台湾の成功事例から読み解く。アフターコロナ時代のDX戦略とは【セミナーレポート】

株式会社エクサウィザーズ

執行役員 大植 択真(おおうえ たくま)

プロフィール

新型コロナウイルスのまん延による外出自粛要請などで、企業のオンライン会議システムの利用が当たり前になり、これまでなかなか進められなかった企業や社会のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が重要な課題になってきています。新型コロナウイルスへの対応で社会はどのような体質変化が求められるのでしょう。またアフターコロナ(コロナ後)の社会はどうなるのでしょうか。そして日本企業は今、何を行うべきなのでしょうか。

AI(人工知能)やDXで社会問題の解決を目指すAIベンチャー「エクサウィザーズ」は、顧客を中心に作り上げている『エクサコミュニティ』向けに、「アフターコロナ時代のDX」と題してオンラインセミナーを開催。400人近くが参加し、AI導入やDX推進をする企業担当者による活発な意見交換がオンラインチャット上で行われました。

有事の際のリーダーシップ、台湾の成功事例から学ぶべきこと

新型コロナウイルスまん延の状況下、各国では感染収束に向けてさまざまな取り組みが行われています。中でも台湾は初動の早さだけでなく、徹底した取り組みによって早期に感染拡大阻止に成功しており、この成功事例から学ぶべき点は多くあります。背景として、台湾ではこれまで政府内のDX改革を強く進めていたこともあり今回の新型コロナウイルスとの闘いでも大きな力を発揮したと見ています。

有事の際のリーダーシップ、台湾の成功事例から学ぶべきこと1※当日の資料より抜粋

前提として台湾はSARS対応を経験した閣僚が多数在籍しており、有事の際のリーダーシップと感染対策に関わる法整備は実施済でした。

加えて台湾政府は新たなデジタル技術を活用するために、実力重視の思い切った抜擢人事を実施していました。2016年10月、プログラマーで当時35歳の唐鳳(オードリー・タン)氏をデジタル担当の無任所大臣(政務委員)に史上最年少で登用したのです。台湾政府のCDO(DX総責任者)です。

台湾では、DXを特定の省庁が担当するのではなく、すべての省庁から集まった70人のイノベーション担当が出向し、唐鳳氏はそれらを横串にして束ねる部門横断型で変革推進を進める役割を担っています。このようにDXを効果的に進める際には、中心に梅干しがあるおにぎり型ではなく、レーズンがあちらこちらに散らばるレーズンパン型が好ましいのです。会社の中心にひとり責任者が座っても組織は変わりません。本部に統括責任者がいて、各部にもDXを進める責任者がいる必要があるのです。DXの組織が企業全体の一部という位置づけではなく、さまざまな主管部門にてDXを推進する責任者が配属されている、このような状況が理想的であると考えます。

そして唐鳳氏は、並行してオープン・イノベーション施策を行っています。省庁内部の職員だけでなく、専門能力をもつ市民の力を広く活用しているのです。唐鳳氏はもともとソフトウェア開発などのコミュニティの中核メンバーでしたので、スピーディに連携を行えたと言えるでしょう。

また今回の政府対応における市民満足度は80%を超えていました。台湾では「v台湾(vTaiwan)」というプラットフォームを通じて、市民が立法プロセスに参加する仕組みを既に導入済みです。デジタルの活用で広く市民からも知恵を集める試みが進んでいたわけです。

今回の新型コロナウイルス対策においても、政府がマスクの在庫データを公開すると、技術者たちは迅速にマスクを配布するためのアプリを作り上げました。それもほんの数日のうちにでき上がったのです。
デジタルの活用で広く知恵を集めると同時に市民の声を聞き入れる体制づくりが進んでいたことで高い満足度を得られたのです。

有事の際のリーダーシップ、台湾の成功事例から学ぶべきこと2※当日の資料より抜粋

DXの成熟度が、組織のレジリエンス(回復力・復元力・弾力性)を高めますし、DXを進めれば、変化に強い体質を作り上げることができるのです。これは、自前主義や従来のやり方の延長では進みません。外部からいきなりCDOに唐鳳氏を抜擢したように、思い切った決断が不可欠でしょう。

有事の際のリーダーシップ、台湾の成功事例から学ぶべきこと3※当日の資料より抜粋

当社においても、台湾の事例のように迅速な対応としまして新型コロナウイルス関連の情報を共有する、FAQ検索エンジン「Qontextual」を鎌倉市へ無償提供をさせていただきました。

有事の際のリーダーシップ、台湾の成功事例から学ぶべきこと4※当日の資料より抜粋

withコロナで起こり始めた複雑な変化。加速するDXへの対応が求められる

今後、新型コロナウイルスのまん延が終息するまでの「withコロナ」の間は経済の縮小が続きますが、終息後は一部リバウンドの需要を経てこれまでとは違う長期的な新たな均衡が生まれる不可逆な変化が起こると予想されます。

withコロナで起こり始めた複雑な変化。加速するDXへの対応が求められる1※当日の資料より抜粋

現在、国内でもリモートワークやテレカンファレンスが強制的に広がりつつあります。

一方で、米国企業のCFO(最高財務責任者)の5人に1人は、新型コロナウイルス終息後も社員の一部をリモートワークさせると答えています。つまり、新型コロナウイルス対策で進むリモート化やDX化は、新型コロナウイルスが終息したからといって元に戻るのではなく、アフターコロナの時代には定着していくことが予想されます。

リモートワークが進んでオンライン会議が増えると、リアル対面で行ってきた会議は不要であることに多くの人が気付くでしょう。新たな気付きによって、オンライン会議を行う上でのミーティングスキルや、リモートワーク対応でのメンタルタフネスの向上などが今後の課題となってくるのです。

さらに今後の変化は技術変革が進むだけでなく、組織も変われば、人や社会課題も変わっていきます。「会議がリモートになる」というだけではなく、人のスキルや考え方、働き方までを変える必要が出てくるでしょう。

withコロナで起こり始めた複雑な変化。加速するDXへの対応が求められる2※当日の資料より抜粋

また「withコロナ」の間は経済の縮小が続くと説明しましたが、当然、コロナ時代にも新規事業や、伸びる事業は出てくることでしょう。中国でのアンケートによると、アフターコロナの変化として、「自宅での食事が増える」「生鮮品のオンライン購入が増える」「食品の安全性に注意を払う」と答えた人が大幅に増えているという結果が出ています。

そうなると企業は、オンラインチャネルの強化や宅配サービスの強化、サプライチェーンの見直しなどを迫られることは明白でしょう。

私の見方では、まず、フィジカル(身体的)な遠近とソーシャル(社会的)な遠近を4象限に分けて考えます。昭和の時代には両方とも距離が近かったものが、平成時代にはフィジカルには近いがソーシャルには距離を置くように変化しそれが今回のコロナ禍では、両方とも遠くなったのです。

withコロナで起こり始めた複雑な変化。加速するDXへの対応が求められる3※当日の資料より抜粋

ではコロナ収束後、再び平成や昭和の時代のような距離感に戻るかというと、私は戻らないと考えます。ソーシャルには距離が近づいてもフィジカルには距離が離れたままではないでしょうか。つまり、人々の行動はこれまでとは大きく複雑に変化してしまうのです。この不可逆で複雑な変化による影響に対して、今後慎重な読み解きが必要になって来るでしょう。

withコロナで起こり始めた複雑な変化。加速するDXへの対応が求められる4※当日の資料より抜粋

アフターコロナを見据え、日本企業が今考えるべきDX戦略

では、今、日本企業は何を考え行動するべきでしょうか。

今後起きる変化は不可逆的なものであるという前提のもと、今のうちに新型コロナウイルスにより加速されたDXの波に備えて戦略を練る必要があります。今、どんなDX戦略を推進していくかによってアフターコロナ時代へと転換期を迎えた時、一気に優勝劣敗が鮮明になることが予想されます。これまでの経営戦略は機能しなくなり、抜本的に考え方をあらためる機会が訪れて来ているのです。

DXも、従来は効率化を進めるために行うという企業が多かったのですが、これからはDXによって会社のあり方、仕事のあり方を抜本的に見直すことが重要になることでしょう。

アフターコロナを見据え、日本企業が今考えるべきDX戦略※当日の資料より抜粋

【編集後記】

新型コロナウイルスの影響により大きく社会が変わろうとしている中で、企業や社会のDXを推進し、変化に強い組織と柔軟なシステムを手に入れることが重要だと大植択真氏は語っていました。
実際のアンケート結果でも、新型コロナウイルスの影響は長期化すると考え、DX関連の新たなサービスを導入する企業が増加傾向にあるようです。

まだ先の見えない混沌とした社会変化の中ですが、台湾の事例でも挙がったように、旧来の概念を超えて変革に取り組む姿勢が、大きな変化の時代だからこそ必要なのだと感じました。
この変革の時をポジティブに捉え、先を見据えた一手をいかに打っていくか、企業にも個人にも当てはまる重要なポイントではないでしょうか。

新型コロナに関するアンケート結果はこちら

取材・文/磯山友幸、編集/d’s JOURNAL編集部