エイベックスが挑む大胆な改革。成功と失敗を繰り返す組織開発【セミナーレポート】

エイベックス株式会社

人事総務本部 人事グループ 第1人事ユニット マネージャー

2012年に新卒でエイベックスに入社し、東京、大阪でのパッケージ(CD・DVD)の営業を経験。2014年より配信営業部へ異動。多くの音楽サブスクリプションサービスのローンチに携わる。2017年より社長直下の新設部門にて人事制度設計、新卒・中途採用、働き方改革、社内外アイデアソン・ハッカソン企画立案・運営、新オフィス設計など、経営と対になってグループを横断した戦略人事を担当。現在は人事総務本部にて、グループ会社全体の人事業務を担当。

従業員に主体性を持たせ、イキイキと働ける環境を構築するための改革を実施
構造改革の鍵はコミュニケーション。制度や対策をつくり込みながら従業員の意識を変える
「働き方改革」ではなく「働きたい改革」の実現のためなら、大胆な変革もいとわない
構造改革には失敗も伴う。各制度の成果を見直し、組織の未来と照らし合わせていく

近年、注目を集めている「エンゲージメント」という言葉。社員一人一人が企業の目指すビジョンに共感し、主体的に働くことが事業成長につながるのではと、さまざまな企業がエンゲージメント向上に取り組み始めています。一方で、「どのような手法を取り入れたら従業員のエンゲージメントが向上するのか」「どれから始めたらいいのかわからない」という声もあるかもしれません。

エンターテインメント業界をリードするエイベックスでは、2015年11月に大規模な構造改革を実施。組織や風土、人事制度の改革だけではなく、同時にエンゲージメントの向上にも取り組んでいます。今回は、率先して組織・制度改革に取り組まれている人事総務本部の小川尚信氏がご登壇。従業員の意識を変え、組織を活性化させるために何を行ったのか、エイベックスの事例やワークを交えながら詳細までお話しいただきました。

(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています)

従業員に主体性を持たせ、イキイキと働ける環境を構築するための改革を実施

従業員に主体性を持たせ、イキイキと働ける環境を構築するための改革を実施

エイベックスは、1988年に創業したIP創造企業です。現在は「Entertainment×Tech×Global」をキーワードに、「音楽」「映像/アニメ」「デジタル」の主要事業を展開しています。従業員数は約1,500名にも上ります。

現在、社内の各制度、考え方の起点となっているのは2015年からスタートした構造改革です。当時、外部環境として「所有(モノ)」から「体験(コト)」へ、という価値観の変化、併せてテクノロジーの進化といった大きな変化が世の中に起こっていました。ユーザーの置かれた環境が圧倒的に便利になっていく中で、エイベックスもその流れに乗って新しい価値を生み出し、イノベーションを起こしていかなければなりません。この流れを乗りこなせればチャンスであり、乗りこなせなければ時代に遅れる。しかし当時のエイベックスは、クリエーティブな会社として勢いはあったものの、既存のコンテンツに依存し、ボトムアップで社員がやりたいことを新しく形にした事例はほとんどありませんでした。外部環境の変化の中で、旧態依然の組織から脱却し、エイベックスも変化していく必要がある。コンテンツホルダーとしてのプライドを持ちつつ、イノベーションを起こし新しい価値を提供していくためにも、2015年11月に構造改革をスタートさせました。課題の中で、特に重要視すべき「組織改革」「風土改革」「人事制度改革」の3つを軸に実施。2017年4月に新しい組織体制となりました。

俯瞰的なデータを基に、経営陣とあるべき姿を模索する

構造改革といっても、今のエイベックスの状況はどうなっているのか、他と比べて何が足りていないのかなどを客観的に知ることが必要です。その中で行ったのが、全社サーベイ。多角的な視点の設問で、全社員の状態を確認しました。結果としては、ベンチマークとして置いていたグローバル企業との比較は散々なものでありましたし、組織の課題は多岐にわたるものでした。

その中でも自主性という観点では、もともと数値的には高い方ではありました。しかしお伝えした通り、当社の事業が多岐にわたっていることもあって縦割りの風土が根付いており、それぞれが主体的に動くことはできても統一感がなく、グループを横断しての動きが活発に生まれていない状況でした。それも含めて、数値化されたことで多くの課題が可視化され、改革の緊急度が増したと思います。そこで次に、全社サーベイの結果を基に、改めてエイベックスの強み・弱みとは何かを振り返り、「会社の目指すべきビジョンを実現するための、本質的な主体性を持つ組織でなければならない」という結論に至りました。それをどのように組織や人事制度に落とし込んでいくかを考えていくことになります。

構造改革とは?

(エイベックス株式会社 登壇資料より ※以下同様)

 

主体的な組織を目指すための「全員フリーランスのような働き方」

この構造改革には、エイベックスの未来が懸かっていると言っても過言ではありません。エイベックスが目指すべき未来とは何か、全員が同じ方向を向いていくためにはどうしたらいいのかー。私たち人事担当者と経営陣は議論を重ねていきました。その中で、当時社長だった松浦(現会長:松浦勝人氏)の口から出たのは「全員フリーランスのような働き方」という言葉でした。

これは、全員が業務委託になるというような端的な話ではありません。それぞれが自分のかなえたいこと、そしてそれに対する想いを強く持ちながら、エイベックスという「箱」の中でどれだけ主体的に、当事者意識を持って働いていくかということ。まさにやりたいことや自分の強みを最大限に発揮できるような、自分の意志をしっかりと持っているフリーランスのような働き方こそ、今のエイベックスに必要だと感じました。

「そのためにはビジョンの浸透が大切だ」ということで、タグライン(企業理念)や行動規範も新たに制定し直しました。それまでの行動規範は「自分たちがどう動けばいいのか」が定義として成り立っていなかった。新しく定めた「Really! Mad+Pure」というタグラインには、「周りからおかしいんじゃないの?と思われることも真摯に追い求め、世の中に驚きを届け続ける」という意味があります。やらされるのではなく、自分がやりたいと思えることを見つけ、その実現のために強い想いを持つことが大事だということを言語化し、ここから行動規範に落とし込んでいきました。
その上で、「従業員が主体性や当事者意識を持つためにはどうすべきか」を考えながら、さまざまな制度をどんどん導入し試していったのです。

構造改革の鍵はコミュニケーション。制度や対策をつくり込みながら従業員の意識を変える

構造改革の鍵はコミュニケーション。制度や対策をつくり込みながら従業員の意識を変える

次に、制度や組織をどのように変えていったのかをお話しします。先ほどもお話しした通り、これまでは「縦割り」で個社ごとの評価があり、個というよりは組織にフォーカスを当てた評価でした。それを個人評価にフォーカスを当て直して、成果評価を重要視し、プロジェクト単位での評価なども追加しました。

また、同じような事業や役割を担っている組織を統合して組織数を最小化へ、管理職はあくまで「役割」という定義の下、同じような組織に何人も管理職を置くのではなく、プレーヤーという役割で力を発揮してほしいという思いを込めて管理職を刷新したりするなど、組織体制を大きく変更しました。「若手の目指す未来は管理職しかない」という状況を打破し、色々なキャリアパスをつくっていきたいという狙いもありました。

人材マネジメントシステム

「1on1」を組織改革のキーポイントに

人材マネジメントシステムで大きな軸にしたのは「1on1」です。これを実施する上では、1on1をすでに実施している企業の人事担当者の方々にいろいろご教授いただきました。「他社で成功しているものを取り入れてみる」ことは、少数の人事組織では大事なことです。

全社サーベイによって「管理職の力不足(管理ができていない状態)」や「コミュニケーション不足」という課題が表面化したので、管理職と現場メンバーとの1on1を月に1回実施することにしました。このような課題の本質にはコミュニケーション不足が根っこにあるので、課題の打ち手としてはかなり有効でした。弊社の1on1は、1つ大きなテーマとして「部下のキャリアについて話す」ということを置いております。それぞれのキャリアを会社としてしっかり考えていくことがものすごく重要で、これこそが社員に主体性を持たせる軸になるのではないかと考えているためです。さらに1on1で上がってきた社員のキャリアの内容を上層部に上げていき、それを活用して実施した人材開発会議では、上がってきた社員のキャリアプランを使用し、経営層が人材開発に関する議論をしていきました。

「1on1」を組織改革のキーポイント

これらの制度を一気に導入することで、自然と社員自身が主体的に自分のキャリアを考えて行動していくようになりました。その結果、自分たちのキャリアをしっかり考える人が増えたのはもちろんですが、「上司や会社が自分をきちんと見てくれているんだとわかった」という声も聞かれるようになりましたね。

社員が主体性を持つために、新たな制度を導入

1on1でキャリアを考えてもらう機会をつくりましたが、それを実行するための機会提供も必要です。そこで新たな制度をつくっていくわけですが、その際、「チャレンジを賞賛」「失敗を受け入れる風土づくり」「新しいコト(トレンド、テクノロジー、グローバル)のインプット機会提供」「オープンイノベーション促進」といったことをベースに検討を進めていきました。

取り入れたものとして、社長直下のプロジェクトで現場と経営層の橋渡し役となり、会社の課題に対して議論しアクションを起こしていく「ジュニアボード」、社員が考える事業を提案できる「社内新規事業制度」、社員の独立を支援する「独立支援制度」などを導入しました。また、「インプットがなければ主体的に動くことは難しい」という観点から、アイデアソンやハッカソンも度々開催したり、他部署との交流を促すための社内の交流会「Happy Hour」を設けたりと、新規事業創出のためのオープンイノベーションやコミュニケーションを活性化させていきました。従業員が発言する機会や、交流を持つ機会を「強制的に」と言ってもいいくらいつくっていったのです。「無理やり“コミュニケーションさせよう”という強制力を感じる」という声も上がりましたが、むしろ「この考え方に共感できない人は、これからのエイベックスに居続けるのは厳しいのではないか」という雰囲気を醸成していったのです。

ちょうどこのタイミングで、オフィスビルが老朽化に伴い新しく建て直すことにもなっていたため、構造改革の狙いとセットでオフィス整備もリンクさせていきました。コミュニケーションを活性化させるために固定席をやめてフリーアドレスに変更し、社内外のコラボレーションによるイノベーション創出を目指してコワーキングスペースの設置も行いました。また、そのタイミングで働き方も見直し、定時労働制をコアタイムなしのフレックス制にしたり、テレワークを導入したりもしました。

「働き方改革」ではなく「働きたい改革」の実現のためなら、大胆な変革もいとわない

「働き方改革」ではなく「働きたい改革」の実現のためなら、大胆な変革もいとわない

「制度や組織をがらりと変えました」と簡単に言っていますが、本当に一気に変えました(笑)。制度を変えようとすると必ず不満や批判の声は上がります。しかし、それを一つ一つ拾っていては何の改革も行えませんよね。変えるならトップダウンで強制的にやらないと意味がない。ですから私は「誰々はこう言っている」「こうしたら駄目なんじゃないか」という批判は聞きませんでした。なぜなら私たちがやっているのは、会社が良くなるための改革だから。「働き方改革」と言われていますが、私はそうではなく「働きたい改革」だと思っています。社員が「この会社で働きたいんだ」と思えるような「働きたい改革」を推進していくことこそ、人事担当者の役目だと考えているのです。

社員に伝える際には、必ず社長(現会長)から、「こういうふうにします」「これを決断しました」とトップダウンでどんどん発信してもらいました。それまで社長から社内に向けて発信することはあまりありませんでしたが、構造改革の一連の流れの中で、社長が自らの言葉で「なぜそれをするのか」を伝えていきました。トップが社員を集めて直接話す、というのは大きなポイントでしたね。「社長がそう言うのなら」「それだけの覚悟を持ってやっているのなら」と従業員にも伝わり、特に大きな混乱はありませんでした。

制度変革において最も大切なのは、会社として目指すべき方向性や未来を社員に伝え続けることです。とは言え、いくらトップが「主体性を持ってくれ」と言っても、実際従業員に主体性を持って仕事をしてもらうのは難しいもの。そこで人事担当者が制度を用意したり、働き方改革のような対策を導入したりとフォローします。トップが発信し、制度の細かな中身についてはわれわれ人事担当者が説明する、という形を取っていました。

そして、社員への意識を高めていくために、社内だけでなく社外発信にも力を入れていきました。構造改革中は、広報担当者といつも一緒に行動し、制度をつくり上げる上で企業理念をどう温めていくか、それをどこにマッチングさせるか、どうすれば企業理念をうまく社内に打ち出せるかなどを議論しました。そのような理念浸透プロジェクトは常に動いていて、人事担当者や広報の他に経営陣も巻き込み、理念浸透について四六時中考えています。

構造改革には失敗も伴う。各制度の成果を見直し、組織の未来と照らし合わせていく

構造改革には失敗も伴う。各制度の成果を見直し、組織の未来と照らし合わせていく

ここまで格好良いことばかり言ってしまいましたが、構造改革の全てがうまくいっているわけではありません。さまざまな改革を行った分、もちろん失敗もあります。たとえば、主体性を尊重しあらゆる取り組みの中でうたった結果、主体性の意味を履き違える社員が増えていったのです。「やりたくないことはしたくない」「こんな仕事は嫌だ」「自分の話を聞いてくれない上司は嫌い」などと主張する社員が増加してしまった。もちろん意志を持つことは大事です。しかし、あくまでもここは会社です。自分のためにやることがエイベックスのためになっていないと、まったく意味がないんですね。かなえたいことについても同様です。「この部署なら働きやすい」「この部署で働けば自分の評価が高くなるんじゃないか」という短期的な見方をする従業員も出てきました。自分が主語になってしまったが故に、目の前のことしか見えなくなってしまった。そのような理由により、改めてそれぞれの制度の見直しも図っております。

そもそも、構造改革に着手した2015年から4年が経っているので、世の中の動向や会社としての考えにもズレが生じ始めています。考えや想いは時間とともに変わっていくもの。都度、経営層と議論を重ね、ビジョンの見直しを図っていきたいと思っております。

基本的に、個が強くなれば企業が強くなる、自分のためにやることがエイベックスのためになっていく、すべては「For avex」という考え方を私は持っています。「会社に属して働くことが正ではない」「いろいろな会社に属しながら個性を持つ」という世の中の風潮とは逆行しているかもしれません。しかしエイベックスの場合、これらを全部受け入れてしまうと破綻してしまうんです。あくまで組織の中で個が強くなっていくこと、組織の中でどう強くなっていくのかをテーマにしながら、今後も妥協することなく環境や体制を整えていきたいと思っています。

すべては「For avex」だという考え方

【まとめ】

エンターテインメント業界を取り巻く変化に対応するため、思い切った構造改革に取り組んだエイベックス。「ついてこられないなら置いていく、というくらいの“決め”があってもいい」とまで言い切る小川氏の言葉には、「絶対変わるんだ」「より良い組織にしていくんだ」というエイベックスの人事担当者としての妥協を許さない姿勢を感じました。従業員の意識を変えて主体性を引き出すには、人事担当者の強い想いこそが大切なのでしょう。見直すべき課題はまだ残っており、「構造改革は終わっていない」と語る小川氏。今後のエイベックスの取り組みからも目が離せません。

(文/下良 果林、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)