなるか、採用のためにどのようなメッセージを発信し、どのような出会いの機会をつくるべきか、といった施策を共に考えています。さらに人事側からは他部門での成功事例や採用ノウハウを伝えることにも注力しています。こうしたナレッジの横展開なども含めて、人事と現場が一緒になって採用を進めていく価値はあると思っています。

藤原さんは7月のタイミングでDeveloper Relations室Developer Successチームのマネージャーとなり、さらには人事部門側のエンジニア中途採用チームのマネージャーの兼務もスタートされたということですが、全社的にリファラルを推進していく中で、どのような役割を担っているのですか?

藤原氏:もともとDeveloper RelationsはTechPR(技術広報)やエンジニア向けの採用ブランディングを行ってきた部門です。今回の全社的なリファラル、ダイレクト採用強化の取り組みが始まる以前から、開発組織側と一緒にエンジニア採用のためのイベント開催などに関わっていました。当社に限らない話ですが、エンジニアに関してはかなり前から売り手市場が続いていたこともあり、リファラルやダイレクトが積極的に進められてきた。つまり、他の職種領域に比べて先行的な事例を経験しています。そうした事例やノウハウを、エンジニア採用チームや中途採用チームに共有し、両採用チームが各部門やカンパニーとともに採用を進めていけるような環境を作っていく予定です。
(参照:『【LINE】カンパニー制導入および役員人事による新執行体制のお知らせ』)

世の中の多くの企業がエンジニア採用に課題を抱えています。その中で、「LINE」と言えば、黙っていても人が集まりそうですが。

エンジニア採用に課題

藤原氏:確かにサービスの知名度が高いので、そうした面もないことはないですね。しかし、優秀なエンジニアはなかなか転職市場に現れませんし、やはり、自分たちが「一緒に働きたい」という人に来ていただくためには自分たちから動く必要があると思うんです。「自分たちは将来こういうビジネスやサービスをしたい、そのためにはこんな人材が必要だ」ということを、私たちの行動指針である「LINE STYLE」を元に丁寧に伝えていく。そして、さまざまな情報をオープンにした上で、「これって私のことだ!」と思っていただける方に来てほしいと思っていますし、そのためにはリファラルのような採用手法が有効だと考えています。

自分たちが「一緒に働きたい」という人に集まってもらうためには、攻めの採用をする必要があるということですね。

藤原氏:特にエンジニアに関しては、転職希望者として市場に顕在化する前に次の会社に移っていることが多くなっています。リファラルなどを活用し、転職顕在層に加えて転職潜在層にもアプローチしていくことで、よりLINEにフィットする人や、自分たちが「一緒に働きたい」と思える人を採用できる確率も上がると考えています。

7月1日の時点で、青田さんは「LINE HR BROG」の中に「Build Lean and Exceptional Teamsを追求」するための組織概念図を掲載されています。そこには先ほど青田さんが話された部署ごとのTFや、藤原さんが兼務されているエンジニア中途採用チームも記載されているほか、採用チームそのものをサポートする「リクルーティング・イネーブルメントチーム」という組織が記載されていました。この「リクルーティング・イネーブルメントチーム」の役割、設立背景について教えていただけますか?

青田氏:今後、リファラルの徹底推進、スカウトやイベントも含めたダイレクトリクルーティング(ダイレクト・ソーシング)に注力することで、中途採用チームやエンジニア中途採用チームにいるリクルーターたちの役割も変わってきます。各部門に対する提案力や、現場部門と協業して成果を上げていくための能力は今まで以上に求められるでしょう。こうしたリクルーター個々人の成長をサポートすることを目的に、「リクルーターサクセス」というミッションを掲げて誕生したのがリクルーティング・イネーブルメントチーム(図下参照)です。

リクルーティング・イネーブルメントチー

(LINE社 提供資料より)
リファラル採用を成功させていくためにはリクルーター自身が成長しなければならない。その成長を支援するための新組織なのですね。

青田氏:リクルーターは、日々の業務を通して成長できる部分ももちろん大きいとは思いますが、それだけではバランスの良いスキルセットが磨かれるとは限りません。リクルーティング・イネーブルメントチームの設置によって、リクルーター個々人の育成課題を特定し、一人ひとりに合ったサポートができる体制を整えていきたいと考えています。さらにはサポートツールの提供、共通機能の集約や強化なども含めて、リクルーターが成果を出しやすい環境を作っていくことが、リクルーティング・イネーブルメントチームの重要な役割となります。

リクルーター自身が成長

社内におけるリファラルのエクスペリエンスを高め続けていく

7月1日からリファラル採用の強化をスタートされていますが、社内の反応はいかがですか?

社内におけるリファラルのエクスペリエンスを高め続けていく

青田氏:役員が率先して社外に発信してくれていますし、それに合わせて多くの社員もSNSなどで拡散してくれています。また、リファラルや採用広報に関するノウハウの共有会を何回か開催したところ、リモート参加も含めて累計500名以上の社員が参加してくれました。このように社員一人ひとりが今まで以上に採用に関心を持ち、当事者意識を持って会社の魅力やチームの魅力をアピールするという変化が起こり始めています。そうした文化はLINEの中にもともと存在していたものではありますが、より一層強化されていることを実感しています。

積極的に動いてくれる方が多いようですね。社員が友人・知人を紹介しやすくなるような制度の新設、改定なども行っているのでしょうか。

青田氏:7月1日からリファラル制度をアップデートしていますが、リファラル手当額の向上よりも「紹介のしやすさ」を向上させるような施策が多いですね。たとえば紹介した社員へのリファラル手当だけでなく、紹介で入社された方に対して30万円の入社祝い金を支給するようになりました。あくまで副次的なものではありますが、友人・知人側にもメリットがあるので紹介しやすくはなりますよね。また、友人・知人に会うための会食費は以前から支給していたのですが、一人当たり7000円に増額しています。これはただ単純に価格を上げたのではなく、真剣なキャリアの話を深めていくために都心部でも個室があるようなお店を予約できるよう設定した金額です。それと併せて、細かい話ではありますが、会食に便利なお店のリストを社内Wikiにアップしており、完全個室なのか簾で仕切られているだけなのか、そんなミニ情報もコメント欄に記載されています。

藤原氏:社内Wikiを見れば、紹介の手順からお店情報まで載っている状態です。忙しくても社員に負担にならないよう徹底していますね。

そうした制度・仕組みは絶対に必要ですよね。痒いところに手が届くというか。

青田氏:あとはリファラルというと、自分が所属している部署やチームのポジションは紹介しやすい。しかし、それ以外の部門やカンパニーが「どんな人を求めているのか」は、見えにくいですよね。そこで各部門、各カンパニーのポジションに関する情報を社内に公開しています。「このポジションについて知りたい場合は、この人に聞けばわかります」という情報のほか、Slackでリファラルを始めとして採用に特化したチャンネルも作っているので、「こういう友人がいるのですが、見込みありますかね?」といった相談もしやすい環境が整っています。リファラルで友人・知人を紹介して不合格になったら気まずいですよね? そんな状況を可能な限り未然に防ぎたいと思っていますし、そうしたことも含めてリファラルのエクスペリエンスを高めていく必要がある。相談しやすい距離にいることが重要だと思っています。

リファラルというとエンジニアがエンジニアを紹介し、営業は営業の人を、広報担当者は広報の人を…というのが一般的ですが、そうした仕組みがあることで自分が知見を持っていないポジションであっても友人・知人を紹介できるチャンスが広がりますね。藤原さんにもお聞きしたいと思いますが、そうしたリファラル促進の取り組みの中で、エンジニア領域に特化したものはありますか?

藤原氏:エンジニア採用チーム側で特に意識しているのは情報公開ですね。そもそもの世の中一般のエンジニアの文化として、「できるだけオープンにしていこう」という考え方があります。当然、情報の精査は必要になりますが、公開できる情報を可能な限りオープンにすることで、社内のエンジニアに安心感を持ってリファラルを進めてもらうことが重要だと考えています。たとえば他部署の成功事例やノウハウの共有については、「面接はこうした方がいいですよ」といった細かいものも含めて積極的に行っていくつもりです。また、エンジニアということでツールを使いこなすスキルも高いですから、さまざまなツールを活用しながら、より効果的かつ効率的な採用手法を現場部門と一緒になって考えているところです。

公開できる情報を可能な限りオープン

人事側と部門側が協力して採用に注力できる体制が構築されたほか、リクルーターの成長を支援する組織も立ち上がり、さらにはリファラル制度そのものもアップデートされています。7月1日から1カ月経っていないので成果が表れるのはこれからだと思いますが、現時点で見え始めている成果などがありましたら教えてください。

青田氏:7月23日時点での数字になりますが、以前に比べて社員からの紹介が3倍以上に増えています。

早速、目に見える成果が出ていますね。

青田氏:部門やカンパニーごとの取り組みも進んでいます。あるカンパニーでは社員50人中、26人がリファラルや社内異動で集まったメンバーで構成されています。まず、カンパニーを統べる事業部のトップが「採用にコミットしていく」と大々的に宣言していることが何よりも大きいと思います。さらには毎週の定例会で募集中のポジションを発表してアピールしたり、自分たちの組織や仕事の魅力を掘り下げたり、リファラルの候補者と会食する際に行けそうなメンバーはできるだけ合流するなど、さまざまな細かな取り組みを積み重ねることで効果を上げているようです。

藤原氏:私たちとしても、このような形で上手く行っている部門やカンパニーの事例をしっかり収集して体系化することで、他の部門に展開していこうと考えています。

最後になりますが、今回の記事を読んでいる経営者の方々、人事採用担当者の方々へのメッセージなどがありましたらお願いします。

青田氏:1カ月未満で社員からの紹介が3倍に増えたと言いましたが、全社員の比率からすればまだまだ増やせる余地があると考えています。そのためにも今後、社員に対しては「友人・知人を紹介してよかった」と感じてもらえるようなエクスペリエンスを高めるための施策を推進していきます。また、LINEにフィットする人が、ふと自分のキャリアについて思いを巡らせたとき、LINEの社員に気軽に連絡してほしいし、そんな環境が作れたらいいなと考えています。

藤原氏:これまで話してきたように、私たちはリファラル、ダイレクトを促進するために7月から大きく体制を変えてスタートしています。リクルーターの役割も大きく変わりつつあるので、まだまだ手探りで進んでいる状況ですが、そうした状況を楽しめる方には、ぜひLINEにジョインいただきたいと思っています。「リファラルするなら、まず人事からリファラルしろよ」という話にもなりますからね(笑)。だから青田さんは自ら相当リファラルを頑張っているんですよ。

青田氏:もう生活すべてが採用。そんな状況です(笑)。

すべてが採用

【取材後記】

LINEがリファラル採用強化に踏み切った理由は、これからも「Build Lean and Exceptional Teams -最高を目指す、少数精鋭のチーム-」を目指し続けるため。採用自体に多少パワーがかかったとしても、LINE本来のカルチャーを大事にしながら成長を続けていくためには、社員たち自らの手で自分たちのチームを作り、自分たちの手で仲間を集めていくことが何よりも大切であるということが、今回のインタビューを通じて非常によく理解できました。

また、リファラルを現場の部門に任せきりにするのではなく、人事組織自体を人事と現場社員が互いに協力しながら採用を進められるような組織に変革しています。さらにはリクルーターの成長をサポートする組織も立ち上げるなど、LINEが社を挙げて本気でリファラルにコミットしようとする姿勢や覚悟も十分にうかがえました。

LINEが「最高を目指す、少数精鋭のチーム」である限り、これからも私たちの生活をより豊かで楽しいものにしてくれることは間違いなさそうです。

(取材・文/佐藤 直巳、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)